デジタル携帯電話方式の基礎

エルメス!?まっちゃん妻夫木くんあとうかい!?
各社のカタログ


  はじめに

 近年、携帯電話市場は第3世代方式である、FOMA や SBM 3G 等の 3GPP@W-CDMA 方式と、au の CDMA2Kx1/WIN へと主流がシフトしつつあります。

 第三世代方式の解説は他項に譲るとして、ここでは我が国で初めて実用化された、第二世代デジタル自動車・携帯電話方式である PDC および、俗に 2.5 世代と呼ばれた IS-95(CDMA)についてご紹介したいと思います。
 またあわせて、移動体電話における基本概念(ハンドオーバーやフェージング等)も、ご紹介したいと思います。

 余談ですが、各社共通の問題点として近年、基本性能の低い内蔵アンテナ機種ばかりになってしまった点が挙げられます(性能差は数倍あります)。ビル等の屋内、山間部、僻地など悪条件の重なる環境下では、事業者・方式を問わず音声が断続したりかすれやすい等、モロに差がでます(頻度は圧倒的に上り>下りの順で端末使用者本人は気づきにくい)。
 もしも、あくまで快適な通話(データ通信でもスループットに直結するが)を重視するならば、マトモな伸縮式アンテナの旧機種しかありません。それらを店頭などで見つけたら、”即買い“でしょう。マトモなアンテナの機種は現在、ほぼ絶滅してしまい特別天然記念物と化しています。





  各方式について

 デジタル携帯・自動車電話の方式は、'93 年よりサービスされている PDC 方式、'99年春から全国 サービスを開始した、cdmaOne(当時のサービス名称・現 au 3G 端末はその上位互換)があります。まず、両方式の特徴などを簡単に、まとめてみました。

  ※本文中特に断りがない限り PDC は、ドコモのサービスを指します


表1・デジタル移動電話方式
方式名称 PDC(PersonalDigitalCeller) cdmaOne(IS-95based)
使用周波数帯 800MHz/1.5GHz(専用割当) 800MHz
(旧アナログ方式と置換)
サービス開始
(開始当初)
93年03月(800MHzのみ) 98年07月(西日本のみ)
開発国・会社 日本・ドコモ 米・クアルコム社
周波数利用効率
(帯域/通話Ch)
25KHz ステップ/3or6ch※
 
※インターリーブ:占有帯域幅が 32KHz 程度あるため

(これ以上は絶対にムリです)
1.25MHz/ 64論理ch
※実際には、制御用9chを差し引き 55ch です。

制御用内訳は、パイロットx1、同期用x1、ページング用x7
多元接続方式 TDMA(時分割多重)
3ch TDMA/FDD(フル)
6ch TDMA/FDD(ハーフ)
CDMA/FDD(符号分割多重・ここでは直接拡散方式を指す)
拡散符号 M系列+64 Walsh code
音声コーデック
(音声圧伸処理方式)
V-SELP(フルレート)
PSI−CELP(ハーフレート)
EVRC(※CELP 系)
転送レート
(エラー訂正含む)
11.2Kbps(フルレート)
5.6Kbps(ハーフレート)
(いずれも、実転送レート)
9.6Kbps(EVRC により 1.2〜9.6Kbps の 4 種間で可変)
主な特徴 単位周波数あたりの周波数利用効率が高い

パワーセーブ率が高いため待受時の電池持続時間が長い

サービス開始が先行しているためエリアが圧倒的に広い

長年の実績と蓄積により、技術的にはほぼ成熟している 

周波数の繰り返し利用効率が高い

音質が良い(特に対固定電話との通話時)

悪条件下の伝送路に強い

スペクトラム拡散方式(直接拡散)のため、単位周波数あたりの電力密度が非常に低く、秘匿性が高い

潜在的加入者増に圧倒的に強い(通話はしていないが、いつでも通話に移行できる、待機状態にある端末のこと)

理論上は通話回線数が設計値を越えても、数組程度ならば通話組数を増やせる(過負荷特性)

瞬断のない、ソフトハンドオフが標準仕様である

主な欠点 ハーフレートでは音質が極端に悪い

日本以外での採用実績が、ほとんどない

設計を越える通話は、即輻輳となる

僻地エリアがまだ狭い

端末出力の関係上、長距離伝搬が厳しい

比較的電池持続時間が短い(機種・地域差がある)

CDMA の特性上、トラフィック増によりセルシュリンクが発生する


※FDD:周波数分割複信。同時通話を、上下回線で異なる周波数を使用することで実現。

※cdmaOne では、全ての基地局で同じ周波数帯域を使用するので、周波数の繰り返し距離が原則と存在しないので、周波数利用効率の単純比較は不可。



  ※参考資料 CDMA システムの 1 セルあたりの容量
 多少専門的になりますが、良く話題になるので以下に、正しい 1 システムあたりの容量算出式を示します。CDMA では、他ユーザーなどからの干渉の総量が、システム容量を決めるので、以下のような式が成り立ちます。
 ただし、CDMA システムではその特性により、従来方式のような確定的な容量算出はできません。あくまで、理論としての目安です。
           360
   容量 = ──── Ustd
           360
           ── + 2V
              D
    容量 = 99ch
 ただし、D = セクタ数 3(旧 IDO の方式)
     Ustd = 55 論理 ch と仮定
     V = セクタ重なり角度は 40゜と仮定
(アンテナの指向性による電力半値幅を採用)
 従って、3 セクタ時はセクタ化による、容量増倍率が 1.8 となるので 99 ch となり、6 セクタ時では同 3.6 倍(セクタ重なり 20゜と仮定)となることから、198 chになります。さらに、音声アクティビティを 50% と仮定すると、実際の標準容量は約 41 ch程度となり、システム容量はさらに減ることになります。統計上一般的な通話において、背景雑音などの影響により、音声アクティビティは 50〜60% 近くになる、とされてます。
 下記リンクに、セクタ化による容量増がなぜ可能なのか、図解による解説を製作しましたので、興味のある方は参照されてください。

添付資料(1):セクター化による容量増解説




 
方式による主な違い等

 ここでは、方式そのものの違いは比較表をご覧頂くとして、使い勝手の面での違いを挙げてみます。まずは、カタログに表記されている電池持続時間のうち、特に連続待ち受け時間については、各社基準が異なり実際との差異が、現れやすくなっています。

 PDC での表記は、電波を正常に受信できる状態で移動した場合で、まあまあ実際の値に近くなっています。
 また IS-95 での表記は、最良の電波状態でなおかつ、移動・静止を繰り返した状態の平均値でありあてになりません(PDC の表記とは全く違うが、静止状態のみの表記だった頃と比較すれば良心的か)。


 また連続通話時間については、IS-95 が先の通り(自動車の 10・15 モード燃費みたいなものか(^_^;)で、PDC では送信パワー最大、パワーセーブ OFF での値となっています。

 次に通話時の音質について、どちらもトラフィックの少ない時は比較的良好ですが、混み合う時間帯にはどうしても、音質が低下してきます。理由については後述しますが、各方式ともユーザが極端に多いので、場所や時間帯などによって音質劣化がひどいときがあります。

 簡単に説明すると、PDC では基本的に二段階で音質が切り替わり、その差は極めて顕著です。また IS-95 では比較的ゆるやかに劣化します。

 それから方式により、音声データ圧縮・伸張方式にも違いがあり、これらの相性のために通話相手や、その状態によってひどい劣化が発生する場合があります。
 良く知られているのは、IS-95 対 PDC ハーフレート(※後述)時で、この組み合わせの了解度は非常に低くなります。

  ※au では近年、首都圏や大都市部でのトラフィック増加により、
   非常に音質が悪く上下回線ともドコモハーフ並みの場合があり
   ます。

 後発サービスというのは利点がある反面、色々と欠点もあるわけでこのあたりはどうしても、トレードオフの関係にあります。




  各社のサービスについて

 まずサービスエリアについて。現在言うまでもありませんが、ドコモと他社を比べるとドコモ PDC>au>その他 NCC という感じでエリアが広くなっています。
 カタログには、”人口カバー率“(定義そのものはひどくいい加減だが)という表記がありますが、最後の数パーセントの差はバカに出来ない物で、
山奥等の僻地や離島へ行くとそのありがたさが身にしみます。

 また、都市部にもかかわらず通話が切断しやすい場合があるのは、やはりインフラ(基地
局数やその配置と使用周波数)の差なのです。都心を車や電車で走っていて、頻繁に通話が切断されるようでは、論外でしょう(特に 1.5GHz/2.1GHz 帯 3G では PHS の方がマシでは?と思うキャリアもあります)。
 また、ドコモ/au はユーザー数が極端に多いため、地域・時間帯によりますが、週末の繁華街や大規模な、イベント会場付近などで通話が輻輳(つながらなくなること)することがあります。
 その他大きな地震など、突発的な災害時等にも輻輳がおきたり、通話規制がかかることがあります(各事業者合計では加入電話よりユーザ数が多い)。


 特に花火大会などのイベントでは、予め輻輳が予想できます。ですから、かなり早めに※発信規制をかけていますので、無意味な通話は控えましょう。

  ※発信規制:輻輳時に発信を制限すること。
   詳細は、当サイト輻輳についての記事を参照されてください。

 ただし平常時は、首都圏等都市部に限れば従来のような、ひどい輻輳が極端に減りハーフレート機の音質も、最低限度まで戻ってきています(利用できる周波数が増加したため)。




  800MHz と 1.5GHz ?

 携帯のカタログをみていると、ドコモでは 800MHz と 1.5GHz(シティホン・既に新規加入停止)との記述があります。それから、AU はドコモと同様 800MHz を使用しています。また、SBM PDC や、ツーカー('08 年 03 月いっぱいでサービス停止)では、1.5GHz のみです。

 この両者の違いは、使用する電波の周波数であり、800MHz 帯のほうが伝搬特性上有利です。なぜなら、電波の周波数は高くなると、光の性質に近づくため直進性が強くなります。

 従って、都市部などでは建物の裏に電波が回り込みにくい、1.5GHz の方が切れやすくなり、エリアの穴も必然的に大きくなりがちなのです。もちろん、建物内への侵入損失も大きくなるため、使用が制限されることがあります。

 一部、800MHz と 1.5GHz で飛びに違いはない、とか 1.5 の方がいいなどという誤った(物理の法則に反するワープ航法のようなものであり得ない)意見が某所で見受けられましたが、回折角の減少、屋内侵入損失の増加、フェージング周期の変化は絶対に避けようがありません(趣味、仕事を問わず無線を使ったことのある方でないと、実感しづらいかも)。

 そもそも、800MHz 帯でも電波の回折よる通信は、あまり見込めないのですが少なくとも、1.5GHz よりはマシだと言えるでしょう(^_^;)。
(3G で利用される 2.1GHz 帯はもってのほか。もし同じ条件で比較したら PHS の帯域よりより飛ばない)

 私はアマチュア無線を長年やっていますので、このことは身を持って体験しています。たった、100MHz 程度の差でも伝搬特性の違いを、モロに感ずることが出来ます。移動体通信にとって、使用する周波数というのは非常に重要です。それに、人体への影響も 1.5GHz の方が強くなります。

 余談ですが、巷で見かける光るアンテナや、へんてこりんなアンテナは付けない方が、電池や端末を長持ちさせられます。詳細は割愛しますが法律上、純正の外部アンテナなど、認定品以外は使用してはいけないことになっていますし、かなりいい加減なものなのでお薦めできません。

 通信に使用するアンテナというのは、きちんと設計された物でなければなりません。受信だけのラジオのアンテナと、同一視してはいけないのです。(アンテナのホントウソ参照)
 また当然のことながら、内蔵アンテナのみの機種は絶対にお勧めしません。実際、どのキャリアでもそのような端末機は、携帯電話としては最悪の性能です。使っている当の本人にはまあまあ聞こえるので、最初は気づきにくいのですが、通話相手から「声が途切れる」・「声がかすれる」、と言われて初めて気づくのです。

 今現在、マトモなアンテナのついた機種が壊滅状態で、惨憺たる状況です。某有名携帯電話メーカの開発エンジニアも、「内蔵アンテナなんて飛んでもない。大丈夫なわけがない!」、と私が取材した際にハッキリ・キッパリおっしゃっていました…。





  ハーフレート?・フルレート?

 たびたび登場する、ハーフレート/フルレートってなに?、と思った方は多いのではないでしょうか。これは、PDC 方式で特徴的なもので、加入者増に伴う単位周波数あたりの、通話Ch数を稼ぐために導入されたものです。

 つまり、PDC 方式では時分割多重といって、一つの無線Chを複数の人が、時間を区切って同時に使用します。この時間をもっと細かく区切れば、よりたくさんの人が同時に話せるわけです。
 こうして導入されたのが、いわゆるハーフレート方式というものです。時分割多重と言われる、これらの方式は実際にはただ、単純に時間を区切るのではなく、デジタル化された音声データを、圧縮してから細切れに送受信を行っています。

 わたくし的には、伝送帯域を減らすならその分、料金をまけろと言いたいところです(ボカスカ)。このあたりは、ベストエフォートの概念かと思います。



時分割多重方式の概念

 右図の様に、一つの無線チャンネルをこの方式では、複数ユーザーが時間を区切って共有します。これを、タイムスロットといい、フルレートでは3つに、ハーフレートでは6つに分割しています。

 既述のように従来、フルレートでは1無線Chで、3人が同時に通話できました。これがハーフレートで倍の、6人が同時に話せるようになったわけです。技術的には、すごいことなのですが当然、音声の圧縮率も高くなるので音質が、極端に落ちるというわけです。



 音質が極端に落ちるハーフレート

 これまでの話を読むと、「なんだ、最初からハーフレートにすれば、いいじゃないか」、とお思いの方もいらっしゃるでしょう。しかし、ハーフレートには重大な欠点があるのです。
 そう、みなさんがよく経験するあの、独特なうがい様の声です!。通話中、少しでも周囲が騒がしいと、「ギョロギョロギョロ〜、キョロキョロキョロ〜」、という具合にバックノイズ(背景雑音)が急に大きくなったり、まるで声にならなかったり、うがいをしているような音になってしまうのは、全てこのせいなのです(そうでなくても音質は低いですが)。

 既述のように、ドコモ等初期の PDC 端末機ではすべてフルレートでした。ですから、声の個人性は多少失われるものの、デジタルらしいクリアな音質を有していました。

 しかし、年々激増する加入者に対応するためには、どうしても無線 ch が足りません。ハーフレートの先陣を切ったのは、ドコモでした。私の観測によると、95 年末から続々くとハーフレートの機種が出始め、その後数年でほとんどリプレースされるに至りました。

 なお、ツーカーではノイズカット(ノイズキャンセラ)なるものを導入していますが、所詮ハーフレートの音質です(^_^;。ドコモ他 PDC 事業者でも根本的に、音質(コーデック)を改善したものが、インフラへ導入されていますので通話品質は従来のフルレートより、良好です。 (ドコモ EFR の記事参照)



  PDC より音質的に有利な IS-95

 IS-95(旧 cdmaOne)では、開発メーカのセールストークにあるように、各事業者とも高音質を謳い文句にしていました。特に、有線固定電話や PHS(一般加入電話)との通話では、非常にクリアな通話ができたので、それはウソではありませんでした。

 これには音声コーデックに鍵があり、それは EVRC と呼ばれるもので、近年の高度化されたコーデックの走りかも知れません。
 EVRC では音声をデータ化する際、極力雑音を省き音声成分のみを抽出します。これによって、コーデック(音声圧伸処理)の持つ能力を最大限に発揮し、比較的高音質が実現できます。


 また、多少ややこしくなりますが、この音質には非対称性があり、固定電話側(上り)では非常に良い音質なのですが、端末側(下り:携帯電話機側)では大した音質ではなく、一見(一聴?)従来の PDC フルレート並の音質でしかありません。
 しかしながら、声の個人性は遙かに保たれており、なによりもバックノイズに強いので、多少周囲が騒がしくても音声をハッキリと、聞き取ることができます。

 この音質の非対称性については、少々専門的になりますがスペクトラム拡散特有の、拡散符号の使い方に原因があります(上下回線で組み合わせが異なる)。また冒頭で述べたとおり、相手側が PDC ハーフレートの場合、相性が悪いため非常に、了解度の悪い音質になってしまいます。

 後述する特徴のため、 IS-95 は通話中の安定度はピカイチですが、先のような相性問題や PDC 各社の EFR(ハイパートーク等)導入により、単純な音質差を語れなくなった、というのが正直なところです。

 またスペクトラム拡散の特徴から、同時に通話するユーザー数が増加するに伴い、どうしても音質低下が発生します。しかし、PDC のようにいきなりハーフになったときのような、極端な音質低下はありません(ユーザ数がダイナミックに変化するようなときでないと、”ゆるやかな劣化“は実感できませんが)。

 IS-95 では、グレースフル・デグラデーションと言い、同時に通信するユーザーの増加に伴い、徐々に品質が劣化していくという特性を持っています。(CDMA 特有の現象で 3G でも基本的には同じです。その理由は後述します)


  ※既述のように、首都圏では慢性的にユーザ増による、音質劣化が発生
   しています。昔の IS-95 の音質を知ってる方には、「なんだこれ?」と思
   うこと受け合いです。



■スペクトラム拡散の概念図(実際には 1.25MHz の幅を 55 人の人が共有します)

 CDMA(ここでは直接拡散を差します)方式では、ある周波数帯域を複数のユーザーが時間的にも、周波数的にも重なった形で、共有します。

 ここでなぜ、各ユーザーの電波が混ざってしまわないのか?、と思われる方が多いでしょう。

 それには拡散コードという秘密があり、これは言い換えれば目印みたいなものです。

 文字どおり、この方式では単一である電波信号を、1.25MHz もの幅に拡散します。その拡散、逆拡散の際に用いるのが、拡散符号です。

 多少ややこしくなりますが、「どうやってばらまいたか」、を示す鍵のようなものだと思って下さい。
 受信側では、この鍵をあわせることによって、拡散された電波信号を拾い集め、元の単一の信号に戻すことができます。

 またこう言い換えることもできます。電波信号を人間の流れに例えますと、従来の方式では、隊列を作って人間が順番に並び(時分割多重)、進んで行くというイメージです。これに対し、CDMA では幅の広い横断歩道をバラバラに人が進む、という感じでイメージしてもらえば、良いと思います。


 それぞれの目的地は別々ですが、集まるべき目印(拡散コード)があるので、バラバラに進んでいっても、きちんとたどり着ける・・・。こんな感じです。
 
添付資料(2):DS-CDMA(直接拡散によるスペクトラム拡散)の考え方



  織田君のイラストの謎・・・(また、関東ローカルネタで済みません)

 99 年に放映された 旧 IDO cdmaOne(IS-95)の CM では、織田君がなにやら紙に携帯のイラストを描いていました。そして、従来の携帯にはなぜか点線を描き、cdmaOne には実線を3本入れていきます。

 これは、一体何を表しているのでしょうか?。実はあの一般人には、「なんのこっちゃ!?」、という感じのイラストは、IS-95 の特徴を如実に表しているのです!。

独占入手!?、織田君の直筆イラスト(そんなはずないです<ボカスカ)

 通常の携帯電話は、通話時に基地局と一対一で通信します。つまり、あのイラストの線は電波信号、そのもののことなのです。しかも、点線で書かれているのは、時分割多重方式を表しています。

 つまり、一つの無線電波を時間を区切って、細切れに複数の人が使用する、というのはアレをイメージしてもらえればいいわけです。

 通常、都心などの都市部ではビルなどの構造物が林立し、電波の伝わり方は非常に複雑になります。そこで非常に大きな問題が発生するのですが、それがマルチパスによるフェージングという現象です。

 フェージングとは、複数の伝搬経路を伝わった電波に、到達時間差があることから波と波が重なるとき、その時間差によって強めあったり、弱め合ったりすることなのです。
 短波ラジオや、AM の地方局を夜中に聞いたことがある人ならば、この現象に出くわしているはずです。そう、あの声が大きくなったり小さくなったり、というのがフェージングなのです。



■マルチパスによるフェージング
 右図は、都市部におけるマルチパスのイメージです。直接ユーザーに届く電波と、どこかに反射して届いた電波とでは、到達経路長に差が発生します。
 この時間差(伝搬遅延)により、電波の波の重なるタイミングが悪いと弱め合い、山と山とが一致すれば(位相が合う)、強め合うことになります。

 その結果、特に移動中などではフェージングと言って、電界強度(電波の強さ)の不規則な変動がもたらされるのです。もちろん、広い平野で建物がない場合でも、地面に反射した反射波と直接波とでフェージングが発生しますが、そこにはある程度の規則性があります。

 このような場合、都市部に比較して相対移動速度と、波長で決まる周期を主にした規則性が現れます。しかし、都市部では乱立するビル等の構造物や、自動車等他の移動体の反射・遮蔽等、これら様々な要因が重なり時々刻々と変化しますから、非常に複雑な伝搬経路をたどりる事になり、とても深刻です。


 ただし、IS-95 の場合は※RAKE(レーキ)合成と言って、直接波を含め 3つまでのマ ルチパスなら、分離合成できることになっています。それには、この方式で特徴的な、3つの逆拡散器(この場合受信部とみなして良い)により行われ、通常なら干渉波となるマルチパスも、有効利用されています。

 

  ※RAKEくまでという意味。散乱して届いた電波を、
   かき集めるところからきている。




  IS-95 はフェージングに比較的強い

 フェージングは、アナログ通信の場合にはその最終的な受信処理が、人間の耳での処理にかかっているので、あまり考慮しなくても良いのですが、デジタルではそうもいきません。マルチパスによって、データが正しく送受信できなくなると、正常な音声を伝達することができなくなってしまいます。


 従来の携帯電話の場合、同時に使用する基地局は一つのため、フェージングの深い谷に陥った場合、通信データに大きなエラーが生じ、正常に複調できなくなります。すると、あのやっかいな音切れが(音声の断続)発生するのです。

 常に移動しながら使用するような場合は、非常に問題になってきます。特に都心のようなビル街では、既述のように非常に複雑な経路を電波が伝わります。
 PDC では、エラー訂正や空間ダイバーシティー(※)、適応等化といった技術で、これらをカバーしていますが、それでもビルの林立する都心等悪条件下では、音声の断続が起きやすくなってしまいます。


  ※位置的に離れたアンテナを複数使用すること(PDC 端末では標準)
   旧 IS-95 端末では通常行われていなかった。

 対する IS-95 では、最大で同時に 3 つの基地局との通信が可能です。このことは、端的にフェージングに強いことを表していて通常、エラーの原因となるマルチパスを有効に使えることの他にも、大きな意味があります。
 つまりこの方式では、一つの基地局の電波が正常に受信できなくなっても、他の基地局の電波を使用することができます。また、2つだめになったとしても最後にもう一局ありますから、従来よりも音声がとぎれにくいというわけです。(サイトダイバーシティ)


   ※基地局側でもほぼ同様の処理をしますが、4 パスと高度化されます。

 また、IS-95 ではスペクトラム拡散という、特徴的な通信方式のため原理的にも、特定のフェージングには強くなっています。多少専門的になってしまいますが、ここでは選択性フェージングといって特定の周波数に、作用するフェーシングを指します(3G CDMA も基本的には同じ特徴を持つ)。

 これを周波数と電波の強さをグラフにすると、ちょうど波打ったような状態になります。このフェージングの、谷に落ち込んでしまうと電波は弱くなることになります。詳細な説明は省きますが、スペクトラム拡散という通信方式では、この選択性フェージングを取り除くことができる方式なのです。

 ですから、都市部のような環境には比較的強いといえるのです。

フェージングについて

 まず、図1をご覧下さい。これは、マルチパスによるフェージングの例です。時間とともに、電波の強さが大幅に、しかも一見不規則に変化します。移動しながら、携帯を使用するとき、ほとんどの場合このような感じになっています。

 次に図2ですが、これは正常な状態で受信した、信号のグラフです。これが、周波数選択性フェージングを受けると、図3の様に変化してしまいます。ちょうど、一部をフィルタで切ったような形になります。もちろん、このフィルタは時々刻々と変化するのです。

 この周波数選択性フェージングを、CDMA 方式ではフラットフェージング(図2のグラフでの、信号強度が全体的に上下する)に、変換することができるのです。これは、大きな特徴といえます。

 ちなみに、この周波数選択性フェージングを受けた状態では、グラフの通り信号はひずんでしまうことになります(FM ラジオの音が歪むような状態)。PDC で行われる空間ダイバーシティは、フラットフェージングには極めて有効ですが、周波数選択性フェージングの低減効果は希薄です。

  ※フェージングは、ある速度で移動しながら通話した場合、
   使用する通信周波数波長の最短で、1/2 周期で発生します。


  ※フラットフェージングと周波数選択性フェージング

 補足として多少専門的にはなりますが、フェージング(Phasing)の種類とその詳細について、触れておきます。

 右図は選択性フェージングと、フラットフェージングの模式図です。フェージングとは、既述の通り複数経路を経た電波(波動)が、時間差を(位相差)もって干渉し合うため、その波が一致すれば大きく、ズレれば小さくなるという、海の波と全く同じ振る舞いをします。

 従ってフェージングは、図のように目的信号をフェージング仮想フィルタ(実際はもっとノッチ様の急な特性と思って良い)に通過させたのと、等価と考えることが出来ます。そして、選択性フェージングでは希望波のスペクトラムの一部が、フィルタによって切られてしまうことになり、通信品質を劣化させる要因となります。

 また電波が波動であることから、その位相ズレにより結果として時間波形の歪み(波形歪)となってしまうのです。

 注意して頂きたいのは、フェージングでもたらされるのがレベル変動のみではなく、位相も変動(結果はその合成ベクトルで表します)も受けるということです。多少技術に明るい方なら、納得していただけるでしょう。

 そして移動体通信では、これら劣化要因による振幅・位相変動なのか、変調された情報(電波に乗る音声情報等)によるものなのか、明確に区別ができないと用を足さないことになってしまいます。

 やっかいなのは、フェージングが振幅・時間軸ともにランダムな変動をもった、複数反射波の合成だから、ということにほかなりません(フェージングのピークピッチは観測できるが、都市部では特に予測不能性が高い)。

 またこの、フェージング仮想フィルタ特性の、山と谷の間隔も時々刻々と変動するのです。さらにつっこむと、この仮想フィルタの谷に落ちるに従い、位相も回転していきます(位相・振幅などについては当サイト、「変調のいろいろ」をご覧下さい)。

 またフラットフェージングの場合は、仮想フィルタの山か谷にちょうど、希望波のスペクトラムがおさまる形になります。そして、端末機が移動した場合には仮想フィルタの山と谷が、周波数軸方向に不規則にズレる様に振る舞うため、受信者には信号強度の変動となって観測されるのです。

 ここまでの解説で、フェージングの基本はおわかりいただけたでしょうか?。

 次に DS-CDMA における、選択性フェージングの振る舞いを見てみましょう。

 左図の通り、DS-CDMA のスペクトラムは広く薄く広がっています。もちろん、フェージングの影響は受けますが、一般的に CDMA では広帯域信号になるほど伝搬路の周波数特性を含む、フェージングの影響は受けにくくなる傾向があります。

 図の様に仮想フィルタによって、一部が切られるに過ぎず大部分の信号は、伝送出来るわけです。広帯域 FM と違うのは、低い電力スペクトラムが広く分布している点です(影響の度合いが違う)。

 従って、旧 IS-95 では標準で空間ダイバーシティ無しが標準ですが、それほど大きな影響は受けないのです。しかしながら、移動体において空間ダイバーシティがない、とう設計はアメリカン?な考え方によるもので、IMT-2000 における W-CDMA(現 3G-WCDMA)方式では、標準化されています(東芝の cdmaOne 端末には実装されていましたが)。

 この空間ダイバシティがないのは、従来の PHS や TACS 程度しかありませんから、どちらが簡易な方法かは無線に明るくなくても、おわかりいただけると思います。

 もちろんフェージング耐性で言えば、狭帯域のキャリアを直交して多数並べる上、マルチパスのためのガードインターバルもある OFDM にはとうていかないませんが・・・(^_^;)。この方式は、地上波テレビの標準方式として、採用されています。



  CDMA ならではの無瞬断ハンドオーバー

 IS-95 を提唱したクアルコム社が優れていたのは、最初からこの他方式では難しい、無瞬断ハンドオーバーを標準規格に盛り込んでいたことです。


 ハンドオーバーとは、通常基地局ひとつで数 Km〜数百m ごとの半径を受け持ちます。これがくまなく並んで、面的なサービスエリアを確保しているのです。もし、ユーザーが移動していたとすると、この基地局エリア間をまたぐこともあるわけです。

携帯電話のエリア構成概念

※左が PDC 方式で、色の違いが周波数の違いを表します。
 それに対し、右が
CDMA 方式で全ての基地局が、同じ周波数を
 使用します(現 3G でも基本概念は右側と同じ)。



 このとき、通信する無線基地局を切り替えて、エリア間をうまく渡り歩くのですがこれが、ハンドオーバーです。移動電話サービスでは、このことは追跡交換といい、位置登録と列び非常に重要な要素のひとつです。

 通常のデジタル方式(PDC)では、この基地局をまたぐときにどうしても、無線チャンネルの切り換えが避けられず、通話が一瞬途切れるのです。このことは、通常の音声通話では一瞬のことなので、あまり重要視されませんが、ことデーター通信に限っては、この瞬断がデータロスや切断の原因になりかねません(特に、回線交換接続時)。

 ですから、この無瞬断ハンドオーバーは非常に重要な要素なのです。IS-95 では、基地局のエリアをまたぐときに、全ての無線チャンネルが同一周波数なのを利用し、一時的に複数の基地局と通信を行います。

 そして、移動先エリアの基地局との通信が、きちんと確立してから離れていくエリアの、基地局とディスコネクト(通信断)します。既述のように、3 つの逆拡散器(この場合受信部とみなしてよい)をもつ、IS-95 ならではのことです。

 このことは、他方式にはない移動体通信に適した、好ましい特徴の最たるもので、現 3G 各方式では標準となっています。また無瞬断ハンドオーバーを、特にソフトハンドオーバーもしくはソフトハンドオフと呼びます。

■ハンドオーバーの概念

※同じく、左が PDC 方式を右が、CDMA 方式の場合。CDMA ではエリアをまたぐ際、無線チャンネルの切り換えが発生しない。




  むすび

 非常に長くなってしまいましたが、デジタル移動体電話の基本概念について、いくらかでも理解のお役に立てましたでしょうか。

 当サイトでは、みなさんからのご意見・ご要望をお待ちしております。


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