「出来高払い制を社員にまで導入するだなんてことが、はたして法律の上では許されているのかな」 「普通だと正社員に対しては、ちょっと難しいんじゃないですか。出来高払い制というのは本来、あらかじめ請負制などの名目で雇われた労働者に対して適用されるものですからね。それに出来高払い制などの請負制が適用される労働者に対しては、一定額の賃金が保障されなければなりません。これは労働基準法の第二十七条で、そう定められているんですけど」 「一定額の賃金というのは具体的に、どれくらいのことを意味するんだい」 「そこまでは労働基準法でも、はっきりと定められていないんですよ。しかし通達では、平均賃金の六割程度を保障するように指導されています」 「すなわち僕らが出来高払い制への変更を受け入れた場合、たとえ仕事の量が少なくても今までの賃金の六割は受け取れるというわけだね」 「だけど、そんなことが本当に可能なんですか。ほとんど仕事をしなくても、これまでの賃金の六割に相当する額を受け取るだなんていうことが」 「それは絶対に大丈夫でしょう。使用者の側の責任で仕事ができない状況になって、労働者を強制的に休ませたとしますよね。その場合でも会社は平均賃金の六割以上を、休業手当として支払わなければならないんです。労基法の第二十六条に、そう定められていますので。すなわち全く仕事をしなかった場合でも、最低で賃金の六割は支払われるというわけですよ。ましてや少しでも仕事をした場合の賃金が、それを下回っていいはずはありません」 「すると出来高払い制に変えるというのは、会社側にとって必ずしも都合のいいことではないみたいだね」 「仕事の受注が減ってしまうのは会社の責任であって、決して社員の側の過失ではありませんからね。したがって、それによる損失は経営陣が全面的に責任を引き受けるべきなんですよ。その責任を社員に転換して賃金を減らすなどということが許されていいはずは、ないでしょう」 |