| エピローグ |
| 「用意は出来たか?」 和樹は来るなりそう言った。 「もちろんよ。ほら。」 あたしはその場でくるっと回り、和樹に見せる。 「うん、やっぱおれのセンスはいいな。」 「何言ってるの、モデルがいいからどんな服来てもいいの。 あんたこそ、あたしのセンスのおかげで少しはまともに見えるじゃない。」 今、和樹の着ている服はあたしが選んだ。 そしてあたしが着ている服は和樹が選んだ。 今回のパーティのため、無理に時間を作って買いに行った服。 そこで色々ともめながら選んだんだ。 まぁ、それはそれで楽しかったけど。 あたしは和樹をじっと見る。 ・・・。 思えば結構立ったのね、和樹に会ってから。 その間には色々と有った。 一緒に持ち込みをし、プロを目指した。 お互いのデビューを祝ったり、 締め切りで苦しいときとかは手伝ったりもした。 つまらないことで喧嘩をし、 ちょっとしたきっかけで仲直りもする。 たぶん和樹とはずっとこのまま過ごして行くんだろう。 「ん、それってもしかして・・・。」 和樹はあたしが持っている同人誌に気づく。 「あ、うん。和樹の同人誌。」 「へぇ、まだ持っていたんだ。それ、俺でももう持っていないぞ。」 「そうなんだ。あ、和樹って、大事にしている本って有る?」 あたしが一番大事にしているのは和樹のこの同人誌。 だったら和樹は? ふと疑問に思って聞いてみた。 「俺の大事にしている本?そうだな・・・。」 和樹は答える。 デビュー作の載った雑誌とか、まぁわたしと同じ様な答えを。 そして。 「でも一番大事って言ったら・・・あ、アレは本じゃないか。」 「え、何?何なの?」 「ン、まぁいいか、隠すもんじゃないし。ちょっと待ってろ、すぐ持ってくるから。」 和樹は部屋を出てしばらくすると一冊の古いスケッチブックを持ってくる。 「スケッチブック?」 そう言えば和樹は高校の頃、美術をしていたっけ。 その頃のデザインした奴かな? あたしは何故かがっかりした気分になる。 「このスケッチブックに描かれた絵が、言うなれば原点なのかもな。 それを元に漫画を書き始めたと言ってもおかしくないし。」 「へぇ、良かったわね。」 あたしは半分聞いていなかった。 返事も空返事。 「たぶん覚えていないと思うけどさぁ、あのころ俺はまだ漫画を描いていなかったし。」 あたしは和樹が漫画を描いていない頃のことをほとんど知らない。 「何を描いたの?」 「やっぱ、覚えていないか。そりゃそうだろうけど。じゃぁ、これ見てくれよ。」 ? 何が言いたの? あたしは和樹のスケッチブックを見る。 そこには・・・。 「俺が初めて行ったこみパ。そこで詠美に描いて貰ったんだよ。」 そう、そこにはあたしの描いたイラストがあった。 「和樹、これって?」 「それが俺の原点。それを描く詠美に憧れて俺はこの世界に入ったんだ。」 照れながら頭を掻く。 ・・・。 ぷっ。 くすくす、くすくす。 自然と笑えてきた。 だって、だって。 「やっぱり笑ったか。そりゃ、笑われるかなとは思ったけどさ。」 「あ、ごめん・・・くす。ちょっとね、そう言うつもりで笑ったんじゃないけど。」 和樹は不思議な顔をして首を傾げる。 和樹もあたしの描いた物が一番大事だなんて。 それを思うとあたしは嬉しくて笑いが止まらなかった。 「あ、もうこんな時間。そろそろ行かないと遅れるわ。」 「げ、ホントだ。編集長に怒鳴られるぞ、こりゃ。」 「和樹、今度はあたしが貰うわよ。」 「まだ根に持っていたのか、新人賞のこと。」 「当たり前よ。あのときは悔しくてずっと泣いちゃったんだから。」 「慰めただろ、あのときは。」 「ばっ、馬鹿言わないのっ!今度はあたしがあんたを慰めるんだから。」 「はいはい、お嬢様。さぁ、行くぞ。」 「あ、待ちなさいよ。」 あたしたちはパーティ会場へ向かう。 そこで角山漫画大賞が発表されるから。 もちろん、あたしと和樹の漫画もノミネートされているの。 前評判ではあたしと和樹の一騎打ちみたいって言っていたっけ、編集長は。 ・・・。 あたしがこうやってその大賞にノミネートされるのも和樹のおかげ。 あのころ無くしてしまった物を、今は大切に出来るから。 好きになると言う気持ち。 ずっと好きでいられる気持ち。 その好きな物に、何処までもがんばれる気持ち。 そしてあたしが好きな物。 漫画。 そして、和樹。 |
| あたしの大事な物 〜完〜 |
| あとがき |
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詠美のSSです。 |
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