* * * * Mi Diario(旅行記) * * * *
Vol.9 思い出
                       
(1999.10.1)                      
思い出
大学時代の夢を実現するため8年勤めた会社を辞め、
スペインに再訪問した時のこと。
東京で身の回り物を全て処分し、
スーツケースと大きなリュックに衣類と辞書
して旅立つ前に友人たちがくれた励ましの言葉とノートパソコン
自分の持っている全てのものを詰めていざスペインへ。
マラガ空港(別名パブロ・ピカソ空港)に降り立ち、
当面の宿としてマラガ大学の学生寮に入寮、
20才前後の若者たちと共同生活をしながら、Piso(アパート)探し。
夢に燃えてスペインに来たはいいが、
恥ずかしながらスペイン語が全くわからない。
それもそのはず、旅行で幾度となく訪れていたものの
スペイン語は一度も習ったことがない。
辞書片手に毎日チャレンジしてはいるが、コミュニケーションができない。
スペイン人たちが怪訝な顔で見るばかり。
夜、寮に帰ると学生仲間たちはサロンでFiesta(お祭り)。
自分はFiestaもそこそこに部屋に戻る。
天井をぼんやり眺め、弱気の虫が「今日は何ができたんだろう。」
それになんかスペインもだいぶ変わった気がする、
以前はもっと旅行者の自分にも親しく話してくれていたのになあ。
やはり旅と住むのは違うということか。いやそんなことはない。また明日がんばってみよう。
自問自答をしながら夜を過ごすばかり。
来てから1週間ぐらい経った時に、ようやくPisoが見つかった。
あんまり言ってることはわからなかったけどスペイン人のDuena(オーナー)は4LDKのPisoを
自分も一緒に住みながら残り3部屋を外国人に貸しているらしい。
Piso内では英語も禁止で、スペイン語でコミュニケーションすることにしているというから良さそうだ。
「よし、いい兆しだ。」その夜ははじめて気持ち良く寝られた。
「この調子、この調子」



引越しの日、これからはぜいたくはできないので
TAXIはやめて満員の市バスに乗り込む。
「混んでるなあ」
自分が抱えるスーツケースと大きなリュックを
煙たそうに他の乗客たちに見られるので、
出来るだけ場所をとらないように体をちじめる。
とは言うものの、総重量50kgを越える荷物は重い。
バスの揺れに耐えているうちに汗がこぼれる。
みんなのまなざしも冷たい。
子供が見かけないアジア人の顔が珍しいのか
「Hola!(やあ)」「Hola!」と連呼する、
こちらは顔をこわばらせ「Hola!」と返すのが精一杯。
徐々に荷物50Kgの重みとバスの揺れ
そして周囲の冷たい視線に
10年前スペインをはじめて訪れた時の感動、
送り出してくれた友人たちなど
自分のなかにいろんな思いが溢れかえってきた。
「どんな思いでスペインに来たと思とるんや」
わずか15分のバスの時間が長く長く感じられた。
自分の降りる場所が近づいて来たので、
「Perdon(すいません),Perdon」と言いながら降り口に移動をする。通してくれ、少し体ずらすだけのことやん。
あたふたと降りるその途中、
不意に肩からリュックが落ち、茫然。
右手にパソコン、左手にスーツケース、拾うための手がない。
自分の中で時間が止まる。
立ちすくんでいると、
1人のおじさんが黙ってこっちの目を見て
うなずいてリュックを拾って一緒にバスを降りてくれた。
「Gracias(ありがとう)」を連呼し、お別れをした。
良かったいい人もおったな。ほんま助かった。
などと思いながら横断歩道を渡る途中に
何気なく振り返ると、
そのおじさんはバス停に座ってバスを待っていた。
「自分のリュック拾いために一緒に降りてくれたんや。」
感謝の気持ちで、目に涙が溢れる。
やっぱりスペインや。おれの選択は間違いやなかった。

もうそんな大荷物で移動することも
周囲の冷たい視線で孤独感を感じることはない。
ただ今でもその路線でバスに乗る時、
いつもそのおじさんを探してる。
今ならちゃんとお礼が言える。
スペインが好き、スペインはいいよって
みんなに伝えられるのはあなたのおかげです。
あなたの親切が私を勇気つけてくれましたって。
Viva Espana.

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

TOPページへ
スペイン料理へ
前の旅行記へ
次の旅行記へ。
* * *