パートや契約社員も法律で保護される


「世間で契約社員と言うと普通は、一日あたりの勤務時間が正社員よりも短いパートなどの形を指す場合が多いんですよ。その場合の契約社員には労働基準法などに加えて、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律が適用されます。この法律は名前が長いので、普通は短くして単にパートタイム労働法と呼ばれていますけど。もしかすると菱田社長たちは仕事が少なくなるのを見こして、皆さんのことを正社員じゃなくパートに変えてしまおうとしているんでしょうかね」
「いや、どうもそうではないようでした。そもそも菱田社長が勤務時間を短く変えることなど、ちょっと考えにくいですしね」
「だとすると勤務時間は正社員と同じまま、一定の期間に限って雇用する契約を結ぶという形を考えているのかな。その場合は労働条件や賃金を正社員と、ほぼ同じ水準にしなければならないわけですが」
「労働条件や賃金が正社員と変わらないなら、そういう形の契約社員と正社員の間の違いは何になるんですか」
「一番の違いは、雇用が継続される期間の長さでしょう。正社員というのは原則として、いつまで働きつづけるかという期間が決められていませんよね。もちろん本人が歳をとって定年を迎えたら、その場合は話が別ですけれど。それに対して契約社員と会社の間では、いつまで働きつづけるのかという期間を事前に契約しておかなければなりません。これは勤務時間が正社員と同じ長さの契約社員も、あるいはパートの人でも同じです。そして契約社員やパートの人が働きつづける期間は、最も長い場合でも一年を超えてはいけないと定められているんですよ。ただし一九九九年から、特別な場合に限って最高で三年まで認められるようになるそうですが」
「けれどもパートの人やなんかで、同じ職場に何年も勤めつづけている例は多いですよね。ああいう人たちの場合は、どういう形になっているんですか」
「たとえば一年間という契約で、どこかの職場に勤めたとしましょう。そして一年が過ぎた時、その職場を辞めなければならないというわけでは必ずしもありません。また新たに契約を結びなおせば、さらに一年間までは同じ職場で働くことができるんですよ。それを何度もくりかえせば、ずっと何年間も同じ職場で働きつづけることだってできるというわけです」
「ただし期間の切れ目を迎えた際に、それきりとなってしまって再び契約が結ばれない可能性もあるというわけだね。たとえ契約社員の側が勤めつづけたいと思っていても、会社側が契約を結びなおすのを拒んだ場合にはさ」
「最初の切れ目の時には、その可能性も考えられるでしょうね。しかし契約が何度か結びなおされた場合、その社員は正社員と同等に見なされます。そのような人に対して会社が契約を結びなおすのを拒んだら、それは違法な雇い止めだと見なされるんですよ。もちろん社員の側が契約を結びなおすことを望まない場合は、その限りでありませんけれど」
「契約が何度か結びなおされたらって、具体的には何回くらい結びなおされた場合のことを言うんだい」
「それは裁判所の判断によりますから、いちがいには言えそうにありません。でも確か、最初の期間が切れた際に契約を結びなおさなかったのが無効と判断された例もあったはずです。あれは確か大阪高裁が龍神タクシー事件に対して、一九九一年に出した判決だったと思いましたが」




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