翌月曜は朝から雨だった。
オレは、重い足取りで学校へと向かった。
ヤマトさんに告白してしまった。
好きだと言ってしまった。
昨日の日曜の事は思い出したくない。
一生、誰にも言わずにいようと思っていたのに、口からぽろりと溢れてしまった。
しかも公衆便所なんて最低な場所で。その上、泣いてしまった。
もう、ヤマトさんに合わせる顔がない。
ヤマトさんだって、きっとオレの事、気持ち悪いとか思ってるに違いない。
今まで太一さん達が男同士で付合ってるのを見て、快く思ってないみたいだったけど、結局は他人の恋愛。ホモだろうが友情に変わりなし!って、そんなカンジだったけど……オレの場合は、そのホモの対象にしてたんだから…嫌われても仕方がないよなぁ。
畜生!!タイムマシンがあれば、昨日に戻ってやり直すのに!!
そんな考えが頭の中でぐるぐるぐるぐるしてしまう。
でも、いくらそんな事を考えていても仕方がない。過ぎた時間は戻らないんだから……
「おはよう、大輔君」
背後から声が掛かった。今一番見たくないヤツの声だ。
「おう」
振り返りもせずに、オレは小さく返した。
「昨日は、ごめんね」
五月蝿い。
「本当に、ごめん……」
五月蝿いよ。
「僕、ちょっとからかうつもりで、あんな事言ってしまって…」
五月蝿いってば!
「大輔君を傷付けちゃって……」
「五月蝿ぇっ!!」
振り返って怒鳴り付けた。
学校へと向かう奴等の視線が、オレとタケルに集中した。ざわめく外野の声が、また一層オレのイライラした気分を逆撫でるようで、ムカムカした気持ちが更に広がった。
タケルは、泣きそうな顔でオレを見ている。
畜生、これじゃあまるでオレが悪者みたいじゃねぇか!!
オレは、胸が苦しくて、その場を走って逃げた。
教室に入ると、いつものように先に来ていた奴等が固まって話していた。
「おっはー大輔ぇ」
「おーっす」
ケンタとヒロシがオレに気付いて話しかけてきた。
「な、大輔ぇ。昨日何でウチ来なかったんだよ。折角新しいソフト入ったのに」
ケンタがつまらなそうに言った。
「最近付合い悪いぞ」
ヒロシが苦笑混じりに言った。
それにオレは笑い乍ら答える。
「ばーか、オレはほら、人気者だから、あちこち引張り凧なのよ。人気者はツライね〜」
戯けてみせたオレに、ケンタもヒロシも笑い乍ら小突いてきた。
本当に、そっちに行けば良かったと、今更乍ら思った。
そうしたら、タケルのヤツにあんな事言われる事もなかったし、ヤマトさんに醜態を見せる事もなかっただろうに。
でも、ヤマトさんに会いたかったから。
ヤマトさんと色々話したかったから。
そうだ、タケルはただのきっかけに過ぎない。
結局言ってしまった自分が一番悪いんだ。
タケルは謝ってきたのに、オレは自分を正当化して、それをつっぱねてしまったんだ。
オレは、最低だ。
「お、高石おはよ!」
タケルが教室に入ってきて、それに気付いたヒロシが声を掛けた。
「おはよう、広君、犬太君、大輔君」
少し低い声で、それでも微笑み乍らタケルが返した。オレは、顔を合わせ辛くて思わず俯いた。でも、
「なんだ?なんか元気ねぇじゃん」
ケンタのそんな言葉が、オレの顔を上げさせた。
タケルはオレと目が合うと、凄く悲しそうな顔をして、また「ごめん」と言って頭を下げた。
「何だお前らまた喧嘩してんの?」
ヒロシとケンタは顔を見合わせて、オレ達から一歩引いた。
そして、
それでもオレはまた顔を背けてしまった。
自己嫌悪で吐き気がする。
1限のチャイムが鳴ったのを良い事に、オレはタケルから逃げた。