中央改札 悠久鉄道 悠久交響曲 第二章 第四章

究極のせ・ん・た・く★ 第三章

信(小説)←亜村有間(絵)

<第三章:偶然の出会い> 「それじゃあ、またね。」
「うん。今日はありがと、また今度新しい魔法教えてね★」
出会ってから二時間後、俺はマリアと別れた。人によっては開放されたという表
現を使うかも知れないが、
それなりに楽しかったし、少なくとも俺にとっては別れたという表現の方がしっ
くりくる。
一つの呪文でよく二時間持たせたなぁ、と言う人がいるかも知れない。何のこと
はない。
彼女が印と呪文を完璧に覚えるまで俺が魔法を使うことを許さなかった、それだ
けだ。
第一印象からの予想通り、「もう覚えたもん!」だの「おんなじことばっかりつ
まんな〜い!」だの
不平不満を並べ立てられたが、それはそれ、彼女にとって『ものすごい魔法使
い』の俺の言葉は絶対と言って
いいほど大きな力を持っていたのだ。とにかく、雑談で気をそらしてわざとに忘
れさせたり、あらゆる場合を
想定したので、完璧にマスターしたことは間違いなかった。
俺がそこまで念を入れる理由、それは簡単だった。
アレフからこの街の最も危険なトラブルメーカーの存在を聞いていたからだ。
勉強嫌いできちんと魔法を覚えないくせに、なまじ潜在能力が高いものだからい
つも失敗魔法で周りに迷惑をかける。
魔法至上主義の、ショート財閥の一人娘。確か名前が・・・・マリア・ショー
ト。
冷たい空気を胸一杯に吸い込んだような寒気が体中を襲った。じゃあ今のが、あ
の噂に名高いマリア・ショート!!!
俺は彼女の走り去った方を、今までとは違う気持ちで見ていた。と、建物の陰か
ら空へ舞う、鳥とは明らかに違う影が見えた。
眼を凝らして見たその人影は、確かにさっき会った少女、マリア・ショートに他
ならなかった。
よかった、少なくとも俺が魔法を教えたことによるトラブルはなさそうだ。た
だ・・・空を飛ぶ時はズボンをはくように言わねば。
「うみゃあ〜!がくふさん、まってほしいの〜!」
突然向こうのほうから近づいてくるこの声に、俺は聞き覚えがあった。
この声は、いやそれ以前にこんな話し方をする人物は俺の知る限り一人しかいな
かった。まぁ、他にいるとも思えないが。
「どうした、メロディ?」
声のする方に向き直ってそう声をかける俺の視界に、空を舞う白いものが映っ
た。が・く・ふ・・・楽譜か!
どうしてメロディが楽譜なんか?メロディのあの手で演奏できる楽器なんて
あるかなぁ?
などという真面目な推理から、
誰かに、これにはいろんなメロディが書いてあるんだよと言われて嬉しくなっ
てもらってきたのか?
などというくだらない冗談までが一瞬のうちに俺の頭をよぎった。何にせよ、メ
ロディーが困っているんだ。
「シルフィード・ウイング!」
さっきマリアに教えたばかりの魔法を俺は再び唱えた。
楽譜を舞わせる風はきまぐれだったが、こいつを覚えた時に、嬉しさのあまり何
度も使ったせいか、
風の動きをよむことは俺にとってはわけのないことになっていた。事実、飛んだ
楽譜を集めながら番号順に並べる余裕さえあった。
「はいメロディ、これで全部かな?」
俺は集めた楽譜の端をそろえてメロディに差し出したが、メロディは「わか
らないの〜。」と言ってもの珍しそうに楽譜を見ている。
「え!?これ、メロディのじゃないのかい?」
驚いて問う俺に、
「ちがうよ〜。このがくふさんは、シーラちゃんのだよ〜。」
シーラ!?知ーらないなぁ。・・・真面目に悩んでいるんだぞ、これでも一応!
と、
「はぁ、はぁ。メロディちゃん、楽譜、どっちの方に飛んでいった?」
息を切らしながらメロディの後ろから一人の少女が現れた。そして顔を上げた
彼女の視線が俺の手の物で止まった。
「そ、それ、あの、もしかして・・・」
「そうだよ〜、シーラちゃんのがくふさん、ティームちゃんがあつめてくれたん
だよ〜。」
「こちらの方、メロディちゃんのお知り合い?」
「うん、アリサちゃんのおうちの、ティームちゃんだよ〜。」
「じゃあ、あなたが。」
と、目が合った途端にシーラと呼ばれているその少女が顔を赤くしてうつむいて
しまった。
そう言えばこの間、確かこの街の音楽一家のシェフィールド家の一人娘って子の
リサイタルのポスター貼りをアレフとクリスに
手伝ってもらった時、話を聞いたことがあるなぁ。その子の名前が・・・そう、
シーラだ!
「シーラ・シェフィールドって子、俺より年下じゃないか。それなのに夜想曲嬰
ハ長調を演奏するなんてすごいなぁ!」
「え、ティームさんこの曲知ってるんですか!?」
「そんなに意外そうな顔するなよ、クリス。まぁ、以前いた街の知り合いがこの
曲が好きで、何度か一緒に聞きに行っただけなんだけどね。」
「それでもすごいですよ。アレフ君なんて、シーラさんをデートに誘うために図
書館にまで行って勉強したけれど分からないって叫んでましたから。」
「へぇ、この街でアレフがまだデートに誘ったことのない子がいたんだ!『最
強』の魔法少女のマリアって子か、メロディか、そのくらいだと思っていたの
に。」
「シーラさんは箱入りのお嬢様なんです。そのせいか異性に対して意識し過ぎる
らしくて。あと、ナンパな人が嫌いとかで。」
「おぉ、クリスにしてはすごいチェックの仕方だ。お前、さては・・・」
「そ、そんなんじゃありませんよ!ア、アレフ君が言っていたんですよ!からか
わないで下さいよティームさん!」
「はは、悪い悪い。」
そうか、この子があのシーラか・・・。
俺は、知らないうちに彼女を見つめ続けていた。

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