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真・Water Gate Cafe

葵館・談話室

戦人記・第九話「鬼道」其の弐

        ■ラーメン屋店内■

 ・・・俺達が店に着いた頃には既に掻き入れ時も過ぎ、
昼食と言うには少し遅い時間帯だった為、待つ事なく座る
事が出来た。店の奥にある四人用のテーブルを占拠し、そ
れぞれメニュー表を見て注文を出すと、しばし無言のまま
料理の摂取に勤しみ、それが終わりかけた所で。
「所でーーー、自分達に頼みたい事とは、一体?」
 と、軽い物で済ました俺が本題に入るべく口を開くと、
箸を置いた天野さんはバッグから幾つかのファイルを取り
出して、俺達の前に示した。
「そうね・・・。まずはこれを見て欲しいの」
「えーと・・・。『江戸川区で連続猟期殺人事件が発生』
『被害者は若い女性ばかり、いずれも頚部を消失!?』っ
て、頚部?」
「首から上が無いって事だ。・・・事件そのものは、欧米
の推理サスペンス物では、そう珍しくも無いがな・・・」
 冊子の内容を読み上げ、首を傾げた京一の手からファイ
ルを取り上げ、目を通しながら俺が答える。
「いずれも、屍体から失われた首は、見つかってないわ。
検屍の結果を聞いた限りでは、頚部切断は、刃物によるも
のじゃないそうよ」
「刃物じゃない?」
 それを聞き、別のファイル・・・被害者の資料を集めた
物だ・・・を見ていた醍醐が顔を上げ、訝かしげな表情で
天野さんを見る。
「そう。熱でもなく、ましてや光線(レーザー・ビーム)
でもない。強いていうならば、真空の刃ーーー。<<鎌鼬(
かまいたち)>>と、いうべきかしらね」
「<<鎌鼬>>ですか? だが、自然現象で人間の首が飛ぶと
は・・・」
 そう呟いた醍醐の顔に、『そんな馬鹿な』もしくは、『
ありえない』と言いたげな色が浮かんでいる
「もちろんよ。でも、そこに何か人為的な<<力>>が働いて
いるとしたら?」
「まさか・・・」
 低い声に続いて、うそ寒そうな顔・・・その表情を見れ
ば、考えている事は大凡想像がつく・・・をした醍醐が、
横に座る俺と、反対側の席の天野さんの隣に陣取った京一
の方に視線をやり、何か言いたそうに口を開閉させる。
「それを調査する為に、あなたたちの手が借りたかったの

「確かに、エリちゃんひとりじゃ危ねェな。それに、どう
せ止めたって、聞きゃしねェんだろしな?」
「ふふふッ」
 京一に言われ、笑ってみせる天野さんの表情が、全てを
物語っていた。
「いずれにせよ、放っておけないか」
「まァな。この事件に鬼道衆(やつら)が絡んでるとした
ら、向こうがオレ達を放っといてはくれねェさ」
「ああ・・・」
 と、空の丼を横へ退け、醍醐と京一が話す一方で、俺が
ファイルに記された情報を読み取っていた所へ、天野さん
が話しかけて来た。
「風間君は、何か聞きたい事はある?」
「・・・まず、件の江戸川の事件についての詳細を」
「OK。これは知り合いの記者から仕入れた情報なんだけ
ど、頚部を消失した遺体はどれも、あまりにも不用意に発
見されているの。昼間の公園や道ばた・・・。目撃者は一
様に、いつからそれがそこにあったのか気づいていない。
まるで、瞬きしたその瞬間に、人間の頭部が切断され、持
ち去られたかのように・・・ね」
「だから、鎌鼬か・・・。けど、鎌鼬ってのは所詮、皮膚
一枚を裂くくらいのもんだろ?」
「確か、冷却された大気から生じる旋風の中心が真空状態
になり、その真空に触れると、刃物で刻まれたような裂傷
ができる。そういう、自然現象の事をいうはずだ」
「はい。醍醐君、正解」
「なんだよ、醍醐。お前、詳しいな」
 天野さんの説明を聞いた京一が呟くのに続いて、意外な
所で雑学知識を披露してみせた醍醐に対し、俺は冗談めか
して言ってのけ、京一は感心した様な顔をしてみせる。
「まあな。だが、鎌鼬が人の筋肉や骨を切断するなんて聞
いた事はない」
「えェ・・・。それに、鎌鼬は寒さの厳しい土地に起こり
やすいというわ。だけど、ここは東京。しかも近年、稀に
みる猛暑よ」
(・・・俺にも一応、似た様な事は出来るが、どちらかと
いうとそれは、この事件の様に真空の刃で瞬時に寸断する
のでは無く、<<力>>で強化した腕を高速で振るった際に出
る衝撃波にて、粉砕するって方が近いしな)
 全力に近い状態で、『龍爪閃』や『龍牙突』といった技
を放った際に発生する衝撃波を、俺は『音速刃』(ソニッ
ク・ブレード)と呼んでおり、その破壊力は自動車のフレ
ームに使われる鋼板や鋼材を、紙きれ同然に引き裂き、修
復不能な程に捻じ曲げる程だが、いかんせん射程、効果範
囲共に、大して広く無い上に、人一人容易く殺せる物なの
で、余り大っ平に『使える』様な代物では無い。
「なら、答えはひとつか」
「人ならざる<<力>>が働いているってことよ・・・。他に
も何か聞きたい事はある?」
「・・・この事件について、天野さんはどうお考えで?」
「そうねーーー。色々な情報を繋ぎ合わせてみると、ひと
つの結論に辿り着くの。意図的に行われている、儀式的な
何かに・・・ね」
「まさか・・・」
 続いての俺の質問に、俺達全員を眺め渡した後、天野さ
んが言った言葉に、醍醐が思わず腰を浮かす。
「えェ。もしかしたら、鬼道衆が発見した<<門>>は、あの
ひとつだけではなかったのかも知れないわ。・・・もう、
わかったでしょ。一緒に江戸川へ行ってくれないかしら」
 その要請を、俺は即座に受諾した。
「お供しましょう。何より・・・あの『害虫』共が動いて
いるとすれば、連中の『駆除』は俺が責任を持ってやるべ
き仕事ですから」
「よかった。断られたら、どうしようかと思ってたの。ふ
ふふッ。頼りにしてるわよ、三人とも」
「へへへッ。まッ、いいってコトよ」
 ほっとした様な表情の後、笑いかけてくる天野さんに、
いつもの様に軽い口調で答える京一。
「・・・そうだ。前の港区でのゴタの時、増上寺の地下に
存在した、<<鬼道門>>とやらを開ける事が、奴等・・・鬼
道衆の狙いだったんですが、その<<鬼道門>>って言葉や存
在に関して、天野さんは何かご存じですか?」
「それね・・・。増上寺の地下にあった、<<鬼道門>>と呼
ばれる<<門>>・・・。徳川将軍の残した霊力が、封印の役
割を果たしていたのよ。もしも<<門>>が開いていたら、今
頃大変な事になっていたわ」
「けど、今までにあの<<門>>ッて奴が開いた事なんてあん
のかよ?」
 との、京一の問いかけに対し、天野さんはあっさりと頷
いて見せた。
「えェ。世界各地に点在する、<<門>>が開いたという記録
は、いくつか残されているわ」
「なっ・・・!?」
「マジかよ・・・」
 それを聞いた俺以外の二人は、驚き、目を白黒させる。
「今から8年前に、中南米某国の小さな村が突然焼失した
の。当時、その事件はいろいろ論議を呼んでね・・・。抗
体の発見されていない、新種のウイルスが異常発生して、
村外への流出を恐れた政府が村人の遺体ごと村を焼き払っ
た。そういう風にもいわれていたわ」
「・・・。それはまた、随分と妙な話だな・・・・・・」
 話を聞いて、俺も違和感と不審を感じた。仮に事件を引
き起こしたのが風評通り、とてつもなく質の悪い病原菌が
原因だとすれば、包み隠す事無く報告され、WHOを始め
とする複数の国際組織が必ず動く。何よりその『村ごと焼
く』等という、武断的と言う段階を通り越した、強引かつ
乱暴極まり無いやり口は、アフリカや中東、南米辺りの軍
事独裁政権のゲリラ狩りや、地域紛争に絡んで起こる虐殺
の証拠隠滅の際に多用される手法とさして変わらない。
 そして『どうにも手の施しようが無い為』、やむおえず
『村ごと炎をもって病害を滅した』とでも言えば一応の体
裁は整う上に、当事者は機密保持になりうると考えたのだ
ろうが、端から見れば『何か表沙汰に出来ない事が起きま
した』と、言外に宣言している様な物だし、当然ながら、
当時行われたであろう『公式見解』とやらも、『でっちあ
げの物語(カバー・ストーリー)』である事は容易に推察
が付く。
「でもーーー、真実はそこの地下に眠っていた『何か』が
目醒めたのだとしたら。その『何か』を再び封印する為だ
としたら・・・・・・」
「・・・基本的に国家と科学者が、オカルトやそれに類す
る物の存在を公認する事は出来んからな・・・。その事件
の関係者で生き残りがいるのかどうか知らんし、それに関
する記録や情報の全ては『最高機密』いや、『存在しない
事実(ブラック・ファクト)』って扱いをされてるだろう
が、何より村を丸々一つ消し去るなんて、荒っぽい手段を
とらざるを得ない程、当時の状況はヤバい物であったのは
間違い無いか・・・・・・」
「ひとつだけいえる事は、<<門>>は確かに存在し、そこか
ら『何か』が出てくるって事よ」
 口を閉ざした俺と天野さんが、それぞれコップに入った
水・・・氷が溶け、大分ぬるくなっていた・・・を口に含
んだり、軽く息をついたりした後。
「と、それは置いといて・・・。一つ、天野さんに聞いて
欲しい事があるのですが・・・」
「? 何かしら、風間君?」
「目的が調査から、戦闘に変わった時の事です。話を総合
すればこの一件は、今まで俺が目の当たりにし、関わって
来た事件の中でも飛び抜けて危険度が高い物です。正直、
地域紛争真っ只中の国の、市街地を歩く方がまだしも安全
とさえ言えるでしょう・・・。限度を越えたと判断した時
点で警告します。その時は速やかにその場から逃げて欲し
いんですが。勿論、天野さん自身も状況の変化に、常に気
を配っていて下さい」
「・・・つまる所、『引き際を見誤らないでくれ』って事
ね」
「はい。・・・勝手な言い分で申し訳無いですが、出来る
限り、闘いに伴い起こりうるだろうリスクを下げて置きた
いので。・・・絶対なんて物が無い以上・・・」
「・・・そうね。わたしとしても、あなた達に迷惑はかけ
たくないわ。大人が子供の足を引っ張るなんて、みっとも
ない事はすべきじゃ無いもの。その点は充分、気をつける
わ」
「・・・本当、済みません」
 俺は天野さんに向かい、深々と頭を下げた。と、そこへ
醍醐が思い出した様に言う。
「・・・そうだ。もうそろそろ、桜井と美里が、学校に来
ているかもしれん。一旦、真神に戻ってから江戸川に行こ
う。どうだ、風間?」
「ん・・・? そうだな・・・」
 ・・・はっきり言って、今回のゴタは相当酸鼻で厄介な
事になるかも知れない。本音を言えば、今日に限っては女
性陣に限らず、増援組の面々も全員待機させたい所である
が。・・・とは言え、あの『害虫』共と戦り合う可能性が
ある以上、人手を集めておく必要も又、同等に存在するの
も確かだ・・・・・・。
(これは・・・、ジレンマだ・・・・・・)
「むう・・・・・・」
 と、腕組みしつつ、考え込んでいる所へ。
「たぶん、オレ達だけでも大丈夫だと思うぜ?」
「しかし・・・」
「その辺の判断は、あなた達に任せるわ」
 京一の発した楽観的な言葉に対し、醍醐は懸念の色を見
せたが、天野さんの一言に後押しされ京一が言う。
「じゃ、江戸川に行こうぜッ。こうしている間にも、被害
者が増えないとは限らねェ」
「そうだな・・・」
「OKッ。それじゃ江戸川へ向かいましょう」
 最終的には醍醐も頷き、その出発を促す天野さんの声を
合図に、席を立った俺達は江戸川へ直行すべく、ラーメン
屋を出たのだった。
『まいどありーーー』
 威勢の良い店長の言葉を背に受けて、空調の効いた店か
ら、残暑厳しい路上へと出て行った所へ。
「んッーーー? 真神(うち)の制服を着た女が走ってる
ぜ」
「あれは・・・美里と桜井じゃないか?」
「どうしたのかしら・・・。なんだか様子がおかしいわ」
 何気なく、道路を見ての京一の声に、そちらを注視した
後で、人影の正体に気付いた醍醐が言うと、天野さんも不
審そうに眉を潜めてみせた後。京一が手を振りながら二人
に呼びかける。
「おーいッ、美里ーッ、小蒔ーッ!!」
 その声に、弓道用の道具一式を抱えた桜井と、小ぶりの
バッグを携えた美里は立ち止まり、きょろきょろと辺りを
見回して俺達の姿を認めるや、こちらに向かい一目散に走
り寄って来る。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・。た、助かったァ・・・」
「よかった・・・・・・」
 両手を膝にあてたり、胸を押さえたりしながら、二人は
激しく肩で息をしつつ、懸命に呼吸を整える。
「・・・。何があった?」
「まさかーーー、鬼道衆ッ!?」
 俺が取り敢えずの質問を発した所へ、緊張に満ちた顔で
鋭く醍醐が叫ぶと、二人は困惑の色も濃厚に顔を見合わせ
た後、歯切れの悪い言葉を桜井が口にする。
「え? いッ、いやァ・・・、そうじゃないけど、もっと
質が悪いかも」
「? もっと質が悪い・・・?」
 どうにも要領を得ない返事に首を傾げながら、一応警戒
の為に腰の後ろのホルスターに俺が手を伸ばした時。
「あら? 誰か走ってくるわよ」
「げッ、まずいッ!!」
 桜井達が走って来た方を見ての天野さんの声に、桜井の
表情が目に見えて引きつった。・・・例えるなら、アフリ
カのサバンナにて、天敵とばったり遭遇した、野生動物さ
ながらのうろたえ様である。
「HAHAHAHAッ。待ってくださ〜いッ。Myスウィ
ートハニーッ!!」
 ・・・馬鹿明るい。否、脳天気な笑い声を辺り構わず響
かせながら、その『鬼道衆より、もっと質が悪い』ものと
やらが現れた。
 ・・・身長は大凡、180ぐらい。スニーカーにジーン
ズ、派手な柄のTシャツといった格好をし、首や手首に幾
つものアクセサリーをぶら下げ、日焼けした褐色の肌に、
茶色がかった金髪を持った二十歳前の男だった。・・・外
国人であるのは間違い無いが、出身民族等は判別不能だ。
 そして、その男の容貌をじろじろ眺め回した後、京一が
桜井に向き直った。
「・・・・・・。なんだこいつ。お前らの知り合いか?」
「そんなわけないだろッ!! 勝手についてきたんだよッ
!!」
「私たち、これから学校へ行く所だったの。そこへ、この
人が声をかけてきて・・・」
「ただのナンパだと思ったから、初めは無視していたんだ
けど、葵を見た瞬間・・・・・・」
「なんだとォ〜ッ!?」
 二人の説明を聞いて、京一が呆れと驚きの混じった声を
出す一方。
「・・・成る程。事情は判った」
(何かと思えば、全く、人騒がせな・・・・・・)
 内心、そう思いながら危険無しと見て取った俺が、ホル
スターから手を離した所へ、いきなり桜井が『きっ』と、
真剣な顔で俺を見た。
「風間クンッ!! 葵のコト、ちゃんと護ってあげてよね
ッ」
「・・・・・・。別段、構わんが。しかし・・・、何とい
うか、『護る』なんて、大袈裟な事にはならんと思うぞ・
・・多分」
「頼んだよッ、風間クンッ!! あんな奴に、葵を渡しち
ゃダメだからねッ!! さッ、葵は風間クンの後ろに隠れ
てなよ」
 金髪の男と桜井達を交互に見た後、俺は内心で疑問を憶
えながらも、こめかみの辺りを指先で掻きつつ答えると、
桜井は発破を掛ける様に言った後で、美里の手を引いて俺
の後ろにその体を押し込むと更に、俺と並んで立って男の
視界から美里の姿を隠す。
「え、ええ・・・。ごめんね、翔二くん・・・」
「OH!! ナンデ、ソンナトコニカクレ〜ルデスカ? 
ソシテ、ユーたちは誰デースカ? どーしてボクとハニー
の邪魔するデースか?」
 背中側より心底済まなそうな、美里のか細い声が聞こえ
て来た。そして男は、発音や言い回しに妙な偏りや癖の有
る日本語に、米国人の様な大袈裟な身振り、手振りを加え
て話し掛けて来た。・・・何と言うか、一昔前のコミック
に出てくる『似非外人』そのものの喋りである。
「なにがハニーだ、このクソッたれッ!! てめェ、一体
なにもんだッ」
 いつもの様に、一歩前に出た京一がひゅっと風を切り、
得物の入った袋をその鼻先に突き付けて問いただすと、そ
の半分ケンカ越しの態度に対して男は、おどける様に軽く
両手を広げてみせる。
「オーッ、そんなコワーイ顔しないでくださーいネ。ボク
の名前はアラン蔵人、いいマース。聖アナスタシア学園高
校の3年生デース。ユーたちは、ボクのSweethea
rtと、一体、どういう関係デースか?」
「おれ達は同じ高校の同級生で、そのーーーフレンドだ。
これ以上、彼女達につきまとうのは、止めてもらおうか」
「OHッ、JESUSッ!! ボクはただ、彼女と話がし
たかっただけデース。迷惑かけるつもり、なかったーネ・
・・」
 遅れて京一と肩を並べた醍醐が、警戒心と厳しさを含ん
だ声で言い放つと、それを聞いてアランと名乗った男は、
額に手をやりながら頭を振ってみせる。
「そんな事いったって・・・。あんな風に追いかけてきた
ら、誰だって逃げ出すよッ!!」
 ・・・まあ、確かに桜井の言う通り、見ず知らずの上、
でかい図体をした外国人にいきなり話し掛けられ、尚かつ
後に付いてこられた物なら、逃げ出したくなるのは当然の
心理であろう。
「NOッ!! それは誤解デースッ。レディたち、逃げる
からボク、追いかけた。見失いたくなかったデース。やっ
と会えた、ボクの理想のヒトッ!! お願いデースッ。名
前、教えてくださーいネッ!!」
「あ、あの・・・」
「Pleaseッ」
「美里・・・葵といいます・・・」
 息もつかさず一気に話し掛けて来るその勢いに、美里は
たじろぎ、困惑した様な顔をしてうつむいたが、重ねて請
われた結果、どこかおずおずとした、迷いを含んだ声で名
乗ったのだった。
「Cooooolッ!! アオーーーイッ!! 名前まで
Beautifulネッ!!」
「あーあ・・・。教えなくてもいいのに。葵は、やさしい
なァ」
「でも・・・、なんだか、可哀相だもの・・・」
 それを聞くや、文字通り喜色満面といった風情で拳を握
り締め、今にも躍り上がらんばかりに沸き立つアランの姿
を見て、桜井が深々と溜め息をついてみせると、美里は美
里でまた困った様な声で言う。
「アオーイッ。ボク、ちゃんと覚えマシータ。ついでにユ
ーたちの名前も教えてくださーいネッ」
「おれ達はついでか・・・。日本語の勉強が足らんな」
「勉強が足りないんじゃねェ。頭の中身が足らねェんだよ
ッ」
 との醍醐の感想に対し、毒づいてみせた後で京一が、ア
ランへと向き直った。
「いいか、ボケ外人。一度しかいわねェからなッ。オレの
名は、蓬莱寺京一。ほうらいじ、きょういちだッ」
 美里とは違い、京一の自己紹介に対して、アランからの
リアクションはすぐには返ってこなかった。十秒ぐらいの
間、まじまじと不思議そうな顔で見つめた後、口をついて
出てきた言葉はいうと・・・・・・。
「・・・・・・? アホーダ、キョーチ?」
「なッーーー!! 京一だッ、キョ・ウ・イ・チッ!!
名前だけ覚えろッ!!」
「わかりましたッ。キョーチ、デースネッ!!」
「うおーッ!! このクソッたれがァッ!!」
「ノー、クソッたれ違う。ボク、アランネ」
 大凡、予想もしなかっただろう、人を食った返事を聞い
て、瞬時に沸騰した京一が顔を真っ赤にして怒鳴り付けた
ものの、アランの方はまるで応えた様子を見せず、またし
ても妙な呼び方をした為、京一は更にいきり立つが、悪び
れた風も無く、しれっと言ってのける。
「これは、きりがないな・・・。一応、いっておくが、お
れの名はーーーーーー」
「オーッ、ユーのコト、知ってマースッ。TVで見マシー
タ。ユーは、スモウ・レスラーッ!!」
「はッ?」
 嘆息した後、自己紹介に移ろうとする醍醐の声を遮り、
天然か意識してかは不明だが、とてつもなくボケまくった
台詞がアランの口より飛び出すと、醍醐は間の抜けた表情
でぽかんと、口を開けた。
「ジャバニーズ芸術は、Fantasticネ。カブキ、
ノウ、スモウ、シャミセン、ナガウタ・・・。ニッポンは
楽しーネッ!!」
「外人のくせに、長唄まで知ってるのか」
「NOッーーー、ボク、ガイジン違うネ!!」
 ボケられた醍醐が何とか立ち直り、調子良く並べ立てた
言葉の内容に対し呟くと、アランは明快に否定したが、そ
れを聞いた京一が即座にその言葉尻に噛みついた。
「なにいってやがるッ!! 金髪に割れた顎とくりゃ、ど
っから見ても外人だろうがッ!!」
「それは誤解デース。ボクは混血ネ。半分はメキシコ。で
も、もう半分はニポン人ネ」
「へェー。でも、そのワリには、変な日本語・・・」
「・・・ハーフやクオーターだからって、必ずしも複数の
言語に精通しているとは限らんさ。言語能力ってのは、大
体中学生の辺りまでに成熟するんだが、そこに至るまでの
周囲の環境に大きく左右されるからな。生粋の日本人でも
海外で生まれ育った結果、現地の言葉に適応は出来ても、
肝心の日本語の方は不自由をきたす事になったって話も現
に有るし」
「ふーん・・・・・・」
 等と、桜井の洩らした疑問に、俺が答えている所へ。
「OHッ、そういえば、ユーの名前をきいてナイデース」
「えッ? あァ、ボクは桜井小蒔だよッ」
「OHッ、コマーキッ。Cuteな名前デース。後ろのレ
ディはなんていいマースか?」
「あら、わたしの事? ふふふッ、わたしは、天野絵莉よ

「オウッ、エリー。Wonderfulネッ!!」
 アランは桜井に続いて天野さんに声を掛け、二人から返
答を得る度、一言感想を付け加えながら逐一頷くが、それ
を見て未だ名乗れずにいる醍醐が、呆れきった面持ちで呟
く。
「こいつ、女の名前だけはちゃんと覚えるんだな」
「最後はユー、デースッ!! ユーの名前、教えてくださ
ーいッ!!」
「・・・風間。風間翔二。それとこっちは、醍醐雄矢だ」
「オーウッ!! 風間翔二に、ダイゴいうデースか。ユー
たちとは、初めて会った気がしませーんッ」
「・・・初めてだよ。お前さんの様なタイプの人間と、過
去に一度でも会ったなら、まず忘れんよ。ありとあらゆる
意味でな・・・・・・」
 こちらを見ての問いかけに、俺はいつもの如く、必要最
小限の答えを返すと、先の二人と違い、以外にもボケをか
ましたり、妙な呼び方もする事も無く、えらく親しげな態
度でアランは俺の手を握り、ぶんぶんと何度も振ってみせ
るのを見て、京一が胡散臭げにこぼした。
「気持ちわりィヤツだな・・・・・・」
「これからも、仲良くしてくださーいッ。これでミンナの
名前、ちゃんと覚えマーシタ。これで、ボクたちミンナ、
Friendsデース!! Good Friends、
仲良しネッ!!」
「ーーーだ、そうだ。京一」
「なんて、勝手なヤツなんだ。あのなァーーー、オレ達は
お前の相手をしてる程、ヒマじゃねェんだよッ」
 と、醍醐が相棒を見やりながら、どこか脱力した様に言
うと、話を振られた京一は憤慨し、険のある表情で言い返
したが、続けてアランが口にした台詞は、その場の全員の
意表を突く物だった。
「NOッ!! ボクは真剣デース。お願いデースッ!! 
葵をボクにくださーいッ!!」
『!!』
 その声が路上に響くや、驚愕と息を飲む音が同時多発的
に起こる中、アランの奴はこちらを注視していた。まあ、
実の所は俺で無く、後ろで固まっている(と、思われる。
僅かだが、息を飲む音が聞こえたので)美里にこそ、関心
と興味があったのだろうが・・・。
 桜井は口をOの字に開けたまま硬直しており、話せる状
態では無く、醍醐や京一も、似たりよったりの体たらく。
 そして天野さんは、『我関せず』てな様子で沈黙してい
るので、必然的に残った俺が対応せざるを得ない。そして
俺はじろっ、と冷ややかな視線を向けながら、顔面筋肉を
微動だにせず、熱の無い乾いた声で答えた。
「・・・・・・。著しくセンスの無いジョークを言うのは
よして貰おう。何より彼女は、一個の人格と意志の持ち主
だ。それを無視して、その処遇を他人がどうこう出来る訳
が無い。当然、初対面の人間から気安く『下さい』なんぞ
と言われた所で、『ハイ、どうぞ』と頷ける訳がなかろう

「オーッ、どうしてデースか。ヒドイおもいマース。ボク
たち友達デース」
「・・・『友人』って言葉は万能の免罪符では無いし、そ
してその単語を出せば、全ての言動や行為が無条件で許容
される訳でも無い。言葉が指し示す物の意味と方向牲は、
口にする前に十分吟味するんだな」
 俺の返事を聞いたアランは、心底落胆した様な顔をして
嘆いてみせるが、間髪入れず皮肉の矢を放つ。
「ボクは葵がいなくては、これからのLifeを生きてい
けナーイネ。ニッポン、冷たい国ネ。ギリもニンジャもナ
ーイ。サムライもショーグンもいナーイネーッ!!」
「なんだ、そりゃ」
 前半分はともかく、続けて出た意味不明かつ、脈絡の無
い語句を聞いて京一が呆れかえる一方、強い声で反論して
みせる桜井。
「そうだよッ。大体、葵の気持ちはどうなるんだよッ!!

「OHッ、それは、ノープロブレム。ボクは、世界一、葵
を愛してマース!! ボクといれば、葵も絶ッ対Happ
yネッ!! ボクが絶ッ対、Happyにしてみせーるネ
ッ!!」
 ・・・底抜けに図々しい、又は臆面が無いとでも言うの
か、妙に自信たっぷりな表情と態度で、初対面で為人も知
らない異性に向かってこういう台詞を(恥ずかしげも無く
)言ってのける辺り、一体どういう精神構造をしているの
やら・・・。俺からすれば正直理解に苦しむし、何ともや
りにくいと言うか、対処に困る相手である。
 そもそも『愛』云々とか言う言葉は、崇高な物ではある
(筈)だろうが、女性が男性に向けた場合はまだしも、野
郎が言った場合、端で聞いていて異様に胡散臭く空々しい
上、価値や信頼度といった物が著しく低下している様に思
えてならない。そして醍醐と桜井が顔を見合わせた後で、
それぞれ天を仰いだり、手で顔を覆ったりしつつ同時に溜
め息を付いてみせる。
「まったく、困ったもんだ・・・」
「京一が二人いるみたいで頭痛くなってきた・・・」
「こんなクソ外人とこのオレを一緒にすんじゃねェッ」
 と、それを耳にした京一が二人に猛然と抗議する一方。
「さァ、アオーイ。ボクと一緒に、スイートホームへレッ
ツゴー、ネッ」
「で、でも・・・、私は・・・・・・」
「あッ、ちょっとッ。コラッ!! 葵は渡さないからねッ

 近寄って来たアランの、手を差し伸べながらの誘いに対
して、首を動かした俺が後ろを見やると、美里は困惑と遠
慮が入り混じった表情で僅かに身を引いており、そして桜
井が二人の間に割って入ると、睨みを効かす。
「ちッ、このままじゃ埒があかねェ。ほっといて行こうぜ
。なあ、急ぐんだろ? エリちゃん」
「えェ、そうね。アランくんには悪いけど、もう余り時間
が無いし・・・」
「ホワット? なにか用あるデースか?」
「ああ。おれ達はこれから、みんなで出かけるんだ」
 内心の不機嫌を表す、苦々しい声に撫然たる顔をした京
一に話しかけられた天野さんが頷くと、耳聡くそれを聞き
つけたアランが問うて来るのに醍醐が答える。
「みんなって?」
「忘れたのか、桜井。約束していただろうが」
 まだ一連の事情を知らない桜井が首を傾げたが、ボロを
出す前に話し掛けた醍醐が、さりげなく目くばせして見せ
ると、その言葉の真意に気付いた桜井の顔に理解の色が浮
かび、(若干、わざとらしくはあるが)調子を合わせて話
し出す。
「あッ、そうそう。そうなんだよッ!! みんなで出かけ
るんだよねッ」
「それは、本当デースか?」
「肯定だ」
 アランが幾分、疑わしそうな目をして俺達を見るのに対
し、俺は短く答える。
「いやァ、残念だなァ。わりィが、ここでさよならだな、
アランよ。オレたちはこれから、江戸川まで行かなきゃな
んねェんでな」
 言葉とは裏腹に、京一の顔や声調が少しも残念そうには
見えない辺り、日本の政治業者や汚職官僚の『釈明』とそ
う変わらない。
「エドガワッ!?」
 が、京一の台詞に素早く反応したアランが、又しても意
表を突く台詞を発した。
「エドガワ、ボクのホームがある街ネッ」
「な、なんだとォ〜ッ!?」
「偶然って怖いねェ・・・」
 あまりにも出来過ぎた話に、まさしく開いた口が塞がら
ない京一と、諦めと投げ遣りが混在する声を出す桜井。
「Coooolッ!!」
 そして鬼の首をとったか、はたまた、スポーツで新記録
を達成した選手の様に手を高々と突き上げ、ガッツポーズ
を取るアランだったが、そこへ天野さんが常に無い程真剣
かつ、厳しい口調で叱りつける。
「アランくんッ。わたし達は遊びに行く訳じゃないのよ。
あなただって、江戸川区の住人なら知っている筈よ。今、
あそこではーーー」
「知ってマース。ヒト、たくさん死んでるネ。あれは悪魔
の仕業デース。行けば、ミンナの命も危ないデース」
 それまでの陽気な態度と笑いはどこかへ消え去り、深刻
な表情と抑えた声がそれに取って代わった。
「お前・・・、何か知っているのか?」
「ダメデースッ、絶ッ対、行ってはダメデースッ!!」
「あのなァ、アラン。お前のいうコトがわからねェ訳じゃ
ねェが、オレたちは行かなきゃなんねェんだよ」
 その反応に眉を潜めた醍醐の問いかけにも答えず、アラ
ンは只ひたすらに首を振り、両手を広げて押し止めようと
するが。それに対して、一つ、首を振った京一が真面目か
つ、真剣味を帯びた声調でそう言い切って見せると、アラ
ンはぴたりと動きを止め、京一に俺達とを見やった。
 ・・・それから数秒の間、黙り込んだ後。
「キョウチ・・・」
「キョ・ウ・イ・チ・だッ。キョ・ウ・イ・チッ!!」
 またも名前を間違えられ、青筋を浮かべ訂正する京一だ
が、それを当のアランが聞いているかどうか、怪しいもの
である。
 そして・・・、何かを決意したかの様な光が目に宿り、
アランは視線を京一から俺達へと移した。
「わかりマシータ・・・。それなら、ボクも一緒に行きマ
ース」
「でも、アランくん・・・」
 驚きと躊躇の混じった視線と声を向けた美里に、気迫な
いし、覚悟にも似た物が込められた声でアランが答える。
「ミンナや葵を放っておけナイ・・・。ボク、強い男デー
ス。絶対役立つデース。だから、ショージ。ボクも一緒に
連れていってくださーいネ」
「・・・・・・。何が起こっているのか理解した上で、覚
悟があるのなら、とやかくは言わん。好きなようにしろ。
・・・江戸川までの案内を頼めるな?」
「オウ、ショージ、ユーの目は、確かデース。ボク、きっ
と役にたつ。頑張りますデース」
 なんぞとアランが威勢良く声を張り上げつつ、意気込み
を表す一方で。
(おいおい、本気か? 翔。どう見ても、あいつはただの
ヘボ外人だぞッ)
(・・・・・・。一部なりとも事情を理解し、危険と判っ
た上で付いて来ると言ってる上に、高校生にもなれば『自
己決定、自己責任』だ。第一、あの調子じゃ、拒絶した所
で無理矢理付いて来るだろうよ。・・・ま、天野さんと同
じく、最後まで付き合わせるつもりは無い。雲行きがヤバ
い様なら、なるべく『穏便』にお引き取り願うし、いざ『
連中』が出て来たら、張り倒してでも同行はさせん)
 二人して顔をつき合わせ、アランに聞こえぬ様、ひそひ
そ声で話していた所へ。
「まァ、いいじゃない。連れて行きましょう」
「エリちゃん・・・」
(この子、何か隠しているわ。きっと・・・)
 会話の断片が聞こえたのか、近寄って来た天野さんの言
葉に、以外そうな顔をして見返す京一。そして天野さんは
可聴域ぎりぎりの低い声で、そう囁き掛けて来た。
「へ?」
「・・・・・・!?」
「OHッ!! Thanx、エリーッ」
「それじゃ、行きましょう。江戸川へーーー」
 満面に笑みを浮かべ、謝辞を述べるアランに軽く笑い返
した後、踵を返した天野さんはやや急ぎ足で歩き出し、そ
れに続いて俺達も歩き出し、予期せぬ随行者が加わった事
で総勢7名になった一行だが。
(・・・ちと、気が引けるが、こうなった以上、やはり誰
か助っ人を頼んだ方が良いかもな・・・。相手が『奴等』
なら、如月が持っている情報なり、技能等が何らかの助け
になるかも知れんし、他の面々も強さに関しては、信用で
きるだけの腕の持ち主だ。後は・・・念の為、もう一度家
に寄って、装備を追加して持ってこよう・・・)
 内心でそう決め、港区の時と同じく事情を説明した後、
俺は一旦、一行から離れた。家へととって返すと、とるも
のも取り敢えず、殆ど『テロリストのアジト』と化した『
武器庫』より、装備類を引っ張りだし、袋へと詰め込みな
がら、電話の子機を手にし、連絡を入れる。
 しかし・・・・・・。
 まずヒマ人の(筈である)藤咲に。
『・・・おかけになった電話は、電源が入っていないか、
電波の届かないところにーーー』
「むう・・・・・・」
 続いて紫暮の自宅へ。
『・・・兄は今しがた、知り合いの道場へ出稽古に行って
しまい、夕方までーーー』
 何というタイミングの悪さ・・・・・・。
 次は裏密だが・・・。
『うふふふふふふ〜〜〜。ミサちゃんは〜。ただ今〜・・
・』
 三人目も空振りか・・・・・・。 
 今度は雨紋。回線が繋がり、二言、三言話した所へ。
『あ、悪リィ、センパイ。今、新曲のお披露目も兼ねた、
週末のライブの音合わせ中なンだわ。用なら、後でかけ直
してくれよな。じゃ、ホント悪リィがこれで・・・』
 惨憺たる様子に、頭痛を覚えつつ次の番号を押す。
「・・・岩山院長。今日、そちらに高見沢は出勤していま
すか?」
『あれは今日、外で実習だが、もうじきに帰ってくるだろ
う。・・・なんか用事でもあるのかい?』
「肯定です。彼女の手が必要な事が起きているので」
『ふん。・・・またぞろ、厄介事に首を突っ込んでるよう
だね。まあいい。それなら、あれが帰り次第、あんたに連
絡を入れさせるよ』
「助かります」
 夏休みだから、皆が留守がちなのは仕方無いとはいえ、
何とか一人確保・・・。最後は。
『・・・風間君か。どうしたんだい?』
「如月の手が借りたい。ある筋から、江戸川区の辺りで鬼
道衆が動いているらしいとの情報を貰ってな。今から皆で
調べに行く所なんだ。是非、お前にも来て欲しいんだが、
支障無いか?」
『そういう事なら問題無い。僕もすぐに現地に向かおう。
どこで落ち合えばいい?』
「都営地下鉄の篠崎駅前だ。先発組として、京一達が既に
向かっている」
『承知した』
 それを最後に電話は切れ、俺も行動に移る。大急ぎで新
宿駅へと向かうその途中で高見沢からの連絡が入った為、
すぐに江戸川区に向かう様、伝える。
 ・・・今回は事件の剣呑さもさる事ながら、正直な話、
初動の遅れに戦力不足等が(やや)目立つ。本当、手遅れと
いうか、ややこしい事にならなきゃいいのだが・・・・・
・。しかしながら、『世の中の出来事は往々にして、当事
者の抱く期待の正反対の方へと動く』ものだしなぁ・・・
・・・。
 どうも御多分に漏れず、『この件』もまた『非常』にや
やこしい事へと発展しそうな気がする・・・・・・・。
 そういった、漠然とした懸念や思惑を心の隅に憶えなが
ら、俺はホームへと滑り込んで来た地下鉄の車両に乗り込
んだのだった。 
 
          第九話『鬼道』其の三へ・・・

 戦人記・第九話「鬼道」其の参へ続く。

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