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コペ >
「……なんだってんだよ」
結局、電話は繋がらなかった。部屋の中を右往左往ウロウロしている。
「……なんだってんだよ、ホントに」
口に出したのは二回、心の中ではその十倍は言ってる言葉。とりあえず、気を落ちつけるため
に、部屋の中を見下ろす。
年相応の部屋。床が雑誌などで適度に散らかっている。
(最近見なかったけど……、やっぱ昔とは変わったなァ)
視線を下げ、いくぶんかやわらいでいたヒロの表情が、また暗くなる。スズを見た瞬間、さき
ほどの光景が目に浮かんだ。
「……吸血鬼? ふざけんなよ……」
聞きなれていても、全く現実味のない単語だ。だが、一笑にはできない。
「不安」は、すでに「恐怖」にとってかわろうとしている。
「わかんねェ……ああ、もう何なんだよ、この状況ッ」
ベッドの横に背を預け、天井を見上げる。
「美里せんせ……、ホントに何か知ってるのかな……」
精神的な疲れがあったためか、ヒロは、そう呟いた数秒後、規則正しい寝息をたてていた――。
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草薙珠璃 >
夢を見ていた。
いくら夢の中とはいえ、まさか自分がこんな事を考えているとは思いもよらなかった。
(……ゥゥゥッ)
血走った双眸のスズが、見覚えのある男の体を文字通り、「貪っていた」。
唐突に、吐き気がした。
何故か、その挙動を止められなかった。
……止める気にはならなかった。
(ウガアアアッ!!)
男の顔だけを残し、全てを食い尽くしたスズが急に苦しみ、胸の辺りから激しい出血を起こし
て絶命……いや、サラサラの白い灰と化す。
(……スズ?)
一体何が起こったのか、死すらも認知出来ないヒロの目の前に、さっき現れた来須という中年
の男が立ち塞がる。
彼は不気味な微笑を浮かべていた。愛用の銃を抜き払うと、ヒロの胸に銃口を突きつけた。
(ちょ、ちょっと待てよッ!!何で……)
ニヤリ。来須がいっそうと不気味に微笑う。
次の瞬間、ヒロは胸に激しい痛みを感じ、現世へと呼び戻された。
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コペ >
「…………」
鼓動がおさまらない。汗を吸い込んだ服が、肌に張り付いて気持ち悪い。
目を開いてから、一分ほど固まっていたが、ようやく夢だと気付き、安堵の息をもらす。
「……スズッ!」
夢の内容と、昨晩のことを思い出し、ヒロが勢いよく振り向いた。
「……………………」
「……………………」
目があった。寝ぼけ眼が見下ろしていた。
「…………ヒロ?」
「…………うん」
沈黙。
スズ、自分の姿を見下ろす。
ヒロ、この状況がかなりマズイものに感じる。
スズ、混乱&赤面
ヒロ、しどろもどろで説明。ただし来須とかのことは、言わない。
スズ、金切り声&右手を振り上げる。
ヒロ、防御行動間に合わず。
小気味いい音が響いた。
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遼来来 >
――数十分後。
ヒロは真神学園に居た。その側に、スズの姿はない。
――「昨日の夜、お前、倒れていたんだぞ! 治ってなかったんだよ。
頼むから、今日は寝ててくれ! 帰ってきたら、病院、付き合うからさ!」
と、荒れ狂うスズを強引に説き伏せ、寝かしつけてきたのだ。
スズを一人にしてくるのは不安だったが、学校に連れてきて刺激を与えたくなかったし、いっ
しょに居たからといって、なにか解決できるわけでもない。
それに、また彼女が「おかしくなった」場合、どう対処していいかもわからない。
だいたい、「スズは吸血鬼になりかけている」などとは、今もまだ信じ難かったが――。
しかし、朝の状況、来須に殴られたらしい腹の痛み、そしてスズの家の廊下に残っていた、弾
痕――。
それらが、アレは「悪夢のような現実」であったことを、冷酷に告げていた。
とにかく、なにか知っているらしい葵せんせに、訊くしかない。
そう思って、ヒロは、必死に葵せんせの姿を探していた。
「おうヒロ。珍しく早いな」
まずは、と向かった職員室の前で出会ったのは、葵せんせではなく、犬神のとっつぁんだった。
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