「………………………………………ん?」
はじめは唐突に目を覚ました。
頭は非常にクリアーなのだが自分が置かれた状況がまるで判らない。
とりあえず……。
「ここは……江藤さん……ちよねぇ?」
むくりと起き上がってはじめは辺りを見回した。間違いなく見慣れた江藤亮の家である。しかも外は真っ暗である。
「何がどうしてこうなってるの???」
当の家人はドコにいるのやら。家にははじめ以外の人間がいるようには思えない。
「……」
(とりあえず……喉が渇いたなぁ)
思ってはじめは立ち上がり台所へと向かい水を飲んだ。時計を見れば夜中の2時を指している。
(えーと、何が有ったんだっけ?)
そしてはじめは一部始終を思い出した。途端に頭に血が上りプッと鼻血が垂れる。
「!!!!」
慌てて鼻を押さえた。コンサート後、恐らくは亮にお持ち帰りされたのだろう……。しかしそれなら亮だって休んでる筈の時間である。
(……コンビニでも行ったのかしら?)
はじめは小首を傾げてそう考え、それかもういっぱい水を飲んだ。
(あ〜あ、ぶっさいくな顔は見られるし、結局コンサート見損ねちゃったし……。折角頑張ったのになぁ)
はじめが大きくため息を吐いたその時────。ガチャガチャと玄関で鍵が開く音がした。
(か、帰ってきた!?)
慌てて廊下に出れば「ただいま〜」と小声が聞こえてくる。
「え、江藤さん! お帰りなさい!」
「!」
ガサッと亮の肩からカバンがずり落ちた。
「はじ……めちゃん? 起きたの……?」
「え? あ、はい。この通り」
目を見開いている亮を訝しく思っていたら……。
「ぎゃあ!」
と息も詰まるほどに抱きしめられたのだ。
「な、な、な……」
「良かった……あのまま目を覚まさないんじゃないかと思った……!」
「は?」
訳が分からず亮の背を叩くが亮はただ「良かった」と言い続けているだけだった。
「ちょ、ちょっと、、江藤さん。全然話が分かんないんだけど一体何なのよ!」
亮が落ち着いたのを見計らってはじめは問い掛けた。
「はじめちゃん、あれから全然目ぇ覚まさないんだもん。オレ、怖くて怖くて……」
「……あれからって?」
「コンサートの日からだよ」
「大袈裟ねぇ! たかだか8時間ぐらいじゃない! 三日も貫徹してたんだからそれ位寝るわよ!」
はじめの言葉に亮は珍しく渋面を作った。
「はじめちゃん三日三晩寝てたんだぜ?」
「………………………………………はぁ?」
「はじめちゃんはコンサートの日から80時間寝っぱなしだったんだよ」
「うそお!」
「ホント。ほら」
と言って亮は携帯を取り出して日付を見せた。
「うそぉ……」
その日付は間違いなくはじめの主観から三日後の日付だったのだ。
「五つ子達は大丈夫って言うけど突いても抓っても身動きもしないんだもん。……オレ、本当にビクビクしてたんだから」
言って亮はまたはじめを抱きしめた。
「ご、ごめんなさい」
思わず謝ってしまったはじめに亮は身を起こすとそっと顔を近づけた。はじめもそっと目を閉じた。
唇が触れあったのはほんの一瞬だった。だが亮はそのまま額に瞼に頬に耳にとキスの雨を降らせていく。そして再びはじめの唇を捉えると思うままに貪った。はじめも必至に応えるが亮の服を握りしめて立っているのが精一杯だった。だがそんなはじめの膝もいつしか力を失い、はじめの身体はカクンと頽れた。
荒い息をつくはじめを亮はまたギュッと抱きしめた。
「はじめちゃん」
「……」
「はじめちゃん」
「……何よ」
「……ごめんね」
「……何がよ」
「それから……ありがとう」
「……何によ」
照れているのかはじめは素直に亮の言葉を受け入れない。でもそんな事ですら愛おしいくて堪らないのか亮は身を起こすと涙を浮かべた綺麗な綺麗な笑顔ではじめを見つめた。
「お帰りなさい。はじめちゃん」
「………………………………………ただいま!」
そう言ってはじめはもう一度亮の腕の中飛び込んだ。もう二度と離れてなどやるものかと思いながら……。
おわり