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teiru >
そうして10分ほど時間がたった。
「うん。なんとか走れるな」
如月はそういうと美里の後ろとなりまで来て……
「美里さん。君はここに残るかい?」
(如月さん!?)
ヒロがそう思って如月を見た。
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ツヴァイ >
誰もが、誰の心も理解できていなかった。
それぞれがそれぞれの「想い」を引きずる中、迷っていなかったのは、吸血鬼とは別の意味で
「ヒトではない」三人の男女だった。
「……おい、後ろからバイクが飛ばしてきてるぞ。気をつけろ。事故られでもしたらたまらん」
来須は愛用の銃に確認するように弾丸を装填しながら、ミラーに映っているバイクに視線を向
けていた。
「あまり大きなバイクではないですね……。暴走族か? 中型でこんなスピードとは……無茶を
する」
壬生もルームミラーで確認した。赤一色のバイク。中型だ。その壬生が「無茶」というスピー
ドで追いかけてくる。大きさに対してオーバースピードと言うことだ。
「アホかい。あれはドゥカティやろ。リッターバイクやで」
気になって後ろを見た三木が鼻で笑った。
ドゥカティ911。
中型クラスのボディだが、持っているパワーは計り知れない化け物。
そのドゥカティが壬生達の車と併走する。
「BANG!」
ドゥカティの後ろに乗っているノーヘルの女が、壬生達に向かって鉄砲の形にした左手を向け
た。
「……チッ!」
来須が舌打ちする。
「……知り合いですか?」
「この仕事するなら、覚えとけ。女の方は凶手、野郎の方は魔剣士ってあだ名が付いてる奴だ。
上は俺たちだけじゃ信用できねェのか、13課の奴らにも命令したようだな。」
来須が僅かに歯軋りした。
13課とM+M機関は同じ目的を持つが、歴史の浅いM+M機関は2千年という長い時を闘っ
てきている13課とは、「良好な関係」とは言い難い。
「お〜い、下手くそ〜♪」
「シェラ、挑発するな。後が鬱陶しい」
フィルが背後のシェラに注意を促した。
「わかったわ――フィル!」
その表情が一瞬にして真剣なモノに変わる。
ドゥカティは急ブレーキを掛け、目の前に現れた男をかわした。
それは壬生達も同じだった。
ガランとした道のど真ん中に、古めかしい鎧姿の男が立っていたのだ。
「……あいつ……!」
フィルがヘルメットのバイザーを上げながら、バイクから降りた。
ヘルメットを脱ぎ、フィルが腰から剣を抜く。柄には光を受けて様々な色に輝く賢者の石――。
「出てきたようですね」
「ああ
ただならぬ《力》を感じ、壬生と来須も車から降りようとする。が――、
「来須、お前は降りてくるな。シェラを連れて先に行け」
フィルが視線すら向けずにそう言った。言いながら、剣を水平に構えながら、男と対峙する。
「一人で、大丈夫?」
「三十分くらいは稼げる」
シェラにそう言うと、フィルは地面を蹴った!
「ホラ。さっさと行きましょ」
後部座席のドアを開けて乗り込み、シェラは壬生にそう言った。
「あ、あの白いヒト、一人で大丈夫かいな?」
三木が不安げに、視線をシェラとフィルの間に行ったり来たりさせる。
「まぁ、本人が大丈夫って言うんだから、いいんじゃない」
シェラはそう言った。
再び、壬生達は車をスタートさせる。
その排気音を背後に聞きながら、フィルは口を開いた。
「失敗したな、フリッツ。いくらお前でも、車にゃ追いつけない」
男――フリッツに皮肉な笑みを投げかけた。
その男こそ、重鎮、フリッツ・ハールマンだった。
フリッツは黙ったまま、静かに剣を抜いた。全長180センチは越えるツヴァイハンダー。
「貴様が、その乗り物を残していっただろう」
フリッツは刀身越しにフィルを見た。
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