心が融けてゆく。
世界が消えていく。
全てのものの形が失われていく。
けれども、もう見失うことはない。
これから先に何が起ころうとも。
SR −the destiny−
〔第23話 紅灯の海 〕
Written by かつ丸
レイの身体が宙を飛ぶ様子を、ミサトは呆然として見ていた。
追いすがろうとするゲンドウを振りほどくように冷たく一瞥し、そのまま白い巨人の元へと飛んだ彼女を。
重力など無視したように浮かんでいる。あのときのカヲルと同じように、空中で巨人と対峙している。そして違っていたのは、そのまま巨人の中に入って行ったこと。
まるで向かい入れられるようにレイが巨人の中に吸い込まれていくのを、ミサトは何も言えず眺めていた。
十字架に張りつけられていた巨人が、まるで戒めが解かれたかのように身体を起こす。
その顔を覆っていた七つ目を持つ仮面が取れ、いびつな人形だったものが、明確により人間らしい、「女性」の姿にその身を買えていく。
「・・・・ついに始まるのか」
ミサトの傍らで、同じように呆然と見ていた加持が呟いた。ゲンドウは取り残されたように倒れている。ゼーレの思惑とも違うだろう。レイはおのれの意志でこの事態を選んだのだ。おそらくはシンジのために。
「人の滅びの時? あの子たちがそれを選ぶというの?」
「生命の母、リリスが目覚めたんだ。今のレイちゃんは人智を超えた存在だよ。どんな感情を持ってるのか、俺には見当はつかない」
巨人を見つめる加持の目に宿っているもの、それは怯えの色だろうか。
くさびをはなれた白い巨人の身体がみるみる大きくなる。まるでその存在自体が現実ではないというかのように建物を突き抜けていく。
それを見ながら、しかしミサトには恐怖は無かった。
どんな姿になろうとレイがレイであること、己の死を選んででもシンジを守ろうとした彼女であること、それは変わらない気がしたから。
ターミナルドグマからせりだしてきた物体が発令所を通過していくのを、冬月は冷静に見つめていた。
オペレーターはそれをヒト、人間だと言った。人類の母たる存在なのだ、確かにあれこそが人なのかもしれない、我々はただの派生物に過ぎないのだから。
リリス、もしくはレイ。
ファーストチルドレンと呼ばれた少女の似姿をした巨人、それが示しているのはレイの魂がその中に宿ったということだろう。
リリスからエヴァを造ったのと同じ技術で造った、碇ユイの姿を持つ魂の入れ物たち、そこにリリスの魂を封じたのは補完計画の発動を防ぐためだった。
入れ物そのものはいつかそこにユイの魂を入れるためのものだったが。
そもそもゲンドウが人類補完計画を提唱したのも、自らの手でその実行を把握し、コントロールするためだったのだから。
人類の滅亡を防ぐ、それを目的としている以上同じことをいずれ誰かがしようとしただろう、実行可能な技術は既に開発していたのだ。
生き延びようという手段を模索するのは当然のことだ、たとえそれがどんな方法であっても。
全ての人をいったんリリスに返し、そして満たされたガフの部屋を開放することで、アダムの呪い、白き月の報いを乗り越え、新たな生命をこの星に満たす。
それがゲンドウが提唱し、ゼーレが選んだ補完計画の全容だった。
補完計画の原案はもともとユイが作ったものだ。
死海文書に書かれていたアダムの発動の予言。セカンドインパクトが起こるのをゼーレは、ユイは知っていた。いや、信じていたというべきだろうか。
世界創世の秘密、正当なこの世界の後継者たるアダムと簒奪者リリス。
リリスの子リリンたる人類に、いつか滅びの時がくると。南極に眠るアダムが目覚める時、この世界を手中にいれようとするアダムとその子供たちが人類を滅ぼす、それはさけることは出来ないと。
だから生き延びようとした。
そのためにリリスが眠るジオフロントを発掘したのだ。アダムに対抗し得る力、リリスを目覚めさせるために。
アダムの呪いは避けられない、しかし再びリリスが発動すれば、人類の魂は消えることは無い。そうしなければ我々には無が待っているだけだ。
ゼーレにしてみれば選択の余地など無いのだろう。
ユイが初号機に入ったのは、人の記憶を残すためだ。ここまでやってきた人類の歴史を無にしない、ただそれだけのために彼女は全てを捨てた。
キールやゲンドウが補完をなし、人類を滅亡から救うことを信じて。
彼女の想いを知りながら、冬月はゲンドウに協力してきた。人類の滅亡を選んででももう一度ユイと会う、そのための歪んだ道を選んで。
しかし、目前の白い巨人、リリスの姿は、真の形で補完計画が発動しつつあることを示している。
失敗したのだ、ゲンドウの計画は。
再び人は、リリスの中に帰らねばならないのだろう。
結局ユイのシナリオの通りに事態は進んでいる。
レヰがそれを超える手段を得ようとしたのは、彼女なりのけじめなのかもしれない。
その実現のために協力はした。けれども彼女と同じ道を歩む気には、冬月はなれなかった。
これからどんな結果を迎えるのか、今となってはレイとそしてシンジにしか分からない。
レイがシンジを求めた、それゆえにゲンドウは選ばれなかった。そのことが冬月には分かっていた。
ゲンドウではなく、シンジが依代になる。
世界の行く末は彼に任される。
果たしてシンジは何を望むのだろうか?
白い巨人を囲うように飛んでいるエヴァシリーズの顔が、レイのそれに変わっていく。あたりを包むリリスの力と共鳴し、同化しているのだろう。
付き添うように宙を飛んでいたロンギヌスの槍が、初号機のコアに突き刺さった。そのまま融合していく、まるで吸い込まれるように。
コアを中心に赤茶色の槍がガムテープのように伸び、初号機を包むように巻いていく。
いつしか完全に初号機の機体は見えなくなり、そこには赤茶色の十字架があるだけだった。先端からは根のようなものが出ている。
生命の樹。
ゼーレの老人たちが生きていればそれを指してそう呼んだかもしれない。彼らの計画はまさにこれの発現を目指していたのだから。
変わり果てた初号機を見つめながら、リリスはさらなる巨大化を続けていた。
「行きましょう、まもなくガフの部屋の扉が開く、もう時間がないわ」
ボートから降り立ったレヰが、そう宣言した。
リツコは応急手当の後に今は加持が背負っている。ミサトは傷口が痛むようだ、少し顔色が悪い。
「行くって、何処へですか。それに司令が・・・・」
少し先ではゲンドウが腕を押さえたまま仰向けに天井を見ている。それを指して加持が訊ねた。
「あの人はどうせこないわ。・・・・放っておいてあげましょう」
「リツコは大丈夫なんですか?」
「ええ、生命には別状無いわ、・・・・・この子はよけいなことと怒るでしょうけどね。あなたは大丈夫なの? ミサトちゃん」
「はい・・・なんとか」
言いながらも顔をしかめているミサトに、レヰが笑いかける。
「加持くんもギリギリまであなたの前に顔を出さなかったみたいね。じゃないとケガなんてしないでしょうから」
「いや、俺にも都合があったんですよ」
「ナオコさんがこのバカをかくまってたんですね。じゃあリツコも知ってたのね、まったく。起きたら締めてやろうかしら」
「そうね。・・・・でも、その前に生き延びないとね」
レヰの顔つきが厳しくなる。そして踵を返し足早に歩き始めた。その様子に問い詰められない圧迫感を感じ、加持とミサトはただ何も言わずに後をついていくだけだった。
一人ゲンドウだけを残して。
「何が起きるの?」
「・・・リリンがその母の元に帰ろうとしているのさ」
「あれが・・・レイちゃんなの?」
「そう、あれが今の綾波レイの姿だよ。リリス。この星の全ての生命を生みだしたもの。創世の蛇。そしてサタンでもある」
「サタン? 悪魔だというの」
「善悪の概念じゃないさ。この星の創造者は別にいたんだ、僕らを生みだしたアダムの、その父たる存在がね。リリスは彼と彼の眷属を排除した。つまりは「神に敵対するもの」、そういうことだよ」
「神に?」
「そうだよ。彼女は旧きアダムの世界の破壊者であり、そして今の世界の創始者でもあるんだ。あなたたちが戦っていた僕たち使徒と呼ばれるものは、今は失われた古い世界からの使者だったのさ、再びアダムの世界を取り戻すためのね」
「・・・・私たちはサタンの子孫なの?」
「リリンはリリスの子供だからね。でも今回も勝ったのはリリンたちだったよ。全てを無に返すことでリリスの力を取り戻した、もう僕たちに抗うすべは無いさ」
「あなたは・・・カヲルくんは邪魔なんかしてなかったじゃない」
「今の僕は全ての繋がりから自由な存在だからさ。老人はもとより、アダムすら僕のくびきにはならない。だから選んだんだ、シンジくんたちが後継者となることを」
「それでいいの?」
「リリンを滅ぼすことは僕も望まないよ。それにそうしないとあなたは手に入れられなかったからね。人類が永遠にいなくなればあなたは悲しむだろうから」
「私のため?」
「僕のためだよ。生みだした者ではなく求めてくれた者に応えて生きる、それこそが歓びだと分かったんだ。綾波レイがシンジくんを選んだように」
「レイちゃん・・・その結果があの姿なの・・・・・」
「新しい世界は彼女とシンジくんが創るんだ。それはとても素晴らしいことだと思うよ」
「その代わり、今生きている人たちはみんな死んでしまうんでしょう? シンジくんがそれを認めるかしら」
「人の滅びはアダムの定めだからね、彼のせいじゃないさ。そして滅びの苦しみは再生の歓びでもある。彼になら分かるよ、自分の進むべき道が」
「・・・・また、あの子に背負わせてしまうのね、私たちは」
「リリンの歴史は彼を生みだすためだったのかもしれないね。なにも特別なところのない、普通の少年でしかない彼を。・・・・けれども彼だけだったのかもしれない、リリスを愛することができたのは」
金色に輝く弐号機が天空から見守る中、リリスはその手の中に黒い球状のものを抱いていた。
ジオフロントがその中に含まれている、地面深く埋め込まれていた巨大な玉。
生命の樹と化した初号機がリリスの額にと入っていく、それを合図にするかのようにレイの似姿を持つ白い巨人が、背中から翼を広げた。
全ての力を解放するかのように。
「リリスの発するアンチATフィールド、増大して行きます!!」
「このままでは生命個体の維持ができません!!」
オペレーターが悲鳴をあげている。はたして意味があるのか分からないが、状況報告でもしないと彼らも精神がもたないのだろう。
聞き流しながら、冬月はやがてくる終わりの時を待っていた。
数度にわたる衝撃、今現在ジオフロントは黒き月として成層圏に浮かんでいるはずだ。発令所のモニターに写る衛星からの映像はそのことを告げている。
リリスの卵、全ての魂を迎える場所、いままで隠していた真の姿を見せる時がきたのだ、この古い遺跡の。
そのとき空気が変わった。
あちこちで叫び声が聞こえる、オペレーターたちの身体が弾け、LCLへと変わっていく。
上を向いた冬月にもそれが見えた。
中空に突如顕れ、こちらに、冬月の方へと向かってくる一人の女性の姿が。
また逢えた。
かつて京都で出会い、ずっと想い続けてきた彼女に。
そしてその笑顔は冬月の方にだけ向けられていた。幻かもしれない、だが、目の前にいるのは12年前に消えたユイその人だった。
ならば無駄ではなかったのだ。ここで過ごしてきた時間は。
彼女を両手でかき抱きながら、冬月の身体もLCLへと弾けた。
リリスを中心として海が赤く染まっていく。
地表から無数の光が十字架の形をとってあらわれ、空に昇っていく。そしてその光は紅い塊となってリリスが抱く黒い玉の中へと吸い込まれて行った。
やがて地表全てを光が覆い、海の全てが赤に変わる。それに呼応するようにリリスの羽根はいっそう大きく広がり、天空に浮かぶ月によってその身を輝かせていた。
高い天井。それを仰向けになって見上げている。
もう、どれくらいこうしているだろう。
失った右腕を押さえたまま、ずっとここにいる。
全ての目論見がついえた今、立ち上がる気力をゲンドウは持たなかった。
シンジに近づけたのがいけなかったのだろうか。自分のそばに置いておけば良かったのだろうか、レイを。
だが彼女はユイに似すぎている。娘として育てるにも、一人の女性として扱うにも、彼女を見る時にユイを意識しないことなど不可能だろう。それは彼女を見ないことと同じことだ。
ナオコをレヰとして復活させた時、ゲンドウにはそれが分かった。ナオコの魂を持つならたとえユイの容姿を持っていてもそれはナオコだ。けしてユイになりはしないと。
だからレイも同じなのだ。神の魂を持つレイ、いくら人としての彼女が無垢な存在であるとはいえ、ユイになることはない。
ゲンドウが求めたのは創造者として無条件に自分を慕う存在などではないのだから。
そばにおけば際立つだけだったろう、レイとユイとの違いが。
そう、別人だと知っていたはずなのだ。だからシンジと繋げたことにも抵抗はなかった。
それでも、あの瞬間彼女がシンジを選んだことは信じられなかった。どこか託していたのかもしれない、その容貌に、かけらでもユイの心を持っているのではないかと。
そんなことがありうるはずも無いのに。
いや、それともあれこそがユイの心だったのだろうか。
リツコを捨て、ユイを求めた自分。それも結局は一方通行の想いだったのだろうか。
もともとゲンドウを捨てて初号機に入ることを選んだ彼女だ、いまさらゲンドウの元へ来ようとは思わないだろう。どれだけ彼が求めたと知っていても。
この世界を残すために、シンジや全ての子供たちの未来を守るために、彼女はそれを選んだのだから。
なにもかもわかった上で。
シンジの元へとレイは行ってしまった。
ゲンドウが遺棄した息子がこの世界の趨勢を決めるのだ。
預け先でも大切にはされてはいなかったろう、少なくとも物心ついて以降、親の愛など感じたことはあるまい。
この世に唯一自分と血を分けた存在。ユイがいなくなり、自分一人でどう接すればいいのか、うまく育てる自信など無い、その想いゆえに彼を遠ざけたのだ。
だからそばに置いていても同じだったかもしれない。それは言い訳だろうか。
自らが招いたこととはいえ、今のシンジがどんな世界をつくろうとするのか、ゲンドウには分からなかった。
ただ一つだけ言えること、シンジはユイの息子でもある、それだけが救いのように思える。
自分のように呪われた存在ではなく、愛する者たちのために己の人生すら犠牲にできた彼女の魂を受け継いだ存在だということが。
「・・・そうやって自分を卑下する癖、まだ直っていらっしゃらないのですね」
それは空耳ではなかった。
間近に感じる気配、ゲンドウがそれを間違えるはずが無い。
仰向けに寝るゲンドウの足元に立つ白衣姿の女性、その微笑みはまごうことなく彼の妻のものだった。
「この時を12年間待ち続けていた。・・・・ようやく逢えたな、ユイ」
「もうそんなになるのですね。再び人の姿で逢えるとは思っていませんでしたが」
そう、肉体を失ったユイが再びその姿を現している。
今の彼女は初号機そのもののはずだ、こうしているのはゲンドウが見ている幻なのだろうか。それともこれはシンジが行なったことなのだろうか。
ゲンドウの希望を叶えるために、あるいはユイの。
「・・・シンジはもう私の手を離れました。あの子はリリスとともにいます」
「そうか・・・・すまなかった。私はあいつを・・・・」
「いいえ、あの子を捨ててあなたに押しつけたのは私ですから。それでも優しい子に育ちましたわ、あなたに似たんでしょうね」
優しい・・・ユイだけだろう、ゲンドウのことをそんなふうに言うのは。
心を閉ざしていたミサトや、ただのモグリの医者に身をおとしていた冬月を南極調査隊に加えるとゲンドウが決めた時にも、彼女はそう言って笑っていた。
利用しようとしているだけだ、ムキになってそう反論するゲンドウの言葉などまるで聞いていない顔をして。
「私になど似てはいないさ。私はあいつほど一途ではない」
「そうでしょうか?」
反論するゲンドウに微笑む彼女は、あの頃と何も変わっていなかった。
薄汚れた自分を愛し、そしてけして得られないと思っていた安らぎをくれた女性。それに返すものなどゲンドウはなに一つ持っていなかったというのに。
ゲンドウの人生で、唯一の奇跡なのだ、ユイがいてくれたことが。
だからこうして再び逢えた今、もう何も望むことはなかった。
「ああ、レイがシンジを導いてくれるだろう」
「では、あなたはどうされますか?」
いつのまにかゲンドウの身体は初号機の手に掴まれていた。ユイの姿はどこにもない、いや、目の前の初号機こそがユイの真の姿なのだ。
「・・・・・連れて行ってくれ、ユイ」
最初からそれを望めば良かった。人類の記憶と共に永遠を生きようとするユイ、彼女の元へと向かえばよかった。ユイを引き戻そうなどとせずに。
リリスの去ったターミナルドグマ、本来なら初号機がいるわけがない場所。
向かい合うこの機体は、ゲンドウが求めているものそのものなのだろうか。
現実ではないかもしれない。
夢をみているだけかもしれない。
それでもよかった。
ゲンドウの幸せはユイとともにいてこそあるのだから。
彼の願いそのままに、初号機はゲンドウを己の口に運んだ。
初号機の歯にその身体を食いちぎられながら、ゲンドウは至福のままにその意識を失っていった。
白い塊。
巨大な壁。
それがシンジの前に立ちふさがっていた。
重力など存在しないように身体は宙に浮いている。
いつからここにいるのか覚えていない。そこはすでにエヴァの中ではなかった。
上を見る。この壁はどこまでも続いているように見える。
前面に広がる白。
ゆっくりと前に踏み出す、白い壁の中へと。
シンジには分かっていた。
この白い壁、これこそがレイなのだと。
人の形など無くても、何も話すことをしなくても。
綾波レイは、彼が惹かれた魂はこの中にある、それが感じられた。
「そこにいるの?」
「ええ、あなたの前に」
白い壁の中で、その言葉と共にシンジの目の前に立っていたのは、やはり彼女だった。
壱中の制服を来た蒼い髪の少女、それはシンジが望む彼女の姿なのだろうか。
近づき、手を伸ばし、その頬に触れる。確かなぬくもりを感じる。幻などではない。
「生きてたんだね、綾波」
「この星で生き続ける存在、それが私だから」
いずこからか飛んできた巨大な隕石が青い星に落ちる。
その衝撃でこの星の海は消え、吹き上がるマグマは地表を赤く染めた。
それは遠い遠い昔のこと。
「それが始まり?」
「古い世界を壊してこの世界は造られたの」
「カヲル君たちがいた世界を」
「使途、それは失われた者たち。アダムは彼らの記憶を持って眠っていたわ。目覚める時を待って」
南極の氷壁を崩すようにして立ち上がる光の巨人。
白い翼を空一杯に広げ、その力を開放する。
地軸を歪めるほどの衝撃、それがセカンドインパクト。
「アダムは呪いと共に目覚めたの、それが15年前に起こったこと」
「呪い?」
「ええ、全てのヒトを滅ぼし、世界を無に返すことを望んでいた。使徒はそれを促すためにここに来ていたの、アダムの記憶から生まれて」
「そうだったんだ」
カヲルの言葉を思い出す。
セカンドインパクトはこの星をあるべき姿に戻すためのものだと彼は言っていた。人類は呪われた存在なのだと。
「でも、アダムはもう消えたわ。願いを私に託して」
「綾波に?」
「ええ、碇司令の手によってアダムは私の中へと入れられ、そして今はもういない。私が力を開放したときにそのまま融けてしまったから」
「父さんが・・・・。ねえ、アダムは何を願ったの?」
ゲンドウが何をしようとしていたのか。今となってはそれはもうわからないだろう。
それにそれを知ることにすでに意味はなくなっている。
レイが今ここにいるのは彼女自身の意思でゲンドウは関係ない、それはシンジにはわかっていた。
「世界を救うことを。戦いの中でアダムや使徒は人の心に触れたわ。だから気づいたのよ、今生きている者に罪などないと。そして、このまま人を滅ぼしても、今度呪いを受けるのが自分たちの番になるだけだと」
「世界を・・・救う? でも、今起きているのは・・・」
「全ては原初に戻るわ。けれど、それは始まりなの。新しい世界を創るための儀式」
レイの瞳がシンジを見据える。
「これからどうするのか、決めるのはあなた」
冷たい雰囲気ではない、しかし表情を変えないままレイは訊ねた。まるでシンジにいかなる先入観もあたえないようにするかのように。
シンジがかつて聞いたどんな時よりもその声は静かで、そして優しい響きをしていた。
「碇君、あなたは、何を望むの?」
〜つづく〜
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katu@osaka.104.net
解説:
以上、第23話です。
表題は本来なら「ネオン街」とか「歓楽街」とかいう意味合いのほうがつよいんだけど、雰囲気はあってるからまあいいかなと。
次回最終話です。
今回の「引き」は、やはり「お約束」かな(笑)
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