短波ラジオ使用記(後編)


 

3.操作の実践

 3−1:短波放送の特徴

 これを読まれている人でラジオをさわった事が無いという人はいないと思うので少々気恥ずかしいところですが、短波放送受信に最低限必要と思われる事柄を少し話してみます。
 AM放送で使用されている周波数帯の電波は、地上の低いところを伝搬(伝わって)します。
AM放送より少し上の周波数帯を使用している短波放送の電波は、電離層反射(上空の電離層に電波がはね返る)を利用して伝搬します。(電離層反射を利用すると、小さな出力で遠くまで放送を伝える事が可能です)
ちなみに、AM放送で利用されている周波数帯の電波は多くが電離層に吸収されますし、FM放送(TVも含む)で使用されているそれは、多くが電離層を突き抜けてしまいます。
ですから、この電離層反射を利用した伝搬は短波放送独特のものと言えます。
しかしながら電離層反射に伝搬を依存しているために、上空の電離層の状態で放送がよく聞こえたり、聞こえなかったりします。
また、放送が聞こえている時でもボリュームを触らないのに声が大きくなったり小さくなったりする事(フェージング)も発生します。
ですから、短波放送受信には若干の苦労(根気)が伴う事を覚えておいてください。

 3−2:簡単な受信テクニック

 テクニックと言うほど大げさなものではありませんが、短波放送を受信するためにまず2つの点で注意が必要です。
1つ目は、建物の中より外(高台)の方が受信がしやすいと言う事です。
しかしラジオ片手に外をウロウロするのも不信者に疑われそうなご時勢ですから、ラジオのアンテナを目一杯に伸ばした状態で目的の放送局を聞きながら室内で受信状態の1番よい場所(大体窓際)を探す必要があります。
2つ目は、ノイズ源(冷蔵庫、蛍光灯、TV、MD、コンピュータ等)と言ったものからラジオを遠ざける必要がある事です。
現実には、ノイズ源とされる全ての電化製品を使わずにいるのも無理がありますから、受信中に照明を蛍光灯から白熱電球に変えるだけでもずいぶんと違います。
なお、受信感度を上げる手段として外部アンテナを使用する、と言う方法があります。
『受信用アンテナ』と称する市販品が1万円程度でありますからそれを購入するのも1つの方法ですが、DIYショップ等で売っている細い電線を数m購入して、窓際から外に垂らしたりカーテンレールにぶら下げて、一方の端の被覆をはがしてラジオのアンテナ(この時、アンテナは縮める)に巻き付ける、なんて事だけでずいぶんと変わります。
この時に電線がアンテナの役割を果たします。
この電線アンテナ(俗にロングワイヤーアンテナなんて呼ばれます)は使わない時に小さく丸めておけますから、鞄に入れて旅行先へ持って行くのにもそれほど邪魔になりません。

 3−3:ラジオジャパンの受信

 さて、実際に受信をするにあたって、『ラジオ日本』を取り上げることにします。
ラジオ日本と聞いて首都圏在住なら「そんなのAMラジオで受信できるよ」と言いそうですが、さにあらず、です。
実は、首都圏をサービスエリアにしている民間ラジオ放送局にラジオ日本(1422もしくは1485KHz)と言うものがあるのですが、今回扱うラジオ日本とはこの局の事ではなくNHKが海外に向けて放送している短波放送の『NHKワールドラジオ日本』の事です。
民間ラジオ局の方は以前ラジオ関東と言っていたのですが、現在はラジオ日本と名称を変更しています。
NHKワールドラジオ日本の方は、最近『ラジオジャパン』と称する事もありますから間違えないようにラジオジャパンと以後は言う事にします。
このラジオジャパン、日本語以外にも英語等のいくつかの言語で放送されています。
他国の言語による番組は私が聞いていてもほとんど分かりませんが、日本語放送では時間帯によってNHKラジオ第1と同時放送をしている事があります。
ですから、外国旅行に出かけた相撲ファンがその地で大相撲放送を聞く事も可能です。
まぁ、大相撲放送はともかくとしても日本の情報を国外にいても知ることが出来る上、渡航情報等を流す事もありますから娯楽や情報源として重宝します。
そんなラジオジャパンを聞くにあたってICF−SW11(写真)は十分な能力を持っています。
 さて、実際の受信で注意する点ですが、代表的なものが3つほどあります。
1つ目に、自分のいる場所に近い送信所(中継所)を探す事です。
短波放送の伝搬は電離層の反射を利用しているとはいえ、1つの送信所だけでは地域によってはどうしても受信困難な場合があります。
ですから、自分のいる場所に1番近くでかつ送信出力の大きな送信所からの放送を受信するのが明瞭に放送を聞く条件となります。
ただし、電離層の状態等で遠くの送信所の方が簡単に受信出来る事もありますので、その時は臨機応変に対応してください。
2つ目に、受信する周波数は1つに決めない事です。
ラジオジャパン(に限らず多くの短波放送)では、同じ放送時間帯でも複数の周波数で放送をしてる事が多くあります。
これは、1つの周波数ではその時に電離層の状態やその他の条件(他国の妨害電波なんて物騒なのも)で放送を聞く事が出来ない場合に備えてと言う理由があります。
ですから、1つの周波数で受信できなかったからとあきらめずに他の周波数で受信してみる事が必要です。
前述したように違う送信所の周波数に合わせてみる事も有効です。
そして3つ目ですが、これが一番大事です。
それは、必ず放送している時間帯に受信する、と言う事です。
これを間違えると、どんなに優秀なラジオを使用しても放送を聞く事は出来ません。
あたりまえといえばあたりまえですが、放送スケジュールの時間(日本標準時(JST)か世界標準時(GMT、UTC))と行き先の現地時間の時差を確認して、それに合わせて受信する事が重要です。
このラジオジャパンは国内でも比較的簡単に受信可能な放送なので、ICF−SW11を使って受信する手順を簡単に説明してみます。
1番目には、本体の電源です。
今回は、乾電池を使う事にしますから新しいアルカリ乾電池を入れる事にします。
2番目にバンドセレクトスイッチをスライドさせて、あらかじめ調べた周波数の受信可能な放送バンドを選択します。
3番目にスイッチを入れてボリュームを最大にします。
そうすると、ザーっと言う音が聞こえてきます。
目盛がどこかの放送局の周波数に合っていたら、その放送が聞こえて来るかもしれません。
4番目に、ダイヤルをゆっくり回して、ラジオジャパンを探します。
日本語放送ですからそれほど難しくはないのですが、探し出せばチューニングインジケーターが一番明るくなる様に調整します。
あとは、ボリュームを聞き易いところに調整して放送を聞く事にします。
まぁ、大体こんな感じです。
 ICF−SW11は、周波数カウンターを持っていないので正確な周波数の直読は出来ません。
その上、チューニングメーターにかかれている周波数表示も目安程度ですから表示と受信している周波数とが一致していない事もあります。
ですからデジタル表示に慣れている現在では違和感があるかもしれませんが、ラジオ放送受信に必要最低限の機能とはこの程度のものです。
 

4.終わりに

 4−1:情報手段としてだけでなく

 人工衛星を使ったTV放送やインターネットの利用が普及している今、果たして海外から発信される短波放送を聞くの必要性があるのかどうかと言う疑問は今の日本に居る限りは、感じる事だと思います。
しかしながら、国外へ目を向けてみると人工衛星を使ったTV放送やインターネットはおろか、通常の電話回線さえ簡単に使えない場所がまだまだあります。
そんな状況で手軽な情報収集手段の1つが、ラジオ放送です。
手のひらに簡単に乗る程度の大きさのラジオが、情報収集の道具としてはまだまだ有効なものです。
 最近、英語等の外国語取得に関する要求が多いようで、NHKの語学講座を始め色々な教材や語学教室が数多くあります。
特に英語については、生の英語(日常使用状態の英語)に触れる事が1番と言う事で、教材や教室以外に英語圏への語学留学(語学取得を主目的とした留学で日本独特らしい)と言う行為が存在します。
しかしながら、英語圏人の講師を採用した教室や英語圏へ行くしか生の英語に接する事ができないのか?、必ずしもそうではありません。
こんな時に短波ラジオの出番です。
短波放送では、国外同朋向けの母国語放送以外に各国に自国の伝えるための放送があるといいましたが、それ以外に英語を利用した世界向け放送(自国および他国向けという意味)と言える放送が行われています。
特に有名なのが英国のBBC(英国放送協会)のワールドサービスです。
また米国が行っているVOA(Voice Of America、アメリカの声)もそう言う放送としてよく知られています。
この2つの放送局を聞くことで、ネイティブスピーカーと呼ばれる人達の英語に触れることが出来るます。
また、VOAでは放送の遅いスピード(通常の3/4程)で話す放送(Special English)がありますから、まずはこれで耳を慣らせてみるのも良いかもしれません。
 最近、短波放送というと『ラジオたんぱ』で競馬中継と株式関係を聞くためのもの、と言ったイメージがある様です。
しかしながら単に情報収集の手段ではなく、語学学習の教材代わりや単に放送を楽しむ等、気軽に利用出来るものです。
 今回、ICF−SW11と言う機種を例に話を進めてきましたが、上位の機種には周波数カウンタやテンキーでの周波数の直接入力、ON/OFFタイマー等の便利な機能を持ったものが存在します。
ですから、(財布に余裕があれば)そのような機種を購入すればさらに快適な受信が可能です。

 4−2:最後に

 今回、本文中で紹介した放送局の周波数は以下のホームページで確認可能です。
ラジオジャパン:http://www.nhk.or.jp/nhkworld/index-j.html
BBC:http://www.bbc.co.ul/worldservice/
VOA:http://www.voa.gov/
 なお、ICF−SW11のスペックは、ソニー発行の『ICレコーダー/テープレコーダー/ラジオ/ラジオカセット総合カタログ(2003.3)』を参考に致しました。
このカタログは電器店等の店頭以外に電子化されたものがソニーのホームページから入手可能です。
ソニー株式会社:http://www.sony.co.jp/
 
(注:本文中のICF−SW11の写真は私が撮影したものです。いかなる理由であれ無断使用はお断りします。)
 
(了)
 
前編へ戻る)


なんでも使用記トップへ戻る