Mrs. Robinson
#1
都内某所の楽屋にてA.A.O.は最愛の姉・はじめから非常に非情なツッコミの嵐に遭遇していた……。
「あんた達って子はぁ〜〜〜〜〜っっ!!!」
「「「「「あ〜〜〜〜〜〜、ごめんなさい〜〜〜〜〜っっ!!!」」」」」
ゲシッ ゲシッ ゲシッ ゲシッ ゲシッ
ボカ ボカ ボカ ボカ ボカ
バチンッ バチンッ バチンッ バチンッ バチンッ
ご丁寧に1発ずつ蹴って殴ってぶっ叩いて……。それでもはじめの怒りは収まらなかった。鼻息を荒げて第4弾を繰り出そうとした時……。
「はじめくん! 落ち着きなさい!」
「はじめちゃん! お願いだからもう止めて〜〜〜〜!」
前田と志賀は2人掛かりではじめを五つ子から引き離したが、はじめは尚も暴れていつ振りほどかれてもおかしくない状態だ。
「放して! 放してったらっ!」
「ははははじめさん! 落ち着いてください!」
宇都宮と丸も鬼のようなはじめの形相に泣くほど怯えながら果敢にも両者の間に割り込んだ。
「こいつら殺してあたしも死んでやる─────っ!」
「殿中でござる! 殿中でござる────っ!」
「「「「「うわ──ん! はじめちゃんがご乱心だ────っ!」」」」」
「─────……何事?」
それは余裕が有るんだか無いんだか訳の分からないその状況には酷く場違いな淡々とした声だった。
「「「「「江藤さんだ──っ!!!」」」」」
「えっ!?」
五つ子たちの歓声にはじめの動きがピタリと止まった。
「「「「「うわ──んっ! 江藤さん──っ! ごめんなさい──っ! 助けて──っ!!!」」」」」
現れた助け舟に五つ子たちは我先にすがりついた。一方スキンシップ大好きな亮は、
(助けては分かるけど、ごめんなさいってどういう事?)
などと思いながらも、とりあえず抱きついてきた五つ子たちをよしよしと撫でていた。そして徐に自分を凝視したまま固まっているはじめへと目を向ける。
「何があったの? はじめちゃん」
「──!」
「廊下の端まではじめちゃんの怒鳴り声が響いてたよ? はじめちゃん喉大丈夫?」
相変わらず着眼点の不明瞭な亮である。だがはじめは唇を噛締め、
「え、江藤さんには関係ないわよ!」
と叫んで楽屋を飛び出して行ってしまった。
そしてはじめと入れ違う様に瑞希がひょこんと顔を出した。
「はじめちゃん、どうしたんだんよ? 泣いて走ってったけど、何か有ったのか? ──ってアレ?」
瑞希は前田の姿を見て少し驚いた様に目を開いた。
「前田さん来てたんですか? TV局にわざわざ出向いてくるなんて珍しいですね」
「えっ? あ、ああ今日はA.A.O.の出演に興味があったんでね」
「こいつらの?」
言って瑞希は楽屋の表書きを見た。
『A.A.O.様
ダウンタウンDX』
「なるほど……。確かに面白そうだな」
うんうんと納得してから瑞希は五つ子たちを見る。
「──で、 お前ら何やったんだ?」
「「「「「うっ……」」」」」
しかし五つ子は顔を見合わせて黙り込んでしまった。
「──…私から話そう。君たちも無関係ではないからね」
「オレたちが?」
前田の言葉に瑞希は眉根を寄せた。
「──どちらかと言えば亮なんだがね……」
「オレ? ……でもさっき、関係ないってはじめちゃんが──」
「咄嗟に出た言葉なんだろう。────はじめくんの性格を考えればね」
「……」
肩を竦める前田に黙り込む亮。瑞希はとりあえず楽屋に入って後ろ手に扉を閉めた。
「そう言えば君たち、今日はドラマ撮りなんだろう? 話を聞いている時間は有るのかい?」
「……長い話になりそうなんですか?」
「いや、事の顛末だけなら5分10分の話だよ」
「問題はその後って訳ですか……」
前田と瑞希が同時に重々しく溜息をついた。事の重大さが肌で感じ取れたらしい。
「一人入りが遅れてるんです。その人が居ないと何も進められないから大丈夫ですよ。さっき入った連絡だと1時間は空きっぽいんで」
「そうか……」
前田は頷き、「実は──」と事の次第を話し出した。
つづく