くぅっと、小さくなったおなかの音に、私は苦笑した。
考えてみれば、昨夜も食べていないし、口にしたのは僅かなコーヒーだけ。
かといって、この部屋から出ていく気にもならなかった。

「人殺しのいるところで、ご飯なんか食べられない」

廊下に飛び出したときに破片で切った足の傷は、とりあえず傷口を洗っておいた。
ドアには電子ロックをかけて、内側から机や椅子でバリケードを組み上げる。
ロックもバリケードも単なる気休めかもしれないけれど、何もしないよりはよかった。

ベッドの上でひざを抱え込んだ私は、自分がこの後どうなるのか考える。
あのマリューって女の人の話を信じるなら、この船は海底深く沈んでいて、外への脱出口はない。
回りには味方になってくれる人もいない。
両親亡き後唯一信じられたアンディおじさまからも、手痛い裏切りを見せつけられた。

「……もう……ほんとに誰を信じたらいいのっ……」

とてつもない大きさの不安と絶望に、私は押し潰されそう。




……いるのか?』

軽いノックの音に続いたのは、聞いたことのない声。でも答えるのもおっくうで、私は無視を決め込んだ。

『私はカガリ・ユラ・アスハ。この国の……オーブ連合首長国の代表だ』

そんなお偉いさんが何故この船にいるのか不思議に思った。
声の感じからすると、私とそんなに違わない年にも思える。でも、相変わらず答えは返さない。

『私はナチュラルだが……お前と同じ、目の前で父を失った。だから、その痛みについてはよくわかる……。
 でも、それでも! 誰かを恨んでも死んだ人は帰ってこないんだ。
 だからせめて、その人たちの分まで生きるしかないだろ』

私はのろのろと立ち上がり、バリケードの隙間からドアのインターホンを叩く。

「何もかも知ったように、偉そうなこと言わないで!
 あなたが私と同じ? だから私の心の痛みがわかる? わかるわけないじゃない。
 オーブ首長家は親類関係でできあがっているんでしょう。
 わずかでも血の繋がりが残されているあなたに、たった一人になった私の気持ちなんてわかるわけない!
 私はもう誰も信じないの、声をかけてこないでッ!!!!」

昨夜持ってきて、机の上に置いていたままのペーパーナイフ。
私は感電防止のためにシーツを巻きつけた手でそれを握ると、インターホンに振りおろした。
小さなスパークとともに、再びの沈黙が訪れる。

「そう……もう誰も信じない……。再び誰かを信じて裏切られるぐらいなら、餓死しても構わない……」

恨むなと言われても、それはできない。
目の前で繰り広げられた凄惨な光景を思い出すたび、納まるどころか強くなる一方。
さっきの人の父親……アスハ前代表は確か、オーブの諸施設とともに爆死したって聞いた。

「……何よ、目の前でって言っても、私とは全然違うじゃないの……」

クスクスと、自然と笑いが漏れる。血まみれで横たわる姿を見ていないのに、私と一緒だなんて。

「……思い込みもいいとこだわ……」

ベッドに倒れ込んで私は、空腹をごまかすために無理やり眠りについた。