「何だよ、朝っぱらからシケたツラしてんなぁ」
月曜日、雨の通学路。
突然声をかけられて、顔を上げると、そこには太一が立っていた。
「おっす、ヤマト」
「何だ、太一か……」
「何だはねぇだろ?オレは心配してやってんのに」
「誰も頼んじゃいねーよ」
不思議そうに太一が首を傾げた。オレはそんな太一を目の端に追いやり、深く溜息をつくと、またしても昨日の事を思い出していた。
大輔から告白されてしまった。
全くもって予期しなかった事だけに、オレは何も答える事が出来ず、ただ惚けてしまった。
好きだと言った大輔の頬は、涙で濡れていた。
その顔を思い出すと、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。
……これは、何なんだ?
「なぁ、太一…」
「何だ?」
「お前、なんで光子郎と付合ってんだ?」
「……!!?」
前からずっと聞こうと思っていたんだ。何で太一と光子郎は付合う事になったんだろう。
「…随分イキナリじゃねえか」
何かあったのかと聞いてきた太一に「別に…」とだけ返した。太一は怪訝な目付きでオレを見たが、それには答えずにそっぽを向いた。
「オレには、光子郎が必要だったから…かな?」
暫く考えて、太一はそう答えた。
「必要?」
…何だよ、ソレ。光子郎以外は必要じゃないっていうのか?そう言うと、太一は苦笑いし乍ら頭を掻いた。
「ん〜と、言葉にするのって難しいんだよな…
オレ、光子郎の事はけっこう前から好きだったんだ。いや、その、…前はそういう『好き』じゃなかったのかもしれないけど、兎に角『好き』だったんだ」
少し頬を赤らめて、笑い乍らそう言った。
「自覚したのは、やっぱりデジタルワールドで冒険してから…だな。オレ、アイツの事をそういう意味で好きだって事、あの時初めて気付いたんだ」
「…じゃあ、お前の方から告白とかしたのか?」
そう聞くと、今度は否と答えた。
「オレが告白しようとしたのと、光子郎がオレに告白しようとしたのが、たまたま同じ日だったんだよ」
運命だろ?なんて宣って、たははと笑った。
「それまではさ、オレ、男なのに光子郎の事をそういう意味で好きになるなんて思ってもみなかったし、そう気付いてからは、自分で自分が変になったんじゃないかって、ちょっと悩んだりしたんだ…
告白なんて、しない方が良いに決まってるとも思った。だって、男からの告白なんて迷惑だろうし、ひょっとしたら気持ち悪いって言われるかもしれない。下手したら嫌われて、もう話せなくなるかもしれない。
でも…でもな、オレはやっぱりアイツの事好きだし、オレの人生にはアイツが必要だから…アイツといつまでも一緒にいたいと思ったからさ、断られても良いから気持ちを伝えとこうと思ったんだ」
その声のトーンに、太一の真剣さがひしひしと伝わってくる。
「言わないままで後悔するのだけは嫌だったから」
そう言った太一の真剣な眼差しに、大輔の姿が重なる。
太一でもそれだけ悩んでいたのだ。
大輔も、それだけ…いや、それ以上悩んだいたんだろう。
だって、大輔は何て言ってた?
『ヤマトさん、ホモじゃないし、ホモ嫌いだし……』
大輔はオレの、露骨に嫌がるその様を見てきたのに、それでも告白をしたのだ。
どれだけ勇気がいったのだろうか。
どれだけ悩んできたのだろうか。
どれだけ辛かったのだろうか。
嫌われたくないと言って泣いたその姿は、今も目に焼き付いて離れない。
そうだ泣かせてしまったのだ。
いつも笑顔ばかりを見せていた大輔を、オレは泣かせてしまったのだ。
オレは、なんて残酷なんだろう。
…なんて最低なんだろう。
今さらそんな後悔の念に駆られても遅すぎる。
だって、オレは大輔の事を嫌いじゃないのに。
好きだと言われても、嫌じゃなかったのに。
いや、アイツと一緒にいるだけでオレは本当に楽しかったんだから。
そうだよ、嫌いになるワケがないのに。
だって、大輔がいなくなると困る。
大輔はオレにとって必要なんだから…
必要…
「そうだ、必要なんだ」
どうして今まで気がつかなかったんだろう。
オレは大輔の事を、こんなに必要としているのに。
じゃあ好きなのかと問われると、その辺はまだ答えられない。
…だって、『好き』という気持ちが、まだよくわかっていないのだから。