はじめちゃんが一番!
オレと彼女と彼氏の事情
#0
 冬のある日、WEやA.A.O.程では無いにしろ、それなりに忙しい藤井一志のオフの日の事……。
(なぁんか違うんだよぁ……)
 藤井一志は目の前のモノを見つめ、腕を組みながら、首を傾げた。
 そして一口食んで咀嚼する。
(やっぱ、違う)
 気に入らないが作ったものはしょうがない。彼は諦めて二口、三口とそれを食む。
(焼き加減か? それとも塩加減か?)
「なあ、裕。何が違うと思う?」
 一志は遊びに来ていた従弟・麻生裕に尋ねた。尋ねられた裕は少し困った顔をして「ごめんなさい」と謝った。
「ごめんなさい、一志君。だって、ボク、ボク、何が違うのかもわからないんだもの」
「なんでだよ! 全然違うだろ?」
「ボク、一緒だと思うよ? おんなじ位美味しいよ?」
 裕の言葉に一志は渋面を作る。
「どこがおんなじだよ」
 一人語ちた一志の言葉に怯えて裕は 「ご、ごめんなさい!」と謝った。
「あ、謝るなよ。おまえが悪いんじゃないだろっ」
「だ、だって、だって、ボクが違いが分からないから……」
「オレだって分かってねぇんだから! 違うって言いながら何が違うのか分かってねぇんだから!」
 一志の言葉に裕はおずおずと提案する。
「ねえ、一志君。やっぱり聞いた方が良いと思うよ? ボク」
「い・や・だ!」
 一言の元に却下する一志。
「でも、でも、使ってるものが違ってるかも知れないじゃない?」
 ありえる可能性に一志が押し黙った。でも裕の提案は受け入れ難いのだ。
(そんなもん聞けるかよ。オレが、アイツに……)
「あの、あのね、一志君。一志君が聞き難いんだったらボクが聞くよ?」
 まるで心を読んだかのような裕の言葉に一志は目を丸くした。
「へ?」
「だって…だって、一志君、最近お休みの日はいつも挑戦してるでしょ? ずっと気にしてるのってもしかしたら身体に悪いかもしれないし、ボクも一志君が言ってる『違い』がどんななのか気になるし……。ダメ?」
 相変わらず従兄にさえ内気な裕は上目遣いで一志を見た。
 一方見られた一志はジリジリと決断を迫られ、そして小さく「頼む」呟いた。
「うん! 分かった! ボク、明日にでも聞いてみるね!」
「悪いな、裕」
「ううん、いいの。一志君のお役立てるのって凄く嬉しいんだボク」
 本当に嬉しそうに頬を染めている従弟に一志は少しばかり嘆息した。
(コイツいつまでこのまんまなんだろう?)
 マジマジ見つめていていると裕は立ち上がり、コートに袖を通す。
「裕?」
「ボクそろそろ帰るね」
「え? メシ食っていかないのか?」
 裕は一志にクスクス笑って見せた。
「ボクもうお腹いっぱいだよ、一志君」
「あ……」
 思い返せば裕も味見に付き合わされていたのだ。もともと食の細い裕には辛い量だったかも知れない。
「ワリィ、オレ……」
「ううん、気にしないで。とっても美味しかったんだから」
「裕……」
 ニコッと微笑む裕の頭を一志はクシャリと撫でた。
「一人で大丈夫か?」
「やだな、ボクこれでも15歳になったんだから大丈夫だよ」
「そ、そういやそうだな。ワリィ」
 くすくす笑う裕に一志は幾分顔を赤らめて謝った。
「ううん、心配してくれてありがとうね。一志君、明日は朝練?」
「あ? ああ、いや、明日は朝からドラマ取りで行けねーんだ。オレが居なくてもしっかり練習するんだぞっ?」
「うん!」
「……それと、えと、あの件頼むな」
「うんっ」
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
「うん。一志君、バイバイ」
  笑顔と共に扉は閉められ、一志は鍵を掛ける。そしてそのまま台所に戻っていった。
(ったくよぉ、何が違うってんだよ)
 テーブルの上に置かれたもの──。
 炊飯器、塩、水、味噌。
(こんなもん誰が作っても同じ筈だろ? 一体何が違うんだよ)
  ここ最近一志を悩ませるもの──。

  それは、味噌焼きおにぎりだった……。
つづく