「……そして、あとはお前たちが知っている通りだ」

「彼女の過去はわかりましたけど……でもどうして私たちが……」

「事件の後、はある色に異常なほどに反応するようになった。
 泣いて暴れて、その色を少しでも自分から遠ざけようとしてた。……キラはその様子を見たな?」

先ほどの船での一件がよみがえる。
彼女は僕の目を見た途端、脅えて暴れ出した。

「両親が駆け落ち同然で結婚したためなんだが、あいつは天涯孤独。
 1人になったを、俺がひきとって、そしてエターナルに乗せることにしたんだが……。
 その前に強力な催眠をかけて、事件のことは記憶の奥底に閉じ込めるという手段を選んだ」

「催眠術……ですか?」

僕の言葉に、バルトフェルドさんは頷いた。

「可哀相に思ったんだが、時間がなかった。出港の時間は近付いていた。
 エターナルが歌姫の船であることも、またフリーダムの専用運用艦ということを考えた結果でな」

「……どういう……ことですの?」

「お前たち2人が揃っているのを見たとき、俺ですら最初のうちは殺意を覚えた。
 それなのに、あいつが耐えられると思うか?
 キラ、ラクス。お前たちが悪いわけじゃない。それだけは言える。……しかしな、似てるんだ。
 の両親を笑いながら、ナイフの試し切りだといって殺した2人の少年少女にな」

口の中に溜まった唾液を飲み下した音が、いつもより大きく聞こえた。

「事件の後、あいつの目撃証言と俺の目撃証言とで、あっという間に犯人は捕まった。両方とも16才。
 少年は黒髪に右に銀のサイドメッシュ、そして目立ちたいがためにカラーコンタクトで瞳を紫に変えていた。
 少女は栗色の瞳を持ち、髪はふんわりとさせたロング。やはり目立ちたいがために染めていた色は……」

「私と同じ……でしたのね」

ラクスの言葉に、バルトフェルドさんは頷いた。

「今のあいつは海に落ちたときの衝撃で、記憶が両親が殺された頃に戻っている。
 だから、落ち着くまで、に近付かないでほしい。頼む……」

「……そういうことでしたら……仕方ありませんわね……。
 他でもないバルトフェルド隊長の頼みですもの、協力させていただきますわ。キラも……」

「僕は……協力できません。
 だって、いつが落ち着いて、僕の方を見てくれるかわからないんですよ!」

「それは俺だって分からない。しかし、今あいつに近付いていたら、確実に嫌われるぞ」

「そうですわ。今は我慢してください」

確かにバルトフェルドさんの言うことも、ラクスの言うことも、分からないわけじゃない。
それでも僕は、の側にいたい。
それに犯人が男女の2人組だったら、その2人は恋人同士だと思っている。
そして似ているという僕とラクスの間柄も、同じなんだと、きっと誤解する。

「僕はのことが好きだから……」

「だったらなぜ?
 キラは、彼女と一緒に暮らすようになってからもろくに近寄らなかったじゃないですか。
 一体、何を考えてるのですか。
 彼女を怯えさせて怖がらせて、自分の気持ちを押し付けたいと思っているのですか」

「そういうつもりはないよ。でもが落ち着いたとき、また同じ誤解を繰り返されるのも嫌なんだ。
 ……そうじゃなきゃ、彼女は飛び込んだりしなかった……」

僕はうつむいて、拳を固く握り締めた。

「飛び込んだって……あいつは、身投げしたっていうのか?」

「ええ。僕が行ったときは身を乗り出していたのを落ちる直前で引き戻したんです……。
 でも少し油断した隙に窓枠に飛び乗られて、『僕とラクスを見ているのが限界だから』と言って一気に……」

「私とキラを見ていることが限界ということは……もしかしたら。
 封じたはずのの記憶が、戻りかけているのではないでしょうか」

ラクスの言葉に、バルトフェルドさんは苦しそうに頷いた。

僕もそうかもしれないと考えている。彼女が『見たくない』といった理由にも頷ける。
でも、あの『ありがとう』の意味は何だったの?
君が僕のことを……なんて誤解していいのかな。ねぇ、自惚れてもいいの?
教えてよ、……。