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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのとおのご
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 遼来来 > 

 「――YOU WIN!」
  テレビ画面には、格闘ゲームが映し出されていた。
  プレイヤーは、スズである。
  いちおうヒロの言う通り、家に居たのだが、もう熱もないというのに、朝っぱらから眠れるわ
 けもなく、ゲームに興じていたのだ。
 「うー、飽きたぞ」
  コントローラーを放り出してひっくり返るスズ。
 「……あの、バカ。見舞いに来たのは良しとしても……よりによって、美里先生と一緒じゃなく
 たって……。バカ――」
  ピンポーン。その時、誰もいない家に、チャイムの音が鳴り響いた。
 「!? 誰だろ――ハーイ」
  ぱたたたと玄関へ駆け出し、扉を開けるスズ。
 「――ひーちゃん? あんた、学校へ行ったんじゃ、なかったの!?」
  扉の向こうに居たのは、学校へ出かけたはずのヒロであった。
 「……やっぱりお前のことが心配で、サボってきたんだ。
  さ、行こうぜ――」
 「皆勤賞狙いのあんたが――? 心配って――気持ち悪いこと言うわね。だいたい、どこへ行く
 ってのよ」
 「え――? そ、そりゃ、病院に決まってるだろう? お前、病気なんだし――」
 「そう言えば、そんなこと言ってたっけ……。待ってて。着替えてくる」
  家の奥へと駆け込んで行くスズの背中を、口の端に不気味な笑みを浮かべて見送る「ヒロ」。


  平日の午前中である。電車は空いていた。
  だが、のんびり座って喋りこむ気にはとてもなれないヒロは、扉の端の手すりにもたれ、窓の
 外を見つめていた。
 (わかっているさ――シロウトがよけいな手出しをして、混乱をあおるマネをせず、専門家に任
 せろ――そう言いたいんだろ?)
  がたん――電車が揺れて、ヒロの頭が窓にぶつかる。
 (でも、スズが――スズがどんどん「おかしくなっていく」のを、ただ黙って見ているなんて、
 耐えられないし――)
  ごおーっ。電車が、鉄橋を渡る。
 (葵せんせは――なにか、知っていそうだった。何かヒントをくれそうだった。もっと話したか
 ったのに――)
 「ヒロよう」
  その「情報収拾」を邪魔した当人が、ヒロの物思いをもぶった切った。
 「あんだよ」 
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 コペ > 

 「なんか変なもんでも拾い食いしたんか? さっきから難しい顔やで?」
 「あんなァ……、そもそもお前が――」
  携帯の呼び出し音が響く。車内にポツポツと座っている乗客の視線が、一斉にヒロに向けられ
 た。
 「やべッ、電源切ってなかった……あッ?」
  小さく驚いてしまった。液晶に『スズ』と出ている。
  ピッ。
  次の瞬間にはマナー違反も忘れて、ボタンを押していた。
  
 「スズ、どうし――」
 『ひーちゃんッ! ひーちゃんよねッ!?』
 「へ?」
 『ひーちゃんがいるのッ、ううん、あれはひーちゃんじゃないけどッ、でも、ひーちゃんの顔し
 たやつがッ』
 「お、おいッ、落ちつけスズッ! なにがあったんだよッ! もしかして、家にいないのか、お
 前ッ!?」
 『あいつ、ひーちゃんの顔してるけど、でも、全然ひーちゃんじゃないのッ! 途中でそれに気
 付いちゃって、わたし、怖くなって――』
  スズはパニック状態にあるらしく、まともに返答が返ってこない。
 「おい、スズッ! 落ちつけってのッ!」
 「あッ――えと、ひーちゃん」
  スズの声がいつもの調子に戻り、ヒロがほっと安堵の溜息をもらす。
 「で、お前、今どこにいるんだよッ」
 「ここ……ここは――ヒッ!?」
 「――!?」
  スズの短い悲鳴の後に、耳障りな雑音が入り、通話が途切れた。
 「お、おい……おいッ、返事しろ、スズッ! くそッ!」
  携帯を切り、元の位置に収めたヒロが顔をあげると、乗客が全員訝しげな表情で見ていた。
  とりあえず、ヒロにはその視線を恥ずかしがっている余裕はない。
  丁度よく駅についた電車の扉が開くと同時に、ヒロは飛び出していた。
  呼び止めようとする友人の存在も、どこに行っていいか判らない事も、真っ白になって忘れて
 駆け出していた。
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 テイル > 

 「なんなんだ!? 一体! くそ! 俺の顔をした奴? 一体誰だ!? しかもどこにいるんだ
 !?」
  ヒロは困惑しながら走って考える。
  ヒロは何かひらめいた顔をし、携帯を取り出した。
 「美里先生! 頼むから!! でてくれ!!」

 (プルルルル……………………)
 「くそ! 出ない! まいったな!!」
 (スズ……どうしてこんなことに……)
  ヒロは走るのをやめ、頭をかかえこんで考えはじめた。
 (アノ日……美里せんせの友達と会った日からだよな……アノ日!)
  ヒロはアノ場所の事を思い出した!
 「そうだ! 歌舞伎町! あそこになにかあるはず!」
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