「セカンドチルドレンを・・・・かね?」
「ええ、零号機の修理及び改装作業には時間がかかります。今後予想される使徒の攻撃に対して、初号機のみでは戦力的に不足であると考えます」
「それは、マギの判断かね?」
「はい、全会一致で召還を求めています」
「・・・どうする? 碇」
「・・・・・・・・・・・・・・・・アレはドイツ支部の守りに必要だ」
「ドイツ支部からは受け渡し要請がすでに来ています。それにネルフの要はここです。使徒の目標となる本部に、エヴァを集中配備すべきだと考えますが」
「・・・・・・・・・・」
「・・・赤木くんの言う通りだ。碇、我々の目的のためには、選択の余地は無いぞ」
「・・・・・・・・・・止むを得ん」
「赤木くん、総務に連絡しておいてくれ。葛城一尉にはこちらで直接伝える」
「わかりました。それでは、失礼します」
「・・・不服のようだな」
「アレのことはお前もよく知っているはずだ」
「ああ、だが私にはさほどの害はないよ」
「・・・・・・・生贄が必要だな」
「ミル55d輸送ヘリ、こんなことでもなけりゃ一生乗る機会ないよ。やっぱ持つべきものは友達って感じ。な、シンジ」
ビデオカメラで機内のあちこちを映しながら、迷彩服を来た少年、相田ケンスケが、傍らの少年に声を掛ける。
「う、うん・・・・」
しかし、それに対してどこか上の空の返事をして、制服姿の少年、碇シンジは、自分たちの前、操縦席の隣に座る女性に問いかけた。
「ねえ、ミサトさん。僕らどこに向かってるんですか?」
「海の上よ」
いつもと違い、浮かない表情の彼女、葛城ミサトが答える。
「ちょっと届け物頼まれちゃってね。いい機会だからデートに誘ったってわけ。いつも同じ山の中じゃ、息が詰まるかなって思って」
「デート、やっぱこれってミサトさんとデートなんでっか?今日のこの日のためにこの帽子を買うたかいがありました」
縦縞の帽子を強調しながら、黒ジャージの少年、鈴原トウジが怪しげな関西弁で割り込む。しかし、シンジのノリは悪かった。
「・・・・・別に僕が来る必要無かったんじゃないですか?」
「なんやセンセ、えらい機嫌悪いやないか」
「そうだぜ、なんかさっきから変だよな」
二人の疑問に、ニヤリ笑いを浮かべたミサトが言う。
「シンジくんはネルフにいたかったのよねー」
「なんでや、あんなとこに一人でおってもおもんないやろ」
「ヘリに乗れるなんてめったに無い機会だろ」
黙って下を向いたシンジにミサトが追い打ちをかける。
「ど・う・し・て・か・な〜、まあ、一人じゃないってことかもね〜」
「ミ、ミサトさん!」
赤くなったシンジを見て、ケンスケがレンズを近づけながら言う。
「・・・・・・なるほど、誰かと一緒に過ごすってことか」
「誰かって誰やねん?」
「鈍いなトウジ、ネルフにいる僕らの知り合いっていったら一人しかいないじゃないか」
それを聞いたトウジは、ケンスケの反対側からシンジに顔を近づけて言った。
「・・・は〜ん、あ・や・な・み・か〜」
シンジの顔がさらに赤くなる。
「なんか最近学校でもおかしかったもんな。じっと見つめ合ったりしてさ」
「ち、違うよ、そんなんじゃないよ」
「へ〜、やるじゃないシンジくん。私も温泉旅行をセッティングした甲斐があったわ」
ミサトが爆弾を投げ込んだ。
「「おんせん〜!!!?」」
「ミサトさん!」
「しかも一泊よん」
「「いっぱく〜!!!!!?」」
シンジは頭を抱え込んだ。その両脇の二人は言葉を失っている。
「だ、だから、そんなんじゃないよ。やけどの治療のために命令で行ったんだから」
「どうして綾波が一緒に行く必要があったんだよ」
「そや、へたな言い訳すんな。この裏切り者」
両脇からシンジの頬がぐりぐりされる。
「だから違うって。ちゃんと説明してくださいよ、ミサトさ〜ん」
「何を? シンジくんとレイが抱き合ってキスしたこと?」
「ど、どうしてそれを」
「「シンジ〜!!!!!」」
「うわ〜!」
暴れまわる後部座席の3人に、少し機嫌のよくなったミサトが言う。
「あんまりはしゃぐんじゃないわよん。落っこちちゃうから」
しかし、喧騒が止む事は無かった。
眼下に広がる太平洋。そこに、数十隻の軍艦が展開していた。
「凄い。空母が5、戦艦4、大艦隊だ。ほんと持つべきものは友達だよ」
「・・・・これに用事ですか」
「そ、太平洋艦隊旗艦オーバー・ザ・レインボウ、そこに後ろの荷物を運ぶ、それが今日の仕事よ」
また、ミサトの顔が厳しくなる。
「どないしはったんですか、ミサトさん。ただ運搬するだけとちゃうんですか?」
「まあね、運んだあと、受け取るものがあるの」
「受け取るもの?」
「エヴァ弐号機とセカンドチルドレンよ」
「・・・・セカンドチルドレン。この間リツコさんに少しだけ聞きましたけど、たしか僕と同い年の女の子だって」
ミサトが歪んだ笑いをする。
「・・・まあね、顔なんかシンジくんの好みじゃないかしら」
「リツコさんは写真でしか見たことないって言ってましたけど、ミサトさんは知ってるんですか?」
「ドイツに居た時、ちょっちね」
また少し、顔が暗くなったようだ。
「ええか、シンジ、わかってるやろな」
「な、なにが?」
「なにがじゃないよ。シンジには綾波がいるんだから、スケベ心をだすなってことさ」
「スケベ心ってなんだよ。それに綾波とはそんなんじゃないって」
「センセも往生際が悪いなあ。まあとりあえず、セカンドチルドレンのことはわしらに任せて、お前は綾波といちゃいちゃしとったらええねん」
「そういうこと」
「なんだよそれ」
まだ見ぬ美少女に胸を膨らませる子供たちを尻目に、ミサトは、ただ、近づく空母の艦橋を見つめていた。そして呟く。
「・・・・知らないってことは、幸せね」
ようやく到着。4人はヘリから下りた。ときおり突風の吹く甲板を、艦橋に向かって歩く。ビデオカメラを振り回すケンスケが珍しいのか、それとも、軍服姿のミサト目当てなのか、彼らの周りは整備兵やパイロットの奇妙な視線に囲まれていた。
一段と厳しい顔になっているミサトに、声を掛けるのを憚ったシンジとトウジが、自分の世界に入ったケンスケを無視してしずしずと着いていく。
そのとき、今までにない強い風が吹き、トウジの帽子を吹き飛ばした。
「あ、わいの帽子!」
甲板を転がるように飛んでいく帽子を、慌ててトウジが追いかける。10メートルほど走ったところで、ようやく風の勢いが弱まり、やっとの思いで捕まえようとした時、誰かの足が帽子を踏みつけた。
「ヘロー、元気そうじゃない」
その誰かは、帽子を無視し、仁王立ちのまま、ミサトたちに挨拶する。
文句を言おうと上を向くトウジに応えるように、また、一陣の風が吹く。その風は、帽子を踏んだ足の持ち主が着ていたクリーム色のワンピースをめくりあげ、つけている下着を、トウジのみならず周囲にいる全員にさらけ出した。
トウジが下着に注目していたその時、しかし、シンジとケンスケは呆然としてその少女の顔を見つめていた。信じられないものを見るように。
「久しぶりね。ミサトちゃん」
「・・・ミサトちゃんはやめてってば。でもまた背が伸びたんじゃないの」
「まーね、もうりっっっっっぱな大人よ。だから日本にきたの。で、どの子がサードチルドレン。まさか、足元のこの馬鹿?」
ひざまずいて自分のワンピースの中を見つめ続けるトウジを見下ろして言う。しかし、隠す気は無いようだ。
「違うわ、この子よ。碇シンジくん」
ミサトが固まっているシンジの肩を叩いた。
「・・・・あなたがシンジくん。ふふ、はじめまして、いいえ、お久しぶり、と言うべきかしら」
そう言って少女が妖しげに微笑む。
ミサトに叩かれ、ようやく現実に帰ってきたシンジが、それでも信じられないようにつぶやいた。
「・・・・・・どうして?・・・・あやなみ?」
そう、彼の目の前にいる少女は、彼がよく知る少女と同じ風貌をしていた。
人形のように白い肌。
月の光のように蒼く銀色に輝く髪。
そして・・・・・
そして?
違和感。そこに彼がよく知る少女とは明らかに違うものがあった。
・・・・・・・黄色い瞳。
シンジの胸の中を見透かしたように、ミサトが言う。
「紹介するわ、エヴァンゲリオン弐号機パイロット、セカンドチルドレン、綾波レヰよ」
「あ、あやなみ、れゐ?」
「よろしくね。シンジくん」
黄色い瞳でシンジを見つめながらレヰが言う。
「よ、よろしく・・・、レ、レヰさんって、綾波の双子かなにか、なの?」
「綾波? ああ、ファーストチルドレンのこと? ・・・・・さあ、どうかしら。でも、いずれ分かるわ、いずれね。ほーーーーっほっほっほっほっ」
突然唇に手を当て高笑いを始めたレヰに思いっきり引きながら、シンジは、さっきまでのミサトの暗い顔の意味が理解できたような気がした。
周りの兵隊たちの視線が痛い。「と、とりあえず艦橋に行きましょう。荷物の引き渡し手続きをしないと」
冷や汗をかいているミサトがシンジ達をうながす。今だ足元で下着を覗き続けているトウジに、シンジが声を掛けようとしたその時、レヰがトウジの耳をつまみ、おもいっきりひっぱった。
「い、いてててて、な、なにすんねん!」
「もういいでしょう。サービスはお・わ・り」
そう言って、耳を抑えるトウジに向かって微笑むと、踵を返して歩いていく。その容姿に初めて気づいたのか、トウジが呟いた。
「な、なんや・・・今の綾波とちゃうんか?」
「綾波レヰだってさ。彼女がセカンドチルドレンだそうだよ」
歩いていくレヰの背中を見ながら、それまで呆然としていたケンスケが答える。
「綾波レイやろ?」
「違うよ。れいじゃなくて、れ・ゐ。あ、早くいかないと置いてかれちゃうぜ」
そう言って先を行くミサト達を追いかける。シンジもそれに続く。
「ま、待ってくれや」
トウジも慌てて走り出した。首を傾げながら。
「どういうこっちゃ? ・・・・しかしあのパンツ、ほんまに中学生か?」
「おやおや、ボーイスカウト引率のお姉さんだと思っていたが、それはどうやらこちらの勘違いだったようですな」
「ご理解いただいて光栄ですわ・・・・・・・・・」
空母の艦橋で、ミサトが儀礼的な挨拶をしているのを横目に、シンジはちらちらと自分の横に並ぶレヰのことを見ていた。
似ている。いや、瞳の色を除けば瓜二つだと言っていい。しかし、この雰囲気の違いはなんだ。レイがたまになにも知らぬ幼子のようなしぐさを見せるの比べ、このレヰは、妖艶というムードすら漂わせている。
シンジの視線に気づいたのか、レヰは少し微笑むと、シンジにそっと寄り添ってその手を握りしめた。そして耳元で囁く。
「・・・何を見ていたの?」
下を向いて真っ赤になったシンジに、息を吹き掛けるようにして言葉を続ける。
「ふふ、可愛いのね」
完全に硬直したシンジ。レヰはなおも身体をすり寄せてくる。ほとんどパニックになりかけたところに、思わぬ助け船が入った。
「おいおいレヰちゃん、人前であまりはしたないまねはしないほうがいいぞ」
「加持くん」
そう言うとシンジから手を離し、声をかけた男のほうに手を振る。
男は、なぜか固まっているミサトの方を向いた。
「よっ、葛城、相変わらず凛々しいねえ」
ミサトの顔が歪む。
「加持くん、君をブリッジに招待した覚えはないぞ」
「これは失礼」
長髪を後ろで束ねたその男に、なんとなくうさん臭いものを感じながらも、ようやくレヰの責め苦から解放され、すこしほっとしたシンジだった。
空母の居住空間にある食堂、そこでさきほどの男、加持リョウジを含めた6名はコーヒーを飲んでいる。
艦橋をはなれてからずっと、ミサトとリョウジは言い争いを続けていた。
レヰがミサトを諭す。
「ミサトちゃんも、もっと素直になったら?」
「だから、なんであんたはそんなに大人ぶった口調なのよ! 私はあんたの倍も年上なんだからね」
「葛城、それは自爆だぞ」
「うっさいわよ!!」
「やれやれ、彼女は相変わらずかね、碇シンジくん」
「ええ・・、あれ、どうして僕の名前を?」
「そりゃあ知ってるさ、この世界じゃ君は有名だからね。何の訓練も無しにエヴァを実戦で動かしたサードチルドレン」
レヰが興味深そうにシンジを見る。加持が言葉を続ける。
「そして、あのファーストチルドレンを籠絡した男。俺としちゃあこっちの方に興味があるがね」
「偶然です・・・・・って、な、なんなんですかそれは」
「・・・・さあね。それだけ注目されてるってことさ。君たちチルドレンはね」
そう言って立ち上がる。
「じゃあ、また後でな」
言葉を無くして、加持の背中を見つめるシンジ。その彼自身を冷たい視線でレヰが見つめている事には気づいていなかった。
「シンジくん、ちょっとつきあって」
そう言うレヰに促され、シンジは輸送艦に来ていた。そこで、LCLのプールに横たわる巨人を見せられる。エヴァンゲリオンだ。
「弐号機って、金色なんだね」
そう、その巨人は、全身を黄金色に染められていた。
「ええ、私にふさわしい色。でも、あなたはひとつ間違っているわ」
「な、なにが?」
「あなたたちの乗る機体が、零号機だとか初号機だとか無粋な名前で呼ばれてもどうでもいいけど。これは私の機体。それにふさわしい名前がちゃんとあるの」
そういってエヴァの前で仁王立ちになる。
「これは私だけの騎士。ナイトオブゴールド!」
「ナイトオブゴールド? カッコいい名前だね」
「ほーっほっほっほ、でしょう? ・・・でも、今はそんなことどうでもいいの。シンジくん、あなたにききたいんだけど」
そう言ってシンジににじり寄る。
「私とファーストチルドレン、どっちが魅力的だと思う?」
「へっ?」
黄色い瞳がシンジを見据える。
「正直にいいなさい。どっちが女として魅力的だと思う?」
「・・・・そ、そんなこと、突然きかれても。レ、レヰさんのことよく知らないし」
「・・・・・ふ〜ん、まあいいわ。それともう一つ、さっきあなたミサトちゃんと同居してるって言ってたけど、お父さんとは暮らしてないの」
「うん、お父さんとはずっと別々だったし、忙しいみたいだから」
シンジが少し目を伏せる。
「そう、で、ファーストチルドレンは誰と暮らしてるの?」
「? 綾波は一人暮らしだけど、どうして?」
「・・・そう」
シンジの問いには答えず、なにやら考え込んでいるレヰ。喋らずにいるその様子は、レイそっくりだった。
思わず見とれるシンジ。
そのとき、衝撃が走った。爆発音。
「水中衝撃波、爆発が近い?」
慌てて甲板に出、爆発音の方を見る二人。
駆逐艦やフリゲート艦が次々に爆発して行く。
「使徒だ!」
「あれが使徒、本物の」
「ミサトさんのところに戻らないと」
「・・・・・・試せるか」
そう言って、レヰは邪悪な笑いを浮かべた。
軍艦から使徒に向けて魚雷やミサイルが斉射される。しかし、効いている様子は無い。
「この程度じゃATフィールドは破れないか」
使徒の様子を確認した加持は自室に向かった。厳重に封印されたケースを確認すると、背広から携帯電話を取り出す。
・・・数分後、電話を切った彼は独りごちた。
「目的のためなら手段を選ばない。・・・恐ろしい人だ」
「オセローより入電。エヴァンゲリオン弐号機、起動します」
「なんだと!?」
「レヰ?」
使徒に対して為す術のなかった艦橋で、艦長とミサトが反応した。
「いかん、起動中止だ。元にもどせ」
「なにいってるのよ、他に方法はないでしょう」
「港につくまでは、あれの管轄はうちだ!」
「段取りなんてどうだっていいでしょ。レヰ、かまわないから発進しなさい!」
掴み合いが始まった。副官が仲裁する。
「しかし、いいんですか。弐号機はB型装備のままです」
その言葉に、艦長とミサトが顔を見合わせた。
無線でそれを聞いたシンジがレヰに尋ねる。
「海に落ちたらやばいんじゃないの?」
「大丈夫よ、これは特殊だから」
『シンジくんもそこにいるの?』
「はい」
シンジはレヰとおそろいの、金色のプラグスーツを着て座っている。
「ミサトちゃん、外部電源を甲板に用意しておいて」
『わかったわ』
「いくわよ、シンジくん」
使徒が弐号機を乗せた輸送機に襲いかかる。寸前、カバーを身にまとったまま、弐号機が宙を舞った。そして近くの巡洋艦の上に着地し、すっくと立ち上がる。
「内部電源が切れるまであと58秒しかないよ」
「ふっ、飛ぶわよ」
その言葉とともに、弐号機が再び宙を舞う。身にまとった白いカバーを脱ぎ捨て、その金色の機体を陽光にさらした。それはまるでもう一つの太陽が生まれたかのように明るく輝く。
「あれが、エヴァ弐号機」
その美しさに目を奪われたのか、ミサトは思わず呟いた。シルエットは零号機や初号機とさほど変わらないが、両腰に長い剣、そして左肩の後ろに弐号機の背丈ほどもある、なにやら棒状のものがついている。
「なに、あれは? B型装備であんなものが」
突然、目標を発見したかのように、空母のほうに向かう使徒。
飛び石伝いをするように、軍艦を足場にして弐号機も空母に向かう。ようやく空母の甲板に着き、外部電源のコンセントを取り付けた時、使途はもう目の前に来ていた。「武器は?」
「剣をつかってもいいけど、試したいことがあるの」
そう言って、なにも持たずに使徒の方に突っ込むと、そのまま海に飛び込んだ。
「無茶よ!!」
ミサトが悲鳴を上げる。
「B型装備じゃ、水中じゃ戦えないよ」
「言ったでしょ。ナイトオブゴールドは特別なのよ。初号機とは違う意味でね」
レヰは落ち着いていた。そこに使徒が迫る。衝撃。水中で使徒に掴まれる。弐号機をものともせず、使徒は空母に向かおうとしていた。
状況がわからず、海中を見据えるミサト。そこに声がかかる。
「葛城ー」
垂直離着陸戦闘機ヤコブレフ改に乗り込んだ加持リョウジの姿があった。
「加持!!」
事態の打開を期待したミサトだったが、返ってきた答えは軽かった。
「悪い、届け物があるんで先いくわー」
その声とともに、ヤコブレフは空に飛び去っていった。
「逃げよった・・・」
唖然とした顔でトウジが呟く。その前で、ミサトの顔も歪んでいた。
使徒の動きが一瞬止まる。その後、また、何かを探すように、弐号機を掴んだまま迷走を始めた。
「引っ張られるよ」
「ふっ、問題ないわ」
使徒に掴まれたまま海底に引きずり込まれる。大きな衝撃。使徒が離れる。ケーブルが伸びきったのだ。
「この位置、理想的ね」
「どうする気?」
「見てなさい」
そう言うと、弐号機の左肩の棒状のものが、正面に向けられる。
使徒が向かってくる。
「出力63%、接続に問題無し。・・・発射!」
閃光。そして轟音。
シンジにはなにが起こったか分からなかった。
海中でなにかがきらめいた。その後、海上に大きな水しぶき。
「何が起こったの?」
そうミサトが呟いた次の瞬間、猛烈な海流が太平洋艦隊を襲った。小型の軍艦が波に飲まれ、また、互いにぶつかって、次々と沈んでゆく。
艦橋の柱に掴まりながらミサトが叫んだ。
「何が起こったって言うのよ〜!!?」
海中では、弐号機も突然できた渦巻きに巻き込まれていた。
「ほーーーーっほっほっほっほ、計算通りの威力だわ」
「あんまり・・・・・大丈夫じゃないじゃないか」
片手でレバーに掴まり、衝撃に耐えながらシンジが言う。
「ま、まあ使徒殲滅の目的は・・・・果たしたから」
「・・・その前に僕たち帰れるの?」
エントリープラグの中で、レヰがシンジにしがみつく。
「だめな時は・・・一緒に死んでね。シンジくん」
「いやだよ、助けてよ〜」
新横須賀港。赤木リツコがミサトを迎えに来ていた。
艦隊の生き残りが接岸されている。
「ずいぶん、派手にやったものね」
「3分の1は使徒、3分の1は謎の衝撃波で沈没。残った3分の1もボロボロよ。ねえ、弐号機のあの武器は何?ATフィールドごと使徒を殲滅するなんて、ヤシマの時のポジトロンライフル以上の威力じゃない」
データを見ながらリツコが答える。
「・・・私にも分からないわ。ドイツ支部が独自に開発したみたいね」
「すごい技術力じゃない。そんな優秀な人いたかしら?」
「でも・・・このデータ、軍艦が巻き込まれた衝撃波は・・・これは、時空震? ・・・・まさか、バスターランチャー?」
「バスターランチャー? なによそれ?」
「そんなわけないのよ、あれができるわけないの」
そういって前を向き、陸揚げされる金色の機体、弐号機を見つめる。その張りつめたリツコの形相に、ミサトも何も言えずに、同じように弐号機を見つめていた。
「いやはや、波瀾に満ちた船旅でしたよ。しかし、あれで良かったんですか? 一つ間違えば息子さんも含めて太平洋艦隊が全滅するところでしたが」
「止むを得まい。アレはシンジを守ろうとした。それだけでも収穫だ」
「弐号機の性能を確かめる。そのためのエサですか、これは」
「ああ、最初の人間アダム。使徒をおびき出すにはこれが一番確実だ」
「人類補完計画の要ですね。でも、こんな使い方をして、委員会は納得しますかね」
「ここで大砲を使われるよりはましだろう」
「・・・なるほど、ごもっともです」
そしてネルフ本部入り口。
一人の少女がネルフのマークを見つめていた。
「神は天に在り、世は全てこともなし、か」
そしてすこし微笑む。それはチェシャ猫の微笑み。
「帰ってきたのね、やっと」
〜つづく〜