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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのにじゅうろく
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山椒亭Gまる様 > 

「……ッ、寒い……」
 震える体を抱きしめるようにして、スズは歩いていた。
 周りには何も見えない。自分がどこに居るのか、まったくわからない。感じられるのはただ、
ひどく冷たい空気だけ。
 身を切り裂くような寒さだった。
「あの吸血鬼の人、どこに行っちゃったんだろう……」
 自分をここまで連れてきたフリッツという青年は、何時の間にか姿を消していた。今は完全に
一人である。
 こんな場所に置き去りにされるよりは、例え得体の知れないモンスターだとしても、一緒に居
た方がいくらか良かったかもしれない。
 アイツは、自分を探していてくれているだろうか?
 あの化け物に襲われたときに必死でかけた電話のことが思い出される。
 そう、あの異様な化け物に、自分は襲われた。
 そして、フリッツが現れ、吸血鬼や敵のこと、アルガの巫女という言葉を聞かされた……。
 たった数日の間に、これだけ不可解なことが起きている。それまで生きてきた全ての常識を覆
されてしまうような怪異。
「あたし、どうなっちゃうの……?」
 ふと、ヒロと後楽園ホールへ行った日のことを思い出した。あの日、全てが変わったのだ。
 葵を追いかけて、現れたスター達にヒロが狂喜して、その帰りの電車で……。
「何であの時、逃げちゃったんだろ……」
 いつも通りどつき倒して『バカ』って言って、それで終わるはずだったのに。いつも通り二人
で帰って、家の前でまた軽い口喧嘩して、それでも別れ際には、やっぱりいつも通り『また明日
ね』って言って……!
「ひーちゃん……!」
 後悔と、心を切り裂くような寂寥感。
 涙が、溢れそうになったその時。
 突然、周囲の景色が一変した。 
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遼来来 > 

 始めは、目も眩むような光の渦の中に飛び出したような感覚だったが、それは、暗闇から出た
ばかりの錯覚だった。
 実際は、木陰がほの暗い、ひんやりとして落ちついた雰囲気の小庭園だったのだが――、それ
まで歩いてきた「闇」に比べれば、別天地のように明るく暖かかった。
「え……」
 確か、フリッツとかいう吸血鬼は、ここが「大聖堂」だと言ったはず。
「中庭かなにか、なのかな……」
 呆然と周りを見まわしながら、歩を進めるスズ。
 と、木陰に、ひとりの美しい女性が佇んでいるのを見つけた。
(人――!?)
 スズは喜んで駆け寄ろうとして、足を止めた。考えてみれば、「人間」とは限らないではない
か。
 と、木陰の美女は、スズに気付くと、こちらを向いて、にっこりと優しく微笑んだ。
「いらっしゃい――ようやく、来てくれたのね?」 
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コペ > 

「……ここは?」
「ここは、あなたと私だけのお部屋。寒かったでしょう? 闇があなたを邪魔していて、ここま
での《道》が見えなかったみたいね」
 女性が手招きをする。スズは、木陰に入り、女性の横に座る。先ほどまでの警戒心は、不思議
と失せていた。
「あなたは……?」
「私は、あなたの側にいる者。あなたのためだけに在る者。大いなる《力》の流れを見定める《
星》を宿した者が《力》のカケラ」
「……よく、わかんないや。でも、なんだか……あなたの雰囲気、どこかで……えッ!?」
 闇が、再びスズの周囲を支配していた。女性の姿もどこにも見当たらない。ただ、声だけは、
わずかに耳に届いていた。
(あなたを想う人達が、もうすぐやって来ます。それまで…………)
 言葉の最後は闇の中にかすれて消えた。
「……」
 気付けば、スズは元の、フリッツという吸血鬼が現われた部屋にいた。
「……ひーちゃん、だよね。来てくれる、って信じていいんだよね」  
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