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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのとおのさん
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 ツヴァイ >  

 「立ち聞きか・・・」
  壬生の鋭い目が、更に鋭さを増した。
 「ヒロくん、聞いていたの!?」
  と慌てて立ち上がる葵を余所に、ヒロは壬生へと歩を進め、
 「治んないって、どういうことだよッ!」
  応接セットのテーブルをバンッと力任せに叩いた。
 「・・・なんなんだい、君は?」
  部外者なら黙っていろ、という態度の壬生。
 「この子、その被害者の幼なじみなの」
 「ふーん」
  壬生は鼻を鳴らして立ち上がり、
 「だったら、今から言うことを実戦することだね。まず、朝日には当てるな。まだ吸血鬼になっ
 ていないとはいえ、体力を著しく消耗させる。後、暴れだしたら網を掛けろ。それだけで動けな
 くなる。深夜番組は見せるな。今の下らない世の中、性の乱れた奴らしか出ていない」
 「ちょっと待てよ! ちゃんと説明――」
 「僕は、彼女にこんなモノを着けたくないんだ」
  そう言うと、壬生はポケットの中から、顎の拘束具を取り出した。
 「中世のヨーロッパで、吸血鬼の疑いを持たれた者に対して着けていた拷問器具だ。口が開けら
 れなくなり、人を噛めなくする。ただ、牙が伸びてきたら、歯茎を圧迫するから相当の痛みをも
 たらす。
  ・・・幼なじみがそう言う目に、遭わされたくないだろう?」
 「だから、説明して――」
 「一週間だ。一週間、我慢しろ。それだけで、事は収まる」
  無視し続けた壬生が、職員室から出ていった。
  ――僕は、蚊帳の外なのかよ・・・!
  その壬生の背中を見ていると、言葉に出来ない屈辱感が、ヒロを蝕んでいった。 
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 teiru > 

 (くそ…………力があれば、あれば……力があれば!!!!)
 「ヒロ君? ……」
  美里の声をきいても、ヒロは反応しない……。
 「ちくしょう!!」
  ヒロはつい大声で叫んだ。 
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 遼来来 > 

  がたん!
  その瞬間、少し離れた席で「しんせい」をくゆらせていた犬神が、音を立てて立ち上がった。
 「!」
  血走らせた目を向けるヒロを無視して、犬神は職員室の扉のそばへしゃがみこんだ。
 「……結界は、きちんと張っておいたはず……なんだが、な」 
 「とっつぁん……あんたもなにか、知って――」
 「――ニ上」
  その犬神の声には、興奮状態のヒロをも、黙らせる迫力があった。
 「例えば、知人が重い病気にかかったとする。……お前は、どうする? 
  自分の力で治そうなどと、思うか?」
 「………………」
 「お前はもう、円矢になにが起きたのかを知っているはずだ。
  そして、それに対してお前がどうするべきかも……聞いたな? ――ならば、そうしろ。他に、
 何ができる」
 「…………………………くっ」
  ヒロは、踵を返して職員室を飛び出すと、凄い勢いで走り去って行った。
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 コペ > 

 「ヒロくんッ、待ってッ!」
  一拍遅れて、美里も職員室を飛び出す。
  が、ヒロの背中を追おうとした途端、鋭い声で、犬神が美里を呼びとめた。
 「犬神先生……」
 「追いかけてどうする? 何を言うつもりだ?」
 「……わかりません。今は、私もどうすればいいかなんて……」
 「だったら……」
 「でも……、こんな時、《あの人》は側にいてくれました。不安な時、側に誰かがいてくれると
 いうことが、どんなに気を落ちつかせてくれるか……。それを《あの人》は、教えてくれました」
 「…………」
  言葉を続け様とした犬神が、だが、それ以上何もいえず、珍しく、この男にしては本当に珍し
 く、困ったような顔をして、頬を掻いているだけだった。
  見れば、壬生の方も苦笑を浮かべ、美里を見ている。
  それを見た美里は、一度微笑みを浮かべ、そして駆け出した。
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