大方予想していたとおり、待ち合わせ場所にはおにいちゃんと丈さんが二人でやってきた
ぼくが丈さんをデートに誘う→丈さんはおにいちゃんにその事を報告する→おにいちゃんは気になって必ずついてくる
誰にでも簡単に予想できることだよね
でも、ぼくはやっぱり心のどこかでは丈さんに一人で来てほしかったな…と思ってる
丈さんはきっとぼくからの誘いを断れないだろうと思った
ぼくは丈さんのそんなやさしいところがすき
おにいちゃんが邪魔だった
嫌いじゃないから、尚更、邪魔
おにいちゃんはぼくの心配をしているんだってことはわかってる
でも丈さんはあきらめないよ
だって初恋なんだよ?
本当に、本当に本当に… ぼくはどうしようもないくらい丈さんのことが好きなんだからっ!
● はじめての… ●
<3>
上手くおにいちゃんを置き去りにして、ぼくは丈さんと二人きりになった
丈さんはぼくが無理矢理引っ張ってしまったせいで、肩で息をしている
「大丈夫だった?丈さん。ごめんね、急に走り出しちゃったりして」
ぼくは心の底から反省した。 丈さんを気にしながら走らなかった自分に腹を立てた
「あ…いや。大丈夫だけどさ、なにも走らなくても………」
丈さんは顔を真っ赤にして、息を切らしながらもぼくに返事をしてくれる
「だって…折角のデートなんだよ? おにいちゃんがいたらデートにならないもんっ」
それに一秒でも長く二人だけの時間っていうのを過ごしたかったんだもん…
ちらりと目に自販機がうつった
丈さんは、まだ落ち着かないのか息を切らしてる
「ちょっと待っててね」
とりあえず、丈さんに落ち着いてもらって、すべてはそれからだよね
自販機は、あたりまえだけどぼくの身長よりはるかに高い
もちろんお金を入れるところも、ジュースを選ぶボタンも
だけどぼくは早く大人にならなくちゃいけないんだ
こんな自販機なんかに足を引っ張られてる時間はないんだよ…
早く大人になって…大きくなって……丈さんに一人の男としてみてもらわなくちゃいけないんだ!
「ぼく、手が届かないの?お姉さんがかわりに買ってあげましょうか?」
自販機の前でそんな事を考えていたら、いつの間にいたのか知らないお姉さんが横にいた
ぼくはいつまでも子供でいたくないのに!
「大丈夫だよ!お姉さん」
ぼくはそう言って一歩下がるとジャンプした
素早くお金を入れる
一回地面に足がつく
そしてもう一度ジャンプしてボタンを押した
ガシャン
「うわ〜、凄いわね! 一人でジュース買えちゃうんだ!!お姉さん余計な事しようとしてごめんね?」
「ううん!お姉さん、親切にありがとう」
ぼくはお姉さんの言葉が嬉しかった
何だかちょっぴり大人になれた気がした
ジュースを二本手に持って、丈さんのところへと戻った
丈さんは目を閉じて何か考え事をしているみたい
やっぱり、ぼくの事が迷惑なんだろうなぁ…
でもね、丈さん
ぼくは諦めたりなんかしないよ!
ぼくが目の前に立っても気付かないで、丈さんは目を閉じたままうつむいてる
あ…以外とまつげが長いや…
いつまでも丈さんの顔に見愡れている場合じゃないので、ぼくは持っていたジュースを差し出した
「ハイ、丈さん♪」
「え?」
本当に今まで全然気付いてなかったのか、少しびっくりしてぼくの顔をみてる
「あ、ありがとう」
素直にジュースを受け取ってくれて、丈さんはぼくも座れるようにと身体をずらしてくれた
ほら、そういうところも好きなんだ
ぼくは嬉しくなって、隣に座ってジュースを一口飲んだ
そして、ちょっと静まりかえる
風が、さわさわと木を揺らす音が聞こえる
ぼくは横目で丈さんを盗み見た
……やっぱり、好き。
丈さんの顔を見ているだけで、こんなにドキドキする
子供だからとか、子供のクセにとか言わせないもん
ぼくは本気なんだから!!
ふと、丈さんがぼくと同じように横目でぼくをみてきた
目が合っちゃった…
丈さんは赤くなってぼくから慌てて目を逸らした
ぼくも、嬉しくて、赤くなっちゃって、やっぱり目を逸らした
ザワリと音がして、少し冷たい風がぼくの熱を冷ますかのように吹いた