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真・Water Gate Cafe
談話室
 「異伝・東京魔人学園戦人記」〜第四話「魔鳥」其の参
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  ■渋谷某所路地裏■

 ――路地裏での鴉共との戦闘は、ほんの1〜2分で終結した。
 桜井の弓や美里の防御術は使わずじまい。
 そして俺と醍醐も一発ずつ『発剄』を放った以外、殆ど出番は無し。残りは京一が、一人で片
付けてしまった……。
 そして木刀を袋にしまった京一が襲われていた女性に近寄った。
「お嬢サン、大丈夫ですか?」
「えェ……。ありがとう」
 礼を言った後、女性はスーツの汚れを払った。非礼にならない程度に観察する。
 ……年は20代半ば頃か、短く整えた髪と機能的なスーツ、全身から放たれる活動的な雰囲気
といい、ルーティンワークに従事するOLと言う感じはしない。単なる書類処理能力より、才覚
が重視される職業を生業としている人間であるのは確かだ。
「ボクたちが、たまたま近くにいて良かった」
 いつもとは違う言葉遣いをする京一と俺達を交互に見た後、女性は言葉を続ける。
「あなたたち……ずいぶん強いのね。それにその制服……、まだ高校生でしょ?」
「はははッ。高校生活もなにかと物騒ですからね」
 意味も無く笑う京一を見て、その女性も笑みをこぼす。
「ふふ……おかしな子ね。そうだ、これ渡しておくわ」
 内ポケットから名刺を取り出す。……姓名は『天野絵梨』、そして肩書きは『ルポライター』
とある。一瞥した後、他の連中に回した。
「天野 絵梨……さん」
 と、名刺を見た美里が口に出して呟く。
「ルポライター……ってことは、もしかして、何かを調べてる途中ですか?」
 軽く頷く事で、京一の問に答えた。
「それより、助けてくれて本当に有り難う。何かお礼しなくっちゃね。とりあえず、そのへんで
お茶でも、どう?」
 そう誘われたが、平時の行動の最終的な決定は醍醐に任せている為、そちらを見た。
「すみませんが、おれ達急ぎの用事があるんです」
「そう……。残念ね」
「……そうだね。せめて暗くなる前に代々木公園につかないとさ……」
「桜井ッ!!」
 うっかり口を滑らした桜井を醍醐が鋭く制し、桜井は口を押さえたが、もう遅い。天野さんの
表情が急変した。
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「代々木公園って……、あなたたち、今あそこがどんな状況かわかってるの!?」
「やっぱり、あなたもカラスを追ってるんですか?」
「あなたも――、って、あなたたちは……なにを?」
「馬鹿、京一ッ」
 桜井に続いて口を滑らせた京一を、醍醐が叱りつけ、しどろもどろになる京一を見て、天野さ
んは更に突っ込んで聞いて来る。
「カラスっていったわね。まさか、あなたたちも――」
「ちッ、バレちゃしやーねェ。もちろん、人喰いカラスを退治に、さ」
 面倒くさくなったのか、京一がいつもの口調に戻る。
「今まで半信半疑だったんですが……、あなたが襲われ
ているのを見て確信がもてました。この街に起こっている事件は、その……」
「普通じゃないって事?」
 醍醐は言葉尻を濁したが、その先に続く言葉を天野さんに言われ、それを肯定した。
「あなた、自分が何をいってるか判ってるの? カラスが人を襲って殺すなんてありえないわ」
「カラスたちは、明らかに殺意を持ってました……。それに、さっきカラス以外に感じた気配は
――」
「あァ……、あんな『気』を発するヤツは、少なくとも正気(マトモ)じゃねェ」
「何がいいたいのか、判らないけど――、これは、警察のいうように、変質者か、通り魔の犯行
よ。第一、カラスだの何だのなんて誰が信じるっていうの?」
 醍醐と京一、二人の話を聞いて天野さんは怪訝そうな顔になった後、常識的な台詞を一気にま
くしたてる。まあ、当然の反応だろう。
「…………しかし、あなたもそうは思っていない。――おれ達と、同じように……。違いますか
? 天野さん」
 醍醐の問いかけに、不本意そうに沈黙した後、小さく嘆息して俺達を見た。
「まったく、最近の高校生には驚かされるわ……。わたしも年を取るワケね」
「へへッ、ダテに修羅場はくぐり抜けてねェからね」
 軽口を叩く京一を見ながら頷く。
「いいわ、話を聞きましょ。お互い、いろいろ情報があるでしょうし。ねッ」
「へへへ……。そうと決まれば、さっそく――」
『ククク……』 
 突如、何処からともなく響く、酷く陰に篭った哄いを聞いた途端、京一から笑みが消えた。
『ククク……。僕や奴の他にも<力>を持った者が人間がいたとは……』
 その声が耳に届いた瞬間。スピーカーの配線を繋ぎ損ねた時に出る音を低く、それでいて鋭く
した様な不協和音が俺達を襲った。
「なッ、なに、この音ッ!!」
「くッ、耳鳴りがする……」
「何物だッ、姿を見せろッ!!」
 桜井が驚き、京一が耳を押さえて顔をしかめる。そして耳鳴りを堪えながら、醍醐は誰何(す
いか)の声を出し、再び木刀を構えた京一が呟く。
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「もしかして、てめェがカラスどもを……」
『僕の名は唐栖 亮一……』
「あなた……、あなたは一体、何物なの?」
 その問いかけに対して、返ってきたのは嘲弄混じりの声だった。
『ククク……、あなたは……。無事だったんですか、残念だ。あなたを十人目の犠牲者にしてあ
げようと思ったのに』
「あなたが――、カラスを使ってやったの?」
『だとしたら、どうします? 記事にしてみますか?』
 再び、喉の奥から悦にいった様な含み笑いを漏らす。言葉使いこそ丁寧だが、その実、言葉の
一つ一つに人を蔑む色と悪意がたっぷりと含まれている。……非常に不愉快な奴だ。『いんぎん
無礼』とは、良く言った物である。
『したければ、どうぞ……。どうせ誰も信じはしない』
「貴様ッ、一体なにが目的なんだッ!!」
『クククッ……。地上を這いまわる虫ケラに、神の意志が理解できるはずもない』
「神の意志……だとッ」
『そう……。僕に、この素晴らしい<力>を授けてくれた神さ……。鴉の王たる<力>を授けてくれ
た……ね』
「…………」
『僕は逃げも隠れもしない。待っているよ――。代々木公園(ぼくのしろ)で……。クックック
……では――』
 それを最後に奴の声は途絶えた。耳に不愉快な笑いの残響を残して。
「ちくしょーッ、出てきやがれッ!!」 
 京一が宙に向け拳を振り上げる横で、醍醐が腕を組む。
「どうやら、かなり普通じゃないのがでてきたな。これから、どうすべきか……」
「そんなの、決まってんだろッ!! あんなイカレた野郎を、野放しにしておけるはずがねェ。
代々木公園に乗り込んで、ブチのめすだけだッ!! なァ、風間?」
「そうだな。平和的な解決は有り得ん様だし。口で言っても分からんあほうは、悔い改める気に
なるまで、何度でも『優しく頭を撫でて教育』してやるさ」
「……だよな。もともと、そういうつもりで来たようなもんだろッ。……醍醐。お前はどうなん
だよ」
「うむ……。遠野には悪いが、ここは俺達でかたを付けるべきかもしれんな」
「そうこなくっちゃ!! だって、ほっとけないよね。あんなの……。ボクたちが、なんとかし
なくちゃ」
「まァな……」
「このまま、見過ごすわけにはいかなくなってきたか」
「……。あなたたちは……、一体……」
 一連の会話を聞いていた天野さんが、驚きと興味、そして軽い困惑がいり混じった表情で俺達
全員を見た。
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「えェっと、なんていやァいいのかな……」
 表現に困り、頭をかく京一の代わりに美里が口を開く。
「私たちは、ただ……私たちなりに、東京(このまち)を護りたいと思っているんです……」
「おッ、いいこというねェ美里」
 京一が我が意を得た様に、こくこくと首を動かす。
「でも、あなたたちは高校生でしょ? そういうのは、警察や大人たちの――」
「子供が……と思われるかもしれませんが……、みんな、友達や愛する人の住む街を護りたいと
いう気持ちは、同じだと思います……」
 美里は落ち付いた表情と、真摯な口調で語り続ける。
「私たちの<力>だって、そのためにあるような気がするんです……」
「<力>って、さっきカラスたちを倒した……?」
「あァーッと、つまり――、オレたちも事件解決の手助けできればなーッってコト」
 天野さんは沈黙に続いて、ふと、考え込む様な表情をした後、俺達を見た。
「あの子も、同じような事を言ってたわ……」
「あの子?」
「実は、カラスに襲われたの、これで二度目なの。一度目に助けてくれたのが、金髪の男の子だ
った。もう、代々木公園には近づくなっていわれたわ」
「誰なんだろ、その男の子って?」
「わからないわ。けど、あなたはひとりで闘うつもりなのって聞いたら、『自分は自分のもって
いる<力>でこの街を護ってみせる』って。そういってたわ……」
「自分のもっている<力>で・・・?」
「ええ……。そういえばその子、なんだかあなたたちに似てたわ」
 美里と天野さんが話す横で、京一が何やら言っている。
「うーん。金髪の知り合いなんて、マリアせんせぐらいしか、知らねェしなァ……」
「……私には、あなたたちみたいに、体を張って闘うことは無理だけど、代わりに、私の持って
いる情報を提供させてもらえないかしら?」 
「そう言う事なら、こちらからお願いします」
「ふふッ……。ありがとう」
 桜井がそれを聞き、俺にうさんくさげな視線を向けた。
「もうッ。調子いいなあ、風間クンも」
「そう言う言い方は無かろう……。昔から『敵を知り、己を知れば〜』って言うだろう」
「確かに、情報を得ておくのは必要だ。よかったら、話を聞かせて下さい」
「ええ、もちろんよ。それじゃ……」
 俺達は天野さんの話の内容に聞き入った。  
「……カラスは昔、神の遣いと信じられていたの。ギリシャ神話の太陽神アポロンはカラスを寵
愛していたし、北欧神話の最高神、オーディンも必ずカラスを伴って描かれている。日本でも、
天照大神が八咫烏(ヤタガラス)というカラスを使役しているの」
「知らなかった……。じゃあ、今のカラスはどうして好かれてないんだろう。なんだか、恐いし
……。カラスがたくさん集まってるとさ、ちょっと気味悪いし……。風間クンは、そうおもわな
い?」
 話を聞いていた桜井が、俺に話を振って来た。
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「別に。たかが鴉が何をしようが気にも止めた事も、興味を持った事も無い」
「そう? ……ボクはあんまり好きじゃないな。それにあの鳴き声も嫌なんだよね、なんだか人
を馬鹿にしてるみたいでさ。ねえ、天野サン。どうしてカラスは神様の遣いだったのに、あまり
好かれてないの?」
「そうね……。ゴミを荒らすからっていうのが当然の答だけど、どの神話でも、カラスはやがて
神の遣いの座を追われているの。それは、お喋りが過ぎるせいだったり、賢すぎるせいだったり、
神への反逆を企んだりしたせいだったり――、とにかく千差万別なんだけど、共通していえる事
は、そうして神の傍らを追われたカラスの姿は、天界を追われ、悪魔となった堕天使と同一視さ
れるって事ね」
「簡単にいうと、カラスは昔人間より偉かったって事?」
「まァ、そういう事になるわね。後、それから……カラスの生態についての話があるわ」
 ひと呼吸おいて、さらに話を続ける。
「普通、カラスは大切なものを守るために人間を襲う事はあっても、食料として人間を狙ったと
いう例はないわ。人間が食事をし、その残飯をカラスが漁る……。それが、都会に生きるカラス
の一般的な姿よ。その他にも鼠を捕食したり、集団で野良猫を襲う事もある。もちろん、猫がカ
ラスを襲う場合もあるけど、集団時の強さはカラスの方が一枚も二枚も上よ。事実上、カラスは
――、都会の生態系ピラミッドの頂点にあるといえるわね。ただし、人間を除いて……だけどね」
「まさか奴は……、人間をもそのピラミッドの中に組み込もうとしているのか?」
 その醍醐の独語じみた、呟きに答える物はいなかった。
「あの、唐栖って子が何を考えてるかはわからないけど、あの口振りからして、単なる快楽殺人
でないのは確かね。彼は彼なりの正義のもとに行動しているんだと思うわ」
 ……『正義』に『神』と来たもんだ、後は『真実』と『愛』が揃ったら、自己正当化の方便と
大義名分の4カードが揃う。ティッシュペーパーより薄っぺらで陳腐かつ、安っぽい常套句を聞
いた瞬間。俺は内心で冷笑のトランペットを吹き鳴らし、危うく声と表情に出すところだった。
「そんなッ……、だからって、人を殺していいって理由にはなんないよッ。他人の命を奪ってい
い権利なんて誰にもないんだからッ!!」
「……そうだな。桜井のいうとおりだ。例え、天野さんがこのことを公表したとしても、誰も…
少なくとも、警察は信用しないだろう」
「だから、オレたちがやるしかねェのさ。さ、そうと決まれば、代々木公園へ行くとしようぜ」
 京一がそう纏めた後、美里が天野さんを見る。
「天野さんは……。天野さんは、これから、どうするんですか?」
「ごめんなさい。わたしが、付き合ってあげられるのは、ここまで」
「取材、いいのかよ?」
「酷いことをいうようだけど、ルポライターっていう仕事はわたしにとって、仕事(ビジネス)
なの。記事にできない事件をいつまでも追ってる訳にはいかないわ。……それに、悔しいけど、
わたしの手に負える事件じゃないわ」
「……そうだよね。慈善事業(ボランティア)してる訳じゃないもんね」
「なるほど。大人の仕事もたいへんだねェ」 
 唇を噛みしめながら言う天野さんを見ながら、心持ち、残念そうに桜井がそうこぼし、京一も
うんうんと頷く。
「ほんとにごめんなさいね」
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「なら、オレたちがかわりに事実を証明してやるよ。オレたちの考えが間違ってないコトね」
「……そうね。君たちなら出来るかもしれないわね。ふふふッ……。楽しみにしてるわ。それか
ら、代々木公園で金髪の男の子に会ったら、よろしく伝えてね。きっと、あなたたちの力になっ
てくれると思うわ。それじゃ、気を付けて……。また、会いましょう」
 最後に営業用とは違う(と思う)にこやかな笑みを残して、天野さんは路地を出て、街へと消
えていった。その姿が見えなくなるまで見送った京一が呟く。
「天野 絵梨ちゃん……か」
「京一ッ、京一」
「あんだよ?」
「鼻の下、伸びてる」
「バッ、馬鹿。そんなことあるか。でも、結構いい女だったなァ。なァ、風間?」
「別に。俺にはどうでもいい事だ」
「なんだよ? お前の好みじゃねェッてのか? まッ、風間はどっちかっていうと、清楚なタイ
プが好みか。……な、美里?」
「……何が言いたい?」
「えッ?」
 京一を横目で睨む俺、そしていきなり名を呼ばれた美里は軽い驚きの色を浮かべ、こちらを見
る。
「いや、なんでもねえよ」
「……ほんっとに、京一の頭の中には、お姉ちゃんのことしかないんじゃないの!?」
 その桜井の突っ込みに不本意そうな顔で抗議する。
「失礼なヤツだな。他のコトだって考えてるよッ」
「なにをさッ。いってみなよ」
「いッ、いや……。腹がへったなーとか。今日の晩飯なにかなー、とか」
「はァ…………」
 桜井が溜め息を漏らした後、「聞いた自分が間違いだった」と言いたげな顔になる。
「んなコトはどうでもいいじゃねェか。さて、行くとしょうぜ、代々木公園へッ」
「ああ、行こう」
 そして俺達も路地を出て、一路代々木公園へと向かったのだった。






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  ■代々木公園■

 ……代々木公園に到着したのは、ぎりぎり日が沈み始める前だった。
 学校からラーメン屋に寄り、渋谷に着いてからも鴉共との戦闘や、天野さんの話など、何かと
時間を費やす事が多かった為、仕方無いが、何とか暗くなる前にケリを付けたい所である。
「さすがに、事件の噂を知ってか、人気が無いな……」
「醍醐くん……。なにか、視線をかんじる」
「ああ――、この『気』はただ事じゃないな」
「空気が、憎しみと憤りに溢れているわ……」
「…………」
 醍醐は緊張したおももちを、そして美里は眉をひそめ、憂いの色を見せる。
「うひょーッ。ウワサ通り、すげェカラスの数だな」
 京一が呆れとも、関心ともつかぬ声を出したが、確かに石を投げたら必ず当たると思わせる程
の鴉が上空を飛び回り、園内の樹木は鴉で鈴なりになっている。
「なんか、恐い……」
 桜井がうそ寒そうな顔で小さく身震いした。
「前、来た時は、こんな雰囲気じゃなかったのに。園内に人はいないのかな」
「そうね。全然人の気配がないわ」
「とにかく、入ってみようよ」
 桜井が一歩、足を踏み入れようとしたその時。
「――コラッ!! あンたら、そこで何やってる?!」
 桜井は思わず飛び上がり、俺も含めた八対の視線が声の主へと向かう。 
「悪いことはいわない。ここに入ンのはやめときな」
「お前は……」
「金髪の男の子……」
 ……入り口近くの石柱に腰掛けていたのは、確かに頭髪を金色に染め上げ、しかもそれを逆立
たせた、学生服姿の男だった。そして長大な袋に入れた何かを肩にかつぐ様にして持っている。
「もしかして、天野サンのいってた……」
「ン……? あンたら、あの人の知り合いか」
 桜井の声を聞くと、腰掛けていた石柱から飛び降りて、俺達の前に立った。
「だったら、なおさらここに入れる訳にはいかないぜ、何しに来たかはしらないが、大人しく、
お家に帰ンだな」
 こういう言い方をされると、若干一名、黙ってはいられない奴がおり、ずいと、前に出た。
「ずいぶんでけェクチ利いてくれるじゃねェか。てめェ、一体なにもんだッ」
「人に名前を聞く時は、まず自分から名乗るもンだ。オイッ、そっちのあンたの方が話がわかり
そうだな?」
 京一の問いかけをいなすと、俺の方を見て、話掛けて来た。口調は多少荒っぽいが、言ってい
る事はもっともな上に、勿体つける気もないので、すぐに答える。
「風間 翔二か。物分かりのいいヤツは、長生きするぜ。とにかくここには近づかないこった」
「……おれ達の話も聞いてくれ。おれ達は別にあんたと争いにきたわけじゃない」
「……あンたは?」
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「おれの名は、醍醐 雄矢。新宿の真神学園の三年だ」
 それを聞いた男は口笛を吹く形に唇を動かす。
「へェ……、あンたが、真神の醍醐かい」
「知っててもらって光栄だな」
「渋谷区(このまち)は新宿の隣だからな。魔人学園の名をしらねェヤツはいないさ。そういや、
この前も、真神(おたくら)のヤツがウチの高校のヤツと、揉めてたって話を聞いたが。あンた
たちの知り合いかい?」
 男の声に、醍醐は渋面を作った。
「佐久間の事か。すまん……。迷惑をかけたようだな」
「なァに、喧嘩なンて、お互い様さ。どっちが悪いってワケでもねェよ」
 頭を下げる醍醐に片手を振り、『詫びは不要』といった態度を見せる。それを見た醍醐が表情
を緩め、男に話掛けた。
「君は渋谷には詳しいのか?」
「あァ……。渋谷(ここ)は、オレ様の生まれ育った街だからな。雨紋 雷人。渋谷(このまち)
の神代高校の二年だ。あンたらが天野さんに会ったンなら、なにしに代々木公園(ここ)へ来た
かわかるがな」 
「そうか……。それなら話が早いな。唐栖って奴を知っているか?」
「あいつに会ったのか?」
「直接は会っていないが、おれ達を挑発してきたよ」
「ちッ、あのバカ」
「友達か?」 
「……冗談じゃねェ。あんなヤツの友達だと思われるとヘドが出るぜッ!!」
 醍醐の声に雨紋は文字通り掃き捨てた。苦虫を1ダース程纏めて噛み潰す様な顔を見た醍醐は、
再び渋面を作る。
「訳ありか……」
「あの人を止めないと……。あの人は<力>の使い道を真違っている……」
 美里の声の後、醍醐が思い出した様に独語する。
「そういえば、唐栖は、僕や奴の他にも<力>を持った……っといっていたが、もしや、お前もな
にか……」
 雨紋は、僅かに身を引くと、警戒するかのような視線を射かけてくる。当然といえば、当然だ。
「……。敵か味方かもよくわからないヤツに、簡単に答えられることじゃないな」
「そんなッ、敵だなんて……あッ。ボク、桜井 小蒔。同じく真神の三年だよ。とにかく、ボク
たちはあの唐栖って奴に会いに来たんだ。だって……、あの人のやってる事は間違ってるよッ」
 桜井に続いて、美里も自己紹介の後、話掛ける。
「雨紋くん……。私たちにも、不思議な<力>があるの。ある日突然、<力>が現れて、今はまだ、
何もわからないけど、でも、この<力>が誰かの役に立つなら……。みんなも同じ想いなの。だか
ら――」
「オレ様とあンたたちは協力しあえる……。そういう事かい? ……そっちのあンたはどうなん
だ?」
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「概ね、同じだ。奴が妄想を抱くのは勝手だが、実行に移して他人様に迷惑を掛けるような真似
は止めて貰いたい物だ。ここらで止めさせない事には、もっと酷い事になる」
「なるほどな。さァて、どうしたもンか」
「ねえ、雨紋クンもボクたちと一緒にいこうよ」
 桜井の誘いに思案顔になる雨紋だが、以外とあっさり頷いた。
「まァ、オレ様も、ちょうどヤツのトコへ行こうと思ってたし。これ以上……放っとく訳にもい
かないからな」
「それじゃあ……」
「あァ。とりあえずここは、共同戦線でかまわないぜ。オレ様の持ってる能力は、まッ、後のお
楽しみってことで、とりあえず、よろしく」
「お前もいいな? 京一」
「ちッ……わかったよ。その代わり、足手まといになったらさっさとおいてくからな!!」
「わかってますよ、先輩。ところでまだ、あンたの名前、聞いてないぜ?」
「オレか? ……てめェなんかに名乗ってやるのはもったいねェが、特別だから、よく聞いとけ
よッ」
「また始まったか……」
「うるせェぞ、小蒔。……いいか、新宿、真神一のイイ男――、神速の木刀使い、蓬莱寺京一様
とは、このオレのことよ!!」
「……。じゃ、よろしくな。京一」
 長い自己紹介を聞き終えた雨紋は、あっさりと前口上を無視して名前で呼ぶ。  
「――って、いきなり呼び捨てかッ!!」
「いいじゃねェか。堅苦しいのはニガテだし。なンならオレ様のことも、雷人って呼ンでくれて
いいからよ」
「誰が呼ぶかッ!! とにかくッ、さっさと行くぞ!!」
 えらくヘソを曲げた京一は、腹立ちまぎれにずかずかと大股で公園内にむけ歩いて行く、雨紋
を加えて総勢六人になった俺達は奴……唐栖の待つ場所へ向けて、公園内を進んで行った。










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