折角の日曜だと言うのに、僕の愛して止まない丈さんv
が、全国模試だか何だかで会えないので、僕は昼間っからゴロゴロとベッドの上で雑誌を広げていた。
横ではパタモンが昼寝の真っ最中で、小さな寝息が耳につく。
あ〜あ… つまんないなぁ……
暇だから大輔君でも誘ってみようかと思っていたのに、家に電話すると遊びにいっていると返された。
ヒカリちゃんは、京さんと空さんと3人で、渋谷に遊びにいっているらしい。
こんなにする事の無い日曜日は久し振りだ…
宿題も終わらせちゃったしなぁ… う〜ん…
コンコン
ふと、ドアをノックする音が聞こえたかと思うと、お母さんがひょっこりと顔を覗かせた。
「タケル、暇?」
「?…うん。」
それならと言い乍ら、お母さんは紙袋を抱えて部屋に入ってきた。
「悪いけど、コレ、ヤマトに届けてくれないかしら」
紙袋の中には、洗剤だのサラダ油だのがゴロゴロ入っていた。中学生の息子への届け物がこんなので良いんだろうかとも思うけど、実際お兄ちゃんが、こういった物を貰うのが何よりも嬉しいと前に言っていたので、ま、良いんだろう。
「良いよ、行ってくるね」
実際暇だった僕は、掛けていた上着と帽子を取り、紙袋を受け取ると、この退屈な部屋を飛び出した。
ピンポーン
数分後、お兄ちゃんの家の扉の前に立った僕は、玄関のチャイムを鳴らした。
でも、鳴らして少し経っても、お兄ちゃんは出てこなかった。
ちぇっ、どこかに行ってるのかなぁ。でもバンドの練習無いって言ってたハズ……
僕はポケットから、もしもの為に預かっていた合鍵を取り出して、ガチャリと鍵を開けた。
ドアを開けると、中からテレビの音が聞こえてきた。
お兄ちゃん、うたた寝でもしてるのかなぁ…
靴を脱いで、リビングに向かおうとしたその時、奥から聞き覚えのある声が掛かった。
「おかえりなさ〜い」
「へ?」
何故か大輔君が、テレビを見乍ら寛いでいた。
「大輔君……何やってんの?」
「ゲッ!タケルっ……!?」
僕の顔を見て驚いた大輔君が、わたわたと立ち上がった(失礼な…)
と、その時、ガチャリと玄関の扉が開く音がして、ぺたぺたと裸足の足音が近付いてきた。
「ただいまー おい、大輔ぇ。お前、玄関の鍵掛けとけっつっただろう?」
お兄ちゃんが、右手にコンビニの袋を持って、リビングへと足を踏み入れた。
「あー…いや、ちゃんと鍵掛けといたんスけど…タケルが……」
「おかえりなさい、お兄ちゃん」
「…タ……タケル!? どうしたんだ?丈と一緒じゃなかったのか?」
お兄ちゃんが何処か焦り乍ら、そんなコトを聞いてきたので、僕はちょっとだけムッとして、小さく「模試だって」と言い放った。
「コレ、お母さんがお兄ちゃんにって」
「ん、あぁ……サンキュー」
紙袋を半ば無理矢理押し付けて、僕は大輔君を目で捕らえるとニッコリ笑った。
「で、大輔君はどうしてココにいるワケ?チビモンは?」
急に話を降られた大輔君が、焦って、しどろもどろに「え〜と」とか「その…」とか、無意味な言葉を並べた。何故か顔は真っ赤になってしまっている。
「何?恥ずかしいような事なの?」
「いや…違うっ、その…なんてゆーかホラ」
ホラってなんだ。僕が聞いてるんじゃないか。僕に振っても知らないよ。
大輔君じゃ話になんないや。そう思って、お兄ちゃんの方へと視線を移すと……
何故かお兄ちゃんも真っ赤になっていた。
え〜っと、
ひょっとして……
「ラヴ?」
二人を交互に指で指して、ポツリとそう言うと、
「「ちっち…ちっが〜〜ぁうぅ!!」」
凄い剣幕で二人は僕に詰め寄ってきた。
じゃあ一体なんなのさ?
「お前っ!!自分がホモだからってそんなコト言うな!!」
大輔君が真っ赤になって訴えた。ていうか失礼だよ、ソレ。
「タケル……どうしてそういった発想しかできないんだ?…オレは悲しいよ……」
お兄ちゃんは少し涙目になってそう言った。
「じゃあさ、どうして日曜日にこんな意外な取り合わせで会っているのか、僕にわかるように説明してよ。」
「「それはっ……」」
まっ、仲良く声なんか重ねちゃって。
「その…オレがな、ケーキを焼くから…」
「試食係に…」
………なーんだ、つまんない。やけに恥ずかしがるから、もっと面白い事だと思ったのに。
ん?試食係って…
「太一さんは?」
思わず声に出してしまった。
お兄ちゃんは途端に嫌そうな顔をして「お前も聞くか!?」と小さく言った。大輔君も同じ事を聞いたのか。
で、お兄ちゃんがそう言うときの太一さんは、十中八九どころか十中十で光子郎さんとデートだ。
「あはは、それで僕に丈さんの事聞いたんだね」
僕を誘う電話をして、僕からも「丈さんとデート」なんて言って断られたら嫌だから、大輔君を誘ったのかな?
お兄ちゃんは苦笑いしてから「折角だからタケルも喰って行けよ」と僕を誘ってくれた。
良かった、これで退屈な日曜から救出される。そう思って「うん!」と答えてニコニコしていると、大輔君が恨めしそうな顔をしてこっちを見ていた。分け前が減るから気にくわないのかな?
台所の方から、良い匂いが漂ってきて、大輔君のお腹が鳴った。つられて僕のお腹も鳴った。
どうやらスポンジがもうすぐ焼きあがるらしい。
横ではお兄ちゃんが生クリームを作っている。大輔君はそれを楽しそうに覗き込んでいる。
それにしても、いつの間にこの二人、こんなに仲良くなったんだろう。
やっぱりこの間の映画からかな?
「ね、大輔君」
「んぁ?何だよ」
「お兄ちゃんのコト、いつから好きなの?」
ピタリと動きが止まった。
「好きなんでしょ?お兄ちゃんの事」
どういった反応が返ってくるか楽しみで、僕は少し意地悪っぽく言い放った。
さっきみたいに真っ赤になってつっかかってくるかな?
それとも……
お兄ちゃんは、苦虫を噛潰した様な顔で僕を見ている。
そして大輔君は………真っ赤になって俯いて、何だか少し涙目になってしまっている。
…て、……え!?嘘、ひょっとしてマジラヴ??
「タケル、さっきも言っただろう?どうしてそういった考えしか出来ないんだ? オレ達はホモじゃない!!」
そのお兄ちゃんの言葉に、ピクリと大輔君が反応した。
「お……おれ、帰ります」
「あ、待て、大輔! どうしたんだ!?」
ニブいお兄ちゃんが、玄関へと走った大輔君を追いかけた。
どうしたも何も、お兄ちゃんが止めを刺したんじゃないか。ま、原因は僕だけどさ、僕は軽く流すつもりだったのに…。
バタンとドアが閉まって、大輔君もお兄ちゃんも出ていってしまった。
僕は流石に少し反省して、大輔君に謝ろうと後を追った。
走って大輔君とお兄ちゃんを探すけど、どこに行ったのか、全然見つからない。と、その時、
「おれっ、ヤマトさんの事、好きなんっス」
小さな声が、公園の公衆トイレから聞こえた。
……なんて場所に逃げ込むんだよ大輔君… そして、なんて場所で告白するんだ…
僕はこっそりトイレの裏にまわって聞き耳を立てた。
「最初は間違いだと思ったんス。タケルが嬉しそうに丈さんの事話したり、太一さんが光子郎さんとデートしたりするから、おれもそれに感化されたのかなって思ったり…したんスけど……」
「大輔……」
「ヤマトさんが笑う度に、おれ、心臓バクバクいっちゃって…
ヤマトさんがおれを誘ってくれると、すげー嬉しくて……」
……そうだったのか、大輔君も僕に一言言ってくれれば良いのに。
水臭いなぁ。
「大輔、それは……」
「でもっ、迷惑ですよね?
ヤマトさん、ホモじゃないし、ホモ嫌いだし……
おれも…自分はそんな風にはならないって思ってたから、ヤマトさんが嫌いって言うの、分かるんです……だからっ」
「もう良いよ、大輔……」
「だから、おれ……」
「良いって言ってるだろう?」
「おれ、ヤマトさんに、好きになって欲しいなんて図々しい事、思ってないから……
でも嫌われたくないから…
ずっと誰にも言わずにいようって思ったんス……」
……………僕は馬鹿だ。その気持ちは、痛い程分かるのに…
大輔君をからかったりして。…本当に……僕は、大馬鹿だ。
「泣くな大輔!!」
「泣いてないっス!!」
強がる大輔君の声が痛い。
「…ごめんね、大輔君……」
明日ちゃんと謝ろう。
そう思って、僕はその場を後にした。