前頁戻る次頁


 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのにじゅうく
--------------------------------------------------------------------------------

山椒亭Gまる >

「しゃべっていると舌を噛む」
ヒロの言葉に、青年は短くそう答えただけだった。わずかに、その唇に笑みが浮かんだ様な表情
にヒロはハッとしたが、すぐにそれは見えなくなった。
 フィルが派手にバイクを傾け道を右折したのだ。
 ヒロが慌ててしがみつき直したその間にも、黒い旋風と化したデスアモスはグールを巻き込み、
吹き飛ばしていった。


 ガクン、という衝撃。
 止まった、と感じたのは一瞬で、直後に耳障りな音を立てて、車が派手にドリフトする。車に
しがみついていた残りのグール達はその衝撃で全て落ちたが、前輪が見事に破壊されていた。
「……どうやら、何がなんでも僕達を先に進めたくない様ですね」
 壬生が、静かにそう言って、扉をあけた。すでにその《気》は臨戦態勢のそれになっている。
 獲物を手に、来須、そしてシェラもそれに続く。
「死にたくなけりゃ、そこで荷物でも抱いて大人しくしてるんだな」
 来須の言葉に、三木は一瞬「え?」という顔をして外を見まわした。視界に入ったのは、周囲
を覆うような不自然な靄と、目だけをギラギラと輝かせたグール達。
「……ハイ。大人シクシテ待ッテマス♪」
「ったく、あのサボリ魔め。この貸しはちょっと高いわよ?」
 シェラは、すでに追いつきバイクを乗り捨て剣を構える騎士に、狙いを定めていた。しかし、
常なら捕捉と同じに発砲できるだけの実力者である彼女が、未だ引き金を引かずに……いや、引
けずにいた。
「今度はお前が相手か、凶手の女。だが……それ(銃)では私とは戦えん。忘れたか」
 騎士というよりは、闘士といった風情の鋭い眼光でシェラを見据えるフリッツ。自分達を取り
囲むグールを一瞥し、わずかに顔をしかめた。
「……どうやら、余計なものまで連れてきてくれた様だな」
 それに対し、シェラは「フン……」とわずかに鼻を鳴らしただけだった。
--------------------------------------------------------------------------------

ツヴァイ > 

「手間だな……」
 フィルが呟いた。そして僅かにヒロを振り返り、
「貴様、バイクは運転できるか?」
「……」
 沈黙するヒロ。ややあって、
「できるか! なんだよ、この化け物はッ!」
「なら、体はニュートラルにしていろ」
 フィルはそう言い、バイクをドリフトさせた。オンロードでは掟破りのその行動。だが、利点
も十二分にある。ハンドルを握る必要がないのだ。
 手ぶらになったフィルは、バイクの側面に備え付けてあったラックから銃を取り出した。
 ゴゥッと大口径特有の真円を描くマズルファイアと共に、弾丸が発射され、前方のグールを蹴
散らした。
 同時に、バイクのコントロールを取り戻し、再び加速させる。
「あんた、やっぱりアナーキーだろ! なんだよ、その銃! 44マグナムかなにかか!?」
 ヒロが悲鳴のような声で、想像できる最強の銃の名前を上げる。
「違う。フリーダムアームス・マキシ・カスタムという、カスタム銃だ。454カスールマグナ
ム。初活力は44マグナムの二倍強。本当なら、シェラの銃だが、一発くらいは構わんだろう」
 そう言うフィルのラックには、まだ二挺の銃が残っていた。
「そいつは……?」
「両方とも、ストレイヤーヴォルト・マキシ・カスタム。40S&W弾使用の、シェラの忘れ物
だ」
「吸血鬼専用ってヤツか!?」
「ああ。どんなヤツでも、急所に当てれば一発で塵にできるな。まぁ、シェラか俺でなけりゃ、
撃てない代物だが」
 加速するバイクが、二人を目的地へと進めていった。
--------------------------------------------------------------------------------

前頁戻る次頁

感想(そして参加)はコチラ↓
談話室



戻る