メテオ監督伝説3(前編)

 東京 読売ガーデンズオーナールーム

「ああ」
 読売ガーデンズの新監督のラグナは音をたてて出てくるファックスの紙面を見て、突然叫んだ。
 同じくガーデンズの選手であるスコールがその叫び声に気がついて、言う。
「何かあった?ラグナ監督」
 ラグナはスコールにファックス用紙を渡す。
 スコールはファックスを音読した。
「関係者各位。わ…たくし…ことセフィ…ロスは…本日をもって阪神セフィロスの監督に就任いたしました」
 ファックスには阪神のロゴの入った帽子をかぶった銀髪のセフィロスとおぼしき男が得意げにほほえんでいるモノクロ映像もついていた。
「とうとう出てきたよ、あの男が……、黙って大人しくしているタイプではないと思っていたが……」
 監督ラグナは不機嫌そうな顔をした。
「困ったことになりましたね、あの『乱闘王』がうちのチームと同じリーグの監督に就任するなんて…」
 同じく、ガーデンズの女性オーナー、キルティスも顔を曇らせる。
「………(何故、この二人はそんな嫌そうな顔をする)」
「…セフィロス先輩が監督か…これは野球がやり辛くなるぞ」
「…(どうして?)」
 ラグナは長い黒髪をかきあげた。
 キルティスはことがよく理解できていないスコールに向かって言った。
「ラグナ監督はこのセフィロスと同じ大学の野球部にいたのよ」
「ああ、あの男は存在自体が伝説のような男だった。『伝説の左』と呼ばれて、当時、西武の松坂よりもっとすごい球を投げていたんだ。彼が出た試合はほとんど負けたことがなかった、試合が終わるごとにセフィロス先輩は英雄としてまつりあげられた。本当に英雄だったよ。あの頃は」
「あら、そんな時代があったの、私にはセフィロスは乱闘王として、プロ野球界から追放された時のことの方が印象が強いわ」
 ラグナは頬杖をついた。
「俺にとっても憧れだったセフィロス先輩…。ドラフト会議で一位指名をもらったあたりまでは確かに英雄だったよ、確かに」
 スコールは黙って聞いている。
 ふう、とラグナは遠い目をして小さくつぶやいた。
「きっと……あれが……悪かったんだろうなあ…… 大学の卒業式、体育会系は必ずやるんだ胴上げ、俺達も、セフィロス先輩にやったんだよ、胴上げ、でも、先輩見た目より、体重あるなんて知らなくてさ、あまりにも重いから、途中で皆、手を離しちゃったんだ」
「……(離した!!!)」
 スコールは目を丸めた。
「落下して、しこたま頭打って、救急車で運ばれたんだ。それから2・3日は意識がなかったな」
「…(それは大変だ…)」
「意識が戻った後、プロのチームの合宿へ参加して、開幕戦で出場した時、セフィロス先輩『伝説の左』の英雄ではなくなっていた。いままでと違う、瞳の奥になにか邪悪なものが目覚めていたように見えた。時々、ジェノバとか黒マテリアとかわけわかんないことつぶやいていてね、なんとなく怖かった、そして、あの『乱闘王』になってしまったんだけれどね」
「堕ちた英雄ね」
キルティスの言葉にうなずくと、ラグナは言った。
「今年、読売ガーデンズに俺が監督として就任した、よりによってセフィロス先輩も監督として就任するなんて…これは皮肉な縁としか思えない……。負けないようにしなくては……な……」
「ご安心ください」
 扉が開いて、選手スカウト担当のリノアが入って来た。
「阪神セフィロスは私達の敵ではないわ」
「……(どうして?)」
「それは選手の質からして違うからです。阪神は女、動物込みの混合チームであることが先刻の偵察の結果でわかりました」
「女が混ざってる?それに動物も?それは初耳だ」
 ラグナは愉快そうに叫んだ。
「阪神はメインの選手、ザックス、バレット、シドを引き抜くのに、大金を使ったそうです。たぶんそれで、他の選手までは資金的にはまわらなかったのでしょうね。あとのメンバーはここの2軍レベルと同じくらいの者達と思われます」
「そうか、そうか、それは好都合だな」
 リノアは得意そうに笑うと言った。
「それに、わが読売ガーデンズに強力な選手を補充することに成功いたしました」
「それは誰かな〜〜リノア」
 上機嫌なラグナの問いかけに対して、リノアは答えた。
「彼の名は…」


同じ頃、大阪、某一流ホテルのスイートルーム。
 
 「もう、何が起こっても驚かないことにいたしましたが…」
 ツォンはルーファウスに向かって言う。
「何故、選手の新規ユニフォームが出来上がってもいないのに、マスコットガールのユニフォームが先に出来て、それでさらに何の脈絡もなく一流ホテルのスイートルームでお披露目会をするんですか?」
「あのう……」
 マスコットガールのユニフォームであるペパーミントグリーンのマイクロミニのスカートと、チームのロゴの入った白いかわいらしいTシャツを着ているヴィンセントが困ったような顔をして、ルーファウス球団オーナーと、秘書のツォン、阪神新監督のセフィロスの顔をかわるがわる見ている。
「そして、どうして、女の子向けのこのユニフォームをこの男が着ているんですか、社長」
「あのう…」
「似あうぞ、ヴィンセント」
 セフィロスは含み笑いをしながらヴィンセントを誉めた。
「あのう…股がすーすー、するんですけれど」
 ヴィンセントはペパーミントグリーンのスコートのすそを抑えていった。
「ぱんつの色は?」
「きゃ」
 セフィロスがヴィンセントのスコートをまくりあげる。
「まるでセクハラおやじ……」
 ツォンが眉をひそめる。
「同じミントグリーンか…これはいい」
 ヴィンセントが顔を赤らめる。
「これをマスコットガールの人数分かける2枚分発注すればいいのだな、セフィロス監督」
 ルーファウスはメモをとるように、ツォンに促す。
「あの……私は」
 マスコットガールの姿をしたままのヴィンセントがルーファウスに語りかけてきた。
「その服はあげよう、持って行け、開幕戦の時には必ず着てくるのだぞ」
「あのう……、あの…」
 困り顔のヴィンセントの背後にセフィロスがまわりこみ、後ろから抱きしめた。
「ふふふふ、さあ、これから、お前は私の接待だ」
「マスコットガールって、こんな仕事をするのですか?ルーファウス社長」
「監督がいい仕事をしていくうえでは欠かせないことなのだよ、ツォン」
 ヴィンセントはセフィロスに後ろからはがいじめにされてばたばた暴れている。
「かわいがってあげようヴィンセント」
 ツォンはため息をついた。
「そうか…スイートルームをとったのはこういうことがあったのですね、社長……」
 ずるずるとマスコットガールの格好をしたヴィンセントがセフィロスによってひきずられてベッドルームへ連れていかれる。
 その時、突如、ツォンの携帯電話の呼びだし音がけたたましく鳴り、彼はそれをとった。
 しばらくの沈黙の後…。
「…なんですって」
 叫んだ。
 その言葉に、セフィロスとヴィンセントとルーファウスが反応する。
「………ザックスが球団入団拒否……」
「………ザックスが……ちょっと待て。あの男を獲得するためにどれだけ金をかけたか……」
「読売ガーデンズから誘いがかかってる?そんな…」
 みるみるツォンとルーファウスの顔が青白くなっていく。
「読売ガーデンズ」
 セフィロスが振り向いた。
「読売……ガーデンズ……あのラグナが監督として就任したところか?」
ツォンがセフィロスを見た。
「あの、最年少監督、ラグナ監督をご存知なんですね」
「知るも知らないも。あれは大学野球時代の後輩だ……」
 セフィロスは不機嫌でたまらないという顔をした。
「卒業式の日に、胴上げをするフリをして頭から俺を落とした男だ」
「そんな恐ろしい……」
 ヴィンセントはその言葉を聞いて震える。
「だから、そんな壊れた性格になってしまったんですね」
 ぱこおん
 セフィロスはヴィンセントの頭を軽く叩いた。
「そうか……ザックスをガーデンズに誘うとはな……」
「ああ、どうなるんでしょう、このチーム」
 ツォンはおろおろしてルーファウスとセフィロスを見る。
「別に、また選手を獲得すればいいことだ、ザックスレベルの選手はたくさんいるからな」
 ルーファウスはセフィロスを見た。
「ところで、新監督、明日より、選手同士の顔合わせを兼ねた合宿だ。がんばってくれたまえ」
 合宿と聞いただけで、セフィロスの顔が遠足前の子供のようにうきうきしたような表情になったことにヴィンセントが気がついた。
「そうだ、合宿だった。ところで、ルーファウス、合宿先はハワイかグアムか?」
 ルーファウスは真面目な顔をして言った。
「予算の都合で…伊豆だ…」
「いずううううううううううう、こら待て」
 その瞬間、ルーファウスの早業によって、セフィロスの手には大阪発熱海行きの新幹線こだま号切符(グリーン席ではなく、指定席)がチームの人数分握らされた。
「監督は引率者だ、よろしくな、ちなみにレッドは籠に入れて持っていくか、ぬいぐるみのフリをさせて乗せてやってくれ、彼の分の切符はない」
「おい、あそこでどう合宿すれば」
「小学校のグラウンドをキープした、後はセフィロス監督のメニューで1週間みっちりしごいてやってくれ」
「ルー、お前、いい性格しているな」
「じゃなかったら、あんなあくの強いメンバーを扱っていけないだろう」
「…………」
「顔見せと親睦を兼ねているから、1日目の夜には、旅館の宴会場、鳳凰の間で、宴会ができるようにセッティングをしておいた。カラオケ歌いたい放題だぞ、希望によって、お座敷ストリップが呼べるようにしておいた、ただし、選手の中には未成年がいるので、彼らには見せないようにな、それから、これはお約束だが、旅館には卓球場があるぞ」
「…それだけで俺が喜ぶと思っているのか」
「風呂は温泉だ、効能は腰痛だ、あんたは腰痛もちだろう…ついでにそこで湯治してくるといい」
「…それだけで俺が……喜ぶ…とでも…」
「その男…ヴィンセントの同伴を許そう」
 ルーファウスは顎でセフィロスが抱えているヴィンセントを指した。 
「私は、私は!!!」
 嫌がるヴィンセントにルーファウスは言う。
「監督に、手厚くもてなしてあげてくれ」
 ルーファウスは今度はセフィロスを見て言う。
「監督、彼とは最後までいっても可、何発でもオッケー」
「ようし。お前もやっと俺の接待の仕方の要領をのみこめてきたな、ルーファウス」
「明日から頼むな……ヴィンセント…監督のお守り」
「そんな、そんな、そんな、そんなああああああああ」
 ヴィンセントが泣き叫んだ。
 一流ホテルの部屋の隅でツォンはうずくまって嘆いていた。
「これは悪い夢なんだ……これは悪い夢なんだ……」
 翌日、セフィロスを含み、ザックスを除く阪神セフィロスの選手達は一同、熱海へ向かって行った。
 もちろん、その中にマスコットガールであるヴィンセントも混じっていた。
 
                            (つづく)



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