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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのにじゅうなな
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ツヴァイ >

 ――どうして、僕はここにいるんだろう。
 ヒロは自問した。
 今、自分の隣には、あれほど毛嫌いしていた男が座っている。
 フィリップ・ホーエンハイムが――。

「それとも、私と来るか?」

 多分、フィルにとっては気まぐれだったのだろう。ヒロを、自分の横に招いた事など。そして
ヒロも、どうして彼の誘いに乗ったのかは、分からなかった。
 ただ、如月と一緒に向かうよりは近道に思えた。
 そうだったのかもしれない。
「おい。降りろ。着いたぞ」
 タクシーの外から、フィルの声がした。バッと顔を上げると、そこはカテドラルではなく、ど
こかの倉庫のような所だった。
「あんた、寄り道かよ……」
 ガクッと肩を落として、ヒロが溜息を吐いた。所詮、自分の勘など、こんなものだったのだろ
う。
「お前、まさかタクシーで乗り込むとでも思っていたのか?」
 侮蔑の色を隠そうともせずに、フィルはヒロの顔を覗き込んでいた。
 が、すぐに背後を振り向くと、倉庫から出てきた男に片手をあげた。
「管理人。取り寄せておいてもらったもの、取りに来た」
「ああ、ああ。届いてるさ」
 品のない男――それが、管理人へのヒロの印象だった。が、それ以上に、「取り寄せていたも
の」の方が、ヒロには気に掛かった。
「取り寄せていたものって?」
「大抵の場合、保険はかれておくものだ。大体、あの場所で敵が来るのは想像が付いた。そして、
私やシェラを止められるとしたら、あの男が出てくるのもな。その時、足を奪われた場合を想定
して、取り寄せていたものだ。」
 と、フィルが顎をしゃくる。
 その二人の前に、黒塗りの不気味なバイクが出された。
「……え?」
 ヒロがポカン、と口を開けた。バイクを見ての初めての感想は、「デカい」その一言だけだった。
「GSX1300R”HAYABUSA”改『デスアモス』――」
 管理人がニコニコしていた。カウルには銀色の刃が輝いている。
「いてッ!」
 その刃に触れたヒロは指先に痛みを覚えた。血が、出ていた。
「気をつけろ。削り出しだ。当たる角度を間違えれば、手首が落ちる」
 ポケットから金色のカードを取り出しながら、フィルがそう告げた。
「好きなだけ持っていけ」
 ゴールドカードだった。
「私の本当の『魔剣』は、こいつのことなのさ。」
 跨りながら、フィルが口元に笑みを浮かべた。 
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