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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのとおのはち
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 ツヴァイ >  

 「よらないでッ!」
  スズが叫んだ。ヒロの顔をした「何か」はニタニタと笑いながら、近づいてくる。
 「どうしたんだよ? スズ?」
  ニタニタと笑いながら、声は心配そのものというアンバランスさが、「それ」が何なのかを語
 っている。
 「いやッ!」
  手を振って逃れようとしたが、「ヒロ」がその手を掴む。
 「僕だよ? どうし――」
  何かを言おうとした「ヒロ」だったが、その背中から胸にかけて、長大な剣に貫かれてた。
 「バカが」
  剣の持ち主が呟く。
  スズが目を上げると、白っぽい膚をした長身の男が立っていた。
  初めて見る顔のハズだ。
  だが、見覚えがあった。いや、見覚えがあるのは、顔ではない。
  その特徴的な、「白」ではなく、色素の存在していない膚だ。
 「あなた――」
  スズは記憶を総動員し、その膚を持つ者を表す単語を紡ぐ。
 「ヴァンパイア?」
 「……正確には違う。ギーラッハという」
  男は剣を納め、その無骨な武人そのものの目をスズに向けた。
 「ぎーらっは?」
  聞き慣れない単語。しかし、「吸血鬼」を表す単語であるのは分かった。
 「あなた、名前は?」
 「フリッツ・ハールマン。プロイセンの騎士だ」
  フリッツが名乗る。
  が、敢えて「人間的」とできる言葉はそれが最後で、フリッツは背を向けて部屋から出ていこ
 うとした。
 「待って! あたしを、どこに連れて来たの!」
 「……答える義務はないが……アルガの巫女の言葉だ」
  と、フリッツが振り返る。
 「東京カテドラル聖マリア大聖堂」

  カトリック東京大司教区教会――《最高権力者の在る場所》だ。 
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 遼来来 > 

  フリッツの言葉に、スズがきょろきょろしながらつぶやく。
 「大聖堂――ってことは、教会? なんで、ヴァンパイアが教会に――」
  それを聞いたフリッツは、しかたなく振り向いた。
 「――言っただろう。『ヴァンパイア』ではない、『ギーラッハ』だ、と。
  それに、吸血鬼が教会や十字架に弱い、というのは俗信だ」
  が、スズはそんな言葉など、聞いていなかった。
 「……なんで、吸血鬼なんてのが本当に居て……しかも、わたしを攫ったり、助けたり、するの
 よ……」
 「本当に居て? ……あなたは、自分に何が起こったのか、覚えていないようだね。
  そういえば、さきほどの行動も、妙に人間臭かった――誰かが<障害>を施したのか――」
 「なによ、どういうことなのよ……教えて……」
 「悪いが、わたしは忙しい。そのバカの始末もせねばならないし――」
  と、フリッツは「ヒロだったモノ」をチラリと見た。
 「どうやら、<邪魔者>も迫っているようだ。後にしてくれ」
 「邪魔者――?」
 「とにかく、この部屋なら、しばらくは安全だ。動かないでくれたまえ」
  言い捨てて、フリッツは出ていってしまった。
  呆然とする、スズを残して。 

  その頃――ヒロたち一行は、二台の車に分乗して、目的地へと向かっていた。
 「では、美里さん、お願いしますよ」
  運転席の如月が、奇妙な模様の描かれた板を葵せんせに渡す。
 「なんですか、ソレ?」
  ヒロが不思議そうに訊く。
 「遁甲盤。風水の、占い版だよ」
 「占い? なんで今、のんびり占いなんか――」
 「キミは、なぜ僕のところにあわてて来たのか、忘れたのかい――?」
  如月は、バックミラー越しに、びっくり目のヒロを睨みつけた。
 「攫われた幼馴染の行方を探して欲しい――と、美里さんには聞いた覚えがあるのだが?」
 「――あ! そ、そうだ、大変なんだ……。でも、そんな占いなんかでわかるんですか?」
 「使うべき人が使えばね。もっと適役を知っているけれど、彼女は、神出鬼没の占い師だし――
 今は時間がない」
  ふたりがしゃべっている間にも、美里は遁甲盤をなにやら触って、集中していた。
 「それと、キミにも渡すものがある」
  如月は、なにやら数本のツノが両側に付いた、短い棒のようなものをヒロに手渡した。
 「なんです、コレ?」
 「独鈷杵。ヴァジュラとも言う。まあ、お守りだよ」
 「お守り?」
 「ああ。皆は、キミを心配して事件に巻き込むまいとしているけど――
 キミ自身は、離れる気なんてないんだろう?」
 「当然です!」
 「ふう。困ったものだ。だから、ね――気休めのお守りでも、ないよりはマシだ。――いや、そ
 れも、使うべき人が使えば武器にもなるんだけど」
 「――! 使い方、教えてください!」
  (力が欲しい――!)あのときの叫びが、ヒロの体を貫いた。
 「ムリだよ。使えるようになるには、何年もの修行が要る。間に合わない」
 「くっ――」
 「それと、それこそ『敵と闘って壊れた』なら納得するけど――、『落して無くした』とか言っ
 たら――怒るよ? 何十万円もする品だ」
 「ゲッ」
  ヒロは、あわててそれを、ポケットの一番深いところにしっかりとしまいこんだ。
 「あらやだ」
  そのとき、美里が頓狂な声をあげた。
 「どしたんです、葵せんせ?」
 「スズちゃんの居場所――」
 「わかったんですか!?」
 「たぶん、そうだと思うんだけど――」
 「どこなんです? 急いで行かないと! あ、でも治療法も――うわああ」
 「落ち着いて、ヒロくん。あのね、いっしょなの――」
 「はい?」
 「いっしょなの。遁甲盤が指し示す場所と――私たちの目的地が」
 「はい?」
 「――東京カテドラル聖マリア大聖堂。ですね?」
  如月が、つぶやいた。

 「な、なんでわいだけ、こっちのクルマやねん――」
  そのころ、来須と壬生の車に振り分けられてしまった三木くんは、凍りつくような緊迫した車
 内の空気に、固まっていた――。  
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