ふと思う。

 レンは猫の姿をとる。
 行動の節々が猫っぽい、というのはその所為なのだろう。

 それはいい。

 でも、レンは女の子だ。
 素性はちょっとよくわから無いけど、どうも小さい頃に死んでしまった女の
子の魂が今のレンの骨子になっているとか、いないとか。
 てことはだ。
 レンは猫でもあり、女の子でも有るわけだが……

 そんなレンは、猫にもやっぱり好かれる質なんだろうか?


 Kitty Princess


 などと考えてしまう麗らかな午後。
 俺とレンは毎週の日課になりつつある公園への散歩にやってきた。
 季節は夏から秋へと移り変わりつつ有るけど、日はまだまだ暑くて高い。
 そんな陽気だから、木陰のベンチでゆっくりと休むのも、また風情が有って
いい物だ。

「……しかし……」

 と、横手を見る。
 そこには、俺の座っているベンチとはまた違うベンチが一つ。
 そのベンチには俺の愛猫にして愛夢魔(?)の、レンが座っている。
 そっちはレンの特等席、俺のほうは俺の特等席。
 何故分かれて座ってるかというと……

「にゃー、にゃー」
「ふにー……」
「ごろごろ……」
「……、……」

 かなりの数の猫が、レンの周りに集まってるからだったりする。
 ある猫は足元で丸まり、ある猫はレンの横に座り、ある猫はレンの膝の上で
休んでいたりする。
 それ以外にも付かず離れず、木の下だとか上だとか、茂みの前だ後ろだと、
それこそ町中の猫が集まってきたんじゃないかって言うくらいに、猫のオンパ
レードだった。
 そんなレンの姿はさながら、猫に敬られて居るお姫様、という風情だ。

 ……いや、そのまんまかもしれない。

「……レンて、猫に好かれるタイプなのかな……」

 猫まみれの姿なレンを見つつ、そんな事を呟く。
 猫に仲間意識が有るかは知らないけれども、俺の記憶の中ではこんなに猫が
集まっている姿はレンがいる時以外見たことがない。
 逆にいえば、それだけレンが猫達に好かれてるんじゃないかなっと思ったわ
けだが。

 いやまあ、猫なレンも十分可愛いし、猫達の眼から見てもその姿は可愛いの
かもしれないが……
 実際のところはどうなのだろう。
 本当に猫達に好かれてるから、猫達はこうやってレンの元に集まってくるの
かな?
 ん〜。
 聞いてみようかな。
 そしたら本当の所が分かるかもしれないなぁ……






「なーんてな。そんなの分かるわけないよなぁ」

 と、俺は自分の考えにばかばかしくなってしまった。
 何せあっちは猫、俺は人間。
 意思の疎通ができるわけ無いし、人間の価値観と猫の価値観が同じとは言い
切れまい。

 ……けど。
 なんていうか。
 猫たちのレンを見る目が、気になる。

「……。」

 じーっと観察してみると、ふむ。
 レンを囲む猫たちはみな、敬うような雰囲気があるじゃないか。
 遠まわしにレンを囲む猫の中には、あからさまに外部に対して気を吐いてる
奴もいるし、レンの膝に乗ってるヤツも、和んでいるというよりへりくだって
いる気がする。
 なんていうか、レンに懐いているというより、レンを守っているという感じ
がする。
 さっき、レンは猫のお姫様、といったけど…

「……なんだか女王様みたいだな、改めて見ると……」

 我ながら的を得て射るのかいないかという意見だが、そう考えてこの風景を
見ると、案外、絵になって見えた。

「……猫の国の女王様、か…うん。なんとなくレンに合ってる気もするかな」

 ベンチという玉座に座る猫の女王を守る、猫の衛兵達。
 そしてそれを取り巻く文官達。

 となると、俺は猫の王国の部外者になるのかなぁ……

 そんなことを考えてたら…

 くい…

 と、服の袖を引かれた。
 なにごとかと視線を向けてみると……
 白い猫と抱えたレンが、じっとこちらを見上げてた。

「ん? どうしたの、レン。もう帰る?」

 そう問いかけて見るが、レンは首をふるふると振って否定する。
 ん? 一体なんなんだろう?

 そう思っていたら、レンがそっと何事かをつぶやいた。

「……、……」

 人の耳には聞こえない、声なき声。
 ただ1人、俺にだけ聞こえる、彼女の声。

 その声は、こう言っていた。

”わたしが女王さまだったら、志貴は王さまだよ”

 と。


佐々木沙留斗


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