はじめちゃんが一番!
Mrs. Robinson
Extra Track
『A.A.O.様
ダウンタウンDX』
そう表書きされた楽屋で十人の男達は深々と溜息を吐いていた。
「とりあえずよかった〜〜〜〜〜」
と、胸に手を当てて安堵するあつき。
「うん、オレたちのせいではじめちゃんと江藤さんが別れる事になったら向こう一ヶ月は食事抜きだもんな」
と、腕を組んで瞑目するかずや。
「うん、二人が仲直りできて本当に本っ当に良かったね」
と、涙混じりに微笑むさとし。
「しっかしまあ、あんなとこであんな展開になるとは思わなかったよな」
と、肩をすくめるたくみ。
「んもぉ〜〜和田さんてばオレたちの邪魔するんだもん〜〜!」
と、頬を膨らませるなおと。
「ばっか。あそこでおまえらがしゃしゃり出たら今みたいに綺麗に纏まらなかっただろうが!」
人差し指を立てて言い諭す瑞希。
どうやら彼らは一部始終をデバガメしていたらしい……。
「「「「「はじめちゃんにもしもの事があったらどうするのさ!?」」」」」
「そりゃ、そん時は助けてたさ。当たり前だろ?」
けろりと返す瑞希に五つ子たちは「うっ……」と詰まった。
(…………………ホントはどうなる事かと思ったけどなぁ……)
未だかつて見た事がない相棒の激情に内心肝を潰していたのだが……終わりよければすべてよし。そう思って瑞希はうんうん頷いた。
その横では前田と滋賀が深刻な表情で顔を付き合わせ、宇都宮と丸は所在なさげに黙って立っていた。
「しかし、参ったね……」
「そうですね……。江藤君、あの調子じゃ記者会見やったとしても自分で言ってた言葉を言えるかどうか……」
「100%言えませんよ」
その会話に瑞希も加わった。
「やっぱりそうかぁ……」
「元々大嘘も小嘘もつけないヤツですよ? だから突っ走ってはじめちゃんと別れるなんて言い出したんじゃないですか」
「江藤君、別れを決意しただけで吐いてましたしね……」
どうやら本当に一部始終をデバガメしていたらしい……。
「冷却期間を置けと言っても仕事に支障が出るのは必至…か」
余程頭の痛い問題なのか前田は額に手を当てて深く重い溜息をつく。
「公表……出来ませんか?」
「えっ?」
「前田さん、オレがはじめちゃんと結婚したいって言い出した時、最終的にはOK出してくれましたよね?」
「う、い、いやぁ、それはそうだが……」
「確かに公表する事で起こるデメリットは否定できないけど、それ以上に亮からはじめちゃんを取り上げて起こるデメリットの方が深刻でマズいと思います」
「……確かに」
瑞希の言葉に前田は重々しく頷いた。そして「しょうがないか……」と呟いた。
「まだ早い気もするがWEのコンセプトからすれば恋人の一人や二人居てもおかしくはないだろう」
「前田さん……!」
「だからといってハメは外さないでくれるね?」
「はい! 分かりました。ありがとうございます!」
肩をすくめる前田に瑞希は心から感謝して頭を下げた。
「但し、公表は騒がれそうになった場合のみだ。暫くは様子を見ること。君は亮が自分から言い出さないように十分に注意してくれ。……水面下の事は私に任せておきなさい。後手に回るのは避けたいから打てるだけの手は打っておくから。──いいね?」
「分かりました」
瑞希に頷き返して前田は部屋の隅に置かれた椅子に腰掛けた。最早、頭の中では様々なプランが練られているのだろう。邪魔が出来る筈もなく瑞希は五つ子を省みた。
手持ち無沙汰なのか五つ子は「はじめちゃんたち遅いね〜」とつまらなそうに顔を寄せ合っている。
「どうする、あそこで第二ラウンドに突入してたら……」
「なっ、たくみ!? お前、何を……!」
意味ありげなたくみの言葉にかずやは顔を真っ赤にした。
「え、それ、どういうこと? たっくん。せっかく仲直りしたのにどうしてまたケンカなんかするの?」
「そーだよ! 不吉な事言うなよ!」
「とりあえずそうなったとしてもはじめちゃんのKO勝ちだろうなぁ」
「…………ガキ」
さとし・なおと・あつきの言葉に頭を抱えてたくみは一人語ちた。
「「「何だよ! それ〜〜!」」」
たくみの言い様が気に入らなかったのか三人はたくみに食って掛かり、かずやが間に立って仲裁に入っている。それを瑞希は声なく笑って見ていた。
「あ〜〜! 和田さんまでオレたちの事笑ってる〜〜!」
「なんだよ、もぉ〜〜〜!」
「もぉ! みんなキライ! ぼく、はじめちゃん探してくる!」
「オレも行く!」
「オレも!」
「バカ! やめろよ。3人とも!」
「またバカって言った!」
「バカって言った方がバカ!」
「たっくんの意地悪!」
「お前らなぁ………………………」
17になってもこの幼稚な兄弟の言動にたくみは呆れを通り越して心配になったが今はその場合ではない。下手に探し回って傷つくのはこの3人なのだ。そう思ってたくみは3人を押し留め、かずやと瑞希もその気持ちを汲んで押さえに掛かる。
「「「もぉ〜〜〜〜! 放してよ!!!!」」」
3人が叫んだ時、ガチャリと扉が開け放たれた。
「何騒いでんのよ! あんたたち!」
聞きなれた怒声に一瞬にして全員の視線が集中する。
「な、何なのよ」
流石に戦いたはじめは戸口で戸惑っている。
「「「「「「はじめちゃん! どうしたの! そのほっぺた!」」」」」」
「は?」
何の事か分からず、はじめはすぐ側にある鏡を覗き込んだ。
「げっ………」
見ればはじめの右頬は輪郭が変わる程に腫れ上がっていたのだ。「ま、まさか江藤さんに……?」
「本当に第2ラウンドやってたの!?」
「江藤さん酷い! はじめちゃんに手を上げるなんてぼく絶対に許せない!」
あつきたちが真っ青な顔で走り出すのをはじめは何とか押さえ込んだ。
「ち、違うわよ! 江藤さんがあたしに手を上げる訳ないでしょ!? これはあたしが自分でやったのよ!」
「「「「「「自分でぇ?」」」」」」
訳が判らないながらも瑞希は手持ちのタオルを水に浸して絞り、そっとはじめの頬に当てた。
「大丈夫かい? はじめちゃん」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます。瑞希さん」
「どうしたの? これ」
「え、あ、いや……ちょっと気合を入れようと思ったらやりすぎちゃって……」
憧れの君に至近で顔を覗き込まれ、はじめは耳まで真っ赤になりながら答えた。
「気合って……。やり過ぎだよ…はじめちゃん…」
瑞希の呆れ声にはじめは返す言葉もなくて俯いた。
「はじめくん、亮はどうしたんだい?」
前田が訝しげに問うとはじめは少し気まずげに「もう少ししたら来ますよ」と答えた。
そしてこの言葉どおり1,2分後に亮はフラフラと帰ってきた。そして帰ってくるなり一目散に瑞希に抱きついたのだ。
「あ、亮っ? お前、抱きつく相手間違ってる!!」
「………………………………」
あせる瑞希の言葉も耳に入っていないのか亮はビッタリしがみ付いて離れない。もう訳が判らなくなって、全員の視線がはじめに集中した。見られたはじめは居心地悪そうにしながらこう言った。
「あたしたち、別れる事にしました」
──と。
しばし全員の頭が真っ白になった。叫び声すら上げる事も出来ずただただ目を見開いてはじめを見つめている。
そしてはじめはこう付け加えた。
「期間限定ですけどね」
──と。
「「「「「「「「「はぁっ!?」」」」」」」」」」
今度は全員の頭の中が?マークで埋め尽くされた。
「な、何がどうして、そうなるのさ」
その中で瑞希が喘ぐようにはじめに詳細を求める。はじめは少し顔を赤らめてから「お仕置きなんです」と呟いた。
「は?」
「だから、お仕置きなんです。今回の事、あたし本当に頭に来たから……」
亮の体がビクリと震えた。
「丁度良いと思うんです。バカな弟たちのせいで騒がれでもしたら瑞希さんにも江藤さんにも迷惑になるじゃないですか」
「オレたちの事は気にしなくて良いんだよ。今もそれを前田さんと話してたんだから」
「え?」
「……」
はじめは驚いて前田を見つめ、亮もゆっくりと顔を上げて前田を見た。
「君達を別れさせるなんで土台ムリな話なんだし、騒がれた場合の対処は今考えているから」
前田の言葉に亮は恐る恐るはじめを見た。だが目が合った途端にはじめは顔をぼっと赤らめ、慌てて目をそらした。その様子に亮は酷く傷ついて再び瑞希の肩に顔をうずめてしまった。
「だ、だめです。これはお仕置きでもあるんですから!」
そう言い切った後、小さく「凄く怖かったんだから……」と呟いた。どうやらその呟きは瑞希だけに聞こえたようだ。
「はじめちゃん……」
確かに亮のあの激情は初心なはじめには恐怖でしかなかったのだろう。あの時は気丈に振舞ってはいたが、いざ落ち着いて考えれば怖さが先行してしまったとしても無理は無い。
でもだからと言って放っておける筈もなく瑞希は亮を抱えたままはじめの恐怖と怒りを解きに掛かった。
「た、確かに亮がはじめちゃんにした事は酷い。あんなの一歩間違えれば犯罪だ。だけどあれって亮のはじめちゃんを失いたくないって気持ちが、なんて言うか、こう勢いあまって……」
「み、瑞希さん!」
「え、何?」
「みみみ見てたんですかっ!?」
「え? 見てたって────……あ!」
しまったと言わんばかりに瑞希は口を抑えた。
「嘘でしょ……?」
はじめは真っ赤になって周囲を見回すが一同が慌てて視線を外していく。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
見る見る間にはじめの顔が真っ赤になり、お約束の鼻血を拭いてしまった。
「「「「「「はじめちゃん!」」」」」」
はじめは慌てて頬を冷やしていたタオルを鼻に押し当てた。
「し……しんりられらい……っ」
「は…はじめちゃん?」
「しんりられらい! もういやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
はじめは声の限りにそう叫ぶと楽屋を飛び出していった……。
「「「「「「はじめちゃん!」」」」」」
────全ては後の祭りである。
「瑞希……火に油を注いでどうするんだい」
前田が心底あきれたように言い、
「「「「「和田さんのバカ────っ! オレたち家に帰ってから殺されちゃうよ────っ!!!」」」」」
五つ子が突っ伏して泣き叫び、
「はじめちゃん……」
亮が恨みがましく瑞希を見る。
「オ、オレだけが 悪いのかよ────っ!!!」
瑞希の叫びは綺麗に黙殺されたのだった。
こうして瑞希の大失態により当初はじめが思っていたよりもお仕置き期間が長くなった事は言うまでも無い────。
おわり
はーい、これにてMrs. Robinson終了です。
うわ〜〜〜、中途半端ですね〜〜(爆)。 はい、実はこの話から次作が始まります。
次作はまたしばし、お待ちくださいませ(ニコッ)。
ほんの少しでも楽しんで頂けたなら嬉しゅうございます。
後、ご意見ご感想なり頂けると小躍りして喜びます。
最後に、ここまで読んで下さってありがとうございました!