はじめちゃんが一番!
Mrs. Robinson
#2
「アホやろ、お前ら」
「「「「「え〜?」」」」」
「お前ら、絶対アホやろ」
「違うよ、オレたちアホじゃないよ」
「うん、はじめちゃんからはよく『ボケ!』って言われるけど」
 あつきとかずやの返答に観客が笑い、端で見ていたはじめは顔を引きつらせていた。
「お前らなぁ、トップアイドルの分際で回転寿司なんか行くなや」
 浜田の言葉に五つ子は「えー、だってー!」と反論する。
「だってオレたち今まで一度も回転寿司って食べた事無いんだもん!」
「嘘つけぇ、一回ぐらいやったらあるやろ?」
「無いよ、一回も」
「だってはじめちゃんが『外食なんか不経済の極みよ!』って言って絶対に連れてってくれないもん」
「え、何、君らホンマに貧乏なん?」
 松本の問い掛けに五つ子はこれまた力強く「うん!」と頷いた。
 沸き起こる笑いにはじめは居たたまれなくなり、顔を真っ赤にさせて俯いていた。
(あいつら〜〜〜〜! 確かにうちは貧乏だけど全国区の番組で思い切り肯定すんじゃないわよ〜〜〜〜!)
「は…はじめくん大丈夫かね?」
 隣にいた前田が笑いを噛み殺しながら尋ねた。
「笑って聞かないで下さいよ! んもう! あの子たち後で絶対にとっちめてやるんだから!!」
「お手柔らかに頼むよ」
 そうしている間にもトークは続いている。
「自分らアホ程喰ったてかいてるけど何皿位喰ったん?」
 問われて五つ子は顔を見合わせ懸命に記憶を糸をたどる。
「オレ、39皿〜!」
「確かオレは38…皿だったような……」
「ボクもかずくんと一緒だったから38皿」
「オレあん時ちょっと調子悪かったから36ぐらいかな?」
「勝った! オレ、40皿だもん!」
 事も無げに語る五つ子たちだが浜田と松本は「こいつら絶対におかしい!」と言い張った。
「江藤君もそれ位食べたん?」
「「「「「江藤さんはオレたちよりもも〜〜〜っと食べてましたよ」」」」」
「お前らよりって、あの、亮がぁ?」
「江藤君って服着てても分かる位ガリッガリやん?」
 目を丸める二人に五つ子たちは「でもなぁー」と顔を見合わせた。
「でも、オレたちよりもガツガツ食べてたもんなぁ?」
「うん、確か60皿いった筈だもん」
「60っ!?」
「マジでっ!??」
 流石にその枚数の多さにスタジオ中がどよめきを発した。
「「「「「マジで〜す」」」」」
「お店の人、数えるの苦労してたもんなぁ、オレたちのテーブル」
「化けもん並の胃袋やなぁ」
「そんなけ喰ったら回転寿司ゆうても結構掛かったやろ」
 五つ子達はまたも顔を見合わせた。
「今度和田さんと江藤さんに聞いときますね」
「なんや、奢りやったんか?」
「はい! オレたちの誕生日祝いに和田さんと江藤さんが奢ってくれたんです」
「誕生日祝いやったらもっとええ寿司屋に連れてってもらったらえーやん」
 松本の言葉にたくみが「でもなぁ」と呟く。
「はじめちゃんが『どーせオレたちは質より量なんだから回転寿司で十分です!』で決まったんだよな。行き先」
「そーそー! 高くてほんのちょっとより、安くてお腹いっぱいになる方がオレたち幸せだもんな」
「「「「うん」」」」
 あつきの言葉に4人は一斉に頷き、松本は口を押さえて笑っていた。
「自分らめっさ安上がりやなー」
「あ、そお言うたら、お前らの姉ちゃんて前に瑞希と噂になっとったよな。二人で他人のふりしてってあるけど、やっぱ付き合うとんのか?」
 その、ある意味衝撃的な質問になおと(正直者)が答えた。
「違いまーす! はじめちゃんは江藤さんと付き合ってるんでーす!」

──────数瞬の沈黙。そして──。

「ええ─────────っ!??」

「「「「ばかなお!」」」」
 4人が慌ててなおとの口を塞いだが全ては後の祭り。またそうする事によってなおとの言葉が事実である事を如実に物語っていたのだ。
「………………………」
 やがてスタジオ中の視線がはじめに集中する。
「ち、違うんです! 事実無根です!」
 本番と言う状況も忘れてはじめは大声で否定した。
「えぇ〜〜〜、ホンマかぁ〜〜?」
「ええええ、江藤さんがあたしみたいな剛毛でそばかすで貧乏くさくてその上ダサくて気の強いブスなんか相手にする訳ないじゃないですか!」
 この力説に一瞬浜田が引いた。
「え、いや、何もそこまで自分で言わんでもええんちゃうの」
「だって事実なんです!」
「ほんじゃなおとの言葉は?」
「あああれはこの子たちが江藤さんみたいなお兄さんが欲しいって願望の現れなんですよ! この子たちめちゃめちゃ江藤さんに懐いてるんです! それこそムツゴロウさんに群がる犬のように!」
 はじめの絶叫に何人かのゲストが堪えきれずに吹き出した。それを見て浜田が五つ子たちに話を振る。
「お前らの姉ちゃんおもろいなぁ。りえママとか元彌ママみたいに表出てもやってけるんとちゃうか?」
 浜田の言葉にはじめは真っ赤になって「冗談じゃない!」とばかりに首を振った。
「なんやガセやったんや。俺、江藤君ててっきりホモや思て心配しとったから安心したのに」
「どっからそーゆー話出てくんねん」
 唐突な松本の振りに浜田が眉を顰めた。
「え、だって、WEが俺らの番組出てくれた時でも彼『瑞希がどーした。瑞希があーした。瑞希がー、瑞希がー』って始終言うとったやろ? お前瑞希以外興味ないんかーっ! お前ら絶対デキてるやろーっ! って思とったんや」
「ああ、まぁな。それは俺も思とった。でもなんでお前が心配せなあかんねん。関係ないやんけ」
「え、ケツ狙われたらシャレにならんやん」
「狙うか! ボケ! なんで亮がお前のケツ狙わなアカンねん!!」
 バチンと鋭いツッコミが入り、再び観客は二人のペースに乗せられていった。
 その後松本は如何に自分がホモに好かれるかを懇々と訴え、浜田が投げやりに流して次の目撃情報へと話は移っていったのだった。



「……流石、ダウンタウン。フォローが巧い」
 はじめの横で前田は額に手を当てながら二人のトークに恐れ入っていた。だが勿論これで全てが終わった訳ではない。
「はじめくん、大丈夫かね?」
「え、ええ……なんとか」
「私は今からプロデューサーに掛け合って今のトークをカットするよう頼んでくるよ」
「は、はい。宜しくお願いします……」
「放映はカットできても観客の口は塞げないのが痛いな。変に手を出して勘ぐられるのも厄介だし……。さっきので誤魔化せたら良いんだが……」
 そう呟いて前田ははじめの側を離れて言った。
 その後、多少のボケや波乱は有ったものの、収録はなんとか終了したのだった……。
つづく