ポーリンへ

 ホテルに戻り,風呂に入っていると,OT氏からの電話がかかっていた。何と,OT氏は,その昔,京浜昆虫同好会の会合などでO氏に会っており,覚えていたという。今年の天候はかなり異常で,一月末から夕立すらなく,全く雨が降っていない。そのせいか,蝶はとても少ないという。どこへ行っても多分だめだろうが,どうしてもと言うのなら,ということである場所を教えていただいた。といっても,手元にある地図にはせっかく教えていただいた地名が載っていないため,実際のところは見当がつかない。適当な理由をつけて,

「多分,この辺のことでしょう」

と,やや断定的に言うと,なぜか皆納得して,明日はそこへ向かうことになった。今だから話せるような話であるが,私が指さした場所は,電話の話とは何の関係もなく,以前から地図を眺めて,行ってみたいと思っていた場所だったのである。恐らくは,皆納得したというよりも,

「どうせどこへ行っても駄目だろうし,他によさそうな場所もないので,まあ,こいつの言う通りにしておこう」

というぐらいのことだったようだ。その場所はOT氏が教えて下さった場所そのものであったことが後でわかった。 不思議なこともあるものである。

 翌朝もよく晴れていた。このホテルから眺めるキナバル山は本当に美しい。ラナウ,ポーリンを過ぎ,さらに道を進んでゆく。単調な道を進むのに少し飽きてきたころ,右にそれる道があったので,そこに入ってゆくことにした。

 少し進むと,橋が架かっており,橋の先に小さな部落がある。橋の手前の空き地で車を止め,道ぞい,河原などを歩いてみる。時間が早いせいもあるだろうが,蝶は少ない。部落の方に花が咲いているので,そちらに向かってみる。ナガサキアゲハ,キシタウスキシロチョウ,アサギシロチョウなどが次々と飛来する。横にある民家のベランダに家族が集まり,一人の若者が楽しそうにギターを弾いている。のどかな雰囲気に包まれて,とても網を振る気がしない。そろそろ皆,車の近くに戻ってきているようだ。

 もとの道に戻り,さらに進んでゆく。小さな橋を渡り,しばらく乾燥した道を進むと,広い河原に降りた。河原の先にも道が続いており,この先どんどん進むことはできなくはないようだが,どんどん山を下ってゆく感じであまり気が進まない。手元の地図が50万分の1なので,仕方がないとも言えるが,どうも地図とは様子が違う。いったい今,地図上のどこにいるのか見当がつかない。河原の周りや山際にウスキシロチョウの多いこと。涼しいキナバル山にいたせいか,河原は暑さがこたえる。薄暗い林の中を細い道が続いていた。ジャノメチョウ,セセリチョウなどが時々飛び出す。さらに進むと垣根のようなものがあった。どうやら民家の入り口らしい。引き返すと,みんな河原の周りで退屈そうにしていた。ここもハズレか? ほかに良い場所も思いつかないが,とにかく引き返し,さっき渡った橋のあたりを歩いてみることにする。ここは中当たりといったところ,まあまあ,退屈しない程度の蝶が飛び出してくる。しばらく歩き回っているうちに,時間は2時を過ぎていた。夕方OTさんの所へ伺うことを考えると,もうあまり時間はない。

「あと一ヶ所だけ回りたいところがあるんだけど…」

 時間はもうあまりないので,今日はあまり期待できないが,ポーリンの渓谷とほぼ平行に流れており,キナバル山の奥深くに発するtacthanという渓谷が最後の目的地である。地図ではそれほど遠くないはずが,延々と道が続いている。やっと道の終点の部落に到着し,歩き始めた。環境はとても良いが,いかんせん,もう時間は4時近い。いつかまた来よう,とポーリンに向かった。

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