「ご迷惑をおかけしました」

 少しうとうとしてしまったせいで、ブリッジを訪れたのは昼を過ぎていた。
 私は深々と頭を下げる。

「落ち着いたのならよかった。本当に心配してたのよ」

「ラミアス艦長にもひどいこと言ってしまって済みませんでした」

 『いいの、気にしないでね』と艦長さんは私を抱きしめてくれた。

「でも、一番迷惑を掛けたのはラクスだったね。……ごめん」

「構いませんわ。私だって、混乱していたら同じような行動を取るかも知れませんもの。
 だから、もう逃げないでくださいね?」

 ウィンクする彼女に『アカンデー』と跳ね回るハロ。私は肩をすくめて、頷いた。

「えっと……バルトフェルド隊長は?」

「自室にいらっしゃるはずよ」

「そうですか。それじゃ、ワゴンを食堂に返した後、いってみます」

「部屋は……」

「コーヒーの匂いのするところを捜していきます」

「ふふっ、それが一番わかりやすいですわね」



 ブリッジを後にして、私はワゴンをガラガラ押しつつ廊下を歩いた。

「あ、ここだ」

 チャイムを鳴らしてしばし待つ。

「やぁ、よくきたね。迷わなかったかい?」

「これだけコーヒーの匂いが流れてれば、嫌でもわかりますよ。おじさま?」

 上目使いでいたずらっぽく笑った私を、あの日と同じようにきつく抱きしめてくれた。

の意見も聞かず、僕の独断で催眠術なんか使ってすまなかった。
 それが今回のことを引き起こすなんてね」

「おじさまは私のことを思ってくれてされたんですから。謝らないでください」

「しかし、あのまま死なせていたら、僕はあいつらになんて謝ればいい?」

「大丈夫。お父さんたちなら、逃げるために死を選んだ私を叱るだけで、アンディおじさまには何も言いません。
 それよりも、私は今生きているんですから、おじさまたちに助けられたんですよ。
 迷惑をかけて謝るのは私のほうです」

「しかし……」

「じゃあ乾杯しません? 私、久しぶりにおじさまのブレンドコーヒーが飲みたいんです。
 コーヒーカップが空になったら、それまでのこともすべてなかったことにしたらどうでしょう?
 そしたら、お互いが謝り続けなくてもよくなると思いますし」

「そうだな。よし、親友の可愛い娘のために、取っておきのブレンドをしてやろう」

「わーいっ!」