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遼来来 >
「――いいんですか、美里さん?」
ハンドルを握る如月は、バックミラー越しに、後席の美里を見た。
「ええ……。ここで降りてしまったら、昔の私に、戻ってしまうから――なにもできなかった、
なにをすればいいのかもわからなかった、あの頃の……<あの人>に会う前の、私に――」
目を閉じて答える隣席の美里を、ヒロは何も言えずに見つめていた。
深い疎外感――。
だがそれは、彼らのような戦う<力>がないからなのか。
それはなにか、違うような気もする。
戦う<力>――それなら、さきほど現れた二人組のそれは、圧倒的だった。
しかし、それがもたらしたものは、酷い惨劇だった。
(僕は――どうすればいいのか。熟考しろ……来須さんは、そう言った。戦力にはならない僕に、
できること――? こんな僕に、何ができる? スズと同じ目に遭った、同じ学園のコを、見殺
しにするしかなかった僕に。大好きな先生が悲しんでいるのを、ただ見ていることしかできなか
った、僕に?)
「――あっ」
美里の叫びが、ヒロの意識を現実に引き戻した。
「前の方に、かなり大きい――ううん、強い――結界があるわ」
走るクルマの前方を指差す美里。
「結界? 僕らと同じパターンですか」
如月が、アクセルは緩めずに、行く手を見やる。
「そうだと思う――中で、ふたりの男のひとが剣で戦ってるから」
「ふたり?」
「すごい大きな剣を持った――このひとは、吸血鬼ね。浅葱さんたちとは違う『本物』の。凄い
<力>を感じる――。
もうひとりは、さっき出てきたバイクに乗っていたひとだと思う。
このひと自身も凄い<力>だけど、持ってる剣が――」
「ふむ。刺客に対して、ひとりで受けとめて、他を先行させたんですかね」
「……助けるんですか? さっきのひとたち、僕はあんまり好きじゃ――」
「ひさしぶりにしゃべったね、ヒロくん。僕も連中は、あんまり好きとは言えないが――戦いは、
個人の好悪で判断しちゃいけないよ。とはいえ、せっかくひとりで受けとめてくれているのに、
のこのこ立ち寄るのも――」
「どっちにせよ、気付かれるのは間違いありません。もう、結界に入ります――」
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ツヴァイ >
風が鳴る音と、風を切り裂く音が響いていた。
間合いを「慎重に」測りながら、フィルは右手に持った剣を突き出す。
基本的に、剣術には「防御」というものは存在しない。
反射神経で相手の攻撃をかいくぐり、必殺の一撃を急所に叩き込む――それしかない。
頭上を、暴風となったツヴァイハンダーが掠めていった。
「……」
フィルは目を細め、剣を水平に構えた。決して突っ込みはしない。
その大振りが、自分を必殺の間合いに引き込むためのモノだ、と分かっていたからだ。
ツヴァイハンダーという長大な剣を見ただけで、このフリッツの攻撃が「薙ぐ」と「突く」、
「振り下ろす」だけだ、と判断する者がいれば、それはバカでしかない。
クリッと手首だけで、フリッツは手元にツヴァイハンダーを手元に返した。弱点だらけといっ
ていい吸血鬼が、ここまで人に恐れられる理由が、この怪力だ。
「……相変わらずの、馬鹿力だ」
フィルがフッと短く息を吐き出した。
彼の持つ賢者の石は「特別」だが、剣は決して「特別なもの」ではない。もし、一撃でもツヴ
ァイハンダーを当てられたら、それだけで砕ける。
「慌てない男だな、相変わらず」
「慌ててどうなる?」
フィルが笑い、突っ込んだ――。フィルはフリッツを斃そう等とは考えていない。元より不利
なのだ。
それよりも重要なのは、この「化け物」を足止めすること。シェラ相手に、この化け物不在で
どうにかなるはずがないのだから。
と、フィルが飛び込むと同時に、如月達の乗った車が疾走してきた!
「!?」
フィルの目が見開かれる。悪すぎるタイミングだった。フィルの鼻先を掠めるようにして走っ
てきたのだから。
フリッツはフッと口元を綻ばすと、その如月の車にツヴァイハンダーを投げつけた。
その剣はタイヤに突き刺さり、滑走させた。
「バカがッ」
フィルが舌打ちする。
が、そのフィルの耳に、ドゥッという聞き慣れた爆音が聞こえた。
「!」
振り向いた先には、ドゥカティに跨るフリッツの姿があった。
「その間抜け達の乱入は、僥倖だった。また相見えることもあろう。さらばだ、魔剣士。」
ドゥカティが加速しながらフィルの横をすり抜けていった。
「チッ」
フィルはもう一度、短く舌打ちした。
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