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「何でお前が残っているんだよ?」
やっぱり俺は聞かずには居られなかった。
バンでみんなと一緒に行かなかった瑞希に。
瑞希はこっちに歩きながら、
「何でって、気が変わったからよ。」
と、俺が由宇に言ったことそのまんまを俺に返す。
「気が変わったって、サークル入場しないでお前も一般入場するつもりかよ。」
「あんたがそうするなら、あたしもそうするわよ。」
瑞希は俺を追い抜いて、マンションへと入る。
俺も続いて入る。
それにしても何考えて居るんだ、瑞希の奴。
折角、手に入ったサークルチケットも無駄にして。
「ちょっと待てよ。」
俺は少し走って瑞希の肩を掴む。
そして俺の方を向かせる。
「何でわざわざ降りたんだよ。そのまま行けたじゃないか。」
その言葉に、瑞希の表情が変わる。
俺が一番恐れている表情へ。
そう、怒りの表情だ。
「あ、あの、何かまずいこと言った?」
「言ったわよ。あのね、あんたが居るからこみパに行くのよ。
 あんたが行かないこみパに行く気なんて何にもないわよ。」
瑞希は俺の手を振りほどき、そっぽを向く。
照れたのか、顔を少し赤くして。
・・・。
俺のためにわざわざ降りたのか。
ぎゅっ。
俺は瑞希を後ろから抱きしめる。
「な、何よ。」
「何でもない。抱きたかったから抱いただけ。」
俺は腕の中にいる瑞希の存在を確かめる。
その髪の香り。
その肌のぬくもり。
その抱きしめて柔らかな触感。
俺がもっとも大事とする女性。
「ほ、ほら、シャワー入るんでしょ。早くしないと一般入場の方も遅れちゃうわよ。」
急に抱きしめられて。さらに照れたのかもう瑞希の顔は真っ赤だ。
「そうだな。じゃぁ、入ってくるよ。」
俺はもうちょっと抱きしめていたかったが、これ以上困らせるのも何だったので腕を放す。
今は瑞希のぬくもりを感じただけで良しとするか。
「続きは出てからな。」
「ばか。」
瑞希は俺の冗談に笑って返した。


「それにしても、みんなが居なくなると広く感じるな。」
俺は髪を乾かせながら床へと座る。
瑞希も俺の隣へ。
「そうね。みんなが居て、みんなで騒いでいたからよけいにそう思うわ。」
「祭りが終わった後か。これからもこんな事が続くんだろうな。」
「でしょうね。特に大志とか。」
「二人きりで居られる時ってほとんど無いかもな、これじゃ。」
「・・・。」
瑞希は急にうつむく。
「どうした?今後のこと考えたら目の前が真っ暗になったか?」
「・・・あたし、ホント言うとね。
和樹と同棲するなんて、まだ信じられないかったりするの。」
「いきなりなんだよ。あれだけこの部屋探すのに一生懸命になったじゃないか。」
「そうよね。今思うとアレも夢だったんじゃないかなとも思っちゃうの。
 それぐらい、和樹と同棲するなんて信じられないのよ。」
「嫌なのか?それとも不安か?」
「ううん、違うの。あたしは和樹が好き。そして一緒に暮らしたいとか色々思ったわ。
 そしてそれが現実になる。これって夢が叶ったって言うのかな。だから信じられないの。」
「じゃぁこれで信じれるか?」
「えっ?」
俺は瑞希を抱きしめる。
「さっき言ったろ。続きは出てからだって。」
「・・・ばか。」
「瑞希のいい方でなると、俺も瑞希と同棲するなんて信じられないよ。」
「和樹・・・。」
「でもこうやってお前を感じれる。俺と一緒に瑞希が居る。それで全て信じられる。」
「うん・・・。そうだね。」
「高校の頃、お前とこうなるなんて思わなかったよな。」
「あたしも。嫌っていたはずの相手だし。嫌わなくなってからも、友達としか見ていなかった。」
瑞希は俺の背中に腕を回す。
いっそう密着する俺達。
「何時から好きになったんだろうな。」
「何時だろ。ある日突然好きになったような気もするし、ずっと好きだったような気もするし」
「俺も似たような感じだな。
 多分会ったときから好きだったんだよ。
 でもそれはホンの小さな『好き』。
 それから毎日会って、毎日会話して、毎日笑って。
 そんな事しているうちに『好き』と言いうのが大きくなって、
 今の俺達になったんじゃないかな。」
「ドンドン大きくなった『好き』ね。じゃぁ。これからも大きくなるのね。」
「ああ。ドンドン、どんどんと。それこそ限度を知らないぐらいにな。
 初めてお前に会った俺に今言いたいよ。
 『それから始まる日々を大切に。』てな。」
初めて瑞希に会った日から。
最初に漫画を描いた日から。
プロの漫画家となった日から。
瑞希と同棲する日から。
一つの区切りから始まる日々。
それから始まる日々。
「これから始まる日々もよろしくな。」
「こっちこそ、これから始まる日々もお願いね。」
瑞希は目をそっと閉じる。
俺は惹かれるように口づけをする。
唇を触れ合うだけのキス。
でも、今はそれで十分だった。
それから始まる日々。
俺はその日々に思いを馳せる。
瑞希と共に歩んでいくその日々に。
それから始まる日々。
〜完〜

あとがき

それから始まる日々。
これは読んだら分かると思うけど
基本的に瑞希のエピローグから始まっています。
ただし、一部他のキャラもEDを迎えているような感じになっていますが。
千紗ちゃんなんてその例でしょう。
取りあえず今回のSSでは全キャラ何らかの形で登場させたかった。
その結果として、
こういう風になったわけです。
ご都合主義のような世界観ですが、
私的にこの世界観を気に入ったので、
今後郁美ちゃん帰省編とか書いていきたいですね。
私がSSを書くことを誰も望んでいなくても、
私は書いていきたいです(笑)


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