FM文字放送(その弐)

 
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4.普及について

 FM文字放送は鳴り物入りで開始されましたが、お世辞にも「普及した」とは言えません。
自分以外で利用している人の姿を見た事がありませんから。 そこで「利用者」の1人として感じた「普及しなかった理由」を述べます。
関係者や識者からすれば暴言と感じるかもしれませんが、「利用者の生の意見」の1つと受け取ってください。
 さて、その理由は大きく2つに分けられます。
 1つは「FM文字放送対応受信機」に関しての事です。
これは、原因を3つ述べられます。
 まず、開始当初の「受信機の多くがFM放送のみ」と言う事です。
対応受信機の第1号はカシオ計算機(以降カシオと記述)のMR−1です。
その他、シャープ株式会社、ソニー株式会社、松下電器産業株式会社(それぞれ以降、シャープ、ソニー、松下と記述)の3社が開始直後に対応受信機を発売しています。
この時の受信機には首をひねるところがありました。
それは、シャープを除いたメーカーの機種が全て「FM放送専用受信機」であった事です。
試しにMR−1を見ると、デザインはまるでヘッドホンステレオの様です。
「若者向け」を前提にしていたとしか思えません。
どうも「FM放送=若者、AM放送=年配者」と区分けしていたのでは、と疑います。
 放送開始時は私もぎりぎり「若者」と言える層にいましたが、平日は(時には土日、休日も)毎朝電車で通勤していました。
朝は100%座れませんから、目的の駅まで吊り皮や手すりにつかまって立っていました。
車内では新聞や本を開く事はほぼ不可能な事を経験していました。
そんな状況で年齢性別を問わず車内の友として活躍していたものがラジオやヘッドホンステレオでした。
ただ、ラジオはFM放送かAM放送かは人によってまちまちでしたが。
もしもラジオがFM文字放送対応受信機があれば、そこでニュースや天気予報を目にする事ができたのです。
ただ、のべつFM放送ばかり聞かれているとはと限りません。
夕方の電車ではスポーツの実況中継を聞いている人やテキスト片手に語学等の講座を聞いている人もいたでしょう。
こういった番組の聴取者に年齢制限はなく、多くはAM放送です。
MR−1を含めた開始当初に発売された機種の多くがFM放送のみと言うのは「機器の普及=サービスの利用」とすれば問題です。
私にとっても「受信がFM放送のみ」は購入対象外の理由になりました。
 次に、受信機能を搭載したラジカセやミニコンポの類が無かった事です。
あるメーカーのオーディオシステム用ユニットは存在していましたが、ラジカセやミニコンポに受信機能搭載機は見かけませんでした。
発売された受信機の中には、パソコンに繋いで使用するPCカード型の物もありました。
また、ソニーが電子ブック再生機、カシオがワープロ専用機に受信機能を搭載した機種を発売したりカーナビゲーションシステムにこの機能を搭載しているものがありました。
しかし、受信機能付きラジカセやミニコンポはありませんでした。
「今流れている楽曲が一目で分かる」との宣伝に対してこれは理解不能でした。
 最後は、受信機の価格です。
 FM及びAM放送の受信可能な携帯型ラジオは、大体2千円前後で購入できます。
まぁ、これはモノラル出力ですからFM放送のステレオ対応であればもう少し高くなりますが、それでも家電量販店等で4〜5千円程で購入可能です。
FM文字放送が開始された当時もFMステレオ放送及びAM放送(モノラル)が受信可能な携帯型ラジオは6〜7千円程の価格でした。
初めて登場したFM文字放送対応受信機の希望小売価格は1万9千8百円(税別)でした。
私が初めて購入した受信機は「AM放送も聴ける」シャープの製品ですが、それに近い購入価格(若干の値引有)でした。
のちにMR−1とMR−5(カシオ)と言う受信機それぞれ購入しました。
別々の店で手に入れましたが、購入価格は共に9千8百円(税別)でした。
非対応携帯ラジオの価格からして、希望小売価格は1万3千円程度が上限だったのではないのでしょうか。
 もう1つの大きな理由は、「移動体通信」の発達です。
携帯電話やPHSによる「インターネット利用環境の整備」が普及の妨げになった、と言う事です。
NTTドコモが「i−mode」で携帯電話単体でのインターネット利用を可能にした当初で既に番組非連動チャンネルで発信されている情報の多くが入手可能でした。
最近では「放送中の楽曲」に関する情報も入手可能です。
ターゲットにした世代が「情報を入手」するのに「携帯電話を利用」し、その「使用料を払うのが精一杯」な状況では、2万円近い機器の購入は困難です。

 
6.受信に関する思い出

 話を変えて、受信に関する思い出話みたいな事を述べます。
 電車と徒歩で2時間近い通勤で、新聞は毎朝買っても満員電車で読めるのは見出し程度と言った状態でした。
そこにFM文字放送対応受信機の導入です。
朝の通勤電車の中で新聞を読むのはほぼ不可能でしたが、手帳サイズのラジオを吊り皮につかまっている方と別の手に持って文字情報を読む事は出来ました。
一般ニュースだけでなくスポーツニュースや新製品等の雑情報も発信されていました。
ですから、2時間近くの通勤でも暇をつぶせたものでした。
 ちなみにTOKYO−FMの「見えるラジオ」の文字放送をよく楽しんでいました。
そこで通勤中に楽しんだチャンネルの内容で記憶に残っているのが、番組非連動チャンネルで発信されていた「それいけ象門商事」と言うタイトルのショートストーリーです。
当時の記録が手元に無いので記憶違いがあるかもしれませんが、1週間で1つのエピソードが毎日分載されていたものです。
ただ、この企画がこれだけで終わってしまったのが少々残念でしたが。
 通勤時の利用だけでなく、自動車を運転する際にも活躍しました。
当時はカーナビゲーションシステム(カーナビ)が普及し始めた時期でした。
ただし、自家用自動車を持っていない(維持できるほどの給料も無かった)事もあり、カーナビとは無縁な生活をしていました。
とは言え、仕事で車の運転をする事は有りました。
関東一円が業務範囲であった事から高速道路を利用する事もありました。
当時は大企業の営業用車両にもカーナビはさほどついていない状態でしたから、私が勤めていた零細企業の社用車にはそんな物がついているはずがありません。
そこで、高速道路等の渋滞や事故の情報を必要な時にいち早く知るために、見易い位置に受信機を置いたものです。
ラジオ局の交通情報はどこの局も30分毎でした。
道路状況を伝えるハイウェイラジオは高速道路を走りながらでしか受信出来ませんし、場所場所で受信の可不可がありまいした。
そこで10分毎に情報更新が行われ、いつでも見られるFM文字放送の交通情報は重宝しました。

 
7.終わりに

 使い方によっては重宝するFM文字放送ですが、これを書いている時点(2005年2月)で、明るい話は私の所には入ってきません。
 最近、携行可能な機器で情報のほぼリアルタイムな入手が可能になっています。
古くからある携帯型のラジオと言うのがまずその元祖でしょう。
地上波のテレビ受信機も小型のブラウン管や液晶画面を利用したものが結構古くからありました。
また、携帯電話やPHSと言った移動体通信機器もFMラジオを搭載した機器は結構以前からありました。
最近では地上波テレビ放送の受信が可能な機器も登場しているそうですが。
この機種の場合、普通のテレビを持っていないでこれのみでテレビを視聴している人に対してのNHKの受信料の扱いがどうなっているのか気になりますが。
携帯電話やPHSと言った移動体通信が普及した現在では、Web利用が可能となった事で受信できる情報量を飛躍的に拡大しました。
また、専用の衛星を使った放送サービスが開始され、受信用に文庫本サイズの過般型機器が登場しました。
無線による情報伝達手段が多く登場した現在、劣性を隠せないのがFM文字放送です。
果たして、今後どのような展開になるのか? 考えられる事の1つには、番組連動チャンネルに特化すると言う事があります。
もう1つには、ニュース情報に特化する、と言う事もあります。
実は、一部のタクシー等で利用されているサービスに「電光掲示板のようなものでニュースを流す」と言うものがあります。
このサービスは「FM文字放送のニュースチャンネルを流している」と言う事でした。
業務用途になってしまいますが、ある用途に特化するのもサービスを続ける手段でしょう。
 ここ2〜3年、台風や地震等の自然災害が続いています。
災害発生時に現場や非難場所の状況がテレビで中継される事があります。
それを見ていて、「非難所にFM文字放送の表示板情があれば?」と思う事があります。
全角30文字×2行と言う表示は貧弱に見えますが、被害情報や余震の情報を伝えるには、十分です。
情報をFM文字放送で発信し、表示機器を非難所等に設置すれば、情報が無いがゆえに起こる現象を防げるでしょう。
 近年、地上波テレビのデジタル放送が始まりました。
実は、地上波ラジオもデジタル放送の試験放送がなされています。
現在、テレビの7チャンネルの周波数を利用して試験放送を行っています。
ただ、7チャンネルをテレビ放送で使っている地域に配慮して試験放送は東京及び大阪のみでの実施と言う事です。
この放送を受信可能な機器は市場には出回ってい無い事もあって、どのような放送なのか聞いた事は有りませんが。
少し前の報道で、FM文字放送との連動のような試験も行われると言う様な話がありました。
果たしてどのような展開がなされるのか、期待と不安が入り混じっている今後です。

 

(−了−)

 


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