いつかと同じ、


暗がりでうずくまり座っている自分。


あの時は、そうしていればまたいつもの日常に戻れると思っていた。


けれど今は、


時間すらも味方にはなってくれない。


どれだけここにいようと、何も解決などしない。


そしてたとえ立ち上がったとしても、


もう二度と戻ることはないのだ。


あの頃のような日常には。





SR −the destiny−

〔第19話 信じ難いもの〕

Written by かつ丸





「正面ゲート突破されました!!」

オペレーターの悲鳴が響く。

その声に何の感銘も受けず、ゲンドウは戦況の写る正面のモニターを見ていた。

レヰから事前に教えられた配置場所を元に足止めを狙ったが、不完全な防御設備では圧倒的な物量と火力を持つ戦略自衛隊相手にはほとんど功を奏さなかったようだ。

彼ら戦自の目的はネルフの地上からの消滅、バックにいるはずのゼーレの目的は、エヴァ初号機の確保、それは明白だ。ここまで強引な手段を取ってくるということはこちらの手駒であるエヴァへの対抗手段もあるということだろう。

完成したのだ、エヴァシリーズが。

老人もサードインパクトを起こす手段を手に入れた、それゆえの行動なのだ。

ならばこちらも躊躇している余裕は無い。

最後の使徒を殲滅し、アダムとリリス、そしてレイを手中にしている以上、ゲンドウにはいつでも自らの手によって彼自身の補完計画をを実行に移すことが出来た。それでもそうしなかったのは、恐怖していたからだろう、それがもたらす結果に。

拒否されるかもしれない。

彼が愛した女性はもう彼を愛してはおらず、己一人だけで滅びる道を選ぶかもしれない。たとえユイを再びこの手に戻しても、それを防ぐ手段は無いのだ。


ユイだけが自分のことを愛してくれた、そう思っていた。

水も持たず砂漠を彷徨うような自分の人生の中で唯一のオアシス、それが彼女だったのだ。ユイがエヴァの中に消えていても、自分を愛してくれていることには変わりは無い、それくらいなら最初から愛したりはしないだろう。なんの価値もない醜い魂の持ち主である自分など。

だからもう一度ユイをこの世に引き戻せば、きっとまたかつてのような安らぎを得ることができると信じていた。


だがそのことになんの保証も無い。それに気づいてしまった。


お互い利用し合うだけだった関係のはずの赤木リツコ。その母が実のところマギの開発環境を求めてゲンドウに近づいたように、彼女も母ナオコを超えるという野心ゆえに近づいてきたと思っていた。

最初に関係を持つ時手荒な手段をとったのも、どこかこちらに媚を売るような姿にナオコと同じものを感じ、見透かしたような気持ちがあったからだ。そしてそれをきっかけにリツコからゲンドウを求めるようになった。

自分を愛するのはユイだけしかいない。だから自分とリツコの間に愛などあるはずが無い。そこにあるのはただの「欲」だけだ。

鎧のように自らを覆っていたその思いを砕いたのは、全てを失うのと引き換えに『レイ』を壊したリツコの姿だった。

彼女の愛情を自覚した時から、ゲンドウの中で世界が崩れ始めたのだ。


ユイでなくても良かったのかもしれない。

目を開けて正面からリツコを見さえすれば、同じものを得ることができたのかもしれない。


だが、それはもう遅すぎる選択肢なのだろう。

セカンドインパクトを起こし、今また「補完」という名のサードインパクトは行なわれようとしている。ゼーレを止める方法は、彼らに先んじること、それしかなかった。

まだ、自分はユイを愛している。彼女に会いたいと思う心は確実に自分の中にある。

ならばこれ以上迷う必要はあるまい。賭けるしかないのだ。

リツコのことはもう思い切ったのだから。


「冬月先生、後を頼みます」

立ち上がり、こちらを振り返った冬月に告げる。

「ああ、ユイくんによろしくな」

ゲンドウを見る彼の瞳はいつになく優しかった。冬月には分かっているのかもしれない。最後の最後までゲンドウが迷い、そして今、ユイにすがろうとしていることを。

その瞳から逃げるように、ゲンドウは発令所を離れた。








ドアが叩かれる。名を呼ぶ声がする。

それに背を向けるようにしゃがみこみ、マヤは両手で耳を塞いでいた。

さきほど呼び出しの放送を無視したため、直接迎えに来たのだろう。リツコに頼まれた資料を探すのに手間取り、結局閉じこもる形になってしまった。

密閉構造になっているリツコの研究室は力押しでは開けられない。ここの鍵を持っているのはリツコの他にはマヤしかいないはずだ。

彼らの言いたいことは分かっている。仕事をしろということだろう。状況は警戒体制から戦闘状態に移行しているようだ。いったい何と戦っているのかは知らない。知ろうとも思わない。

なんとかここを出てリツコに合流し、彼女がしようとしていることを手伝う。マヤの頭にはそれしかなかった。


しつこく叩かれていたドアの響きが止まった。

外から感じられていた人の気配が少なくなる。

しばらく様子を伺うが、もうノックはされていないようだ。

諦めたのか、そう思い耳を抑える手をゆるめたマヤに、よく知る声が聞こえてきた。

「マヤ! 開けるわよ!!」

「先輩!?」

思わず立ち上がる。外から鍵を開ける音がし、ドアを開けたのは厳しい表情をしたリツコだった。マヤが待ちきれず戻ってきたのだろうか。

「す、すみません」

「まだ見つからないのね」

「は、はい・・・・」

少し悄然としてマヤは答えた。

「・・・私が探すから、しばらく戦闘の様子をモニターしていて」

「はい!」

リツコの指示に気を取り直し端末を操作する。マギへ繋ぎネルフの状況を調べるうちに、初めて気づいた。今戦っている相手が人間だということに、そして本部施設の一部がすでに制圧されつつあることに。

「せ、せんぱい・・・」

信じられない思いに呟きを洩らす。その時、突然首筋に痛みが走った。

「・・・・えっ?」

後ろを向く、そこにはリツコの姿。

「先輩?」

「・・・・・ごめんなさい」

哀しそうな瞳が自分を見ているのを不思議に思いながら、そのままマヤの意識は薄れていった。





「良かったんですか?」

「ええ、ここにいるよりも弐号機の中の方が安全だわ。後はよろしくね」





通路へのベークライト注入。非戦闘職員の後方避難。戦闘員の重点配置。

発令所から指揮を飛ばしながら、ミサトは戦況を見つめていた。

刻々とすぎる時間の中、確実にこちらの抵抗は削がれている。それとともに本部の各所への戦自の侵攻は進んでいた。

すでに地上の施設は全て沈黙させられてしまった。次々と到着するようにみえる敵の増援は、ネルフが与えた僅かな被害などまるで感じないように侵攻を後押ししている。

ここまで敵が押し寄せてくるのもそう遠くないことではないのかもしれない。

「伊吹一尉が弐号機に搭乗しました。・・・・ただし意識はありませんが」

経緯はよくわからないが薬物を使用したらしい。どのみち動かない弐号機だ、こだわる必要はないだろう。

「構わないわ、とりあえず地下湖に射出して、あそこなら敵も簡単には手をだせないでしょう」

ATフィールドが使えない現状では無敵とは言えない。侵攻前ならともかく、いまなら標的にするようなものだ。だがこだわっている余裕は無い。敵の目的がエヴァなら、少しでも時間稼ぎにはなる。

それに彼女の安全度はここにいるよりも高いはずだ。エヴァのパイロットであるマヤを、戦自が見過ごしにするはずがないのだから。

「シンジくんは?」

もう一人のパイロットの安否を問う。彼こそが敵の最も重要な目標だろう。

「・・・・さっきの場所から動いていません。しかしまずいですね。救援隊が足止めをくってます。このままでは・・・」

「そう・・・・」

考えている余地は無かった。もはやシンジだけが唯一の希望なのだ。今までもそうであったように。

ならば迎えに行くのが自分の勤めだろう。

「・・・・後のこと、頼むわね」

「はい・・・・・お気をつけて」

少し哀しい目をした日向に思わず微笑みかける。

察しがいいわりに、不器用な男。これが加持ならば力ずくでもミサトを止めて自分が行くだろう。

それをミサトが望んでいないと知っていても。

けれど今は、日向のその瞳がなぜか好ましく思えた。







マヤを見送った後、リツコはしばらく研究室のイスに座り放心していた。

マヤが操作した時のまま、攻め込まれる本部の様子を写している端末の画面には、目もくれようとはしないで。


どれだけ時間が経ったろう。

机の引き出しから一丁の拳銃を取り出す。

中に弾が入っていることを確認し、白衣のポケットに入れる。

科学者であるリツコには不釣り合いな物だが、何度か練習場での射撃経験はある。なかなか勘がいいとも言われた。

実際に使う日が来るとは思わなかったが。


マギが使えればプログラムを改造して本部ごと自爆させるという手もあったろうが、すでにレヰの管理下にある以上それは不可能だろう。

おそらく徐々にだったのだろうが、レヰの手によってマギが掌握されていることに全く気がつかなかった。いくら彼女が開発者本人だといっても粗忽としか言い様の無い自分の姿を笑いたくなる。

母の手を離れ、一人になってから5年。

それはそのままゲンドウと過ごしてきた月日でもある。

その全てに意味がなかったとは、あまり考えたくなかった。


決着をつけなければならない。


このまま終わるならば、自分の人生は哀しすぎる、そう思えた。








爆音。

吹き上がる粉塵と火薬の臭い。

発令所の最下層部の壁面が爆破され、迷彩服姿の男たちが何人も這い出てきた。

戦自がここまで来たのだ。

発令所の上層部への通路はすでに封鎖している。簡単には上がって来れないだろうが、飛び交う銃声と悲鳴で周囲は騒然とし、指揮系統の乱れはいっそう極まった。

「敵さんの侵攻が早いな」

「しょうがないよ、対人兵器は申し訳程度しか装備されてないからね、ここには。テロ程度ならともかくまともな軍隊じゃ相手にならないさ」

「設備予算の削減もこれを見越してかな?」

「そうかもしれないね」

流れ弾から身を避けるように机の下に身をかがませながら、顔を付き合わせて青葉と日向は会話をしていた。時折頭をあげて階下の敵兵に拳銃を撃つ。

「まだ、こんなもんじゃ済まないんだろうな」

「ああ、マギがあるから核は使わないにしても、BC兵器やN2兵器はわかんないしね」

その言葉が聞こえたかのように、発令所を激しい衝撃が襲った。大きな爆発音と共にモニターが全て赤く染まり、地震のように建物全体が震える。

N2爆弾が使われたのだ。

「ぐっ、案の定だよ!!」

「やつら、情け容赦無いな!」

第三新東京市に投下されたN2爆弾はその地面を抉り取り、大穴を開けてジオフロントを陽光の下にさらしていた。それを見越したように発射されたミサイル群が、ネルフ本部の頭上に降り注いでいく。

幾重にも襲いかかる衝撃波と吹き上がる爆炎。

戦自の歩兵群への抵抗もほとんど行なわれていない。

すでにネルフは全ての力を失いつつあるように見えた。








「レイ」

オレンジ色の水槽、崩れた肉体。

その前に蒼い髪の少女は佇んでいた。

声をかけたのも同じ、蒼い髪の少女。

水槽を見ていた少女が振り向く。薄暗い部屋。

仮面を被ったような平坦な表情と全てを見透かすような妖しい微笑み。紅と黄色、その瞳の色以上に、二人を包むオーラのようなものは、全く同じ容貌のはずの彼女たちを、見る者に違う印象を持たせるだろう。

ここには彼女たちの他に誰もいなかったが。

自分を見ても表情を動かさないレイに、レヰは少し意外な顔をした。かつてその姿を見せた時、彼女が激しく怯えていたのを覚えていたから。

彼女が変わったのか、それとも自分が変わったのか。その両方かもしれない。あの時はいて、そして今はレイのそばにいない一人の少年のことに思いを馳せながら、レヰは言葉を続けた。

「もう、あなたの分身はいないわ」

紅い瞳の少女は何も言わずレヰを見つめている。

「全て壊されてしまった。私は私、あなたじゃないから、あなたが私になることは無い。分かるわね」

その言葉にレイが頷く。
視線を水槽に移し、レヰはさらに言葉を紡ぐ。

「だから、その身体を失えば『綾波レイ』は永遠にいなくなる、もうこの世界に戻ることは無いわ。私もそうだけどね。・・・・もうすぐあの人が迎えに来るでしょうけど、そのことだけは覚えておきなさい」

再びレイに視線を移し、レヰは優しい微笑みを見せた。

「私の気持ちが分かるのは、あなただけなのかもしれないわね。でも、呪われた生でも、やるべきことはあるわ。たとえ仕組まれた生命でも、この世になにか残すことはできる。私はそう思うの」

「・・・・・・何をするの?」

表情を変えないまま、レイが問いかける。

「ユイさんと同じことを、違う形で」

レヰが答える。その顔から微笑みは消えていなかった。








間に合うだろうか?

長い、そして入り組んだ通路を走りながらミサトは思った。

シンジのいる場所はリニアレールから繋がる正規の出入り口からは離れている、自動車用の昇降口近くだった。

車両用エレベーターが止まっている現在、直接地上から行くことはできない。でなければとっくに制圧されているだろう。

なんとか、彼を保護し、そして第7ケイジまで連れていかねばならない。

ミサト自身の指示でメインとなる通路にはベークライトが注入されている。だから彼女は今非常用の避難通路を使用していた。ときおり無線で日向に周囲の状況を確認するが、地上からの攻撃が激しくなっているため、完璧なものは期待できない。

いつ、敵と鉢合わせするか分からない。

しかし躊躇している場合でも無いのだ。

右手に握りしめた拳銃。かつて人を撃ったこともある、殺したことも。マヤ達のように技術者として雇われたわけではない、軍人なのだから。

自分の本性は敵である戦自に近い、そしてやっとそれを使うことができる。血なまぐさい戦場の臭いの中で、ミサトの目はしかし輝いていた。



通路の先に、三人の男たちがいた。非常階段を覗いている。そうあそこはシンジがいたところだ。みな小銃を構えている。

階段の下の少年は、抵抗もせずにただ、頭を抱えているようだ。


やらせない。


飛び込むように駆け寄りながら、シンジに銃を向けている兵士の頭を撃ち抜いた。驚きこちらを向いている残りの二人のうち一人も矢継ぎ早に撃ち殺す。

勢いをつけたまま最後の一人に体当たりをし、壁に叩きつける。

不意をつかれ呆然としているのだろう、なすすべもなく声も出ないその男は、ミサトと同い年くらいに見える。

「悪く思わないでね」

心のこもらぬ声でそう呟くと、ミサトは兵士の顎に銃をあて、引き金を弾いた。

赤い血が壁面に広がる。

それを気にすることも無く、荒くなった息を落ち着かせながらミサトは振り向いた。

階段の下で震えている少年。彼が驚怖しているのは先程までの兵士にだろうか、それとも彼の目の前で人を殺したミサトにだろうか。


「行くわよ、シンジくん」


振り切るようにミサトは言った。今はささいな感傷などにこだわっている時ではない。そんなものは明日の朝にでも考えればいいのだ。

もし無事に迎えられたのなら、その時に。







気がつけば、マヤは見慣れた場所にいた。

エントリープラグの中に。

意識はまだ混濁している。なぜここにいるのかわからない。

夢をみているのだろうか。

徐々に形を作っていく思考、それをまとめようとする。

そして思いだした。

リツコが自分を裏切ったことを。

あの時の首筋の痛み、あれは薬物注射だったのだろう。なぜリツコがこんなことをしたのかはわからない。けれど彼女を手伝うと言ったマヤをこんなところに押し込めたのだ、これが裏切りでなくてなんだろう。

「・・・・ひどいです、先輩」

恨みがましい呟きを洩らす。モニターは全て消えている。マヤの呟きを聞く者は誰もいなかった。

「先輩だけは・・・・・信じてたのに」

プラグの中で膝を抱えて丸くなる。いつのまにかプラグスーツを着ている、自分で着た覚えも無いのに。そのことも、マヤの心に嫌悪感をもたらしていた。

動かないエヴァ、マヤ以外誰の存在も感じない場所。

だからここには来たくなかったのに。カヲルはもういないことを思い知らされるから。

「うっ・・・・・うぐっ・・・・・・・えぐっ・・・」

知らず知らずにマヤは嗚咽をこぼしていた。

リツコのこと、カヲルのこと、そしてレイのこと。自分が失ってしまった大切な人たちのことを思って。

シンジもその中の一人なのだろう。


もう一緒に過ごせるとは思えない、楽しかった時はもう戻らない。

カヲルを殺した彼のことを、マヤは許す気になれなかった。

たとえ世界を救うという大義名分があったといっても。初号機は捕まえていたではないか、カヲルをその手に。
いかに超常的な力を持っているとはいっても姿は人となんら変わらなかったのだ、弐号機が動かなくなっていたあの時、彼に何ができたというのだろう。

今までの使徒とは違い、意思の疎通ができる相手なのだ。なぜ話し合おうとしなかったのか。あんなにカヲルはシンジを気にかけていたのに。

通信が遮断されていた間、二人にどんな会話があったのかは知らない。けれど自分を避けるシンジの姿は、あきらかにマヤに告げていた。シンジにやましさがあると。

彼はマヤのカヲルへの気持ちを知っていた。それだけでマヤにはシンジを憎む理由がある。

もう彼の料理を食べることなどないだろう。

その思いに、少しだけ胸が痛んだ。




突然、機体が震えた。

破裂音と共に周辺から幾重にも衝撃が伝わる。

「きゃああああああああああああ!!!」

振動するプラグの中で必死にレバーに掴まりながら、マヤは叫び声をあげた。何が起こったのかわからない。だが、ようしゃなく周囲の爆発は続き、マヤの身体を激しくプラグの内壁に打ちつける。

「いやあああああああああああああ!!!」

エヴァは動かせない。いくら装甲に守られているとはいっても、シンクロしていないエヴァからATフィールドが出ることは無い。

もちろん抵抗の手段も無いのだ。

今どこにいるのか? 誰が攻撃しているのか? なぜ襲われるのか?

なにもわからないまま、ただなすすべもなく攻められ続けている。

このままでは・・・・・・そう、このままではこわされるだろう。弐号機の機体ごと。


・・・・死にたくない!


たとえカヲルのいない世界でも、絶望しか残っていなくても、自らを消してしまうにはマヤはあまりにも若く、そして臆病だった。

「助けて、先輩、カヲルくん!!」

泣きながら叫ぶ。繋がっていないスピーカーに向かって。当然いらえはない。

「助けて、カヲルくん、カオルくん、 お願い」

振動にもがきながら、何度もトリガーを引く。かつてこの中で一体化していた少年、もう殺されてどこにもいない少年、自分を包んでくれたヒト、彼の名を呼びながら。

死ねば彼に逢えるかもしれないなどと、そんなことを考える余裕など無かった。くり返される衝撃でかき回され、マヤの思考は止まりつつあった。そこにはすでに恐怖しかない。

「助けて・・・・・・助けて・・・・・・・カヲルくん・・・・死ぬのは・・・・イヤ」

何度も頭を打ち、意識が朦朧としてくる。それでも、泣きながらマヤはカヲルを呼んでいた。


それが聞こえたのだろうか。


『呼んだかい? マヤさん』


いつかと同じセリフ、確かに聞こえた。そして感じたのはかつてと同じ感触。

一斉にプラグ内の明りが灯る。

カヲルは生きていたのだ。

弐号機の中に。

「カヲルくん・・・・・」

夢ではない。包まれる感覚を全身で受けとめながら、マヤは歓喜に震えていた。

もう何も心配はない。何も恐れることはない。

自分のことはカヲルが守ってくれる、その確信と共に、マヤの意識は途切れた。










〜つづく〜









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katu@osaka.104.net



解説:


以上、第19話です。

弐号機の復活は当然予定通り、展開も読みやすかったんじゃないですかね。
そのためのカヲマヤだし(^^;;

しかし弐号機パイロットは設定上誰でも良かったわけで、青葉や日向にしてたらモーホーな話になっちゃったんだろうか(笑)
それはそれでよかったかな。<何がだ(^^;






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