「……まさか、ドアの開閉装置まで壊されるなんてね……」

「仕方ないさ。さすがに予想してなかったから、他の部屋と同じ強度だったんだし」

「でもこれで連絡はおろか、コンピュータをハッキングして開けるなんて真似もできなくなりましたわね……」

「久しぶりに会ったって言うのに、相変わらずの考え方だな……一歩間違えれば犯罪に繋がるぞ」

「大丈夫ですわ、捕まるとしたらあなたの弟ですもの」

「……確かに、キラならやりかねないな……」

「ちょっと、黙って聞いていれば!」

「お二方もそう思いますでしょ?」

「そうね、キラくんの腕前なら簡単でしょうし」

「ハッキングが趣味だと言い回ってるお前が悪いな」

たたみこまれたとはこのような状態かも知れない。ため息をついた僕は、持っていたパソコンを閉じた。

「それにしても、あのままで放っておくわけにもいかないですよね。もう通じる道はないんですか?」

「……ないわけじゃ……ないのだけれど……」

僕の問いかけに、マリューさんは言葉を濁す。

「こちらからあの部屋へ通じるドアや連絡経路は断たれてしまったけれど、部屋の中からは手動で開けられる。
 それに1つだけ残っている場所があるわ。……でも、狭くて子供でも通れるところじゃないの」

「それってどこなんだ!」

カガリがマリューさんに掴みかかるようにして聞いた。

「彼女なりに連絡経路を断ってしまったことに責任を感じているんですわ……」

カガリを止めようと一歩前に出かけた僕の耳に、ラクスの言葉が届いた。

「通風口よ。天井にあるから、彼女も手が届かなくてためらったんでしょうね」

「子供が通れない狭さか……。具体的な大きさはわかるか?」

「一番狭いところで大体20センチってところかしら」

マリューさんの指先がパネルを叩き、艦内図を出す。そしてバルトフェルドさんの問いかけにもすぐ答えた。

「……じゃあ、僕のトリィなら通れますね」

少しだけ見えた方法に、僕の顔は自然に笑顔になった。

「トリィは、あっちに置いてきたんじゃないのか?」

「それが……いつの間にか電源を切って僕の荷物の中に入れてあったんです。多分、母さんだと思いますけど……。
 トリィなら警戒されることもないんじゃないでしょうか?」

「そうですわ、私の髪に反応するのでしたら、同じピンクのハロではいけませんし……」

「それしか今のところは方法がないものね……。いいわ、許可します」




許可をもらって部屋に戻った僕は、飛んできた緑色の体を撫でてやった。

「狭いところを抜けて、僕の愛しいお姫様のところへ行ってきてくれるかい?」

「トリィ!」

勿論と一声鳴いた小鳥は、僕の肩に止まって体を擦り寄せてきた。

「トリィものことが大好きだもんね。……でも、渡さないよ?」

「トトトリィ、トリィトリィ!」

「何、トリィも渡さないって?」

「トリィ!」

のことは、いくらトリィでも渡せないなぁ」

笑いながら言った僕を、トリィは何度もつついてきた。それはまるで、僕に抗議しているようで。
今まで張り詰めていた気持ちが少しだけ和らいだ気がした。
僕は肩にトリィを乗せたままで立ち上がり、みんなが待つ場所へと向かった。




「じゃあ、頼んだぞ」

カガリが用意していたのは小さな巾着。それをトリィの首に下げた。

「何が入っているんですの?」

「コーヒー味の飴玉が1つ。甘いものは疲れを取るし、何か口にすれば少しは落ちつくだろ」

『だから落とすんじゃないぞ』と言い聞かせ、トリィは一声返事を返す。

「ルートは?」

「さっき送っておきました。……じゃあ、行ってこい!」

僕の手を離れたトリィは、一直線に通風口へと飛び込んだ。