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真・Water Gate Cafe
談話室
 「異伝・東京魔人学園戦人記」〜第参話外伝「旧校舎狂騒曲」
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 ――それは、中央公園での花見から数日後の事だった。
 今日は土曜日なので、帰りのHRが終わっても、遊ぶにせよ、用事をするにせよ、時間は充分
に有る。
(さて、どうしようか……)
 考えながら、校門前まで、歩いていった時。
「おーい、風間。待ってくれーッ」
 大声で呼び止められ、足を止める。
「京一か、用でも有るのか?」
「お前、明日ヒマか?」
「いきなり何だ?」
「いや、お前にちょいと相談があってよ」
「相談?」
「ああ、実はな……明日みんなで旧校舎に行かねェか?」
「はあ?」
「醍醐がいってたんだがよ、『おれ達はこの『力』について知らないことが多過ぎる。だから、
この『力』が一体なんなのかを確かめる為にもう一度、旧校舎に行ってみないか?』ってな。
 それに、前も言ったけど、何かお宝とか埋まってるかもしれねーしなッ」
「………………」
「で、どーするよ?」
(……どうせ、あそこの調査は、先週行うつもりだった。それに……この前買った手甲を、実戦
で試すいい機会になるかもしれないな……)
「……俺も行こう。何時に集合すればいいんだ?」
「それは後で連絡するから、じゃあなッ」
「ああ」
 話もまとまった所で、挨拶して俺達は別れた。


 ――翌日。
 集合場所に指定されたレスリング部の部室に俺が入った時、他の四人はすでに来ていた。
「風間ッ。遅ぇぞッ」
「まだ時間には余裕があるが……?」
「きょーいち、キミだって今さっき来たばかりだろッ。でも、これでみんな揃ったね」
「ええ」
「よし、みんな。いくぞッ」
 醍醐が先頭になり、旧校舎へ向かう。遠野に教えてもらった穴を使い、内部へ侵入する。
 廊下を歩き、この前コウモリ共と一戦交えた部屋を通り過ぎ、更に奥、地下への階段が有ると
噂される所へと向かう。
 そして、廊下の突き当たりにある部屋に入った。
「噂だと、この辺りに階段が有る筈だが……」
「おい。こっちだ」
 京一が何かを見つけたらしく、俺達に声を掛ける。見れば床に1m四方ほどの大きさがある扉
があった。
 掛けられていた南京錠をやすりで切断し、オトコ三人がかりで扉をこじ上げ、持ち上げる。
「ぬおおおおおおお」
 実際はほとんど醍醐が引き受けた感もあるが、ともあれ扉は動き始め、錆付いた蝶番がきしん
で、地下への道が現れた。
 梯子は――有った。サビて変色してはいるが、残っている。
 2,3度動かして、強度を確かめた後、まずは俺が梯子を降りてみる。
 地下に降りたった後、さしあたって危険が無いのを確かめた上で、声を掛ける。
「大丈夫だ、皆降りて来い」
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 京一を先頭に皆が降りて来た。
 既に全員得物を手にし、いつでも闘える様に備えている。コウモリのリベンジもあり得るのだ
から、当然だ。
 その穴が、人の手が加えられた物である証拠に、梯子のある辺りは、壁に床もコンクリートで
塗り固められている。
 だが、歩き出してどれほども経たないうちに、光景が変わった。
 足元がごつこつとした岩場に変り、緩やかな傾斜を持った直径約3mぐらいのトンネル状にな
って奥へと続いている。
 ヒカリゴケでも生えているのか、壁面全体がうっすらと光って見えるが、とても充分な光量と
は言えない為、ライトで照らしながら十数m進んだ時、俺達は広間へと出た。

 ヒカリゴケの生えている量は先程よりかなり多く、ライトを必要としない程だ。
 そして全体の広さはサッカー場より広く、天井は見えない。
「おい醍醐……」
「なんだ?」
「信じられるか? 学校の地下にこんなデカい洞窟があるってこと……」
「うむ……」
 醍醐と京一の会話に桜井が加わる。
「ねえ。もしかしてだけど、この洞窟って『異次元空間』になってたりして……」
「バーカ。お前マンガの読み過ぎだよ。学校の地下に異次元空間なんてあるワケねーだろ?」
「だって、そうとしか思えないよ。大体……」
 後ろから聞こえて来る話声を聞きながら、俺は周囲に警戒の視線を送っていたが、その時。
『ガルルルル……』
『キイキイ……』
『カタカタカタ……』
 ――首筋にちりちりと不愉快な感覚が走ると同時に、耳障りな音が複数湧き起こる。
 見れば、既に相手にした事が有るコウモリや狂犬共に混じり、新顔で「宙に浮いて笑い声を
出す人形」なんて物までいる。
「……とんだお化け屋敷に踏み込んじまったな」
 小さく呟いた後、皆に指示と注意を出す。
「俺と京一が前衛にあたる。醍醐、お前は討ち漏らしの始末と、女性陣の直衛を頼む」
「おうよ」
「うむ」
「美里は防御術を全員に掛けて後は待機、桜井は援護に徹しろ。皆注意を怠るな、新手が来る
かもしれんぞ」
「うんッ」
「わかったわ」
 奴等は、俺達を手頃な獲物と見たのか、近寄ってくる。
「来いよ、いくらでも相手してやるぜッ!」
 京一のその声がそのまま、戦闘開始の合図となった。

 コウモリや狂犬などの「おなじみさん」は、さして怖くないのがわかっている。対処の仕方も
承知なので、ほとんど軽くあしらえた。
 問題は「人形」だったが、不気味なだけで所詮は人形、桜井の矢で、あっさり撃ち落された。
 ――そのあと、ものの五分程で『敵』を駆逐し終え、
「なんでえ、こんなもんかよ」
 などと京一が得意そうな声をあげた時、突然『ごうん』と重々しい音がした。
 音の発生源らしき方向を見れば、今まで何も無かった所に、怪しい下り階段が出現している。
「どうなっているんだ……?」
「考えてもしかたねーだろ。行って見ようぜ」
 俺の呟きに京一が答える。
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 ――最初に降り立った場所を、暫定的に『一階』とし、そこから俺達は降り続けた。
 相変わらず『敵』はわらわらと現れるが、たいして強くはないので、片っ端から薙ぎ倒してい
ったのだが……。
 途中五階あたりの敵を撃退した時、下り階段の他に、初めて登り階段が現れた。天井をぶち抜
いて、延々と続いているところを見ると、「帰り道」か?
「さて、進むべきか、退くべきか……」
「余力が有るうちに退く方がいいと思うぞ」
「そうね……」
「あれ、京一は?」
「そういえば……って、どこへ行く! まだ進むと決まった訳じゃ……」
 桜井の声に辺りを見回せば、京一はさっさと階段を降りていく。
 放って置く訳にもいかず、すぐに後を追いかけたものの、五分もしないうちに後悔する羽目に
なった。
 階段を降り、『六階』に着くと同時に、1ダースを越える数の敵に襲われたのだ。
 即座に応戦しながら、この(余計な)危機を呼び込んだ張本人に向かい悪態をついた。
「こういう可能性があるから、退こうと思ってたのに、ほいほいと進みやがって。少しは考えて
から行動しろッ!! このドジ!!」
「待った、待った、すんだコトを責めたってはじまらねーだろ、風間。いまこのピンチをどうす
るかを考えるべきだって」
「口だけは達者だな、ええ」
「二人共、漫才やってないで、闘いに集中しろッ!!」

 ――こんなゴタゴタの後、更に階段を降りていったが、そこからは今までと同じような光景が
続いた。出てくる「敵」も、2〜3種の新手が加わったが、数は大して多くなく、そう手間取る
事なく全滅させた。
 そして、九階にいた『妖物』共を叩きのめした後……。
「京一ィ」
「なんだよ、小蒔?」
「なんか……ゲームやってるような気がしない?」
「ゲーム?」
「うん。迷路の中を歩き回って、出てくる怪物をやっつけて、全部倒したら次の面へ。ってね」
「いえてるな……」
「……ゲームと違う所があるとしたら、返り討ち喰らって『ゲームオーバー』になっても、コン
ティニューやリセットボタンも無いって事だ」
「そうだな。みんな気を抜くなよ」
「大丈夫だって」
「そうそう。楽勝、楽勝」
 この会話の後、十階に到達した俺達は、それまでで最大規模の『妖物』共の襲撃を受けた。
「あーッ、もう! 撃っても撃ってもキリが無いよ〜!」
「くっ……なんて数だッ」
「みんな、無茶しないで。体もたぬ精霊の燃える……」
「ザコがぞろぞろと……。うっとおしいんだよッ!!」
「……うぜぇ(青筋)」
 それでも、敵の総数の四分の三以上を片し、乱戦から掃討戦に移りかけた時。
『ボンッ!!』
 突出していた京一が、人魂の様な物から、攻撃を受けた瞬間、全身煙に包まれた。
「何だッ!?」
 そして、その煙が消えると……。
「ウキ?」
「きょ、京一が……」
「猿になった……?」
「どうなってるの……」
「キーーッ!!(混乱+呪詛)」
「痛たたッ!! 驚いてないで誰か何とかしてくれッ!! 止めろ、噛むなッ、引っかくなッ!
止めろってんだろ、この馬鹿猿ッ!!」
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 ――この後五分程して、ようやくせん滅する事が出来た。
 大怪我をした者は居なかったが、皆かなり疲労していた。ちなみに京一猿も、「呪い」を掛け
た相手が倒れたためか、元に戻った。
「みんな無事か!?」
「何とかな……」
「もう矢が無いよ〜」
「撤退だな、これ以上降りても『百害あって、一利無し』だ」
「私もそう思うわ……」
 へたりこんだ醍醐達四人に、俺は如月骨董品店で入手した怪しい丸薬(注・実験済み)を渡し、
更に『集気掌』で手当をしていく。途中からは美里も『癒しの光』で手伝ってくれた為、意外と
早く終わり、終わった所で脱出の為、登り階段を歩きだす。
「なあ」
「なんだ」
「不思議におもったんだケドよ」
「だからなんだ」
「なんであのバケモノ共、ブチのめした後で金を落としたり、武器やヘンな薬になるんだろうな
?」
「さあな。まあ、理由は訓練かな。あくまでも想像だが――軍の施設だったと言うし――命懸け
で敵を倒したご褒美ってなとこか。原理は――体のどっかに隠されていたんだろ。そうとでも考
えないと、おかしくなるぞ。真剣に考えた所で、正解を導き出せるとは思えんよ」
「そうだよね……。一応全部拾ってもってきたけどさ……。醍醐クンは?」
「うむ、おれも同じだ。色々拾ったぞ」
「この金使えるのかよ?」
 京一が手にした札をひらひらと動かしながら言った。
「どのくらいあるのか、数えてみよっか?」
 桜井の声に皆が頷いた時、俺は京一に小声で囁く。
「京一」
「あんだよ風間?」
「尻ポケットのも出せよ」
「な、なんのコトだよ?」
「とぼけても無駄だ」
「……わーったよ。抜け目のねェ奴だぜ、お前はよ……」
 渋々、尻ポケットに手を延ばす京一。
 合計すると平均的なサラリーマンの小遣いの数倍の額になった。学生が持つにはいささか、い
や、かなり多過ぎる額である。
「みんな、この金をどうすべきと思う?」
「ここは一つ、パーーッと使っちまおう……」
『『『却下』』』
 俺と醍醐、桜井の声がハモった。
「やっぱり、警察に届けるべきじゃ……」
 次に美里が正論を述べる。
「少々額が多過ぎる。それに、財布を拾ったって事にしても、免許証やカードとかが入って無い
からな、説得力が薄い。根掘り葉掘り聞かれると面倒な事になる」
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「お金もそうだけど、それより武器とかは、どうするのさ? 危なくて、家には置けないよ」
「それは問題無い」
「え?」
 俺の声に桜井が振り向いた。
「俺の家に空き部屋が有る」
「いいのか、風間?」
「ああ。そこは普段は使わない物を入れて置く所にしているからな、そこに置くといい」
「ならそうしようぜ」
「そうだな。……そうだ風間。お前がその金を預かってくれないか?」
「俺が? お前や美里が持ってればいいだろうに」
 そう言った事を喋っている内に、一階に着いた。梯子を登り、旧校舎の地上部分へ這い上がる。
 そして旧校舎を出た時、既に夕暮れが迫っていた。
 地下に降りたのは、昼過ぎだったから、戦闘と移動を数時間に渡って繰り返していた事になる。
「やれやれ、大変な一日だったな」
 肩を鳴らす俺に、醍醐が話掛けて来た。
「まあな。しかし、それなりの収穫はあったとおもうぞ。ところで風間、お前に頼みがあるんだ
が……」
「頼み?」
「その……お前の良く使っている、手から出す『見えない衝撃波』というか、『気』か何かで相
手を吹っ飛ばす技か?、それをおれに教えてもらえないか?」
「……どうしても、って言うなら、理屈とコツは教えてやるが、それ以上は面倒見んぞ。ま、下
地はあるし、お前だったら、そう収得に手間は掛からんだろう」
「そうか。なら、よろしく頼む」
「ああ。それとだな、今日回収した金の方は、とりあえず手を付けずに保管しておこう。そして
武器の類は、必要な奴が使うって事でいいんじゃないか? まぁ、こんな物使う機会なんぞ、無
いに越した事は無いがな」
「そうだな、そうあって欲しいものだが……」
 醍醐との話の後、回収した『戦利品』を皆から受け取って、纏めて荷作りした後、挨拶とねぎ
らいの言葉を交わしつつ、俺達はそれぞれ家路へと向かったのだった……。
 


 異伝・東京魔人学園戦人記参話外伝『旧校舎狂騒曲』完。
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