「彼女は、一体どうしたの?」

マリューさんの問いかけに、バルトフェルドさんは小さくため息をついた。

「当事者であるキラとラクスにはもう話したんだが、やはり艦長である君の耳にも入れておくべきだと思ってね。
 でも、まさかあいつがここにいるとは思わなかったよ……」

バルトフェルドさんは僕たちに話してくれたようなことを、マリューさんにも説明した。

「……そうだったの……だから、アークエンジェルの名前にあんなに嫌悪感を示していたのね……」

「あいつの記憶は、今、両親が殺された頃。俺がエターナルで合流する前に戻っているからな。
 許せないんだろうよ、敵の船に自分がいることも、俺がいることも。それに、一番厄介なのが……」

ちらりと僕たちを見るバルトフェルドさん。

「紫とピンクを見た時の反応は、さっきのの様子で十分に分かっただろう。
 それでもあいつの側にいたいと言うのか、キラ?」

「僕は彼女の両親を殺してはいません。
 僕と犯人とは赤の他人だって事をわかってもらえたら、も逃げなくなると思いますし……」

「でも、あの様子だと私たちは近付くことすらできないのではないでしょうか?」

「うん、わかってる……。でもそれだから諦めてしまったら、だめなんだ。
 できないっていって諦めて行動しなかったら、もっと何もできない。僕はもっと後悔することになる」

海に吸い込まれていく彼女の姿を見ていたとき、何もできなかった自分が情けなかった。
限界まで伸ばした手でどうして捕まえられなかったのか、海の中で捜しながら悔やみ続けた。
何よりも、自分のせいで飛び込ませてしまったという罪悪感が、今も僕を責め続ける。

「キラくん、とりあえず今日はもう休むといいわ。ラクスさんもバルトフェルド隊長も。
 彼女も今日は気が高ぶりすぎているでしょうから、これ以上刺激しない方がいいと思うの。それに明日は……」

マリューさんの視線につられて、僕たちもそちらに視線を移した。

「カガリ……」

モニター越しの双子の姉は、とても悲しそうに微笑んでいた。
いつもの強気な様子は抜け落ち、生気が感じられない。

「絶対に助けなければ……なりませんわね……」

「ああ……戦争の道具にされてしまうまえにな……」



翌日、結婚式場から攫ってきたカガリは怒鳴り回る。
フリーダムを操縦しながら僕は『こっちのが、らしいよね』と小さく笑って。
そしてコックピットに招き込んだ彼女に、昨夜のことを話す。

「……冗談……だろ?」

「僕もそう思いたい。でも……が僕たちを避けてるのは事実なんだ」

実際、今朝も一度も部屋から出てこなかった。
トイレとシャワーは部屋にあるのだけれど、食事に関しては昨日の昼から何も食べていない。
僕たちが来る少し前、マリューさんに出されたコーヒーを少し飲んだだけだと言うし……。

がキラのことを見たくないなんて、そんなの、天地がひっくり返ってもありえないぞ!
 だってあいつは……」

拳を握りしめて言うカガリだったけど、最後は言葉を飲み込んだ。

が……何?」

「いや、忘れてくれ。そもそも、第3者の私が言うべきことではないしな」

カガリはそう言って黙りこんでしまった。
こうなってしまうと梃子でも口を割らないことを知っている僕は、それ以上の追求を諦めた。