道の端にエレカを止め、バルトフェルドは立ち上がった。


ちゃんちに行くんでしょ。なら、これを届けて下さいよ。彼女、甘い物には目がなかったですから」


有能なる副官に託されたのは、大きなケーキの箱。
行き先を告げたのは朝のはずだったのだが、いつの間に用意したのかと聞きたくなった。

「それに、僕は杖があるから持てないんだけどなぁ」

小さく肩をすくめて、結局、取りにきてもらう結論に達した。
しかし、数メートルの距離だとはいえ、オープンカーに物を置いておくなんて不用心この上ない。
閉じたドアに軽く腰かけ、バルトフェルドは携帯電話を取り出した。

「……おかしいな……この時間はいるって聞いたんだが……」

応答のない電話。
視線を玄関に向けると同時に、威勢よくドアが開かれた。

「なんだ、気がついて……え?」

出てきた姿がいつもより小さい男女。
バルトフェルドはさっと物陰に隠れたが、言葉が出ない。
あちらも彼の存在には気がついていないのか、辺りを見回して、少年が少女の手を引いて走り去ってしまった。
それを確認すると、バルトフェルドは不自由な足を精一杯動かして、目の前の家に飛び込んだ。
すると、彼の鼻を突いた、ある意味嗅ぎなれた匂い。

「ッ!!!!」

廊下の突き当たりにあるリビングは、まさしく血の海だった。
ここまでする必要があったのかというくらいに、深く切り刻まれた2つの体。
ごろん、と無造作に転がしてあったのは、恐怖を刻んだままの男女。
かつて、自分と懇意にしていた夫婦のもの。

「……は……」

遺体は2人分しかない。では、娘はどこへ。

「……お……おじさまぁ……」

ソファと観葉植物の僅かな隙間。
普通ならカーテンをしまうはずのスペースから、両目を真っ赤にさせた少女が立ち上がった。

、怪我は?」

ふるふると小さくかぶりを振って、再び泣き出した彼女はバルトフェルドにしがみついた。

「……お父さんを……お母さんを……あいつら笑いながら……」

「まさか、全部見てたのかッ!」

小さく頷いた体を、片方しかない腕でしっかりと抱きしめた。

「……う……うぁ……ああぁあああぁぁぁぁぁ……」

は彼の胸にしがみつき、大声で泣いた。