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葵館・談話室

戦人記外伝其の参〜「訪問者達」〜

 

 異伝・東京魔人学園戦人記 第5,3話『訪問者達』

 ・・・墨田区での事件を片付けた数日後、俺達は、旧校
舎を再度訪れていた。
 今回の探索行には、俺自身は乗り気ではなかったが、場
所が場所である。人手が多いに越した事はない上、最近に
なって出てきた問題に鍛錬の場が無いというのがあった。
 俺が普段行っている、走り込みや、簡単なイメージトレ
ーニング、各種の体操(腹筋や腕立て等)に『型』の練習
だけでは、身体能力の低下は防いだり、体力の維持は出来
ても、技量の向上など到底望めない。
 『力』だけを求めたり、武道家、格闘家という人種がよ
く口にする『技を高める事に快感を感じる』等と言う性癖
は俺には無縁の物だし、無駄、無益な闘争や殺生は大いに
嫌う所だが、もう何度となく遭遇し、そしてこれからも起
こりうるであろう、<力>が絡んだ騒動に対する備えを怠る
事は出来ない。
 一度、近所の公園で京一達を相手に組み手をやったはい
いが、早とちりした近所のオバサンに(木刀なんぞ持って
る奴が悪い!)警官を呼ばれ、誤解を解くのにえらく難儀
したという笑えない状況になった事があり、鍛錬の場が無
いのは、深刻ではないが、無視出来ない問題だった。
  それはさておき、今現在俺達がいるのは、以前撤退し
た階層から数え、15階程降りた所である。
 此処に至るまでの間に、『敵』は以前にも増して出現し
たものの、俺達は前の経験を元に、予備の武器や各種の薬
を充分用意していた。そして『力』の使い方にも慣れた為
か、皆の体力や気力にも、まだ幾分の余裕が感じられる。
『体もたぬ精霊の燃える楯よ、私達に守護を・・・』
 美里の声が響くと同時に、俺や京一の全身をオーロラに
も似た、金色の光が包み込んだ後、消える。
 今まで、負傷らしい負傷をせずに済んでいるのは、ひと
えに美里のこの『力』のおかげである。
 俺の『断空旋』も防御手段の一つとして使えるが、いか
んせんあれは、効果を得られるのは俺一人の上、持続時間
も大して長くないし、連発も利かない為、身も蓋も無く言
えば、『ないよりマシ』程度の物だ。
「慣れていくのね・・・、自分でもわかる・・・」
 すぐそばで、『前線』への援護射撃を行っている親友に
聞こえない程の声で、葵はそう呟いた。
 『力』に目醒めたばかりの頃は、僅か数回の使用で目眩
や、息切れを起こしたのに、今では全員に掛け終えた後で
も、まだ充分、余力が残っているのだ。
 ・・・自分と友人達が持っている『力』は、一つ闘いを
潜り抜ける度に、確実に強くなっているようだ。だがその
事を喜ぶべきか、悲しむべきかは彼女にはわからない・・
・・・・。
「『『力』を持った事を恐れん奴は阿呆だ。だが、恐れる
余り、為すべき事を為さないのは、怯惰だ。そして『力』
を持った事に酔い、溺れる奴は痴れ者だ』、か・・・」
 五月蝿く頭上を飛び回る、コウモリ目掛け発砲しつつ、
なんとなく俺が呟いた時、隣で刀を振るい、飛び掛かって
来た狂犬を一太刀で斬り捨てた京一がこっちを見る。
「なんかいったか? 風間」
「何でもない、独り言だ」
 返事の後、少し後方にいる美里達を見やる。醍醐も前に
出て掃討戦を手伝っている為、その分、気をつけなくては
ならない。
 起こり得ない事が起こり、ちょっとした判断ミスや、一
瞬にも満たぬ弛緩が容易に致命的な物に成るのが戦いなの
だ、警戒し過ぎる等と言う事は無い。
(今の所、大丈夫だな・・・) 
 二人の安全を確かめ、意識を再度、眼前に引き戻す。他
人の心配をしていて、逆に自分が怪我などしたら間抜けも
いい所だ。
 前方に漂う『人形』に向かって、左手に持った銃を構え
ると同時に、引金を引く。
 ガウンッ!!
「おぉぉ・・・」
 『発けい』と同じく、『気』のエネルギーを凝縮した弾
丸を撃ち込まれ、薄気味悪い悲鳴を残し、『人形』は粉々
に砕け散った。
 ・・・そしてこのフロアで襲って来た『妖物』共も尽く
葬り去られ、その後に続く戦後処理(敵の持っていた道具
類の回収と、負傷者がいればその手当)も終わった所で俺
は皆に声を掛ける。
「もういいだろう、色々、収穫もあったし。それに欲をか
くとロクな事がない」
「オレも賛成。早めに引き上げようぜ」
「そうだな、前が前だしな」
 京一に続いて、醍醐も賛同する。女性陣も同様で、『長
居は無用』とばかりに、俺達はこの『お化け屋敷』から脱
出すべく、登り階段へと向かう。
 京一と醍醐が先頭に立ち、美里に桜井が続く。 
 そして俺は、万が一の『妖物』共の追撃に備え、殿軍に
つく。たとえその可能性が低くとも、旧校舎の敷地から脱
出するまで、気を抜く訳にはいかない。おおよそ此処は、
『油断』そして『常識』なんて言葉が存在を許される場所
では無いのだから。
 ひたすら階段を登り続け、膝と腰が単純作業に不平を鳴
らし始めた頃、漸く、地上部分へ這い上がる事が出来た。
 地下への入り口の扉を閉じた後、抜け穴を潜って、校舎
外へ出る。
「あーー、疲れた」
「そうだね・・・」
 大きく伸びをする京一の横で、桜井も軽く肩を叩き、そ
れに応じる。
「うむ・・・。しかし全員、大した怪我も無かったから良
しとしよう」
 ごきごきと、首を鳴らす醍醐の横で美里が頷いている。
「明日は学校だしな、早く帰って体を休めた方が良い」
 言いつつ、俺は皆から預かった『戦利品』の荷造りを終
え、そのうちの一つを肩にかついで立ち上がる。
「それじゃ、お先」
 言いつつ、次の荷物に手を伸ばした時。京一が素早くそ
れを持ち上げた。
「?」
「一人で運ぶには、少し骨だろ。お前ん家まで持ってって
やるよ」
「骨と言う程では無い、一人で充分だ」
「ま、いいから、いいから。人の親切は素直に受けな」
「礼は言わんぞ」
「ンなモン、ムサい野郎に言われても、嬉しくねーよ」
「言ってろ」
「・・・あのさ、ボクも行っていいかな? 風間クンが、
どんなトコに住んでいるのか、興味あるし」
「そういえば、まだ風間の家がどこにあるのか、おれも知
らないな」
「・・・好きにすれば良い」
 それだけを言って、きびすを返す。 
「ほら、葵も一緒にいこうよッ」
「え、でも・・・。迷惑なんじゃないかしら・・・」
「大丈夫、大丈夫、そんなコトないって。早くしないと置
いてかれちゃうよ」
 そう笑いかけて、桜井は、美里の手を引く様にして、少
し先を歩いて行く友人達の後を追った。
 そして、通学路を歩いていた時。
「ねえ、風間クン」
 背後からの、桜井の呼びかけに振り向かずに答える。
「なんだ」
「風間クンってさあ、あだ名とかあるの?」
「あだ名?」
「そう。友達とか、仲のいいコ同士、そういう名前で呼び
あったりしなかった?」
「そんなものは無い。皆、名字呼び捨てだ」
「そう・・・。でもそういうのって、なんか味気無いって
思わない?」
「思わん。大体、幼児の頃ならともかく、高校生にもなっ
て、あだ名なんぞで呼びあう方が変だ」
「そーかなぁ。『風間』だから、カッちゃんとか、まーく
ん。後、名前の頭から、しーちゃんとかさ・・・」
「・・・『〜ちゃん』も『くん』も止めろ。本人が呼び捨
てでいいと言ってるんだ。呼び方に凝る必要なんぞ無かろ
う」
「だったら、『翔』ってのはどーよ?」
 横から会話に加わった京一の方を、俺は横目で見る。
「何だ、その呼び方は。人の名前を短縮して呼ぶんじゃな
い」
「いいだろ、別に。呼び易いし、響きもいいし」
「・・・・・・勝手にしろ」
 などと雑談しつつ、学校を出て歩く事、約十五分。一戸
建や、中層マンションが立ち並ぶ住宅街の一角で俺は立ち
止まった。
「着いたぞ」
「ここが風間クンの住んでるトコか・・・」
 建物を見上げた桜井がお決まりの感想を口にする。
 カードキーでセキュリティを解除し、建物へ入る。エレ
ベーターで三階に上がり、通路を通って自室へと向かう。
 暗証番号を打ち込んで電子ロックを外し、皆を招き入れ
た後、入ってすぐの、右側のドアを指す。
「そこの部屋に荷物を置いたら、廊下の突き当たりに有る
居間に入って待っていてくれ」
「あ、こっちのドアは何?」
「俺の部屋だ。・・・京一、入るなよ」
「なんでオレなんだよ!?」
「気にするな、冗談だ。あぁ、そうだ。居間に入ったら、
置いて有る物があるから、足元に気を付けといてくれ」
 そう言い残して俺は茶の用意の為、台所へ向かった。茶
を煎れ、煎餅の缶を引っ張りだした時。
「うわっ!!」
 ドアノブが開く音がした後、その声と同時に物が飛び散
る様な音が響いた。強烈に嫌な予感がし、居間に入る。
 完成間近だったジグソーパズルが原型もとどめず、破壊
されており、辺りに散乱した無数のピースを醍醐達がかき
集めていた。立ち尽くす俺に気付いた京一が、両手を合わ
して謝った。
「あ・・・、悪ィ」
「いや・・・、いい。片付けて無かったのは、俺だからな
・・・」
(終わった、何もかも・・・・・・)
 内心の落胆を抑えながら答え、片付けに加わる。そして
後始末を適当な所で切り上げ、全員が居間に座った所で茶
を煎れ、皆に勧めた。
「いいトコロじゃねぇか、風間」
「そうだね。広いし、綺麗だし、家賃とか高いんじゃない
の?」
「自分の家に家賃は払わんぞ」
「へ? 借りてんじゃねェのかよ?」
「ああ、名義は親父の物だがな」
「お前の親父さんって、何をやっているんだ?」
「外資系企業の社員だ、単身赴任中だがな」
 その時、桜井がTVの側に置いてあった、写真立てを見
つけて手に取った。
「この人でしょ、お父さんって?」
「ああ」
「どんな人なんだよ?」
「うーーん。有能ではあるんだが、性格の方に少し難有り
でな、上からは睨まれてた様だな。この春に、手腕を見込
まれて、南米の方に有る、支社の建て直しの為に派遣され
たんだが・・・、表向きは出世だが、実質は島流し用の島
に流されたって言った方がいいな。多分、5〜6年は日本
に帰ってこれんだろうな・・・」
「『この親にして〜』か・・・」
「何か言ったか?」
「いや、別に・・・。それより、こっちの女の人は誰なん
だよ?」
「姉と妹だ」
「姉妹いたんだ・・・、お父さんに付いていったの?」
「もういない。事故に遭ってな」
「あ・・・、その、ゴメン・・・」
「謝る事は無い、もう済んだ事だ」
 その時、部屋の隅から、小さな物音と鳴き声がして。い
ささか気まずくなった空気を変える機会が訪れた。
「あいつら、起きたか」
「何か飼ってるの?」
「ハムスターだ。飼うと言うより、居候だな」
「なんて名前なの?」
 美里がそう聞いてくる。
「真っ白の方が『まる』。もう一匹が『こげ』だ」
『風間・・・、お前、ネーミングのセンスねぇな」
「五月蝿い。どーせ適当につけた名だ」
「風間クン、触ってもいい?」
「ああ、割と慣れてるから。噛み付きはせんよ」
 興味深々といった様子で桜井が篭に近寄る、その間に俺
は茶を煎れ直し、皆に出していく。
 それからしばらくの間、今日の旧校舎での出来事を話題
に、皆で色々と話し合った。
 ーー今回の探索でも、刀や槍等の武器、指輪や面、つい
でに土偶や藁人形(汗)、判読不可の文字が書かれた符な
どの一見、ガラクタにしか見えない装身具と道具類。
 更に七福神の絵が描かれた正体不明の液体が入った陶器
製の小さな瓶に、例の『如月骨董品』で売っているのと同
じ、各種の薬品を大量に回収した。
(武器もそうだが、道具に装身具類も使途不明の物が非常
に多い、どこかで鑑定等出来ない物か・・・)
 加えて、多額の現金を得たが、中でも最大の収穫と言え
ば、複数の人間で『力』を同時に放つ事で、同調、増幅さ
せ、単体では到底成し得ない程の破壊力を持つ特殊な攻撃
方法を編み出した・・・と、言う事だろうか。
 今の所、京一と醍醐、美里と桜井の組み合わせで、この
一風変わった『力』を発動させる事が出来る。
 この事から、『力』を発動させる為の要素として、精神
的な波長が合う・・・、平たく言えば、人同士の相性や、
つながりといった物が、かなり重要になっているのでは?
という事が推測出来る。
 もちろん、それが絶対条件と言う訳でも無く、他にも『
力』の特性や能力が似通った者同士でも、こういう『力』
を発現させる事が可能かも知れないが。
 ・・・近い内に、雨紋や高見沢など、俺達以外に『力』
を持っている連中に声を掛けて、この『力』を発動出来る
かどうか、調べてみようと考えている。
 それと少し気になるのが、美里と組んで、『力』が発動
するかどうか、試した時の事だ。
 互いに呼吸を合わし、精神を集中させて、『力』を蓄積
させていく。その過程で『波動』もしくは、『共振』とで
も言えばいいのか? とにかく圧倒的に強く、そして互い
に引き合う様な感覚を感じたものの、いざ『力』を解放し
ようとした瞬間、充分高まっていた筈の『力』は雲散霧消
してしまった。当然の事ながら、その原因は不明。
 何故、あれ程高まった『力』が発動しないのか? と、
首を傾げつつ、更に数回試してみたが、一度として成功せ
ず、最後には美里に俺も、軽い疲労や目まい等を感じた為
に、実験は中断。
 まあ、詳しい原理や理屈も不明のまま、使おうとしてい
る物だから、うまくいかない所もあって当然だろうが、
それにしても、どちらに原因があるのやら・・・・・・。
 勿論、良い事ばかりでは無く、この攻撃方法にもデメリ
ットは存在する。古人曰く、『美味い話には裏がある』と
は、よく言った物だ。 
 まず第一に、使いたい時にすぐ使える訳では無い。引き
出した『力』を収束させ、爆発させる為に、多少『溜め』
の時間を必要とする、そして破壊力相応の体力や精神力を
消耗する事から、多用は出来ない。
 次に、攻撃範囲が大して広くなく、発動させる為には、
ある程度敵に近づかなくてはならない。この点が、美里や
桜井には大きな問題である。二人とも、運動神経は悪くな
いが、能力的には後方支援が本領であり、もし仕留め損ね
た時に二人にかかるリスクは致命的な物に成り得る。
 こういった問題がある以上、何らかの対策を見つけない
事には、この攻撃法を戦力として計算に入れる訳にはいか
なかった。
 そして、旧校舎で回収した現金については、例の『如月
骨董品』での武器や道具等の購入資金、そして美里や俺の
手に余る様な負傷者が出た時、桜ケ丘で治療してもらう時
の支払いに使用するという結論に達した。
 (若干一名は、『そういうのも大事だけど、皆で遊んだ
り、美味いモンでも食うのにも遣おうぜ』などと主張した
物だが、その意見は議論の末、却下された) 

 ーー等といった話が途切れ、ふと、醍醐が腕時計に目を
やったと同時に、壁掛け時計から数年前にヒットした歌の
メロディが流れる。
「もうこんな時間か・・・」
「そろそろ帰らないとね」
「そうね・・・」
 言いつつ、皆が立ち上がった時、盛大な音と立てて、誰
かの腹の虫が鳴いた。全員の視線が一斉にそちらを向く。
「いやーー。さんざん動いたモンだから、腹減っちまって
よ・・・」
「お前と言う奴は・・・」
 そう言って、醍醐が小言モードに入ろうとした時。似た
様な音が別の方から、再び聞こえた。
「オレじゃねぇぞ・・・」
「ゴメン。今のボク・・・」
「小蒔ったら・・・」
「よし、これからみんなで何か食いに・・・」
「十五分か、そこら待っていろ」
「え?」
「わざわざ外に出るのも面倒だからな、有り合わせの物で
よければ、用意する」
 そう言って台所へと向かった。冷凍庫から、必要な物を
取り出してレンジに入れ、解凍している間に次の準備に取
り掛かる、野菜を刻み終え、解凍が終わった物を鍋に放り
込んだ時。
「あの・・・、何か手伝える事はない?」
「いや、一人で充分だ。客は向こうで座って待ってろ」
 鍋の中身をかき混ぜながら、美里に答える。
「でも・・・何か悪いし・・・」
「・・・なら、そこの食器棚から皿を出して置いてくれ」
「わかったわ」
 それから約二十分後・・・。
 テーブル上にはヨーグルトをかけたサラダと牛乳、そし
て鍋からは食欲を刺激する、香ばしい匂いが漂う。
 鍋の中身を皆の皿によそおっていった時、京一が注文を
付けた。
「あ、オレ大盛りね」
「おれもだ」
「ボクは普通でいいや」
「わたしも小蒔と同じぐらいで・・・」
 そして全員がテーブルに付いた所で、桜井が元気な声を
張り上げた。
「それじゃ、いっただきまーーす」
 皆がスプーンを口に運んだ瞬間。
「むう!?」
「うッ!?」
「これは・・・」
「かっ、辛れぇーーッ!! なんだこのカレーは!?」
 京一の悲鳴混じりの声に最初の一口を飲み下した俺は答
える。
「・・・・・・かなりの甘口だが」
「馬鹿いえ、どこをどうしたら、これが甘いんだよ!!」
「何をいう、どこぞのカレー屋で言う、4辛という所だ。
それに俺の家のカレーは香辛料をたっぷりと効かせたのが
基本だ」
「あのなァーーッ!!」
「うるさいぞ。出された物は黙って食え、京一」
 そう言った醍醐は黙々とスプーンを口に運ぶ、美里に桜
井も同様だが、額には汗が浮かび、若干顔が紅潮している
様に見える。
「・・・三人共、無理してまで食べなくてもいいぞ?」
「そんな事は無い。下手な店の物より、ずっと旨い」
「うん。ちょっと辛いけどね・・・」
「そうね・・・」
 それから暫くの間、会話は途切れ、全員出された料理の
征服に専念したのだった。そして・・・。  
「御馳走様でした」
「ボク、もう何も入らないや・・・」
「ふう〜。食った、食った」
「こら。行儀が悪いぞ、京一」
 四者四様の台詞を聞きながら、俺は食後の茶と、果物を
出して行く。
「しっかし闘いだけじゃなく、家事までこなせるなんて、
お前、器用な奴だな」
「そうだね。家事が上手な男の人って、多い様で結構少な
いし」
「・・・大した事では無い。子供の頃からやっていれば、
自然と出来る様になる」
「悪いな、風間。長居した上、夕食まで世話になって・・
・」
「別に。外食は嫌いだからな、手間を省いただけだ。それ
に訪ねて来た客を、空腹で帰すってのもなんだしな」 
 返事をしながら、手早く汚れた皿を重ね、台所に運ぶ。
「はい、これで最後だから」 
「そうか」
 美里から食器の残り分を受け取ると、纏めて食器洗い器
の中へ放り込む。
「悪いな。客に用意だけで無く、片付けまで手伝わせて・
・・」
「いいのよ、気にしないで」 
 スイッチを入れ、ガタガタと過重労働に対する不満を述
べつつ、動き出した食器洗い器に後を任せ、居間に戻る。
 そして居間では皆が、先程煎れた茶と果物をつまみなが
ら、TVを見たり、雑談をしたりと、思い思いに寛いでお
り、室内には適度の賑やかさと、落ち着いた雰囲気が入り
混じった空気がたゆたっている。
「・・・。こういう雰囲気は、久しぶりだな・・・」
「あ・・・、風間くんは、騒がしいのは、あんまり好きじ
ゃなかったわね・・・」 
「いや・・・。たまには、こういう時間を過ごすのも、悪
くは無い」
「風間、そこにカードがあったんだけど、これで勝負しね
ーか?」
「ほら、葵も来なよ。一緒に遊ぼうよ」
「・・・いいだろう。ポーカー、ブラックジャック、セブ
ンブリッジ。どれにするんだ?」
「ハバ抜きはどうかしら?」
「ダウトもいいんじゃないのか?」
「大富豪にしようぜ、一人多いけど、勝ち抜き戦って、事
にしたらいいしよ」
「あっ、それ賛成。負けたら、当然罰ゲーム付きね」
「げ。またかよ・・・」
 ・・・こうして食後の居間は、俄にカードゲームの対戦
会場となり、白熱の好勝負が繰り返された。
 結果はと言うと、一人だけ、徹底的に勝運に見放された
不運な奴がおり、対戦終了後、罰ゲームの内容を聞いて頭
を抱えるハメになった。と、だけ言っておこう・・・。

 異伝・東京魔人学園戦人記 第5,3話『訪問者達』完

 
 
 

 戦人記・第六話へ続く。

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