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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのとおのろく
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 遼来来 >

  ヒロが、新宿へ戻るべく、反対側の路線へ回ろうと駆け出した――そのとき。
  後ろから、何者かが、彼の肩をつかんだ!
 「ど、どこ行くねん、自分」
  あわてて走って追いかけてきたらしい、彼の友人だった。
 「すまん! もんのすごい急用が出来たんだ! 行かせてくれ!」
 「行かれても困るわあ……。なんや、身内の急病かなんかか?」
 「似たようなもんだ!」
 「なら、電車使て行くより、クルマで送って貰ったらどや」
 「誰に!」
 「わしらの目的地――『如月骨董品店』の主人に、や」

  それに、ヒロが何か言おうとした瞬間。
  ヒロの携帯の呼び出し音が、再び鳴った。
 (スズ――!?)
  飛びつくように通話ボタンを押すヒロ。
 「あ――ヒロくん?」
  だが、聞こえてきた声は、葵せんせのものだった。
  しかし、もちろんこれはこれで、有難かった。
 「せ、せんせ? スズが――スズが大変なんです! すいませんが様子を見てきて――」
 「え――じゃあやっぱり、スズちゃん、あなたと一緒じゃないのね?」
 「!?」
 「実は今、スズちゃんの家に来ているんだけど、留守なのよ。おかしいなと思って……」
 「――!」
 「ねえヒロくん、あなた、今どこに居るの?」
  ヒロは、あわてて駅名を確認した。
 「王子駅――です」
 「三木くんと一緒だから、そうだろうと思ったけど――やっぱり、如月さんのところが目的地だ
 ったのね?」
 (如月――?)
  せんせの口からも、その名前が出るとは。
  ヒロは驚いて、自分をここまで引っ張ってきた友人の顔を見た。 
 「じゃあ、ちょうどいいから、そのまま『如月骨董品店』に行ってくれる? それで、事情を話
 せば、わかってくれるから。手伝ってもくれると思うから――」

  通話を切るのも走りながらだった。
 「てめえ、ここが目的の駅だって、早く言えよな!」
 「んなこと言うたかて、言おうとした瞬間に、電話掛かって来て、そのまま飛び出しよったから
 なあ、自分」
 「てい! で、その骨董品店はどっちだ!?」
 「ま、待ちいや。そんなに走らんでも――」
 「急いでいるんだよっ! ひとの命が、かかっているんだ!」
  キキキキキ――――!
  駅を出てきょろきょろしているヒロと、息を切らせている友人、二人の目の前に、激しい急ブ
 レーキの音をたてて、一台の車が飛びこんできた。 
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 ツヴァイ >  

 「危ねェなッ!」
  ヒロが怒鳴った。それだけ気が立っていた。
  が、窓が開き、そこに見覚えのある顔が二つ、並んでいた。
 「……それは、僕のセリフだよ。一応、歩道じゃないんだよ、ここは」
  ステアリングを握る壬生だ。助手席には来須の顔も見える。
  周りの見えなくなっていた二人は、車道のど真ん中まで出ていたのだった。
 「何だってこんなとこにいる? あのアマッ子どうした?」
  来須がサングラスの下の目でヒロを睨む。
  単身で何をしている、とでも言いたげな顔。
  「それより! あんたら、如月骨董品店って知ってるか!?」
  ヒロは運転席の壬生に掴みかかった。
 「……その前に、答えたらどうだい? 君は、結論を急いでばかりだ」
 「スズはいなくなっちまったんだよ! それで、センセに電話したら、如月骨董品店って言われ
 たんだ」
 「……美里さん?」
  壬生は顔を顰めた
 「おい、ガキ。乗れ」
  来須は顎をしゃくって、後ろの座席を指した。
 「来須さん?」
  壬生が少し意外そうな顔を来須に向けた。
  来須の性格は、壬生も掴みかねている。この配置も、効率のみを重視されたコンビだ。その短
 い付き合いだが、来須は狩人として優秀なだけ、としか思えなかった。
 「壬生、急げ」
  多くは言わない。ただ一言だけ。
  壬生も後部座席を開け、ヒロを招き入れた。
  走り去る車を、ただ一人だけ残された三木が呆然となっていた。
 「お前……如月さんも、こっち向かってんねやぞ」  


 「入れ違いか……」
  来須はがらんどうの骨董品店内を見て呟いた。
 「……どこに行ったんでしょうね……」
  壬生は手頃な椅子に腰掛け、フッと息を吐き出した。
 「……まぁ、待てば戻って来るだろ」
  暢気とも見える二人。それを見てイライラするのが、他ならぬヒロ。
 「何を落ち着いてるんだよ!」
 「肝心要の店主がいねェんだ。待つしかねェだろうが」
  棚にもたれ掛かり、来須がキツい目をヒロに向ける。
 「あんたらなぁ!」
  ヒロが激昂したが、その目が奇妙な品々が並ぶ棚を捉えた。瓶入りの妙な薬から、銅鏡まであ
 る。骨董品店と言うよりは、どちらかといえば雑貨屋に近いのかも知れない。
 「……ひょっとして、センセ、この薬が――」
 「ダメだよ。」
  棚の薬に期待していたヒロだったが、壬生は短く言い放った。
 「言っただろう? 吸血鬼化を完治させた例はゼロだ、と。薬や治療で治るような、ヤワなもの
 だとでも思ったかい?」
  冷たいとも受け止めれる壬生の言葉。が、実際は、現実を歪める事など気休めではない事を知
 り尽くしている壬生だ。壬生なりの心遣いでもあった。
 「まぁ、壬生の言う通りだ」
  と、三人とは別の男の声が店内に流れてきた。
  見ると、入り口に和服の男が立っていた。
 「やぁ、如月さん」
  壬生が片手を上げる。
  如月と呼ばれた和服の男も「やぁ」とだけ答えて、店内に入ってきた。
  と、続いて入ってきた女性と男を見て、ヒロが声を上げた。
 「センセ、三木……」
 「慌てるからやで。向こうもこっちにむかっとったってワケや」
  三木が肩をすくめる。
 「それよりも、どうしたっていうんです?美里さん。」
  壬生が美里に視線を送った。
 「如月くんなら、まだ知恵があるかと思ったんだけど……」
 「正直、僕は知らないよ。吸血鬼化を治すような薬なんてね。もっとも、存在していたら僕の耳
 にも入ってくるから、ない、と見るべきだろう」
 「そんな……」
  如月の言葉に、ヒロは肩を落とした。
 「無駄足か」
  来須は棚から離れた。
 「しかし、面白い話はある。唯一の治療法の事だ。」
 「!?」
  ヒロが目を剥いた。
 「治らないんじゃないのか!?」
 「君は、人の話から洞察するというのを知らないね。何のために、一週間はジッとしていろと僕
 がいったと思う?」
  壬生が溜息を吐いて立ち上がった。
 「では、如月さん、居場所を知っているんですね?」
 「ああ。文京区関口。巷の創作では吸血鬼が一番、嫌がる場所さ」
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