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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのにじゅうはち
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遼来来 >

「――頼む、と気軽に言われてもねー」
 シェラは、通話の切れた携帯電話をひとにらみすると、ふところに仕舞った。
 そして、背後からぐんぐんと迫るフリッツのバイクを振り向いて見る。
「アレがどんなバケモノか、あっさり出し抜かれてバイク盗られたアンタが、一番わかってるで
しょうに」
 言いながら、携帯のかわりに愛銃を取り出す。
「おいおい、こんな街中で発砲する気か?」
 壬生があきれた声を出す。
「悪いけど、吸血鬼殺るのに手段は選ばないの。――っても、むやみに水平射撃を乱射したりは
しないから、安心なさい。あんた、ちょっとどいて」
 やっと来須から「依頼品」を取り返して、胸に抱き締めている三木を押しのけ、窓の外から、
フリッツのバイクのタイヤを狙うシェラ。
「ま、正面からのこんなミエミエの弾食らうほど、可愛げがあるヤツなら、苦労しないんだけど
ね……当たればラッキーってことで」

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山椒亭Gまる > 

 シェラが文句をたれつつ銃を構えたその時、三木の背後から「ドッ」という鈍い物音がした。
 ふと振りかえると、窓の外に「手」が2本、くっついていた。
 そして、その「手」と「手」の間に、上――つまり、屋根の方から逆さ向きの人の顔が降りて
くる。
 その肌は黒く、落ち窪んだ眼窩に、目玉だけがギラギラと異様な光をたたえている。
「……よぅ、元気?」
 と片手を挙げて挨拶をすると、窓の外の「客」も笑顔で挨拶を返した……などというわけはな
く、屋根の上から逆さまにへばりついたまま、目をむき、カッと口を開く。
 血の色の口と、鈍く光る牙。
「……。出た――――――――――ッ!!!!!」
 三木の絶叫と同時に反対側の窓から身を乗り出していたシェラが振り向き、そしてそのまま発
砲した。三木の髪の毛を数本巻き込みつつ、窓ガラスを貫通した弾丸はへばりついていた「客」
を車の後方へ吹き飛ばす。
「むやみに水平射撃はしないんじゃなかったのか?」
 白いひびの広がった窓にチラッと目をやり、言外にシェラの器物破損行為に悪態をつく壬生。
「臨機応変! どっちにしても、アレじゃ窓なんて破られたわよ。それより、次なる“ゲスト”
のお出ましみたいよ」
 わずかに、声に緊張の色を見せるシェラ。
「やれやれ、いくら片付けてもキリがありゃしねェ。……クソッタレが」
 いつの間にか、こちらも愛用の銃を構えていた来須。
「……」
 大口をあけたまま、未だに硬直したままの三木。

 ガクン、という衝撃と共に、車が止まった

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ツヴァイ >

「体は絶対にニュートラルにしろ」
 ヘルメットを投げながら、フィルはそう告げた。手ぶらになった手に、ゴーグルを取る。
「アンタ、メットは?」
 そう訊ねたヒロに、フィルは「いらん」と答え、
「メットがあっても、全開で転んだら死ぬ」
 そのフィルを見ながら、管理人は面白そうに笑い――、
「人の身でこれを運転したのは、二人だけ。それも一人目は、ヴィエドゴニャ。完全無欠の人間
ではなかった。――ああ、あなたも、真っ当な人間ではありませなんだな」
「……黙れ」
 フィルはエンジンを掛け、管理人を睨んだ。

 最初にそのバイクに乗った時のヒロの感想は、「鈍くさい」という一言だった。事実、デスア
モスはそこらの250にも負けるほど加速しかしなかったのだ。
「こんなので追い付くのかよ!」
 ヒロがハンドルを握っているフィルに怒鳴った。
「……首、気をつけろ」
 フィルは的はずれのような答えを返す。
「はあ?」
 首を傾げかけたヒロだったが、その直後、体が引っ張られるような感触を覚えた。
 6000回転を超えた瞬間、デスアモスは豹変したのだ。
「た、ターボ!?」
 デスアモスの心臓は、2.5リッター、ツインターボ。それも、6000という超高回転で発
動するタイプ。当然、「どっかんターボ」というヤツだ。
「う、うぎぎぎ……」
 ヒロが唸る。ムチウチにならなかったのは奇跡だった。
「衝撃、来るぞ」
 その耳に、微かにフィルの声が聞こえた。
「……え……?」
 生返事を返したヒロだったが、いきなり目の前に飛び散った赤い飛沫に、喉の奥で悲鳴を上げ
た。
 前方には、何匹かのグールがいた。
 フィルは躊躇せずにアクセルを開き、そのカウルに装備された牙で粉砕していく。削りだしの
牙は、文字通りグールを噛み砕く。
「あ、アンタ、見掛け通りアナーキーだったんだな……」
 そういうだけで、ヒロには精一杯だった。 
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