| 31 |
| 「何でお前が残っているんだよ?」 やっぱり俺は聞かずには居られなかった。 バンでみんなと一緒に行かなかった瑞希に。 瑞希はこっちに歩きながら、 「何でって、気が変わったからよ。」 と、俺が由宇に言ったことそのまんまを俺に返す。 「気が変わったって、サークル入場しないでお前も一般入場するつもりかよ。」 「あんたがそうするなら、あたしもそうするわよ。」 瑞希は俺を追い抜いて、マンションへと入る。 俺も続いて入る。 それにしても何考えて居るんだ、瑞希の奴。 折角、手に入ったサークルチケットも無駄にして。 「ちょっと待てよ。」 俺は少し走って瑞希の肩を掴む。 そして俺の方を向かせる。 「何でわざわざ降りたんだよ。そのまま行けたじゃないか。」 その言葉に、瑞希の表情が変わる。 俺が一番恐れている表情へ。 そう、怒りの表情だ。 「あ、あの、何かまずいこと言った?」 「言ったわよ。あのね、あんたが居るからこみパに行くのよ。 あんたが行かないこみパに行く気なんて何にもないわよ。」 瑞希は俺の手を振りほどき、そっぽを向く。 照れたのか、顔を少し赤くして。 ・・・。 俺のためにわざわざ降りたのか。 ぎゅっ。 俺は瑞希を後ろから抱きしめる。 「な、何よ。」 「何でもない。抱きたかったから抱いただけ。」 俺は腕の中にいる瑞希の存在を確かめる。 その髪の香り。 その肌のぬくもり。 その抱きしめて柔らかな触感。 俺がもっとも大事とする女性。 「ほ、ほら、シャワー入るんでしょ。早くしないと一般入場の方も遅れちゃうわよ。」 急に抱きしめられて。さらに照れたのかもう瑞希の顔は真っ赤だ。 「そうだな。じゃぁ、入ってくるよ。」 俺はもうちょっと抱きしめていたかったが、これ以上困らせるのも何だったので腕を放す。 今は瑞希のぬくもりを感じただけで良しとするか。 「続きは出てからな。」 「ばか。」 瑞希は俺の冗談に笑って返した。 「それにしても、みんなが居なくなると広く感じるな。」 俺は髪を乾かせながら床へと座る。 瑞希も俺の隣へ。 「そうね。みんなが居て、みんなで騒いでいたからよけいにそう思うわ。」 「祭りが終わった後か。これからもこんな事が続くんだろうな。」 「でしょうね。特に大志とか。」 「二人きりで居られる時ってほとんど無いかもな、これじゃ。」 「・・・。」 瑞希は急にうつむく。 「どうした?今後のこと考えたら目の前が真っ暗になったか?」 「・・・あたし、ホント言うとね。 和樹と同棲するなんて、まだ信じられないかったりするの。」 「いきなりなんだよ。あれだけこの部屋探すのに一生懸命になったじゃないか。」 「そうよね。今思うとアレも夢だったんじゃないかなとも思っちゃうの。 それぐらい、和樹と同棲するなんて信じられないのよ。」 「嫌なのか?それとも不安か?」 「ううん、違うの。あたしは和樹が好き。そして一緒に暮らしたいとか色々思ったわ。 そしてそれが現実になる。これって夢が叶ったって言うのかな。だから信じられないの。」 「じゃぁこれで信じれるか?」 「えっ?」 俺は瑞希を抱きしめる。 「さっき言ったろ。続きは出てからだって。」 「・・・ばか。」 「瑞希のいい方でなると、俺も瑞希と同棲するなんて信じられないよ。」 「和樹・・・。」 「でもこうやってお前を感じれる。俺と一緒に瑞希が居る。それで全て信じられる。」 「うん・・・。そうだね。」 「高校の頃、お前とこうなるなんて思わなかったよな。」 「あたしも。嫌っていたはずの相手だし。嫌わなくなってからも、友達としか見ていなかった。」 瑞希は俺の背中に腕を回す。 いっそう密着する俺達。 「何時から好きになったんだろうな。」 「何時だろ。ある日突然好きになったような気もするし、ずっと好きだったような気もするし」 「俺も似たような感じだな。 多分会ったときから好きだったんだよ。 でもそれはホンの小さな『好き』。 それから毎日会って、毎日会話して、毎日笑って。 そんな事しているうちに『好き』と言いうのが大きくなって、 今の俺達になったんじゃないかな。」 「ドンドン大きくなった『好き』ね。じゃぁ。これからも大きくなるのね。」 「ああ。ドンドン、どんどんと。それこそ限度を知らないぐらいにな。 初めてお前に会った俺に今言いたいよ。 『それから始まる日々を大切に。』てな。」 初めて瑞希に会った日から。 最初に漫画を描いた日から。 プロの漫画家となった日から。 瑞希と同棲する日から。 一つの区切りから始まる日々。 それから始まる日々。 「これから始まる日々もよろしくな。」 「こっちこそ、これから始まる日々もお願いね。」 瑞希は目をそっと閉じる。 俺は惹かれるように口づけをする。 唇を触れ合うだけのキス。 でも、今はそれで十分だった。 それから始まる日々。 俺はその日々に思いを馳せる。 瑞希と共に歩んでいくその日々に。 |
| それから始まる日々。 〜完〜 |
| あとがき |
|
それから始まる日々。 |
| ●戻る● |