1:モンタギュー家とキャピュレット家
この曲はバレエ原曲からの音楽を再構成した曲で、全曲の中でも特に知られた曲のひとつであ
る。冒頭部分は、ヴェローナの大公が「今後、喧嘩する者は厳罰に処す」と宣言する場面。つ
づく『騎士たちの踊り』は舞踏会で貴婦人や騎士たちが威圧的に踊る。中間部はジュリエット
の踊り。この《悲劇の背景》を暗示する雰囲気に満ちているため、第2組曲にならって、今回
も特にストーリーの流れとは別に、冒頭に演奏される。
2:泉の前のロメオ 3:街の目覚め 4:朝の踊り 5:喧嘩(バレエ第1幕第1場)
続く4曲はヴェローナの町の場面。早朝の街を散歩するロメオ。やがて日が昇り、街は明るく
活気付いてくる。(楽譜1)
しかし、対立する両家の一団がいさかいを起こし、次第に街は不穏な雰囲気となってゆく。
そしてついには大乱闘が起こる。冒頭の大公の宣言″は、原曲ではこの場面の最後に挿入さ
れる。
6:少女ジュリエット(バレエ第1幕第2場)
プロコフィエフは、ジュリエットに特に重要な3つの主題を用意していた(楽譜2・3・4)。
これらは13歳のジュリエットの、少女から大人の女性へと脱皮する直前の瑞々しさをたたえ
ている。
7:仮面(バレエ第1幕第3場)
ロミオが友人のマーキュシオらと、仮面で変装して宿敵の家の舞踏会に潜入しようとする場面。
陽気でいたずら者のマーキュシオたちを描いた音楽は弾むようなおどけた行進曲。
8:ロメオとジュリエット(バレエ第1幕第3場)
有名なバルコニーのシーン。
O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo?
・・・・・・おおロミオ、あなたはどうしてロミオなの?
というジュリエットの台詞は、残念ながらバレエでは聞かれないが・・・
音楽は夜のしじまの雰囲気に始まり、ロメオのテーマがそっと忍び寄る。はっと気づいて驚く
ジュリエット(楽譜3)。そして2人が熱烈に愛を語り合うアンダンテへ。
音楽の最高潮には、2人の愛の交歓を暗示する主題(楽譜5)が現れ、そして再び静かに夜の
闇の中にロメオのテーマが溶け去ってゆく。
9:タイボルトの死 (バレエ第2幕第3場)
この曲も、バレエ原曲からの音楽を再構成した曲。第2幕の前半で、2人は修道士ローレンス
のもと密かに結婚式を挙げるが、その翌朝、街の広場でロメオと友人たちを見つけたタイボル
ト(ジュリエットの従兄)に喧嘩をふっかけられる。
マーキュシオはタイボルトを軽くあしらうが(楽譜6)、怒ったタイボルトはマーキュシオを
刺殺してしまう。逆上したロミオは復讐の決闘に及んでタイボルトを殺してしまうが、この場
面の音楽では15発の恐ろしい音響がくさびのように打ち込まれ、とりかえしのつかない悲劇
の発端を暗示する。
最後はロメオ達が逃げ出し、キャピュレット家の者たちがタイボルトを葬送しながら街の太守
に対してロメオの処罰を乞う場面(楽譜7)。
10:別れの前のロメオとジュリエット(バレエ第3幕第1場)
追放される前夜にジュリエットの部屋に忍んで来たロメオ。今や若い2人を引き裂く運命の力
はあまりに強いが、愛の結びつきはさらに耐えがたく悲壮なまでに力強く燃え上がる(楽譜8)。
2人は別れの朝まで熱い抱擁を交わす(楽譜5)が、別れの激情(楽譜8)はさらに力を増し
てゆく。曲の結びでは、僧ローレンスの計略に従って、後に駆け落ちすることを期してジュリ
エットが仮死薬を飲む成り行きが暗示される。ジュリエットの葬儀(楽譜9)と、愛のため決
意するジュリエット(楽譜4)の姿が、静かな音楽の中に消えてゆく。
11:百合の花を手にした娘達の踊り 12:ジュリエットのベッドのそば
(バレエ第3幕第3場)
続く曲では、ジュリエットとパリスの結婚式に訪れた女友達が、ゆりの花を手にして踊る場面。
楽しげな雰囲気は物語の後半にほっと一息つく間奏曲でもある。
そしてベッドの場面では、眠るジュリエットを起こしに来た乳母が、もはや冷たくなったジュリ
エットを発見して驚愕する。彼女は愛の意志を貫いて仮死薬を飲んでいたのだった(楽譜4)。
13:ジュリエットの葬式(バレエ第4幕前半)
場所はキャピュレット家の地下墓所。むせび泣くような悲痛な葬送行進曲が、一族の涙の葬列を
描く(楽譜9)。一瞬愛のテーマ(楽譜5)が回想されて仮死のジュリエットの強い愛の意志を
示すが、再び葬儀の悲しみに飲み込まれてゆく。
14:ジュリエットの死(バレエ第4幕後半)
前の曲と切れ目なく終曲に入る。ジュリエットの計略を知らぬまま密かに戻ったロメオは、彼女
の冷たい体を抱き、そして決然と毒をあおって彼女の後を追って死ぬ。やがてジュリエットは長
い眠りから目覚め、傍らのロメオの遺体に気づく。しかしすべては遅すぎたのだ。彼女は物言わ
ぬロメオの体をかき抱いて悲嘆にくれ、彼の短剣をわが身に突き刺して死ぬ。
この最も暗く悲劇的な最後の場面を、プロコフィエフはジュリエットの愛の主題(楽譜4)であ
ふれ満たした。その音楽は、まるで場面にそぐわぬように朗々と明るく華やかに響き渡る。しか
しながら、これは悲劇の犠牲を悼む場面ではなく、2人の純粋な愛がすべてを超えて天に昇華し
てゆくことへの賛頌であるに違いない。
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