「お久しぶり・・・・」
「・・・君とは初対面のはずだが」
「猿芝居はいいわ。あの人はどこですか。冬月先生」
「今は機上の人だよ。国連の会議でね」
「・・・・・相変わらずってことね」
「シンジくんを守ったそうだな」
「まあ、子供には罪はないし、なかなか可愛らしいですから」
「彼女にはもう会ったのか?」
「彼女? ファーストチルドレンのこと? ・・・・それとも」
「愚問だな」
「今のところ、こちらから会う予定はないわ。いずれあの子からやってくるでしょう」
「・・・・これからどうするつもりかね」
「それは・・・・・あの人しだいね」
「なあセンセ、あの娘はどーなったんや?」
授業が終わり、帰ろうかという時間。トウジがシンジに話しかけた。
「あの娘って?」
「ほら、あのセカンドチルドレン、レヰたらいう娘や」
「そうそう、俺も聞きたかったんだよ」
ケンスケが割り込む。
「俺たちと同い年なんだろ? うちの学校に転校してくるんじゃないのか?」
「・・さあ」
「ミサトさんから、なんか聞いてへんのか?」
「別に・・・なにも聞いてないよ。あの娘の話題は避けてるみたいなんだ。ミサトさん」
トウジとケンスケが顔を見合わす。
「そう言えば、ちょっと変な雰囲気やったもんなあ」
「ミサトちゃーん、だもんね。変わってるよな、あの娘」
「ほんま、エヴァのパイロットは変わりもんが選ばれるんとちゃうか」
「なんだよ、それ。・・・・じゃあ、今日はネルフだから」
「おう、ほいじゃな」
「またな」
二人に別れを告げてシンジは教室を出た。早足で先を急ぐ。その甲斐あってか、下足置き場にお目当ての少女を見つけた。
「綾波」
シンジの声に少女が振り向く。いつもの紅い瞳。動きを止めてこちらを見ている彼女のところに、急いで走り寄った。
「綾波、今日、ネルフだよね。一緒に行かない?」
紅い瞳の少女、綾波レイは、その言葉に頷き、シンジが靴を履き替えるのを待つ。そして二人ならんで歩きだした。
リニアトレインに乗り込み、並んで座席に座る。ここ最近、二人でネルフに来る時は、いつもそうだった。夕刻の中途半端な時間帯、他に乗客はいない。
特に会話はない。手を触れ合うこともない。ただ、お互い寄り添うようにして静かに時が過ぎていく。
学校からネルフまでの決して長くはない距離。そこに、二人に許された、二人だけの空間があった。
学校も、使徒も、ネルフのことも忘れ去った、ただ、お互いの存在を感じるためだけの空間が。
しかし、この日は少し違った。いつもは自分からはほとんど話さないレイが、囁くようにシンジに問いかける。
「・・・・・セカンドチルドレン、会ったんでしょう?」
その言葉に、少し驚いたシンジが、レイを見つめる。彼女が他人に興味を示すのが珍しかったのだ。口を結んでレイがシンジを見つめ返す。
「うん、でも、綾波は知らないの?」
「ええ、・・・どんな人?」
どう答えたものか、シンジが戸惑う。
セカンドチルドレン、綾波レヰ。隣に座る少女と同じ容姿を持った人。
レイが知らないと言う以上、それをそのまま伝えるのは何だか憚られた。紅い瞳が射るように見つめる。
その時、シンジは気づいた。レイが気にしてるのはレヰのことではなくて、今までそれに触れようとしなかった自分のことではないかと。意を決して話す。
「綾波・・・レヰさんて言うんだ。綾波と、君と同じ、同じ顔をしてた」
レイの目が一瞬見開かれた。
「名字が同じだから、綾波の双子の姉妹かなにかかと最初は思ったんだけど。・・・・でも、しばらく一緒にいて分かったんだ。この人は・・・違うって」
「違う?」
「うん・・・。レヰさんの瞳の色は黄色で、それだけでもはっきり違うって分かるんだけど。雰囲気が、すごく違和感があるっていうか、どこかおかしいんだ」
レイはシンジの言葉に聞き入っている。
「いつも綾波を見てるからかもしれないけど、何か、話し方が、行動が、どこかふさわしくない、合ってないって、そう思ったんだ。・・・・ごめん、なんだか自分でも何言ってるのかわかんないや」
ゆっくりとレイがかぶりを振った。
「・・・綾波・・・レヰ・・・私と同じ顔・・・・黄色い瞳・・・」
虚空を見つめて、そう呟く。なにか思いつめたようなその様子に、シンジも言葉を無くしていた。
研究室。
先の戦いのデータを、リツコがチェックしている。いつにもまして厳しい顔。
「やっぱり、バスターランチャー。それにこのエネルギー源は・・。・・・・・一体ドイツでなにが?」
思わず独りごちる。
そこを誰かが後ろから抱きしめた。こんなことをするのは一人しかいない。リツコは軽く微笑む。
「少しやせたかな。・・・・悲しい恋をしているからだ」
「どうして、そんなことが分かるの」
「それはね、涙の通り道にほくろのある女は、一生泣き続ける運命にあるからだよ」
「これから口説くつもり? でも駄目よ、こわーいお姉さんが見ているわ」
そう言って視線を前に向ける。そこにはガラスにへばりついてこちらを睨んでいるミサトがいた。
それを見て後ろの男、加持リョウジが不敵に微笑む。「お久しぶり、加持くん」
「やあ、しばらく」
今までの会話などなかったように、二人は挨拶を交わした。
「しかし加持くんも意外とうかつね」
リツコの言葉に入ってきたミサトが答える。
「こいつの馬鹿は相変わらずなのよ。あんた弐号機の引き渡しすんだんなら、さっさと帰りなさいよ」
「出向の辞令が届いてね、ここに居続けだよ。また、3人でつるめるな、昔みたいに」
「誰があんたなんかと」
口論が始まりかけたその時、リツコが加持に問いかけた。
「ねえ、セカンドチルドレンと一緒に来たんでしょ。一体どんな子なの?」
「なんだ、りっちゃん会ってないのか? 意外だな」
「ええ、新横須賀ではいつの間にか消えてたのよ。誰かさんの監督が甘いから」
そう言ってジト目でミサトを見る。
「私のせいだって言うの? でもおかしいわね、あの娘あなたのことよく知ってるみたいだったけど」
「いいえ、知らないはずだけど。写真でしか見たことないわよ」
「写真ね。でも実物はもっと驚くわよ。まさにレイと瓜二つだから」
「確かに顔だちは似てるけど、それは大げさなんじゃないの」
そう言ってファイルから写真を取り出す。
「・・・なにこれ、髪の色が違うじゃない。それに少し化粧してるみたい」
「わざわざ似てない写真を送りつけたってこと? どうもこの娘は謎が多いわね。司令も召還を渋ってたし」
「司令が?」
「ええ、副司令の説得で了承してくれたんだけど。・・・でもあなたその娘とはドイツで一緒だったんでしょ。どうしてレイとそっくりだってこと今まで黙ってたのよ」
ミサトが頭をかく。
「レイと初めて会った時は確かに驚いたんだけど。でも、雰囲気が全然違うから、似てるってこと忘れてたの」
「忘れてたって、あんたねえ」
「あの娘、苦手だったのよ。なんか全部見透かされてる感じがして。変に大人っぽいし。得体がしれないし。だから思い出したくなかったってのが本音かな」
リツコが呆れて言った。
「便利な記憶力ね。マギに応用できないかしら」
「でも、私のことミサトちゃんって呼ぶのよ。それも初対面のときからずっと」
加持が口をはさむ。
「俺も加持くんって呼ばれてる」
リツコが眉をひそめる。
「・・・それって」
その時、非常警報が鳴った。
駿河湾上空。2機の大型輸送機がエヴァを運んでいる。
「今回は、上陸直前の目標を、水際で一気に叩く。初号機並びに弐号機は、交互に目標に対し波状攻撃、近接戦闘でいくわよ」
ミサトの作戦がエヴァに乗り込んだ二人に伝えられる。
「了解」
「ねえ、ミサトちゃん。これは私の日本でのデビュー戦だから、好きにやらせてもらえないかしら」
「好きにって、あんたなに考えてるのよ」
「悪いようにはしないわ。だいたい使徒の能力が分からない以上、全力であたるべきだと思うんだけど」
ミサトの目が鋭くなる。
「・・・・この間のアレを使うってこと? 分かったわ。あなたに任せるわ、レヰ。シンジくんは援護にまわって」
「・・・はい」
輸送機からエヴァが切り離される。着地。夕焼けに赤くそまる、紫と金色の機体。
用意されたプラグを繋ぐ。
両手をかかげた凧のような形をした使徒が、水没した街の間をゆっくりとあるいて向かってくる。こちらを攻撃してくる様子はない。
「いい、シンジくん。とりあえず後方からライフルで奴を足止めして。絶対に私より前にでてはだめよ」
「う、うん」
「ミサトちゃん。ここから前方の戦闘機は退避させて」
「分かったわ」
「じゃあ・・・行くわよ、ナイトオブゴールド」
そう言って、前に走る。
初号機がライフルをうつ。弾着。使徒の動きが止まる。
「今ね!」
足をとめ、弐号機がランチャーを前に向ける。そこには使徒と海しかない。
「消えなさい!!!」
閃光。
シンジは光に目が眩み、おもわず瞼を閉じた。
衝撃波。空気が震えているのが、エヴァに乗っていてもよくわかる。
目を開く。
そこには、夕焼けに輝く、金色の機体。そしてその先で・・・・・空が歪んでいた。
「目標・・・・完全に消滅」
「な・・・・なんて威力なの?」
「迅速、かつ、華麗。私にふさわしい勝利ね。ほーーーーーーっほっほっほっほっほっほ・・・・・・」
その場にいた者全てが言葉を失っている中、ただ、レヰの高笑いだけが辺りに響いていた。
「ねえ、どういうことなのよ。あの武器。凄いなんてもんじゃないわ。常識外れよ」
再びリツコの研究室。興奮したミサトが詰め寄る。
「・・・・あれでも全ての力を出してるわけじゃないわね、きっと」
「あれで、抑えてるって言うの。・・・ねえ、説明してよ。知ってるんでしょう?」
リツコの顔が厳しくなる。
「バスターランチャー。エネルギーを圧縮して、光球に姿を変えた力場をつくり出し、放出するシステム。圧縮するエネルギーの総量に応じて、その威力は比例するわ。場合によっては空間や時間をゆがめるほどね」
「でも、あれは・・・」
「ええ、あの威力はヤシマ作戦のときのポジトロン・スナイパー・ライフルよりもはるかに上。つまり、あの時以上のエネルギーが使われたってことね」
「馬鹿なこと言わないで。ヤシマの時は日本中の電力を使ったのよ。それ以上のエネルギーなんて・・・だいたい、どっから持ってくるのよ。弐号機の外部電源は初号機と同じなんでしょ?」
リツコが手元の端末を操作する。
「これを見て」
「? ・・・なにこれ、弐号機の内部にエネルギー源が? どういうことよ」
「先の第4使徒のときデータ化されたS2機関、それが実用化されてる、そういうこと」
「こんな短期間に? だいたいそれならどうして外部電源が必要なのよ?」
「動力に変換するジェネレーターがまだ開発されていないのよ。単純に生み出されるエネルギーをランチャーに取り込むだけなら、技術的な問題点は少ないわ。でも・・・」
リツコが端末を見つめながら続ける。
「バスターランチャー自体は、かなり以前から開発されていたみたいね。でも、いったい誰が・・・」
「こころあたりはないの? ドイツ支部の技術者でしょ、当然」
「いいえ。こんなことができるのは、私の知る限り3人だけね」
「誰? あなた?」
リツコがミサトを見て、少し微笑む。
「どうかしら、作ろうと思った事がないから。それに3人とももうこの世にいないわ」
「・・・誰よ?」
「一人目は私の母。そして碇ユイ博士」
「シンジ君のお母さんね」
「ええ・・・・そして惣流キョウコ博士」
「惣流? ドイツE計画の責任者だった人? たしか精神汚染になった・・。その3人なら可能ってこと」
「そう、つまり東方の三賢者、もしくは3人の運命の魔女。うちの技術のほとんどはこの3人が元よ」
ミサトが考え込む。
「3人とも死んでるもんね。事前に開発済だったとか」
「その場合、可能性があるのは惣流博士だけね。母さんやユイさんなら、私が知らないはずないもの」
「惣流博士か・・・私がドイツにいた時は、もう、とっくに亡くなっていたから」
「たしか娘がいたはずよ・・・チルドレン候補だとも聞いたけど」
「・・・・記憶にあるような無いような・・・ドイツにいたのはだいぶ昔のことだから」
「レヰって子はそのころからいたの?」
頭に手をやって記憶を遡り、ミサトは答えた。
「うーん、確か、後から来たはずよ。・・・・うん、5年ほど前、紹介されて、その時から私をミサトちゃんって」
「どこから来たの?」
「へ? 日本じゃないの? 私ともずっと日本語で話してたし」
「・・・5年前か」
ミサトが手を叩く。
「思い出した。たしかうちが組織改正されてからすぐよ」
「そう、・・・結局その娘が全てを知っているのかもしれないわね」
制服に着替え終わり、シンジは更衣室を出た。
今日の使徒との戦いでは、特に危険な目にあわなかった。少し物足りなさが無いわけでもないが、死ぬような目にあってきたことを考えれば全然ましだろう。
時計を見る。もうかなり遅い。使徒との戦いよりも、こちらに帰ってくる方が時間がかかっている気がする。
エレベーターホール。そこに少女の後ろ姿。声を掛けようとして一瞬躊躇する。そっと近づく。気配を感じたのか少女が振り向いた。紅い瞳。
「綾波もいま帰りなんだ」
いくぶんほっとしてシンジが言った。レイが頷く。そのまま二人でエレベーターに乗った。
また、静かな空気が流れる。
レイが物問いたげな視線を見せた。それに気づいてシンジが答える。
「今日は簡単だったよ。レヰさんのエヴァ、ナイトオブゴールドって言うんだけど、それが凄い武器を持ってるんだ」
レヰの名にレイが少し反応する。気づかずにシンジが続ける。
「よく分からなかったけど、一発で使徒が消えちゃったんだ。その後、空が歪んで、まるで違う世界にいるみたいだった。」
「・・・そう、あなたは?」
「うん・・・僕も援護で少しだけ戦ったけど、別にいなくても良かったかもしれない」
レイがシンジを見つめる。
「それで、いいの?」
シンジが微笑む。
「別にいいよ。苦戦するよりよっぽどいい。だって、僕たちがやられたら、綾波が出なきゃいけなかったかもしれないじゃないか。零号機は壊れてるのに」
「そう・・・」
エレベーターを降り、出口に向かう。誰もいない通路。
突然、レイが立ちどまる。訝しげにシンジがレイを見、その瞳が指す方向に向く。人影。
シンジの隣にいる少女と同じ、壱中の制服。蒼銀の髪。そして、黄色い瞳。・・・綾波レヰ。
彼女がこちらを向いて立っていた。冷たく微笑みながら。
レイが目を見張る。信じられない様なものを見るように。シンジの腕を掴み震えている。
そのレイの反応にシンジも驚いていた。彼自身はレヰに違和感は感じていたものの、恐怖など感じなかったから。
しかし、確かにレイは怯えていた。
我知らずシンジはかばう様にレイをひきよせ、自分の背中にまわす。
「久しぶりね・・・レイ」
乾いた声が通路に響く。
「私が誰だかわかるでしょう? 帰ってきたのよ、ここに」
レイの震えが大きくなる。シンジがレヰを睨む。
「どういう、どういうことなんですか、レヰさん。綾波に何をするつもりですか?」
レヰの視線がシンジに向く。
「別にどうもしないわ、シンジくん。その子とは古馴染なのよ」
「でも、こんなに怯えるなんて」
レイがシンジの服を掴む。
「碇君・・・もう、大丈夫だから」
そして、シンジの背中越しにレヰを見つめる。
「あなたが、セカンドチルドレン。でも、どうして?」
「ふふふ、どうしてかしらね。あの時のようにしてあげてもいいんだけど、今はあなたの騎士がそばにいるみたいだし」
レイがシンジの背中で小さくなる。
「レヰさん!!」
「ふふ、冗談よ。まあ、それもあの人しだいだけどね」
何をいっているのかは分からない。しかし、レイに害を与えようとしているのは分かった。
彼女を守る、それが、今シンジがネルフにいる理由だった。
それは、このレイと同じ容貌を持つ少女が相手でも変わる事は無い。背中に怯えるレイを感じながら、シンジの顔が厳しくなる。レヰはあざけるように微笑んでいる。
「何をしてるの、あんたたち」
突然、声が掛かる。緊張した空気が消える。シンジが声の方向をみると、見慣れた白衣があった。
「リツコさん」
「もう、今日は遅いわ。早く帰りなさい」
「はい」
リツコの言葉に背中を押されたように、シンジはレイの手を掴むとその場を去っていった。
後にはリツコと、そしてレヰが残る。
「あなたがセカンドチルドレンね」
「ええ」
微笑んでレヰが答える。こんどは冷たい感じはしない。
「少し聞きたいことがあるの、つきあってもらえるかしら?」
リニアトレインにシンジとレイが乗っている。
シンジはあれからずっとレイの手を握っていた。レイも離そうとはしない。
俯くレイに、シンジが話しかける。
「レヰさんと、なにがあったのか知らないけど・・・」
レイが少し震える。
「綾波には、綾波には僕がついてるから・・・」
ゆっくりとレイがシンジの方を見る。
「だから、怖くないよ」
そう言って、シンジもレイを見つめる。
そして・・・軽く唇をかさね、静かに離す。
「・・・今日はうちにおいでよ。ミサトさんには僕が言うから」
シンジの言葉に、少し頬を赤く染めてレイが頷いた。
第2ケイジ。
すでに回収をおえた弐号機に冷却作業が行われている。それを見渡す通路に、リツコとレヰは立っていた。
「弐号機のカラーリングは赤になるって聞いてたけど」
「最初はね。私が変えたの」
リツコがレヰを見る。
「あなたが? 悪趣味ね。でも、どうしてたかがパイロットにそんなことができたの?」
「さあ、どうしてかしら。聞きたい事ってそれ?」
レヰは弐号機から視線を外さない。
「・・・・弐号機についてるバスターランチャー、開発したのは誰? 取り付けられたのは最近のはずだから、あなたも知ってると思うけど」
「一つだけ言っておくけど、あれを弐号機と呼ばないで。あれにはちゃんと名前があるの、ナイトオブゴールドって名前が」
リツコが訝しい顔をする。
「ナイトオブゴールド? それで、金色に塗ってあるの?」
「ええ」
「・・・まあいいわ。それで、私の質問には答えてくれないのかしら?」
レヰがリツコの方を向く。
「あなたは分かってるんじゃないの。それができるのが誰か。それが答えよ」
「・・・・・惣流博士なんでしょう?」
「・・・どうしてそう思うの?」
「私がその死を確認していないのは彼女だけだからよ。アレを作れる人の中では」
レヰが下を向く。訝しげにみるリツコ。むせるような笑い声。
「馬鹿にしてるの?」
少し顔を赤くしてリツコがきく。
「・・・キョウコはあの中よ」
そう言って、レヰが弐号機を指差す。リツコの目が見開かれる。
「あの中って・・・」
「ユイさんと同じ。エヴァの中で眠ってるわ。彼女ほど完全な形ではないけれど」
「どうして・・・あなたがそれを」
再びレヰがリツコを見た。黄色い瞳が光る。
「あなたは知っているでしょう。綾波レイがどういう存在か。それと同じ姿をした私がここにいる。それが答えよ」
「・・・クローン? まさか、ユイさん?」
「違うわ。魂は一つ。ユイさんの魂は初号機の中よ」
リツコの顔が青ざめる。
「・・・レイの存在のもう一つの側面、それは、魂の入れ物、よ。もう分かるわね、・・・りっちゃん」
「そんな・・・」
思わずリツコが座り込む、レヰを見つめながら。近づいてレヰがリツコを抱きしめる。
「ごめんなさい、黙っていて」
「・・・・母さん・・・」
涙を流しながら、リツコもをレヰを抱きしめた。
専用機の中、他に誰もいない客席に一人座り、ゲンドウは目をつぶっていた。
別に眠っていたわけではない。
ただ、考えていた。赤木リツコのこと、セカンドチルドレンの存在、そしてファーストチルドレン。
自分が利用しようとしている女性達。
レイのことは、シンジに任せればいいのかもしれない。たとえ、その結果起こる事態が、ゲンドウの目的から外れてしまっても、それはユイの意思のような気がした。
しかし、赤木親子は・・・・・。
自分に苦笑する。全ての人類を巻き込んで一人の女性に会おうとしている男が、悩むようなことではない。
窓の外を見る。
光は、まだ、見えなかった。
〜つづく〜