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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのく
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 遼来来 > 

 「ヒロくん!」
  突如、背後から声を掛けられたヒロは、比喩でなく一メートルは飛び上がった。
 「あ、葵せんせ……」
  振り向いた彼は、そこに憧れの人が佇んでいるのを見つけた。
  と同時に、あの異様な「閉じ込められた感覚」も、スッパリ消えていることに気付いた。
 (――なんだったんだ、今の感覚は? そういえば、昨日の歌舞伎町も……?)
  ヒロはいぶかしく思った。
  しかし、目の前に葵せんせがいる、というその事実の前に、その疑問はきれいさっぱり消え去
 った。
 「葵せんせ、どうしてココに?」
 「え……あ、あの、スズちゃんが病気で休むなんて珍しいから、よっぽどひどいのかと、お見舞
 いに……」
 「あー、やっぱり葵せんせは優しいなあ。確かに、あのガサツ女が病欠なんて、にわかには信じ
 られませんよね」
  ヒロが大声でそう言いきったその瞬間、彼の後ろの窓が勢い良く開き、
 「誰がなんですってえ? この不法侵入バカ!」
  脚から出てきたスズのキックが、ヒロを塀まで吹っ飛ばした。
 「スズちゃん! 大丈夫なの?」
 「あ、先生。ご心配おかけしました。ちょっと熱出しまして。でも、もう治ったみたいです。
 なんだか、原因不明なのが、不気味ですけど……」
 「スズ、居るんなら、返事くらいしろよな」
  したたか打った頭を抱えながら、ヒロが抗議する。
 「は? なんのことよ。あんたこそ、不法侵入する前に、チャイムくらい鳴らしたらどう?」
 「ああ? 死ぬほど鳴らしたろーが! 死人も起きるくらいによ!」 
 「嘘おっしゃい!」
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 テイル >

 (え……スズには聞こえてなかったのか!? チャイムあんなにならしたのに……。それにさ
 っきの感じ……歌舞伎町の時と同じ……)
 「? ……ヒロ、どうしたの?」
  スズの声で我に返ったヒロ。
 「ん? なんでもねえよ。まあ元気とわかったし、せんせかえりましょうよ。」 
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 ツヴァイ >

  家に帰って、少し考える。何か変なのは解った。ただ、具体的に何なのか、解らない。
 解らないから、落ち着かない。落ち着かないと、ただ不安になるだけだ。
  ――こういう時に、話がしたいのは・・・。
  ヒロはベッドの横に転がしていた携帯を手に取り、もう暗記した番号をプッシュする。スズの
 携帯に――。
  「お客様のおかけになった電話は、電波の届かないところにあるか電源が切られているため―
 ―」
  ピッと小さな電子音をさせて、ヒロは電話を切った。
  ――電波の届かないトコ・・・?
  時計に目をやると、時刻は十時を回ったところだ。
 「・・・いくら何でも、家にいるだろ。」
  薄手のブルゾンを手に取ると、ヒロはヘッドから起きあがった。

  ――電気がついてない・・・。
  街灯以外に光源のない中、ヒロはスズの家を見上げた。不思議と、不安感はなかった。不安は
 ないが、
 おぞましい感覚がブルゾンの袖や裾から入り込み、ザワザワと膚を撫でた。
  まさか昼間のような非常識すぎる行動に出るわけにも行かず、ヒロは玄関のノブに手を掛けた。
  簡単に開いた。靴もあった。……留守ではないらしい。
 「スズ・・・?」
  暗い室内に目を凝らし、ヒロが呟くように呼びかける。
  と、いきなり目の前にスズが現れた。
  いや、現れたわけではない。そこにいたのに、ヒロが気付いてなかったのだ。
 「お、おまッ!」
  その姿を見て、ヒロは絶句した。
  スズは、制服のブラウスを着ただけで、ボーッと立っていたのだ。
 「なんて格好してんだよ!」
  ブルゾンを脱ぎ、スズにかけるヒロ。
  と、スズの腕がスーッと伸びると、その両腕がヒロの首に回された。
 「ふふ、ふふふ・・・」
 「冗談やってる場合かよッ。ほら、離せよ。」
  とヒロが困った表情を見せるが、スズは構わずに顔を近づける。耳の下から首筋にかけてが粟
 だった。
 やや冷たい――いや、涼やかに感じるスズの息がかかっていた。
 「ひーちゃん・・・」
 「だから、よ――」
  よせ、と言おうとしたが、次の瞬間、スズの身体はヒロの前方へ投げ出されていた。
 今までスズの顔のあった空間には、代わりに黒いコートの袖と拳があった。
 「スズ!」
  一瞬、呆然となったヒロだったが、スズに駆け寄ろうとしたが、拳が開かれると、今度はヒロ
 を横に投げ飛ばしていた。
 「退いていろ」
  拳の主の低い声。
  ヒロが見上げると、右の頬にまるで狼にでも引っかかれたような傷のある男の顔。
  その男が右手をコートの下に突っ込んで一歩、踏み出す。
 「うううッ!」
  スズが跳ね起き、まるで狂犬のような表情で男をにらみ返す。
 「スズ、どうしたんだよ!」
  ヒロが怒鳴るように叫ぶが、スズは答えることはなく、代わりに男に飛びかかった。
 「エイメン!」
  男の右手がコートの下から銀色のホイールガンを抜き放ち、1秒と間をおかずに弾丸を放つ!
 「あああッ!」
  スズは身体を捻って避けようとしたが、肩にかすったらしい。
 「・・・なり損ないが、この俺に向かってくんじゃねェぜ。」
  男は体勢を崩したスズの横っ面に蹴りを叩き込み、倒れたスズの胸に銃口を向けた。
 「止めろッ! スズは僕の――」
  ――僕の・・・? 何だ・・・?
  ヒロが言葉に詰まる。今、どんな単語を口にしようとした?
  しかし、考える間など無い。
  ヒロがその男の右手に飛びつく。弾丸は逸れ、床に弾痕を穿った。
 「バカが! 退け!」
  男は右手を乱暴に振り、ヒロを振り解こうとする。
  が、ヒロは離れない。
 「きゃああああッ!」
  その隙をつくような形で、スズが二人に躍り掛かってきた! 
 「チッ!」
  男は短く舌打ちすると、右手を大きくスズの方へと振った。
  ヒロの身体はスズと衝突し、次の瞬間、男の左拳がヒロごとスズを撃ち抜いていた。
  ヒロの意識は一瞬にして寸断された・・・。 
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