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 「異伝・東京魔人学園戦人記」〜第一話「転校生」(後編)
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 そして放課後……。

 嫌な空気を感じた俺は、手早く荷物をまとめた。急いで教室を出ようとする。余計な厄介事に
巻き込まれるのは、御免被る。
 ――が、その意図はあっさり挫かれた。俺の前に眼鏡を掛けた女子が突然現れ、声を掛けてき
たのだ。
 昼休みに三階で出会った新聞部の部長――遠野杏子だ。
 彼女の事は、京一から聞いている。
 お節介焼きで騒動好き、その上、手は早いし口はもっと旨い、学園の名物女――。話半分差し
引いても、トラブルメーカーで有る事に変わりはない。
 彼女は「一緒に帰ろう」と言って来たが、そっけなく断った。
 興味本意で付きまとわれてはたまらない。それ以上に、他人の飯の種にされるのは願い下げだ。
 挨拶もそこそこに、足早に出口へ向かったが、後少しの所で、複数の生徒に道を阻まれた。

 典型的な不良と言った容貌と態度。奴の舎弟だろう。招かれざる客のお出ましだ。
 ……どうやら俺の見通しは甘かったらしい。転校初日に実力行使に出るとは、余程俺が目障り
なのだろう。
 すると、遠野が前に出るや、猛然と抗議を始めた。その勢いに連中は押されたかに見えたが、
彼女の奮闘も、佐久間自身が来る迄だった。
 遠野を黙らせると、憎らしげな目付きを向けて、聞くに耐えない低レベルな嫌味を言って来た
が、それを冷然と無視する。当然頭に血の昇った奴は、二、三脅し文句を並べ立てると体育館裏
まで来いと言い捨て、出て行った。二人程残っているのは監視と逃亡阻止の為だろう。
 正直馬鹿馬鹿しいが、「降り懸かる火の粉は砕く」べきだ。逃げるのは性に合わないし、ここ
できっちり片しておいた方が、後々面倒が無くていい……。
 俺は、鞄から一組の手甲を取りだした。
 師から餞別に貰った、「燕青甲」である。
 手早く身に付けて、止め具を確認すると、ゆっくりと目的地へ歩き出した。
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 体育館裏――。

 足を踏み入れた俺の耳に、耳障りな騒音が響く。
 「ここの流儀を教えてやる」だの、「転校早々病院送りとはかわいそうに」だの、尻馬に乗っ
た舎弟共がなにやら言っているが、知った事か。
 無言のまま歩みを進め、正面に立つ。
「阿呆の気分高揚に、付き合う趣味は無い。さっさと来い、時間の無駄だ」
 と同時に腕組みを解き、人差し指を前後に動かす。
 挑発の効果は十分だった。口々に怒声を上げ、詰め寄って来る。
 戦力差は5対1だが、負ける気はまったく無い。
 俺は温厚かつ善良な平和主義者だが、闘争自体は否定しない。
 ましてや相手は、寄ってたかって一人をリンチにかけるのを恥とも思わない下種と、その飼犬
共だ。こういう手合に対して遠慮や容赦をするのは、犯罪に等しい。
 そう思いつつ、俺が構えを取りかけた時、頭上から第三者の声が響いた。

「おいおい、転校生をからかうにしちゃあタチが悪いな。それに足もとがこうウルさくちゃ、部
活サボッて昼寝もできねぇ」
 声の主は京一だった、どうやら、高見の見物を決めこんではいたが、事態が険悪になったのを
見て、放って置けなくなった――と、思うのだが、実際の所は、面白そうな騒ぎに出喰わしたの
で、一口混ぜろ程度でいるのかもしれない。
 佐久間と京一が睨み合い、取り巻き共が近寄って来る。
「風間っ! 離れんじゃねェぞっ!!」
 京一の叫びが体育館裏に響き、それが合図となった。

 一番近くに居た舎弟その1が殴り付けて来た。
 体重を乗せた重い打撃だが「遅い」。
 半身を捻りながら、力を込めて左手で払い退けると、奴はバランスを崩し、上体が泳いだ。
 同時に片足を軸にして一回転し、無防備な後頭部に肘を叩き込む。
 そいつが地面に倒れ込む前に、二人目が肩から突っ込んで来るのを、視界の隅に捉える。
 唸りと共に、強烈な蹴りが舎弟2の顔面を襲った。
 「龍星脚」が、カウンターで入ったのだ。
 血と数本の歯が飛び散り、白目を剥いて倒れてしまった。
 当分固形物は噛めまい……。激痛を感じる前に失神したのは、幸運と言うべきだろう。
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「やば……感触からして、顎の骨イッたなあれは……」
「風間、お前ちったあ手加減してやれよ……。」
 俺の呟きを聞いた京一が、呆れた様な声を出す。
 見れば、京一を狙った二人は、それぞれ鳩尾と首筋に一撃を食らい、呻いている。
「以後気を付ける、それより――」
 佐久間に向き直り言葉を続ける。
「――どうした? まだ、この学校の流儀とやらを、教えて貰ってないぞ。
 それとも、手下が居ないと……」
 言い終わる前に、激発した奴は下品な罵声を上げ、向かって来た。

 腕力に任して振り回してきたが、難なくかわす。
 そして懐に踏み込んで、がら空きの胴体に掌打を打ち込む。
 衝撃が腹筋と脂肪を貫き、内臓にまで達した。奴の顔色が急激に変化する。
 続けざまに二撃、顔面を捕らえた打撃は鼻を潰し、一瞬意識を断ち切った。
 そして苦悶する佐久間の胸板に止めの「龍星脚」を放つ。受け身も取れずに吹き飛び、地面に
つっ伏した。
 (それなりに)手加減はしているが、戦闘力を喪失し、無力化させるに充分なダメージを与え
たのは、間違い無い。
 低い呻き声をあげ、立ち上がろうとする佐久間に、京一が木刀を突き付けた。
「もう止めときな。これ以上やろうってんなら、俺も風間も、容赦しねぇぜ」
 しかし京一の忠告を無視した奴は、こちらに向かって来る。
 木刀を構え直した京一が一歩前に出た途端に、背後から届いた二つの声がそれを制止した。
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「京一も佐久間もそこ迄にしておけ……」
「もうやめて……」
 戦闘体勢を崩さぬまま、視線を向ける。
 そこには、一組の男女が立っていた。
 片方はすでに見知った顔……美里葵だ。
 そしてもう一人を見るや、佐久間が動揺した。
 身長は俺とそう変わらない。だが、体付きが一回り違う。
 古代の堅固な城塞を思わせる圧倒的な存在感と、日本人離れした堂々足る体躯の持ち主だ。
 京一が獅子なら彼は熊――それも壮年期の灰色熊である。
 佐久間を一喝の元に下がらせた辺り、全てにおいて格が違うと言う他ない。

 奴が視界から消えると、京一と二、三言葉を交えた後、こちらに向き直り、彼は神妙な顔つき
で話掛けて来た。
「転校生――風間とか言ったな。レスリング部の者が言いがかりを付けたようで、謝るよ。済ま
ない」
「いや、あんたが謝る事は無い。俺の方も少しやり過ぎた様だからな」
「だが、無用な喧嘩を売った事に、変わりは無いからな。しかし、そう言って貰えると、こちら
も助かるよ」
 受け答えしながら手甲を外し、制服のポケットに押し込む。
「おっと、自己紹介が遅れたな。俺は、醍醐雄矢。お前と同じ、3−Cだ。レスリング部の部長
をしている。宜しく」
「風間翔二だ、宜しくな」
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「所で風間、お前の使う技は、もしかして古武術か? 昔、それに良く似た技を、見た事がある
んだが……」
「そんな大層な物じゃない。護身術の真似事に過ぎない」
「そうなのか? しかし今日は俺が間に合ったからいいが、あまり粋がらない方が身の為だぞ」
「ご忠告どーも。だが、俺が力を振るうのは、こうゆう事に巻き込まれた時だけだ」
 そこへ京一が話に加わってきた。
「それより良く此処が解ったな。しかも、えらく良いタイミングだったし」
「あぁ、それなら……」
 視線を傍らに向けた後すぐ戻す。
「美里が教えてくれたのさ」
「美里が?」
 京一も又、彼女に視線を投げかける。
「部室で自主トレをしていたんだが、そこへ顔色を変えて、いきなり飛び込んで来たのさ」
「あ……あの、私……」
「事情を聞いて駆け付けたんだが、着いたのは丁度終わった所だったって訳だ」
「なる程」
「しかし、あの慌て方は、尋常じゃなかったな……。『風間君が危ない』って」
「もうッ、醍醐くんッ」
「はははははッ」
 『からかわないでッ』と云いたそうな口調で抗議する美里を見て笑声を上げる。
 そして、笑いを収めると、こちらに話し掛けてきた。
「ま、何はともあれ、俺達はお前を歓迎するよ。よく来たな、我が真神――」
 言い掛けて一瞬にも満たぬ躊躇の後、言葉を続けた。
「いや……もう一つの呼び名を、教えておいた方がいいしれんな」
 すると、笑みを浮かべていた京一の顔に軽い緊張が走り、醍醐のすぐ横に立っていた美里もま
た、僅かに表情を変えた。
 二人の放つ気配に気づいたのか、醍醐の声にも、困惑と猜疑の微粒子が混じっている様に感じ
る。
「誰が言い始めたかは、知らんがな……いつの頃からか、この真神学園は、こう呼ばれている。
――『魔人学園』――とな……」

 ……何処の学校にも、一つや二つ有るだろうヨタ話や怪談……で済まされ無い、何か異様な響
きがその異名に込められている様に、俺には感じられた。
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 ――第二話「覚醒」へ続く……
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おまけ

本編主人公「風間翔二」各設定

・生年月日 1980年11月20日のさそり座
・身長 187cm
・体重 82kg
・血液型 B型
・3サイズ 不明
・容姿       美形と言うより男前だが本人にその自覚は無い。
・低血圧      寝付きも悪いが寝起きはもっと悪い。
・好きな物や場所  特に無し
・嫌いな物や場所  ナルシー、馬鹿、変態、虫ケラ、躾のなってないガキ、人ごみうるさい
          所甘い物、ラーメン
・座右の銘     「獅子の勇猛さと狐の狡知」
・家族構成     養父、(養母、義姉、義妹とは事故で死別)
・現在の同居人?  義妹の飼っていたハムスター2匹。
・家事能力     養母と義姉に仕込まれたので極めて高し。
・学力       美里には負けるが京一を遥かに凌駕する(笑)
・treasure 美里葵(何を意味するかは辞書で調べて見て下さい)
・戦闘スタイル   基本は徒手空拳<陽>だが、鳴滝からは確実に相手の息の根を止める為の
          ダークサイドの技<陰>、そして拳武館暗殺組の殺人技術(銃、ナイフ、
          ワイヤーカッター等)を叩き込まれている(現時点では封印中)。
・人格を構成する要素                
 長所 ――本質的にはお人良しとゆーか、善人。勇敢、敏捷、慎重派、理知的、現実的、一途。
 短所 ――冷徹、毒舌、不運、頑固、方向音痴、無神論者、下戸。
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作・納屋村孝行 (編集・遼来来)

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