ボールPentel使用記(後編)

  3.使用感
 3.1:書き味について
 くどい位に何度も述べていますが、ボールPentelの最大の特徴はその樹脂製ペン先にあります。
ところで、現在のボールペンと呼ばれる商品で採用されているペン先は素材の違いで幾つかに分けられます。
油性ボールペンにおいては、1つはペン先がおうど色をしたブロンズチップと呼ばれる物があります。
もう1つにはペン先が銀色をしたステンレスチップと呼ばれる物があります。
このステンレスチップは油性ボールペン以外にも耐水性ゲル状インキを採用した『中性ボールペン』と呼ばれる商品にも採用されています。
ブロンズチップと比べてステンレスチップの方が書き味が軽く、書き出しのカスレについての方はかなり改善されたのですが、油性ボールペンにおける欠点であるインキボテと筆跡の薄さは残念ながらあまり改善されていません。
水性ボールペンでは多くの商品でステンレスチップが採用されていますが、これにはボールの材質が金属性の物とセラミック製の物があります。
どちらも油性ボールペンと比べて、なめらかで軽い書き味が特徴ですが、金属製ボールの物と比べてセラミック製ボール使用の物の方が筆記時に凸凹面に物を書いているようなガタガタした感じというか、引っかかりのような物を感じます。
なお、ボールPentelについては樹脂製のペン先を採用しているものの、ボールは金属製のものを採用しています。
樹脂製ペン先が水性インキとの相性が良い事もありますが、ヒジョーに滑らかな書き味で、筆記時のカスレも無く筆圧に関係無く一定の濃さの線や文字を書く事ができます。
とは言え、水性ボールペンであれば金属製ペン先採用の物でも紙の上での滑り具合や筆記した線や文字の具合は上々です。
しかしながらボールPentelでは、金属製ペン先使用の物と比べて、あまり滑りすぎる事なく適度な摩擦感があってサインペンや毛筆に少し似た書き味に感じます。
アルファベットの筆記体や草書のようにサラッと流れるような文字でもアルファベットのブロック体や楷書の様にきっちりと止めるところは止めるようなどちらの文字にも適した書き味だと言えます。
 3.2:独特な?能力
 多くの油性ボールペンには意外な弱点があります。
それは、ペン先を上に向けての筆記が行えない、と言うものです。
これは油性ボールペンという筆記具のインキ供給のメカニズムに由来します。
本来油性ボールペンのインキは軸の中のインキを空気圧(大気圧)で押す形でペン先へ供給されています。(実際に油性ボールペンの軸をよく見ると、ちゃんと空気穴が空いています)
ですから、ペン先を上に向けて筆記を行っているとインキが空気圧(大気圧)で押されなくなり、その上重力にインキが引かれてしまうので軸の中のインキがペン先に供給されなくなり筆記不能となります。
油性ボールペンを長期間ペン先を上にして置いておくと書けなくなる理由の1つはこれです。
それにひきかえボールPentelにおいてはインキ自体が軸内部の綿状の部品に染み込ませてあり、そこから毛細管現象を利用してペン先へ供給出来るため、仮にペン先を上に向けても地球の重力や大気圧の影響はほとんど受けずに長時間の筆記が可能です。
上向き筆記に対する弱点は、油性ボールペンではわざわざ軸(カートリッジ)内に圧縮ガスを入れて、インキを強制的に押す事により解決させましたが、ボールPentelは機構的に生まれた当初からこの問題点が存在しなかった事になります。(実はボールPentelのペン先付近にも空気穴が空いていますが、これはキャップを外した際にペン内部の気圧が外の気圧と均一になる様に調整を行うためのものだそうです)
余談ですが、最近多くの製品が出てきた直液式と呼ばれる水性インキを綿状の部品に染み込ませずに液体のまま直にペン先へ供給する方式の水性ボールペンが販売されていますが、これについては多くの製品でインキ供給機構に万年筆のそれを利用しているのである程度の時間、ペン先を上に向けても筆記が可能です。
 3.3:ボールPentelの欠点
 ボールPentelの最大の特徴でもある樹脂製ペン先はその書き味に独特な物をもたらしていますが、この樹脂製ペン先を持つがゆえに思わぬ欠点を持ち合わせています。
それは、カーボン紙及びノンカーボン紙利用の筆記による複写がやり難いと言うものです。
最近ではコピー機の普及によりカーボン紙やノンカーボン紙の複写と言う作業そのものが少なくなってはいるものの、宅配便の伝票等以外と身近なところでそれを行う事があります。
これは、筆圧を上げても紙に対しての圧力が金属性ペン先と比較して若干柔らかめである事がその理由として考えられます。
筆圧を上げて頑張れば1〜2枚位の複写なら行えないわけではありませんが、金属性ペン先よりもボール径に対してペン先が太い事もあって、あまり向かないと言ったところです。
また、水性インキを使用している事から書いた文字等に水を加えるとにじむと言った事も欠点としてあげられます。
 
  4.おわりに
 樹脂製ペン先と言う特徴を持っているボールPentelの書き味はどちらかというとボールペンというよりもサインペンと一般に呼ばれている筆記具寄りの感じがします。
実際にはアクリル樹脂ペン先を持つサインペンよりと比べて紙の上での滑らかな書き味は上ですが、先に述べたようになめらかであっても適度に止まると言う独特の書き味を持っているわけですが、この書き味は樹脂製ペン先が生み出していると言えます。
ところで、実はこのサインペンの第1号はぺんてる株式会社より発売されたもので、こちらのほうはボールPentelよりも前に登場しています。
ちなみにサインペンとボールPentelを比べてみると綿状部品を利用したインキ保持機構に毛細管現象を利用したインキ供給機構と言った類似点が多く見られますから、ある意味兄弟のような存在なのかもしれません。
ところで、最近の情報機器の必需品としてFAX(ファクシミリ)がありますが、このFAX原稿作成用のペンとしてサインペンが使われる事が最近は多い模様です。
実際にFAX原稿用のペンと銘打ったサインペンも販売されています。
しかしながら、このボールPentelもその用途に適した筆記具の1つです。
そもそもFAXの原稿に一番求められるのは文字の濃さが一定である事ですから、筆圧に関係無く文字のカスレがほとんど無いボールPentelは最適な筆記具の1つと言えます。
線の太さ及びそのペン運びのなめらかさ、書き易さには独特のモノを持つボールPentelですが、残念ながら現在は公文書への使用は認められていない模様ですから、ちょっと残念ではあります。
とは言うものの、耐水性インキを使用していないボールペンについては、公文書への使用が認められていないわけですから仕方が無いのですが。
さて、このボールPentelについての私なりの評価ですが、その書き味の軽さ滑らかさからして、その書き癖や老若男女関係なく向いていると考えます。
特に私のように筆圧が一定では無い書き癖を持っている場合には筆圧に関係なく一定の濃さの文字が書けると言うのは有り難い限りです。
しかしながら、樹脂製ペン先を使用している関係で金属製のペン先に比べて細い線があまり得意ではないようです。
ですから、細かい小さな字を多く書く作業には少々不向きです。
まぁ、水性インキの紙への滲み具合を考えれ、ばペン先の材質や太さに関係なく水性ボールペンそのものがあんまり小さい欄への使用に向きませんが
 ところで、ボールPentelについて色々と調べていくうちに今年(2002年、平成14年)で発売開始からちょうど30年目を迎える事が分かりました。
そのようなメモリアルイヤー的な年に、偶然とはいえ話題として取り上げた事は何となく嬉しいものです。
とは言うものの、ボールPentelについてといえば、特にイベントのような物があるわけでもなく、いつも通り文具店の売場に並んでいるわけです。
そして、購入者に対してはその独特の書き味を普段から不断で提供しているわけです。
 
 なお、このボールPentel使用記を書くにあたって、ぺんてる株式会社国内営業本部営業部課長島崎様及びお客様相談室三浦様より幾つかの疑問点についての回答、最新カタログを頂く等ご協力いただきました。
最後になりましたが、厚く御礼申し上げます。
また、文中の故中田藤三郎氏に関する記述及び鉛筆型ボールペン、サインペンに関する記述は、日刊工業新聞発行『親から子に伝える「モノづくり」誕生物語その弐−身近なモノの履歴書−』の内容を参考としました。
ぺんてる株式会社のホームページURL=http://www.pentel.co.jp/
 
(了)
 
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