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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのにじゅうし
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 遼来来 >

 「――いいんですか、美里さん?」
  ハンドルを握る如月は、バックミラー越しに、後席の美里を見た。
 「ええ……。ここで降りてしまったら、昔の私に、戻ってしまうから――なにもできなかった、
 なにをすればいいのかもわからなかった、あの頃の……<あの人>に会う前の、私に――」
  目を閉じて答える隣席の美里を、ヒロは何も言えずに見つめていた。
  深い疎外感――。
  だがそれは、彼らのような戦う<力>がないからなのか。
  それはなにか、違うような気もする。
  戦う<力>――それなら、さきほど現れた二人組のそれは、圧倒的だった。
  しかし、それがもたらしたものは、酷い惨劇だった。
 (僕は――どうすればいいのか。熟考しろ……来須さんは、そう言った。戦力にはならない僕に、
 できること――? こんな僕に、何ができる? スズと同じ目に遭った、同じ学園のコを、見殺
 しにするしかなかった僕に。大好きな先生が悲しんでいるのを、ただ見ていることしかできなか
 った、僕に?)
 「――あっ」
  美里の叫びが、ヒロの意識を現実に引き戻した。
 「前の方に、かなり大きい――ううん、強い――結界があるわ」
  走るクルマの前方を指差す美里。
 「結界? 僕らと同じパターンですか」
  如月が、アクセルは緩めずに、行く手を見やる。
 「そうだと思う――中で、ふたりの男のひとが剣で戦ってるから」
 「ふたり?」
 「すごい大きな剣を持った――このひとは、吸血鬼ね。浅葱さんたちとは違う『本物』の。凄い
 <力>を感じる――。
  もうひとりは、さっき出てきたバイクに乗っていたひとだと思う。
  このひと自身も凄い<力>だけど、持ってる剣が――」
 「ふむ。刺客に対して、ひとりで受けとめて、他を先行させたんですかね」
 「……助けるんですか? さっきのひとたち、僕はあんまり好きじゃ――」
 「ひさしぶりにしゃべったね、ヒロくん。僕も連中は、あんまり好きとは言えないが――戦いは、
 個人の好悪で判断しちゃいけないよ。とはいえ、せっかくひとりで受けとめてくれているのに、
 のこのこ立ち寄るのも――」
 「どっちにせよ、気付かれるのは間違いありません。もう、結界に入ります――」 
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 ツヴァイ > 

  風が鳴る音と、風を切り裂く音が響いていた。
  間合いを「慎重に」測りながら、フィルは右手に持った剣を突き出す。
  基本的に、剣術には「防御」というものは存在しない。
  反射神経で相手の攻撃をかいくぐり、必殺の一撃を急所に叩き込む――それしかない。
  頭上を、暴風となったツヴァイハンダーが掠めていった。
 「……」
  フィルは目を細め、剣を水平に構えた。決して突っ込みはしない。
  その大振りが、自分を必殺の間合いに引き込むためのモノだ、と分かっていたからだ。
  ツヴァイハンダーという長大な剣を見ただけで、このフリッツの攻撃が「薙ぐ」と「突く」、
 「振り下ろす」だけだ、と判断する者がいれば、それはバカでしかない。
  クリッと手首だけで、フリッツは手元にツヴァイハンダーを手元に返した。弱点だらけといっ
 ていい吸血鬼が、ここまで人に恐れられる理由が、この怪力だ。
 「……相変わらずの、馬鹿力だ」
  フィルがフッと短く息を吐き出した。
  彼の持つ賢者の石は「特別」だが、剣は決して「特別なもの」ではない。もし、一撃でもツヴ
 ァイハンダーを当てられたら、それだけで砕ける。
 「慌てない男だな、相変わらず」
 「慌ててどうなる?」
  フィルが笑い、突っ込んだ――。フィルはフリッツを斃そう等とは考えていない。元より不利
 なのだ。
  それよりも重要なのは、この「化け物」を足止めすること。シェラ相手に、この化け物不在で
 どうにかなるはずがないのだから。
  と、フィルが飛び込むと同時に、如月達の乗った車が疾走してきた!
 「!?」
  フィルの目が見開かれる。悪すぎるタイミングだった。フィルの鼻先を掠めるようにして走っ
 てきたのだから。
  フリッツはフッと口元を綻ばすと、その如月の車にツヴァイハンダーを投げつけた。
  その剣はタイヤに突き刺さり、滑走させた。
 「バカがッ」
  フィルが舌打ちする。
  が、そのフィルの耳に、ドゥッという聞き慣れた爆音が聞こえた。
 「!」
  振り向いた先には、ドゥカティに跨るフリッツの姿があった。
 「その間抜け達の乱入は、僥倖だった。また相見えることもあろう。さらばだ、魔剣士。」
  ドゥカティが加速しながらフィルの横をすり抜けていった。
 「チッ」
  フィルはもう一度、短く舌打ちした。 
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